第9話

 ここ数日に起きたこと、分かったことを話そう。


 先ずは分かったこと。


 ヴァルゴという前例の通り、彼ら結社の構成員を倒すと彼らが持つ決闘者スキル『RE:バースワールド』のスキルを入手することができるということ。


 それによって起きたこと。


 そう、あの日からそのスキルを求めて各地で結社の構成員狩りが始まったのだ。


 決闘者スキルというチートみたいなスキルがあったとはいえ、はっきり言ってヴァルゴや公式デュエリストに勝るとも劣らない在野のデュエリストがいるのが混沌王という界隈だ。


 その結果どうなったかというと、僅か数日で結社狩りによって黄道十二星座と八神将が壊滅したという報告が各地に流れたのだ。


「というわけで……」


 場所はデミアヴァロンの総合ギルドにある酒場のとあるテーブル席にて。僕たちは今、これまで起きたことを整理するために席についていた。


「まさかとは思ったけど壊滅しちゃったかぁ」

「なーに他人事みたいに言ってるの? お兄ちゃんも結社の一人を倒したじゃん」

《エーシスもわっちゃあも結局倒したデス》


 邪道とはいえ、ドローを介さずその場でカードの創造はかなり有用なスキルだ。

 そのため僕たちも含めて公式デュエリストのみんなも結社の構成員を倒してスキルを習得していったんだ。


「これでみんな決闘者スキルとやらを手に入れたわけだね……」


 :いいなぁ

 :俺は幹部の人見つけられなかったわ

 :俺は普通に倒されて署名カード?を奪われた

 :ワイはちゃんと倒してスキルを手に入れたぜ


 コメント欄の反応の通り、最早結社狩りはゲーム内イベントみたいな扱いだ。

 現状倒されたのは十二星座と八神将の二十人。つまり彼らを倒したプレイヤー二十人が同様のスキルを手に入れることができたんだ。


「残念なのは手に入れられるのは『RE:バースワールド』だけだというねー」


 :それに八神将倒しても全然変わんなかったな

 :はーつっかえ

 :もっと色んなインチキスキル用意しとけよな


《後はスキルを手に入れた後に他の構成員を倒しても再度の入手はなかったデス》

「そうなんだよねー……」


 それに加えてスキル習得済みの状態で倒しても、スキルを習得した際に彼らが消える様子もない。ただ彼らは逃げ惑うように走り去っていっただけ。


 そう、それはまるで。


「まるで、プレイヤー全員平等にスキルの習得機会を与えるような感じだった」

「でも結社の人も「知らない……なんなんだこれは!?」とか言ってたし……」

《……多分スキル習得の現象とやらを向こうの結社の構成員も知らないと思うデス》


 マナナンの言葉に僕も同意するように頷く。確かにそれなら辻褄が合う。でもそれで新たに浮かび上がるのはその目的だ。


「十二星座や八神将……幹部の人たちが知らされていない理由って……」

「センリ! ここにいたんだぜ!」

「やぁセンリさん」

「あっ、ジャッジ君!」

《それにレフェも来てるデス》


 悩んでいると僕たちがいるテーブル席にジャッジ君とレフェさんがやって来たのだ。


「どうしたの二人とも、そんなに血相を変えちゃってさー」

「出たんだぜ!」

「出たってなにが……?」

「結社の幹部――」


 ――六芒星の人たちさ。




 ◇




「ぐわあああああ!?」

「嘘だろまた負けた!?」

「クソ、特有ルールに慣れねぇ!」

「こ、これは……?」


 僕たちは今デミアヴァロンの外にいる。荒野地帯にて、デュエリストと思われるプレイヤーたちが頭を抱えていた。


「みんなどうしたのこれ?」

「六芒星のメンバーに挑んでいる最中なんだぜエーシス」


 六芒星……八神将より上の肩書を持ってる人たちか。でも周囲の反応を聞いてみた感じ、勝率は芳しくないようだ。


「苦戦の理由はあれだぜ」

「あれ?」


 ジャッジ君が指差す方向に目を向けると、かなり離れた場所で砂埃を巻き上げながら疾走する何が見えた。


「あれは――」

「――だよお兄ちゃん!?」

《バイクに乗って……デュエルしてるデス?》


 そう、全速力で先頭を疾走する赤いバイクと先頭を必死に追い付くように走る濃緑色のバイクの二台がこの荒野を走っていたのだ。


「おいおいどうしたぁ!? そんなチンタラ走っているとすぐぶっちぎるぜぇ!!」

「クソ! てめぇの砂埃のせいで前が見えねぇんだよ!」

「ハッハァ! 言い訳とかレーサーとして恥ずかしくねぇのかぁ!?」

「俺はデュエリストだっつーの!!」


 荒野を走るプレイヤーたちの言い争う内容が空中に浮かぶ実況モニターに映し出される。

 それと同時にこのレースデュエル? の実況をしているプレイヤーがマイクを持って叫んだ。


『謎の秘密結社カオスティック・ギルティアが表に出てきて以降、今現在最も混沌王が白熱している今! 人々はそれぞれの理由のためにデュエルをする!』


 街頭演説車のような車の上に立つ一人の男が場を盛り上げる。


『負ければ混沌王社会の実現に繋がる署名カードの強奪! ただし勝てば真のデュエリストとして成長を遂げる戦い! 果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか!?』


 あの人は確かレースやロボット大会の時に実況を務めた……!


『どうも! 実況解説専門ギルド『ハイテンションプリーズ』所属! 解説と実況はこの私、デュエ宮がお送りします!』

「今度はデュエかー」

「いったい何人いるんだろう……」


 名前と衣装の色は違うけどドリ宮さんとロボ宮さんと同じアバターをしているデュエ宮。

 噂を聞いた感じ全員別人らしいけど……声も仕草も同じなんだよなぁ。


『さぁ再びルールの説明をしましょう! 六芒星の方から提供されたルールを説明いたしますと、彼ら六芒星と戦う資格があるのは乗り物を所持しているということ!』

「乗り物……」

『つまり今回新しく追加された限定ルール……『ライドオン・デュエル』ルールというわけです!』


 ライドオン・デュエル……!


「ねぇこれってぶっちゃけライディング――」

「シッ!」

『ルールは通常のデュエルの勝敗の他に、先頭にいるデュエリストが後方のデュエリストから一定の距離を引き離せば、後方のデュエリストは問答無用で敗北します!』


 つまりレース要素のある混沌王ということだね。


「遅い遅い! てめぇにこの次元の戦いに付いてくるのは不可能なんだよぉ!」

「距離が……っ、どんどん引き離されて……!」

「あばよドンガメがぁ!」

「うわあああああ!!?」

『決着ゥ!! またもや引き離して勝利ィ! しかし彼はバイクの技術だけにあらず! デュエルの腕もかなりの実力者! 盤面の内容的に例え食らいついていてもそのまま負けていたことでしょう!』


 これが秘密結社カオスティック・ギルティアの六芒星……! すぐに壊滅した十二星座や八神将とは違う実力者!


「さぁ! この俺と戦いたいなら覚悟しやがれドンガメ野郎共!」


 赤いバイクに乗って僕たち野次馬集団に近付いてくる六芒星の一人。彼は慄く僕らに対し獰猛な笑みを見せる。


「俺は我が結社カオスティック・ギルティアの六芒星が一人! またの名を――」


 ゴクリ、と隣にいるエーシスから聞こえる。




「――チーム6B'Sシックスビーズの先鋒! 北方のキタノとは俺のことだぜぇ!」




 これはまたツッコミどころが多い幹部が来たなぁ……。

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