第10話

「北方のキタノ……六芒星なのに?」


 パターンからして南方とかいそうだけど、東方と西方ってそれぞれ二つあるよね。六芒星として歪過ぎない?


「……ノーコメントだオラァ!」

「えぇ……」

「あいつらみたいに難癖付けやがって……東西南北カッコいいじゃねぇか!!」

「いや知らないよ……」


 あいつらって誰なの……もし自分のメンバーのことを言ってるなら自分だけ方角名を名乗ってるだけじゃん……自称北方じゃん。


「なんだお前は……可愛い顔の癖にいきなり初対面にエゲツねぇこと言うじゃねぇか!」

「そんなに?」

「俺のアイデンティティを揺るがすようなことを言ったからなぁ!」


 たった一言で揺るがされるアイデンティティなんてないようなもんだと思う。


「もう許さねぇぞお前……見たところ同じデュエリストだな? なら次はこの俺とライドオン・デュエルをしようじゃねぇか!」

「え、ちょ」


 いきなり因縁を付けられて、いきなり指名されたんだけど! そう困惑しているとジャッジ君が僕の肩に手を置いた。


「まぁ俺らもそれを目当てにセンリを呼んだんだぜ。聞けばセンリには乗り物があると聞いたぜ」

「乗り物……バードボルテージバイクかぁ……まぁ確かにデュエルスペース機能をカスタマイズすることができるけど」


 そうして僕はコールと呟くと僕の前に漆黒の大型バイクが自動でやって来た。うーんいつ見てもカッコよくてスタイリッシュだ。


 :こーれベストデザイン賞です

 :やっぱこれだね

 :おや? キタノの様子が……


 え、キタノがどうかしたの?

 そう思ってコメント欄から目を離してみると……キタノが絶望をしていた。


「な、なんだこのバイクは……!? まさかこのノンデリ美少女の物だというのか!?」

「ノンデリ……?」

「デリカシーに配慮するお兄ちゃん……?」

「エーシス?」

「許さねぇ……許さねぇぞ! 俺よりもカッコいいバイクを持とうなんざ! やはりてめぇとはデュエルで決着をしなくちゃいけねぇなぁ!」

「えぇ……?」


 僕は何回許さないという言葉を言われたんだろう。多分今世だともう彼に対して一生罪を背負っていくんだなって。


 知らんけど。


「まぁどの道デュエルをする予定だから良いけど」

「その言葉ァ! 俺に負けた後で後悔するんじゃねぇぞ!!」

「……ふーん?」


 確かに彼は中々な実力者だろう。この場において未だに無敗を誇る彼だから当然だけど。


「よいしょっと」

「嘘だろ、身体が浮いてバイクの上に……?」

「先に言っておくけど」


 さてと、バードボルテージバイク特有の機能に目を丸くさせる彼に釘を刺そうか。


「後悔する覚悟は君がしといた方が良いよ」

「……なんだと?」

「君が負けたら君のスキルは僕のもので、結社は君という実力者を失う。それどころか君が負けるせいで混沌王社会への道程は遠ざかる始末……そうなったらもう、後悔してもしきれないよね?」


 :うーわ

 :精神攻撃は基本

 :敢えてプレッシャーを与えていくぅ!


「こ、こいつ……!!」


 僕の言葉に怒りを見せる彼だけど、それと同時に顔を引き攣らせているようにも見える。多分今更になって自分が負けた後の光景が想像できて、プレッシャーを感じているのだろう。


 :効いてる効いてるwww

 :センリちゃんえっぐぅ

 :敵対する相手に対して本当に容赦なくて草


「さて、デュエルをしようか」

「やってやろうじゃねぇか……!!」


 僕はバードボルテージバイクをスタートラインに移動させ、僕の隣にキタノと彼が乗るバイクがやってくる。


『さぁ始まりました! 今度の相手はこんばこに舞い降りし特異点! 味方から見れば天使! 敵対すれば悪魔! 数々の奇跡を我々に見せてくれた我らがセンリちゃん選手だああああ!!』


 まって。

 まって、ねぇ?


「な、なんだその仰々しい紹介は……!?」

『ご存知、ないのですか!? 彼女こそ、配信から僅か一ヶ月で全ての配信のトップに立ち、ほぼ一人で世界の文明を底上げした超時空シンデレラ、センリちゃんです!』


 なんでそんなこというの。


「そんな……こんなノンデリ美少女が!?」


 :センリちゃんが顔を赤くしてるwww

 :そりゃあ大々的に改めて紹介されるとなぁ

 :自分に精神攻撃が返ってきて草


「まさかデュエルにかまけてた時にこんなことになってるとは……!」

「デュエル!」

「え」

「デュ、エ、ル!!」

「あ、はい」


 もうこんなところにいられるか!

 僕はデュエルをやらせてもらう!


 必死にデュエ宮さんに目配しをやって、早く進めろと催促する。

 そんな僕の必死の伝達に気付いた彼は笑みを浮かべるとサムズアップをしながら頷いた。


『それでは両者、位置について――』


 グッとハンドルを握り……!


 今っ!


『ライドオン・デュエル!!』

「アクセラレーション!!」

「アクセラレーション言っちゃった!?」


 あっ、先頭取られた。




 ◇




「先頭にいる奴から先攻だぁ! 俺のターン! 俺は手札からジャンルカード『音速の世界』を展開! 更に俺は手札からキャラクターカード『JET - サポータークロエ』を登場させる!」


 その瞬間『音速の世界』が2ndギアに入る。


「『音速の世界』の設定は『JET』と名の付くキャラクターカードを登場させる度にギアが一速入る! 更に俺はクロエの設定を開示! クロエのスカウトとしての力が有能パイロットをデッキからサーチさせる!」


 そうして呼び出そうとしているのは一人のキャラ! 新人でありながらクロエの目に適った期待のルーキー!


「来い! 俺の主人公『JET - パイロットルーキーアオ』!」


 展開が続くところ悪いけど、ここで妨害させてもらうよ!


「君がカードの設定によってデッキからキャラクターカードを手札に加えた瞬間、僕は手札からキャラクターカード『ボイコットマスターギャル美』の設定を開示!」


 僕の言葉にキタノが「は?」と口を開ける。


「手札のこのキャラを使用済みゾーンに置くことで、相手は先ほど手札に加えたキャラクターカードを使用済みゾーンに置かせる!」

「手札からキャラクターカードだと!?」


 本日クロエがスカウトして来た大型新人がやって来る。だけど彼女が何時間待ってもその新人がやってくることはなかった。


『もしかして……ドタキャンされた?』


 彼女が、自分がスカウトしたルーキーがギャル美の誘いによってボイコットしたことを知るのは、後日そのルーキーからのメールに書かれていた文面を見た時だった。


『そんなー!!』


 クロエが膝をついて絶望する。結局、彼女がスカウトした大型新人が彼女の前に現れることは……ついぞなかったのだった。


「チッ卑怯な奴め! ガチカードを投入することに躊躇はないのか!?」

「逆に聞くけど強いカードを使わない理由があるの? 僕は使えるカードを使ったまでだよ」

「このガチカード使いが! お前らのような相手をリスペクトしないデュエルがあるから、争いはなくならないんだよ!」

「君たちが言うな!」


 結社とかいう現在進行系で現代社会に喧嘩を売ってる人が何を言っても説得力ないんだけど!


「クソ、なら俺は手札からキャラクターカード『JET - サポーターライバルシロ』の設定を開示! ステージゾーンにクロエがいる場合自身を特殊演出させることができる!」

「ここでシチュエーションカード『出落ちボッシュート』をシーン展開する!」


 スカウトした新人が蒸発して落ち込むクロエのために彼女のライバルが現れる。


『ドンマイクロエ』

『そ、その声は!?』

『そう、私は貴女のライバル』


 ライバルであり幼馴染。傷心中の自分を励ますために現れた彼女にクロエは振り返って――!


「これにより攻撃力5以下までのキャラが登場した時、そのキャラを使用済みゾーンへとボッシュートする!」


 ――ライバルと再会する前にライバルがボッシュートされた。


『シロあああああああぁぁぁぁぁ……――』

『シロちゃん!?』

「シロ!?」


 二度目の妨害。

 新人とライバルが一方的に消えたことにより、そのあまりの理不尽さにクロエの目からハイライトが消えた。


「なんて奴だ……一度ならず二度までも!」

「これがデュエルなんだよ。君たちが目指す現代社会は突き詰めればこのような理不尽さがまかり通る社会になる」


 そんな社会がデュエリストにとって理想的な物であるもんか!


「うるせぇ! それで俺に勝ったつもりか!? 俺はまだ俺のターンを終わらせてねぇ! 真のデュエリストはカードの創造すら可能! 俺は決闘者スキル『RE:バースワールド』を発動する!」

「使ってきたか……!」


 カードが一枚、新たにキタノの手に創造されていく。そうして生まれたのは。


「シチュエーションカード『加速する未来』をシーン展開! 一ターンに一度フィールドに存在するカードを一枚選んで、そのカードの性能を加速させる! 更にこのシチュエーションカードは使用してもシチュエーションゾーンに残り続ける!」


 その瞬間『JET - サポータークロエ』が成長して全ステ10の『JET - ベテランサポータークロエ』になる。


「ベテランクロエの設定を開示! 一ターンに一度手札、デッキ、使用済みゾーンのどちらかにあるキャラクターカードを、条件無視してそのまま特殊演出をさせることができる!」


 そうしてベテランクロエによって人脈を駆使した結果、彼の伝説的なパイロットをデッキから呼び出すことに成功させる。


「俺の相棒『JET - パイロットヒーローストロング』を特殊演出! 更に登場時の設定により、デッキからパイロットの対となる機械が現れる! 来い! 『JET - サンライズモーター』を特殊演出! そのままストロングにモーターをクロスさせる!」


 ストロング・クロス・モーター。

 それがキタノの切り札……!


「俺は更にストロング・クロス・モーターの設定をかい――」

「――ここで僕はシチュエーションカードをシーン展開」

「なっ、この状況でも!?」

「『TSトランステージ - 目覚める心』……君のストロング・クロス・モーターのコントローラー権をそのまま僕のステージゾーンに移す!」

「……はぁ!?」


 人脈の力によって連れ出した伝説のパイロットが勝ち誇るクロエにこう告げる。


『本当の気持ちをようやく理解したんだ』

『えっ』

『すまないが私は今のこの職場をやめて、ありのままレリゴーをする!!』

『え、ちょっと、待っ』

『これから歩む未来に少しも寒さは訪れない!』


 そう言って、ベテランになっても再び絶望をするベテランクロエを残し、伝説のパイロットは僕の職場ステージゾーンに転職した。


「そ、そんな……」


 バイクを加速させて呆然とする彼の横を通りながら、僕はこう言った。


「ターンはこれで終わり?」

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