第7話

「俺はこれでターンエンドだぜ」


 ヴァルゴがターンを終了して、ジャッジ君へとターンが移る。ステージゾーンにあるのはジャッジ君のドラゴンハンター・ユウタのみ。両者共、手札は三枚ずつある状況。


 どちらが有利かで言えばキャラが残っているジャッジ君の方が有利だけど、ヴァルゴの持つカードがどんなものなのか分からない。

 ここでジャッジ君はどう出るのか。


「じゃあ俺のターン、ドローだぜ!」


 これでジャッジ君の手札は四枚。


「俺は『大狩猟祭』の設定によって手札からディザスタードラゴン・インビジブルを特殊演出するぜ! そしてユウタの設定を開示! 対象はインビジブルだぜ!」


 先ほどのリョウマの設定を見たからだろう。前ターンと同じような行動を取るジャッジ君にヴァルゴが皮肉な笑みを見せる。


「ハッ、また鎧に加工するのか!」

「いいや、ユウタはリョウマとは違うぜ!」


 ユウタがインビジブルにナイフを振り下ろす。その瞬間インビジブルの姿が変化する!


「加工先は鎧じゃなくアイテムだぜ!」


 インビジブルは『透明な濃霧』というアイテムに加工され、シチュエーションゾーンに移動した。


「これにより今から数えて三ターン、お前は俺のフィールドに干渉することができなくなったぜ!」

「チッ、様子見をするつもりか!」


 現状ヴァルゴが使ったカードはシチュエーションカードが二枚のみ。当然それで到底ヴァルゴの実力を理解できたわけじゃない。

 ここで様子見をして相手の出方を見るのも一つの手だと、ジャッジ君は考えたんだ。


「これで俺はターンエンドだぜ!」

「確かに初見の相手なら様子見をするのは当然の摂理だ……だがお前は判断を誤ったなぁ!」

「どういうことだぜ!?」

「そういう戦法が通じるのは相手が自分より格下の場合のみ! 俺のような格上に時間を与えるとどうなるか後悔するんだなぁ!」


 そうしてヴァルゴのターン!

 彼はいったい何をするつもりだろう。


「ドロー! 俺はジャンルカード『マジカルワールド』を展開! 今からこの世界は魔法少女のための世界と化す!」

「魔法少女の世界だぜ!?」

「厳つい形の癖に魔法少女!?」


 僕も内心そう思ってたけど、実際に口に出さなくてもいいよエーシス。


「俺はキャラクターカード『普通の少女ハルカ』を登場させるぜ! その瞬間『マジカルワールド』の設定により、ハルカは魔法少女へとマジカライズをする!」


 ハルカが小型のアイテムを使い、その姿を変える! その出で立ちは今僕が着ているコスプレのような姿になっていく!


「登場! マジカルレッド・ハルカ! 彼女の設定は魔法少女形態になることで変化する!」


 初期からのカード故に、そのキャラの設定は周知されている。確かそのキャラの設定はステージゾーンにいる魔法少女キャラ一体につき、自分の今のステータスを倍にしていく設定があるはずだ。


 普通の少女ハルカの初期ステータスはオール2。

 ハルカが魔法少女になることで自身の設定が自身にも及び、全てのステータスは4になるんだ。


「さっきのジャンルカードといい、ステージゾーンにいるハルカといい……やっぱりお前のデッキは魔法少女をテーマにしたデッキなんだぜ!?」

「その通りだ! 初期のカード故にシンプルな設定が目立つテーマだが、初期故に長年愛され、様々なサポートカードが充実したテーマでもある!」


 魔法少女という制限はあるけど、様々なサポートカードによる幅広い対応力が特徴のテーマカード群だ。でも。


「だけどそれはどちらかと言えばそれはファンデッキの部類に入るんだねー。それで良く世界に変革を齎すなんて言えるもんだよねー」


 :確かに魔法少女は強いけど……

 :今の環境に比べるとなぁ

 :流石に覇権デッキと比べると……


 アンさんと視聴者の言う通り、確かに豊富なサポートカードによる幅広い対応力が特徴だけども、現代のカードはカード一枚で様々な設定を持つカードが多い。


 それに比べたら魔法少女のカード群ははっきり言って効率が落ちるというもの。

 とてもではないけど強い、というよりも面白いの面が目立つファンデッキに近いのだ。


「それでも魔法少女を使うということは、それだけお前は魔法少女が好きってことなんだぜ!」

「……確かに魔法少女デッキは俺の趣味だ。初期に登場して以来俺はハルカに恋をしている」

「それならどうしてこんなことをするんだぜ!?」

「だからこそだ! 好きだからこそ俺はカオスティック・ギルティアに入ったんだ!」


 さっきから分かるのは、彼を含めた謎の結社カオスティック・ギルティアは混沌王が好きであること。でもそれでどうしてこんばこにあのような強制ルールを設けるのかは理解できないのだ。


「言っただろう? 我らカオスティック・ギルティアは世界に変革を齎すと!」

「どういうつもりだぜ……?」

「俺らの望みはこの世をカードゲーム社会にすること! 全てがカードゲームの勝敗で決まる世界にすることだぁ!」


 だから、それだったら普通にカードゲームがメインのゲームをやった方が――。


「何を勘違いしてるんだ?」

『え?』

「世界とはこのゲームのことだけじゃねぇ……つまり現実世界の方のことも言ってんだよ!」

『え!?』


 現実世界をカードゲーム世界に……!?


「あり得ないぜ!」

「できらぁ! そう、カオスティック・ギルティアの持つエクストラリワードの力があればなぁ!」

「嘘でしょ!?」


 荒唐無稽な話にエーシスが驚きの声を上げる。


 そんなこれまで現代社会を打ち壊してカードゲーム社会という新しい概念に上書きするのが彼らの目的ということ!?


 それほどまでに彼らの持つエクストラリワードの効力が規格外なの? 流石にそんなこと……いやこの世界をロックマ◯エグゼの世界にしたいという社長がいるからなぁ。


「計画は既に第一段階にまで達した! これで混沌王世界になるまで残り僅かだ!」


 勝ち誇る彼に僕は反論した。


「でもこれまでのやり取りは配信を通じてみんなに共有されてるんだよ!」


 デュエルによる勝敗で署名が集まるなら、みんなデュエルをやらないでいれば――。


「甘いんだよハルカ!」

「一応言うけど僕の名前はセンリだからね!?」

「いいやお前はハルカだ、俺が決めた!」

「えぇ……」

「いいかハルカ! 配信されてるからこそ俺たちの計画が進むんだよ!」

「どういうことなんだぜ!?」

「コメント欄を見れば分かるさ!」


 そう言われて、僕は自身の配信に流れてくるコメントを見る。するとそこには目を疑う反応が流れていた。


 :正直に言うと興味ある

 :混沌王の強さで社会的地位が決まるなら俺はクソ上司を倒すわ

 :いやいや冷静なれよお前ら

 :ワイ混沌王に青春を捧げた人間。もし混沌王世界が実現すればワイが費やした青春は無駄にならないことが証明できる模様

 :しっかりいたせーっ!


「コメントの反応が……分かれてる!?」

「この世にはカードゲームが取り柄だけの人間だっている! だからこそこの計画に賛同する奴らだっているんだよ! トップ配信者の配信を通じて全世界に俺たちの目的が知れ渡るんだ! この配信によって俺たちの仲間が増えていんだよぉっ!!」


 そ、そんな……! 配信行為が却って彼らの勢力を拡大させているなんて!?


「ふざけるんじゃないぜ!!」

「何っ!?」

「ジャッジ君!?」


 そんな中ジャッジ君が声を張り上げる。


「……俺は勉強が嫌いだぜ。でも別に何かを知ることが嫌いなわけじゃないぜ! 強制されることが嫌いなんだぜ!」

「いきなり何を言うんだ小僧!」

「カードゲームだって同じなんだぜ! 誰からも強制されずに自由に遊べるゲームだからこそ楽しいんだぜ! なのにそれすらも強制されてしまえば、そんなの俺たちが好きなカードじゃなくなっちまうんだぜ!!」


 ジャッジ君……!


 確かにジャッジ君の言う通りだ。ゲームは、遊びは強制されるものじゃない。

 楽しむことが娯楽なんだ。そんな世界になれば、カードゲームは娯楽じゃなくなる!


 ――それでも。


「言っただろ! 俺たちはそれを望んでいるってなぁ! が全ての俺らにとっちゃあ混沌王は遊びなんかじゃねぇんだよ!!」


 それでもヴァルゴは、カオスティック・ギルティアの構成員はそう叫んだのだ。


「良い大人がなにを言ってるんだぜ!」

「それを言っちゃあ戦争だろうが!!」

「自覚あるんだ……」

「取り敢えずこの戦いを終わらせてからだ! 勝つんだよジャッジ!」

「レフェ先輩分かったぜ!」

「まだ俺のターンであることを忘れるなよ! そしてこれから俺は! カオスティック・ギルティアの崇高なる力を見せてやる!」


 ヴァルゴがニヤリと口角を上げる。


「なにをする気だぜ!?」

「俺は決闘者スキルを発動ォッ!」

『決闘者スキル!?』


 そんな……ジョブ:決闘者はデュエルフィールドの生成スキルしかないサブコンテンツ用のジョブの筈! 成長要素もないため新しくスキルを入手することもないのに!


「真のデュエリストはカードの創造すらも可能! 俺は決闘者スキル『RE:バースワールド』により、今この瞬間一枚のカードを創造するゥッ!!」

「なんだぜぇっ!?」


 そうしてヴァルゴの手に一枚のカードが追加される。ドローという手段すら用いずに手札にカードを追加した行為に誰もが唖然とする。


「ジャ、ジャッジー! 審判の方のジャッジー!! こ、これいいの!? 明らかに不正行為だよね!?」


 エーシスが叫ぶもシステム、GMからの警告が来ない。つまり考えたくないけど……!


「完全な合法さ……!!」

「そ、そんな!?」

「インチキスキルにも大概にするんだぜ!」

「これがカオスティック・ギルティアの崇高なる力よぉ! 俺はスキルによって創造したシチュエーションカード『奇跡の魔法』をシーン展開!」


 その瞬間ジャッジ君を守っていた『透明な濃霧』が消えていく!


「更に『奇跡の魔法』のシーン展開は続くぜ! 奇跡は時空を超え仲間を呼び出す! 俺はデッキから『普通の少女ナツミ』『普通の少女フユキ』『普通の少女アキラ』そして『普通の少女ソラ』を特殊演出で登場!」


 当然マジカルワールドの設定で彼女たちは魔法少女になる!


 マジカルイエロー・ナツミ。

 マジカルホワイト・フユキ。

 マジカルブラウン・アキラ。

 マジカルブルー・ソラ。


 当然魔法少女の数によって彼女たちはパワーアップする。


「つまり全員……!」

「オールステータス64だぜ……!」


 一人だけでもメンタルを全損させるレベルの高火力! それが全部で五人の魔法少女がヴァルゴのステージゾーンにいる!


「だけどここでシチュエーションカード『堕落した休暇』をシーン展開するぜ! これで俺のユウタを含め、このターン全キャラは休暇の影響で一時的にオール1になるぜ!」

「無駄だぁ! 奇跡によって登場したキャラたちは一回だけ設定の対象にならない!」

「嘘だぜ!?」


 だけど奇跡の影響を受けていないハルカだけが突然の休暇で堕落してステータスが1になった。だけどどう見ても焼け石に水だろう。


「さぁこれで俺はクライマックスフェイズに移行する……! これで終わりだ天才デュエリストォ!」


 ジャッジ君に対し、魔法少女のお姉さんたちが飛び掛かっていく!


「ジャッジ君ーっ!!!」

「ヒャハハハハァッ!!」


「――!!」


 襲い掛かる自分より年上の色取り取りのお姉さんたちの光景に、ジャッジ君は睨み続けていく……!!

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