第8話

「相手の攻撃宣言時に俺はシチュエーションカード『覇竜の畏怖』をシーン展開するぜ! これにより覇竜の畏怖に威圧された魔法少女たちはこのターン攻撃できないぜ!」

「チッ、まだ防御カードを持ってやがったか!」


 奇跡の魔法による無効設定は一回のみ。堕落した休暇で一回分の無効設定を消費したお陰で覇竜の畏怖をシーン展開できたんだ!


「俺はこのままターンエンドだ……!」

「俺のターン、ドローだぜ!」

「だがこれで俺のハルカは休暇から復帰し、ステータスが元の64に戻る!」


 これで最強魔法少女が五人に戻った。でもはっきり言って彼女たちが一人や二人いなくても絶望的な展開に変わらないだろう。


「ここでジャッジ君が逆転しないと次のターン……ジャッジ君が負ける……!」

「それがお前の運命だ!」

「……」

「さぁ潔くターンエンドをしな! これ以上の無駄な悪足掻きは時間の無駄だぁ!」


 勝利を確信しているヴァルゴが嫌らしい笑い声を上げる。

 確かにステージゾーンにいるのはディザスタードラゴンキャラがいないと単体じゃ何もできない全ステ2のユウタ一人のみ。

 その上ジャッジ君の手札は先ほどのドローで二枚になっている。この二枚の手札で逆転するのは非常に厳しいと言えよう。


「……俺はまだお前らのことを理解できてないぜ。それがお前らの願いだと分かっても、それでもそれが正しいことだとは俺は思わないぜ」

「お前に理解されなくても結構だ! お前は潔く混沌王社会になった世界を眺めて生きていれば良いんだよぉ!」

「お断りだぜ!!」


 ジャッジ君がヴァルゴの言葉を振り切るように手札から一枚のカードを掲げる。


「そんなものは俺が好きな混沌王じゃないぜ! 混沌王はルールを守って、もっと自由に、もっと楽しく遊ぶものだぜ!」


 だからジャッジ君は。

 混沌王が好きなジャッジ君は決めたのだ。


「俺はお前らカオスティック・ギルティアの企みを阻止してやるぜ!」

「吠えたな小僧ォッ!!」

「先ずはお前を倒すぜ! 俺はキャラクターカード『龍の巫女タマリ』を登場させるぜ! タマリの設定により俺はデッキから任意の属性:ドラゴンのカードを手札に加えるぜ!」


 そうしてジャッジ君が加えたカードは一枚の恐ろしき漆黒のドラゴン。


「先ほど加えた手札の『覇龍神王ジャッジメントディザスター』の設定を開示! タマリを使用済みゾーンに送ることで自身をステージゾーンに特殊演出させることができるぜ!」


 龍の巫女タマリが一柱の龍によって生贄に捧げられ、全てを支配する龍が現れる!


「傲慢の覇者! 全てを見下す災害の頂点! これが俺の切り札『覇龍神王ジャッジメントディザスター』だぜ!」

「だがそいつのステータスはオール20! 確かに最上級キャラだが俺の魔法少女より程遠いッ!」

「果たしてそれはどうかなだぜ!」

「何っ!?」

「ジャッジメントディザスターの設定を開示! 使用済みゾーンにあるディザスタードラゴンと名の付くカードを一枚再利用するぜ!」


 その瞬間覇龍の咆哮によって一匹の災龍が呼び覚ます!


「来いディザスタードラゴン・アシッド! アシッドの登場によってジャッジメントディザスターのステータスは倍になるぜ!」

「全ステ40……!」

「更にジャッジメントディザスターのもう一つの設定! コストでステージゾーンにいる属性:ドラゴン以外のカードを没ゾーンに送ることで手札もしくは使用済みゾーンからディザスタードラゴンを一体特殊演出させるぜ!」


 当然対象はドラゴンじゃないユウタ。ユウタの「ぎゃああああああ!」という悲鳴と入れ替わるように、使用済みゾーンから更なるディザスタードラゴンが表に出てくる!


「出てこいディザスタードラゴン・インビジブル! これによって更にジャッジメントディザスターのステータスは倍になって80になるぜ!」

「魔法少女たちより強くなった!」

「これなら魔法少女たちに勝てるよー!」

「だがそれでもこのターン倒せるのは魔法少女一人だけだ! どの道お前は負ける運命なんだよ!」


 だけどそんな彼の言葉にジャッジ君は笑みを崩さない。多分、もう勝利への道まで見えているんだ!


「ミドルフェイズに移行してシチュエーションカードをシーン展開するぜ!」

「最後の手札……!」

「これから起きるのは『覇龍の暴虐』! このターンのクライマックスフェイズによる戦いは一方的な虐殺になるぜ!」

「なんだと!?」

「この展開によって俺のジャッジメントディザスターは相手のキャラ全員に攻撃をすることができるんだぜ!」

「そんな馬鹿な!?」


 相手の魔法少女は五人! つまり計五回の攻撃が魔法少女たちに降り注ぐ!


「クライマックスフェイズ移行による攻撃宣言だぜ! 先ずはジャッジメントディザスターでお前のマジカルブルー・ソラに攻撃だぜ!」


『グオオオオオオ!!!』

『きゃああああ!?』


 ズシン、とジャッジメントディザスターの巨大な足が一人の少女を踏み潰した。


「ソラァアア!!?」

「ソラの耐久力を削って16のメンタルダメージだぜ!」


 ヴァルゴ。

 MP40 → 24。


「あ、あぁ……!?」

「メンタルどころか正気度下がってそうだよお兄ちゃん」

「追い打ち掛けないの」

「だ、だがメンタルにダメージを受けたことによって俺はハプニングデッキからカードを一枚引けるぜ……!」


 そうして彼が引いたカードは……『人気低迷による没』!?


「来た……! これでお前のジャッジメントディザスターは没ゾーンに行くぜ!」

「ここでジャッジメントディザスターの設定を開示だぜ! 自身を対象に展開されるカードの対象先を味方ディザスタードラゴンに肩代わりさせることができるぜ!」

「なんだってぇ!?」


 人気低迷による没の対象がジャッジメントディザスターからインビジブルに移った。

 これによって代わりに没ゾーンに行ったのはインビジブルのみ。


「だ、だがそれでお供が消えたジャッジメントディザスターのステータスは40に……」

「だがそれはお前の魔法少女たちも同じだぜ!」

「あっ……!?」


 そうか魔法少女たちも同じ、味方魔法少女の人数によって性能を上げる設定持ち。

 ソラが潰されたことで全ての魔法少女のステータスは32になる……!


「再びジャッジメントディザスターの攻撃! 対象はマジカルブラウン・アキラだぜ!」


『ガアアアアアアア!!!』

『きゃああああ――あっ』


 ガブリ、とジャッジメントディザスターがアキラを喰らった。


「アキラァアアア!!?」


 ヴァルゴ。

 MP24 → 16。


「さっきから倒し方がグロいんですけど!」

「流石にそこは演出の問題だから……」


 いや良く見ればジャッジ君が食い入るようにジャッジメントディザスターの食事シーンを見てる!?


「なんだぜ、この気持ちは……?」

「しかも無自覚!」

「くっ、ハプニングカード『助手のアクシデント』! 相手のキャラ一体を対象にこのターン行動不能にする黒インクを零す!」

「当然対象の肩代わりでアシッドの方に行くぜ!」

「分かってたよチクショウ!!」


 今のジャッジメントディザスターのステータスは40。対する今の魔法少女たちの耐久は16。魔法少女を一人倒した瞬間、差し引いた分の24ダメージがヴァルゴに行く。


「この勝負――」

「――ジャッジ君の勝ちだよー!」

「行くぜ!!」


 ジャッジメントディザスターが空へと舞う。まるで自らの威容を示すように翼を広げ、大きく口を開ける。


「ジャッジメントディザスターの攻撃だぜ!」

「うわああああああ!?」

「俺はマジカルホワイト・フユキに攻撃! これでお前はメンタルブレイクだぜ!!」


 ジャッジメントディザスターの口から漆黒のブレスが解き放たれ、一人の少女を焼き尽くす!


 光を失った目で失った仲間たちを見るマジカルレッド・ハルカと彼女を慰めるマジカルイエロー・ナツミ。そんな彼女たちの前で覇龍の炎がヴァルゴを飲み込んだ。




『ジャッジVSヴァルゴ』

『ジャッジ WIN!』




 ◇




「カオッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

「やったあああ! ジャッジ君が勝ったぁ!」

「やったねジャッジ君!」

「へへっ! ありがとうだぜみんな!」


 強制デュエルフィールドも解除され、僕たちはようやくジャッジ君の下へと向かって揉みくちゃにしていく。


「そう言えばジャッジ君」

「なんだぜエーシス?」

「どうして最後の攻撃の対象をフユキにしたの? あの人だったら思い入れがありそうなハルカに攻撃したらもっとメンタル与えられそうだけど」


 :鬼か?

 :人の心あるんか?

 :誰がリアルメンタルブレイクさせろと言ったし


「いやなんか……ハルカだけ残した方が良いと思ってしまったんだぜ」

『……』


 :それって……

 :仲間も主も守れなかったハルカを見たかったって……コト!?

 :曇らせかぁ……小学生の業が深いなぁ

 :業が加速していくなぁ

 :これ絶対きっかけはセンリちゃんでしょ


 え、これって僕のせい!?


「くっ、くく……よく俺を倒したな」

「っ、ヴァルゴ!」

「だがカオスティック・ギルティアと敵対するって言うんなら覚悟しろ……!」

『……!』

「例え俺ら黄道十二星座を倒しても……上には八神将、六芒星、四天王、双極の方々がいる……! お前らに勝ち目はない!」

『いや多い多い多い!!』


 幹部作り過ぎだよ!?

 どれだけ人材充実してるの!?

 つまりヴァルゴを除いた後三十一人の幹部を倒さないと行けないってこと!?


「世界は混沌王になる……! 俺はあの世で見守っているぞデュエリスト共ォ……!」


 その瞬間、仰向けに倒れながら何故か粒子と化していくヴァルゴ。あれはもしかして自キャラが死んだってこと? デュエルで?


「なぁにこれ……」

「あっ! ヴァルゴの粒子がこっちに……ジャッジ君の中に入ったー!?」

「こ、これはまさかだぜ!?」

「ど、どうしたのジャッジ君!?」


 ジャッジ君の今までにないビックリした顔に嫌な予感がした僕は彼に尋ねる。そうして彼が恐る恐る口を開くと……。


「ヴァルゴが使ってたスキル……『RE:バースワールド』が決闘者スキルとして習得したってアナウンスが出たんだぜ……!」

『え、えええええええええ!!??』




 ◇




 そうして秘密結社カオスティック・ギルティアが僕の配信を通じて表舞台に知れ渡っていく。

 彼らの存在は現実世界にいる一定の層から支持を受け、混沌王社会に興味を抱く人々が増えていった。


 そしてそれから数日後。


 ――ネットニュースで黄道十二星座と八神将が壊滅したという報が流れたのであった。

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