第17話

『決着ゥーッ! なんと両試合で六芒星全員が敗北しましたぁ! これによる六芒星が持っていた決闘者スキルの枠が全て埋まりました!』


 空中に浮かぶモニターの実況を聞きながら、僕はエーシスたちを待つ。


 :あー枠埋まっちゃった……

 :まぁしゃーなしよ

 :残るは四天王と双極かぁ


 倒された結社の構成員はどういう原理か分からないけど二度と表に現れない。

 だからそれでスキルが貰えなくなり、それで嘆くコメントも多い。


 :なんだろう……見所というかネタ的な意味で目が離せない内容だったなwww

 :完璧な手札だ(キリッ)

 :ボディにダイレクトアタックは草


 まぁそれ以外にも今回のデュエルの内容で持ちきりだけど。

 そう考えていたら、僕の目の前までてくてくと歩いてくる小さな勝者が見えた。


《勝ったデス》

「流石マナナン! まさか初手から完璧な手札でそのまま勝つとか凄いよ!」


 同時期に始めたというのに凄い成長速度だ。僕は労うようにマナナンの頭を撫でてぷにぷにと弾力を楽しんでいく。


「――ところで」

「や、やぁお兄ちゃん……か、勝ったよー?」


 マナナンと一緒に勝ったエーシスが僕たちから遠く離れた場所で引き攣った顔を浮かべていた。


「ほらどうしたの? もっと近付いて来てよ」

「い、いやぁ……その……」

「エーシス初手から完璧な手札を引いてたじゃん。だから僕は安心して見ていられたなぁ」

「嘘だぁ……その顔は全部知ってる顔だよぉ……」


 そりゃあ当然だよね。身内の笑える姿はいつまでもネタになるものだ。なんなら父さんとお母さんもエーシスの完璧な手札を見てるから、当分ネタにされるね。


「うわーん! 私の家族はマナナンだけだよー!」

《?》

「お互い様の癖に」


 エーシスも隙あらば僕をからかう癖に一方的な被害者面は良くないなぁ。


「終わったンゴ……」

「あっおめでとうパイアさん」

「終わった……」

「こっちは別の意味に聞こえるね……」


 エーシスたちと話してると、バイクのけたたましい音を鳴らせながら僕達の下にやってくるアンさんとパイアさん、そしてパイアさんと同じくサイドカーに乗っているクロ。


 でも彼女たちは勝者側なのに、アンさんだけまるで真逆な雰囲気を出してるんだけど。


「姉御はいつもの癖が出たばっかりに……」

「言わないでー……」

「今更猫被るの無理だンゴ」


 それはそう。


 アンさんが総長になってお相撲さんに腹パンをかます光景を僕も見たよ。

 まさかアンさんの隠された秘密が総長だったとは……まぁ総長もといアンさんが族車に乗ってきてこの場に現れた時はもう既に片鱗見えてたから……うん。


「でもどうしてプレイヤーのはずのアンさんがクロスできたの?」

「パイアさんが展開したカードの設定的には特攻服同士がクロスしてるだけなんだけど、まぁ極論から言えば何の能力値も持たないプレイヤーとクロスしても問題ないってことだね」


 つまりノリと勢いによる演出。

 ただの演出ですあれは。あのお相撲さんは無駄に腹パン食らっただけです。


「違う、違うんだ」

「姉御、口調ンゴ……」

「ち、違うんだよねー?」

「却って誠意を感じられないような……」

「シッ!」


 とにかくアンさんの総長バレは僕たちとは関係ないんだ。助けを求められたら手助けをすればいいけど、今のところはそっとしておいた方が本人的にいいと思うし。


「ところでお兄ちゃんの方は?」

「僕の方って?」

「ほら六芒星の一人にデュエルを挑んだじゃん。えーとなんとかのタナカさんと」


 二つ名覚えてないじゃん。

 いや僕も田舎ってところまでは覚えてるけど。


「その人ならとっくに倒したよ」

「はやっ!?」

「それで結局僕が倒しても意味がないし、向こうでジャッジ君とデュエルしてると思う」


 そう言いながらジャッジ君たちがいる方向に指を向けるとそこには。


「これで俺は、エースキャラクターである『覇龍神王ジャッジメントディザスター』でお前をメンタルブレイクさせるぜ!」

「結局まともな描写がないまま終わっちゃったべぇえーっ!!」


『ジャッジVSタナカ』

『ジャッジ WIN!』


 どうやらもう決着を終えて、タナカの決闘者スキルがジャッジ君の身体に芽生えたところのようだ。


「お疲れジャッジ君!」

「おぉ、エーシス! それにみんなもいるぜ!」

「やぁお疲れだなアン」

「うるさいハブられ野郎……」

「開幕罵倒!?」


 レフェさん、ちょっと彼女のことを放っておいた方がいいです。今その人、メンタルがブレイクしてる最中だし。勝者なのに?


「かぁ~っ……結局残ったスキルを手に入れてない公式デュエリストは俺だけかぁ〜」

「ドンマイだぜ、先輩!」


 煽ってるのか励ましてるのか分からないジャッジ君の言葉を聞きながら僕は今後の動きを考える。


 レフェさんの言う通り、この場で新しい決闘者スキルを手に入れてないのはこれでレフェさんとクロの一人と一匹のみとなってしまった。


「あっクロはサポート役なのでデュエリストという枠にカウントしなくても良いニャ」


 じゃあ残るのはレフェさんだけか。


「ドンマイだぜ、先輩!」

「まさかのTAKE2……!?」


 えーと、その。

 ドンマイだぜ!


「クッソー!! 早く次の幹部に会いたいなー! 会ったらボコしてすぐにでもスキルを手にできるというのになー!」


 レフェさんの言葉に僕たちは苦笑いを浮かべる。まぁレフェさんほどの実力者なら幹部を相手に負ける心配はないと思うけど。


 そんなこんなで僕たちと六芒星との闘いは終わりを告げた。あとは残りの幹部の目撃情報を待つだけ、なんだけど……。


 六芒星を倒して数日が経った頃。

 レフェさんは頭を抱えていた。


「こ、こ、こ……!!」


 六芒星以上の幹部は、まだ会えない。

 そう、普通に数日間が無為に終わっただけだった。


「来ねーっ!!」


 えーと、その、ドンマイ!!




 ◇SIDE ???




 同時刻。

 デミアヴァロンのとある路地裏にて。


『それで? 首尾はどうだ、リン』

「……署名は順調に集まってますわ、お兄様」

『ふん、何を当たり前のことを。俺さまが聞いてるのはいつ我ら結社のエクストラリワードを起動できるのかと聞いているんだ』

「そ、それはお待ち下さい……」

『お前はそれでも我が結社の双極の片割れか? お前がエクストラリワードを見つけてくれたお陰で我ら結社は生まれたが、それとこれとは別だぞ』


 お兄様の言葉に私は下唇を噛む。

 そして振り絞るように声を出す。


「分かって、おりますわ」

『ふん……あの邪魔な公式デュエリスト共め……ついに四天王の足元にまで辿り着いたか……小癪な』


 そう言い捨てて、お兄様は私との連絡お切りになりましたわ。


「……はぁ」


 もうクソデカため息しか出ませんわ……私のせいとはいえここまで手を広げるとは思っても見ませんでしたわ。


 ――ワイワイガヤガヤ。


「……はぁ」


 こうして路地裏で重要な話をしても、表の喧騒のお陰で誰から気にも留めないのは幸いですわ。アジトにいる時は一部の構成員からエクストラリワードを手にした神からの使いもしくは巫女と呼ばれるため、結社の中だと息苦しかったですの。


 だから私は普段からアジトよりも外にいる時の方が多いのですわ。


「――それにしたって」


 表で喧騒を作る人たちを見ながら私は自重気味に笑みを作りますわ。


「まさか双極の片割れがこんな路地裏にいると思わないですわよね……」


 そう言って、自分でも笑う。

 双極……そんな凄そうな肩書、私とは関係ないというのに。


「はぁ……」


 だけど私は、私には結社を辞めることも抜け出すこともできないのですわ。

 私がエクストラリワードを見つけて、結社がようやく結社らしくなってしまった罪がある。


 でも一番の罪は……!


「一番の罪はあれがただのリワードで、ただゲーム内イベントを作るだけのリワードであることを隠してみんなを騙していることなのですわ……!!」


 この事実だけは最後まで隠し通さないと行けないのですわ……!

 結社に関わった人たちの名誉のためにも少なくともイベント終了の条件が満たされる時まで「ガシャン」隠し通さないと――ガシャン?


 ふと聞こえた異音。

 ギギギ、とその方向に目を向けるとそこには。


「……」

「……あ」


 壁越しにこちらをジーッと見つめている美少女……あれは、そう。確か配信で見たセンリちゃん様の妹と名乗るエーシスという名の――。


「……あ、どうも双極さん」

「――……お、」

「お?」




 思いっきりバレてしまいましたわあああああああああああ!!!!????

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