第16話

 SIDE アン


『おいゴラァ! 総長のお通りだぁ!』

『あ、あの人が私たちの総長……!』

『凄い……! なんてオーラだ……!』


 数十人の幹部と数百人規模の子分を前にアタシは進む。誰もアタシが進む道を阻むことはなく、誰もが道を開けていく。


 そう。


『行くぜお前ら』

『うっす!!』


 アタシは昔、レディースの総長をやっていた。所謂、元ヤンということだ。


 アタシのカリスマと圧倒的な暴。運転は免許持ってる妹分に任せてたけど、専用にカスタマイズされたイカした族車。あの頃のアタシに敵はいないと思っていた。


 そう、思っていたんだ。


『すまん総長……アタイ彼氏ができたんだ……♡』

『ごめん総長……その日、彼氏とデートなの♡』

『ソーリー総長……トゥルーラァブのためにレディースを抜けるデース……♡』


 もー!!!


 どいつもこいつも彼氏作ったら離れやがってー! アンタたちが私にレディースの頭を張ってほしいって言ったんでしょーがー!

 なのに彼氏できたらさっさと抜けやがって……アタシたちの友情は不滅じゃなかったのかよー!


『う、うぐ……! うぅ……! アタシだって……アタシだって……!!』


 アタシだって恋愛したいよー!!


 そうして、かつて一大勢力となっていたレディースは私の中学卒業と共に解散したのであった……それから数年後。


「姉御……」

「姉御呼びはやめてねー?」

「……不気味」

「あん?」

「そっちの方がいい……」

「いや何を言ってるのか分からないからねー?」


 アタシ……私には妹がいる。


 いつからか身長は私を抜き、スタイルも姉の私が見ても素晴らしいと思うぐらいのナイスバディに成長していた仲の良い妹。

 レディース時代の私と違って、家に籠りがちな妹は今ではもう立派なオタクと化していた。


 その事実に私は何も思うところがない。私がかつて好き勝手に暴れてたように、妹が何をしようと妹の勝手で、ゲームの相手を求められれば相手をするぐらいにはお互いの趣味に理解はあるほど。


「姉御……」


 総長をやめて、進路に悩んでいた時、いつからかあまり会話をしなくなった妹が今更ながら私に話しかけてきたのだ。


「……混沌王、やろ?」


 私の、私たちの今後の道を決める重要な一言を妹は言ったのだ。




 ◇SIDE パイア




 元ヤン歴を隠し、高校デビューを経たことで今の姉御になった社会人の姉はふと、昔の癖が出てくる時があるンゴ。


『カマセ! あぁカマセ!』

『カーマカマカマセ!』


 ヒガシノが展開した『恋するコンタクト』によってシュテンがカマセ・レギオンに恋をしたンゴ。それによって相手のステージゾーンにカマセ・レギオンが存在すると姉御のシュテンの攻撃力がゼロになるンゴ。


「さぁ! とっととターンエンドしておいどんにターンを寄越すでごわす!」

「……」


 ヒガシノの言葉に姉御は黙って俯いたまま。見る人が見れば、きっと姉御は絶望のあまり黙っているように見えると思うンゴ。


「さぁさぁでごわすぅ!!」

「あぁ?」

「ヒェッ!?」


 でも違うンゴ……!


 姉御の肉親である私には分かる。あれは姉御が内心ブチ切れている光景だンゴ!


「――……よくもまぁ」

「え……?」

「このにイチャイチャイチャイチャとお熱い光景を見せたもんだなぁ?」


 :アン先輩?

 :アンさん!?

 :うぐっ……なんだろう封じ込めていた心の傷が蘇ったような……?


 周りが彼氏を作ったことにより置いてかれた姉御の内なるビーストが目を覚ますンゴ!


「アタシはなぁ! 目の前でイチャつかれる光景を見ると惨めな気分になるんだよぉ!!」

「いや知らんでごわす!?」


 :何言ってんだアンタ!?

 :今確信した……同じだ、私と

 :アンさんは同志だったか……

 :悲しいことに共感者がそれなりにいるーっ!?


 自分から惨めとか言っちゃあ駄目だンゴ姉御……余計哀れに見えるンゴ。


「アタシは手札から一枚のシチュエーションカードを発動するよ!!」

「なんだとごわすぅ!?」

「出なぁっ! シチュエーションカード『総長の遺産』! これにより自分ステージゾーンに存在するクロス状態のシュテンをクロス解除させ、シュテンを使用済みゾーンに置くよ!!」


 姉御のエースキャラクターが使用済みゾーンに置かれたンゴ……!?


「シュテンが使用済みゾーンに置かれ、残された四つの特攻服の攻撃力は、シュテンがクロスを解除する直前の攻撃力を分割した数値になるよ!!」


 つまり②の設定を使用して20になっていた攻撃力が四つの特攻服の攻撃力へと分割され、それぞれの攻撃力は5になるンゴ。


「だがそれら特攻服カードは装着者がいなければなんの設定もないキャラクターカードでごわす! 装着者であるシュテンが消えた今、たかが攻撃力5のキャラが四枚いても意味はないでごわす!!」


 例え特攻服の一つがカマセCを倒しても、それで与えられるメンタルダメージは2。

 それどころかカマセを倒した瞬間、相手の場に残るのは無敵状態のアサノヤマだけだンゴ。


「なーに勘違いしてんだい」

「――ごわす?」

「クロスするのはこのアタシさぁ!!」

「いやその理屈はおかしいでごわす!?」


 :姉御と特攻服が一つに!?

 :来るぞ……伝説が!

 :伝説って?

 :あぁ!


 その瞬間、特攻服アーマーが姉御の身体に装備されていき、ここにかつて一大勢力にまで発展した伝説の総長が蘇るンゴ!!


 カチドキフラッグ。


 ブッコミナックル。


 メンチHELLメット。


 そしてパラリラーアーマー。


 完全無敵、天下無双の最頂点。

 伝説のレディース総長の再臨。




「――アタシを舐めるんじゃないよ」




 ここに、伝説は現れる――ンゴ。


「いやマジでクロスしたでごわすーっ!?」


 総長姿となった姉御にヒガシノが限界まで目を見開くンゴ。それもしょうがない。妹の私から見ても総長姿の姉御はマジで痺れるンゴだから。


 :アタイ、一生総長に着いていくよ

 :キャー! 総長よー!

 :凄い貫禄よー!

 :これはファン増加

 :なんだろう……それファンじゃなくて妹分かなんかのような気が


「いやいや!? キャラクターカードですらないプレイヤーがどうやってクロスすることができるでごわす!?」


 その疑問は尤もだンゴ。

 ならばその答えをすぐに言うンゴ。


「……何故なら私が既にフラグカード『99ツクモ - 自我の覚醒』を発動していたンゴ」

「いや発動宣言でごわすーっ!?」


 :気にしない気にしない

 :カードゲームアニメではよくあること

 :アニメじゃないアニメじゃない

 :本当のことさ

 :結論から言うと予測AIが優秀なので


「因みに回収成功により相手はメンタルを3ポイントダウンするンゴ」

「ふごぉ……!?」


 ヒガシノ。

 MP40 → 37。


 では続けて解説を始めるンゴ。


「フラグ成立条件は自分ステージゾーンに存在するクロス時設定のみのキャラクターカード二枚以上だンゴ! それらのキャラクターカードをクロス先がなくても自分同士でクロスさせることができるンゴ!!」


 これによりクロス時設定を開示することができるようになり、攻撃力はクロスに使用したキャラクターカードの攻撃力を合算した数値になるンゴ。


「カチコミじゃオラァッ!」


 総長モードの姉御がヒガシノのステージゾーンへと突撃していったンゴ!


「おっとっとですニャ」


 姉御が突撃していったせいで運転手がいなくなったけど、テイムモンスターであるクロが変わりにハンドルを握ってくれたンゴ。


 :絵面ァッ!

 :リアルファイト勃発やんけ!

 :おいデュエルしろよ。

 :クロちゃん可愛い


「ス、スペースモウ・ワールドの設定によりお主はアサノヤマと優先的に戦う必要があるでごわす!」

「オラァ!」

『ごふぅーっ!?』

「躊躇せずアサノヤマの顔面にパンチを入れたでごわすぅーっ!?」


 ダメージも破壊もないけど痛そンゴ。


「そして都市卍抗争極シティ・バイオレンスの設定によりアタシは全員の顔面に拳を捩じ込まなきゃいけねぇ!」

「ぼ、暴力はいけないでごわす!!」

「ここで②の設定を使用! 彼氏ができない私に当てつけたことをあの世で詫びやがれぇーっ!!」

「理不尽でごわす!?」


 ②ブッコミナックルの設定により、今の姉御の拳は現在の攻撃力を倍にして貫通ダメージを与える状態になっているンゴ! つまり倍の40の攻撃力だンゴ!!


「邪魔だァ!」

『カマセーッ!?』


 カマセを蹴り飛ばし、そのまま相手の懐に入り込む姉御の拳が唸るンゴ。


「フンッ!!」

「ウボァ!? まさかのリアルボディッッッ」


 ヒガシノ。

 MP37 → 0。




『アン&パイアVSヒガシノ&ニシノ』

『アン&パイア WIN!』




「せ、せめてメンタルにダメージをで……ごわすぅ……ぐふっ」


 そう言って、デュエルに負けたヒガシノはそのまま粒子となってニシノの粒子共々私たちの身体の中へと消えていったンゴ。


「はぁ……はぁ……」

「姉御……」

「……ハッ!? あ、ははは〜……や、やったねーパイアちゃん!」


 姉御……もう遅いンゴ。

 もう化けの皮が剥がれた総長が全世界に配信されたンゴねぇ。

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