第11話
「そこで止まってていいの?」
「ハッ!?」
僕の言葉にようやく自分が後方にいると分かったキタノは急いで先頭を走る僕を追い掛ける。そう、このライドオン・デュエルは先頭が後方を引き離しても勝敗は決まるんだ。
「そう、君には呆けてる暇はないよ!」
「クソがぁ!」
「言っておくけど僕のバイクには自動運転機能があるから、僕はちゃんとデュエルに集中することができるからね?」
「なんだよそれインチキ丼にも大概にしろ!」
「いやインチキ丼ってなに?」
とにかく、最初から僕たちのデュエルに公平性はないのだ。相手はエンジョイデッキをメインとしたデッキで、僕はそのエンジョイデッキをメタった対エンジョイデッキだ。
バイクの性能もそう。その上僕は彼に最初から
今の彼に冷静な判断はできない!
「それでターンは終わりかな?」
「お、俺はこ、これで……終わりだ」
「それじゃあ僕のターン、ドロー!」
きっと彼らはこれまで色々と準備をしてきたのだろう。最初から彼らと僕たちの間に平等なんてなかったんだ。
だから僕はこんなデッキを作ってきたのだ。
彼らの思い通りにさせないためのデッキを。
彼らのエンジョイを封殺するためのデッキを。
「僕は手札からジャンルカード『縁神の相関図』を展開! このジャンルカードが場に存在する限り、お互いに『関係性』と名のつく設定を無効化することができない!」
即ち、誰にも邪魔されず強制的にカップリングが成立させることができる。
「次に僕はキャラクターカード『TS - 普遍の幼馴染マコト』を登場させ、君から引き抜いたストロングと幼馴染関係を結ぶ! これによりマコトとストロングが互いに同じ自分ステージゾーンにいる限り、二人の絆によってお互いのステータスは倍になる!」
これでマコトのステは2に、ストロングは40になった。
『やぁストロング!』
『マコトか! 随分久しぶりだなぁ!』
中性的な容姿をしたマコトが親しそうにストロングと交流をする。彼らは実に楽しそうな雰囲気を出しているようだ。
「クソ、急に生えてきた幼馴染が俺の相棒と楽しそうに交流しやがって……!」
:それはそう
:ポッと出の幼馴染(比喩なし)
:幼馴染は生える物
:その理論がまかり通るなら俺は今頃超絶美少女の幼馴染ができているはずだ
「これで僕はクライマックスフェイズに移行してバトル! 君から奪ったストロングでベテランサポータークロエに攻撃!」
ベテランクロエの耐久は10。
差し引いて30のメンタルダメージだ!
『っ、すまないクロエ!』
『そんなストロング……っ、きゃあ!?』
ストロングの轢き逃げアタックによりクロエは使用済みゾーンへ!
「ぐわあああああああああ!?」
キタノ。
MP40 → 10。
「クッ、だが俺はさっき引いたハプニングカード『アイデア強奪』を展開! お前に奪われたストロング・クロス・モーターのコントローラー権を俺に移す!」
「ストロングが元の場所に戻ったか……」
「返して貰うぞ俺の相棒を!」
だけどそれは間違った選択だ。
「その瞬間マコトの設定を開示! 他のキャラと関係性:幼馴染を結んでいた場合、そのキャラが自分ステージゾーンとは違うゾーンに移動した時、お互いの関係性:幼馴染は関係性:恋人に変化する!」
ストロングは元の職場に戻ったんじゃない。君という創造主によって恋人と引き離されてしまった哀れな被害者だ!
「なっ、コイツら黙って付き合っていただと!?」
「エンドフェイズに移行して、僕はシチュエーションゾーンにフラグカードを一枚立てて、これでターンエンド!」
これで僕の手札はゼロになった。
「フラグカード……!」
キタノの目線では一枚のカードが伏せているように見えるだろう。
フラグカードとは、そのカードの設定に書かれた条件が満たされた時に発動するトラップのようなカードだ。
シチュエーションカードと似たような種類のカードだけど、その最大の特徴はフラグ回収時に回収成功として相手のメンタルをダウンさせて、設定を開示できるということ! この回収成功によるメンタルダウンにハプニングドロー権はない!
これで君は迂闊な行動を取ることができないよ!
「俺のターン、ドロー! ……何のフラグを立てたか分からんが俺のステージゾーンに相棒がいる限り、どんなフラグも問題ない!」
キタノはそこでシチュエーションゾーンにある『加速する未来』をシーン展開する。これにより未来を加速されたストロングの性能が加速していく。
「『JET - レジェンドパイロットストロング』に進化! 認めてない交際だが、お前の場にいるマコトのお陰で強くなったストロングは更に強くなる!」
これで倍の全ステ80!
「もう誰にもストロングを止められない! 俺はストロングの設定を――」
そうして彼は改めてストロングの設定を開示しようとする。しかし。
「――今、設定を開示しようとしてるね?」
「……え?」
「キャラがその力を見せるその瞬間! 僕はこの立てたフラグを回収する!」
「何っ!?」
伏せられていたフラグカードが表になる。
そのカードに書かれていた設定とは――!
「フラグカード『切り札発揮詐欺』! 結局君のキャラはなんやかんやで力を発揮しなかった!!」
「なんだとぉ!?」
フラグの回収成功によりキタノのメンタルを2ポイントダウンさせて、設定の開示を無効にする!
キタノ。
MP10 → 8。
:やっば……
:まだ三ターン目ですよ?
:ほぼほぼ自滅でエグい
「クソクソクソクソォ! なんでお前は俺に気持ちよくデュエルをさせてくれねぇんだ!?」
「仕方がないよ。だってこれはデュエルであってデュエルじゃないし」
「何言ってんだてめぇは!?」
気持ちよくなりたいならただ普通に混沌王を遊んでいれば良かった。
「なのに君たちはその遊びを本気にしようとしてるんだ! ならこれはもう和気藹々とデュエルをする光景じゃない! 今ある社会と君たちの理想とする社会との代理戦争だ!」
「……っ!!」
だから最後はこの言葉に収束するのだ。
――全部君たちのせいだと。
「っ、うるっせぇ! どう足掻いてもお前の敗北で決まってんだよ!」
まだ認められないのか、キタノは血走った目で声を張り上げる。そして次に彼は一枚のカードを天に掲げてこう言ったのだ。
「我が結社の崇高なる力を見やがれ! 俺は決闘者スキル『RE:スタートワールド』を発動!」
「っ、もう一つの決闘者スキル!」
「今所持しているカードを一枚改変する!」
:所持カード一枚を改変!?
:やるところまでやってんなぁ!
:創造と来て次は改変かぁ
「手札のシチュエーションカードは改変され、新たにシチュエーションカード『JET - バーストエンジン』になる! そして俺はそのままストロングを対象にシーン展開する!」
その瞬間、化け物エンジンを搭載されたストロングの攻撃力が更に倍の160になる。
「それだけじゃねぇ! ストロングの攻撃は誰にも止められねぇ! ストロングの攻撃中にお前はストロングを対象としたあらゆるカードの設定を開示できない!」
シチュエーションカードを封じたか!
「俺はクライマックスフェイズに移行してその目障りな恋人をストロングで倒すぜ!」
キタノがストロングに対し僕の場にいるマコトに攻撃宣言をする。
「これでお前は終わりだぁ!」
「果たしてそれはどうかな?」
「……は?」
確かに攻撃中は何も妨害や対処はできない。だけどその前なら?
「マコトとストロングは恋人関係にある! よって、ストロングは恋人であるマコトに攻撃することはできない!」
「はぁ!?」
創造主の命令であってもストロングは手を出すことはできなかった。命令よりも恋を選んだのだ。
「これが関係性:恋人の設定だよ!」
「そ、そんな馬鹿な……!? また、またここに来て妨害だと!?」
「さぁこれでターンは終わり?」
「クッ、いいぜ……! どの道攻撃力160のストロングを倒すなんてことは不可能! 精々無駄な足掻きをするんだな!」
そうして巡ってきた僕のターン。
「ドロー!」
ドローしたカードは逆転する物じゃない。でもだからといって焦りもない。何故なら僕にはあのスキルがあるから!
「僕は決闘者スキル『RE:バースワールド』を発動! 真のデュエリストはカードをも創造する!」
「チッ、下っ端共を倒してやがったか!」
このスキルは使用者の最も欲しいカードに近い設定をリアルタイムで生成してくれるスキルだ。
だから完全に都合の良いカードは生まれないけど、それでも使用者の考えに沿った設定が出てくるのは確か!
「僕はシチュエーションカード『TS - 転生する魂』をシーン展開! このカードの設定を展開するために、僕はコストとしてステージゾーンにいるマコトを使用済みゾーンに送る!」
僕の言葉に呆けるマコトが使用済みゾーンに置かれる。
『うわあああああああ!!?』
『マコトオオオオオオ!!?』
そしてコストを支払ったことによりデッキからキャラクターカードを一人特殊演出させる!
「来て『TS - 狼人間カナタ』! 更にマコトが使用済みゾーンに置かれた場合、恋人関係にあったストロングは絶望のあまり後を追う!」
「後を追う!?」
『マコトがいなくなった……鬱だ死のう』
「おい待て早まるな相棒! AIBOOOOO!!」
「これで君を守るキャラはいなくなった!」
「まさか……たった一ターンで全ステ160のストロングを排除するなんて……」
「心配するところそこでいいの?」
「……なんだと?」
「カナタのステータスは3……だけどカナタには人狼という設定がある! 狼人間に変身することによってカナタのステータスは10になるんだ!」
ステータス10……つまりこのままキタノに直撃すれば僕の勝ちだ!
「う、嘘だ……俺が負ける……? 何も、何も真価を発揮できずに完封負けになるだと……?」
「君の手札に一枚も手札誘発設定がなければこのまま終わりだ……一応聞こうか」
――ある?
その問いにキタノは呆然と手札を見ているだけだった。ならば彼が取れる手段は一つだけ。だけどその方法はあまりにも分が悪い。
「はぁ、はぁ……」
「どうする? このままメンタルをブレイクされるか。それともレースで勝負するか」
「っ!!」
だけど彼がどう選択するのかはもう既に予想できている。彼にとっては、逆転する手はそれしかない。
「ク、クソオオオオオオオ!!!!」
「やっぱりレースに賭けるんだ」
でもそれが一番の地雷なんだ。
「うおおおおおお!! ――へ?」
「ルールはそっちが提供したんだ……ならコースはこっちが提供してもいいよね?」
「う、うわあああああああああ!!!!」
歌詞の壁によって生み出されるレースコースを前にキタノはただただ叫び続けていった。
レースで負けたか。
デュエルで負けたか。
どっちにしろ彼の運命は変わらないのだ。
『センリVSキタノ』
『センリ WIN!』
『結社カオスティック・ギルティアの構成員を倒しました』
『ジョブ:決闘者の限定スキルを習得する条件を満たしました』
『決闘者スキル『RE:スタートワールド』を習得しました』
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