第6話

「それじゃあ教えてくれよ兄貴。あの場所でいったい何をしてたんだ?」


 マジカルレッド・ハルカの口調を真似ながらローブの男と交流を重ねたオレもとい僕は、頃合いを見て本題に入ることにした。

 今の彼は僕の言葉に素直になっているはずだ。これであの時何をしていたのかようやく口を割るはず……!


『あぁ聞いてくれるかハルカ……? あれはな、署名を集めてたんだよ』


 彼の言葉に僕たちはより困惑した。


「署名って……あのプレイヤーの体から出たカードが?」

『そうなんだよ……俺らはデュエルを通じて対戦相手の署名を集めてたんだ』

「ツッコミどころが多いんだけど!?」


 どうしてデュエルという手段なのか。

 どうして相手を倒したらそれで署名を貰えるという判定になるのか。

 そして署名を集めてどうするつもりなのか。


 全く分からない。

 だからこそ不気味だ。


『言っただろ? 俺らにはデュエルしかないって』

「っ!」


 そう言った彼の言葉に、どこか狂気のような執念のようなものを感じた。


『論より証拠って奴だ』


 ブチリ、とそのローブの男が拘束している縄を切って立ち上がった。


「ちょ縄が!?」

「レフェ先輩、どうなってるんだぜ!?」

「あんたが縛ってたんだよねー?」

「おいおい待て待て!! 確かに縛ったのは俺だけどそんな軟な結び方をしてないぞ!? アイツ、いったい何をしたんだ!?」


 レフェさんの弁明を聞きながら手首の調子を確認する僕ら。そんな拘束から抜け出したローブの男は、僕に向かって答える。


『すまんなぁハルカ。ついさっき同志フレンドから連絡が来たんだよ。こういうところ、本当オンラインゲームで良かったとマジで思うわ』

「連絡……?」

『計画の第一段階が達したってことだよ』


 そうして彼はジャッジ君に指を差す。

 そして。


『そこの坊主、俺とデュエルをしろ』

「は?」


 突如としてジャッジ君に指名が入る。

 それに困惑していると、突如としてアナウンスが鳴る。


『混沌王の対戦を申し込まれました』

『限定ルール:デュエリストのさがによって強制的に対戦を承諾します』


『え!?』


 アナウンスによって未だに理解が及んでいないというのに、ジャッジ君とそのローブの男を中心に勝手にデュエルフィールドが生成されていく。


「了承してないのにおかしいぜ!?」

『これが俺たちの計画、その第一段階目だ』

「な、なにをしたんだぜ!?」

『署名の数が一定数集まったことによってこのゲームにルールが追加されたんだよぉ!』


 :おいなんだこれ!?

 :了承してないのに勝手にシステム側が対戦を承諾したんだけど!?

 :俺この後用事があるってのに!


「……あちこちで対戦の申請が強制的に承諾される不具合が起きてるぞ」

『なんだって!?』

『不具合じゃねぇ……新ルールだ!』

「おい! いったいお前らは何をしたんだぜ!?」

『デュエリストはデュエリストからの勝負に断れない! それがこのゲームに生まれた新しいルールさ!』

「デュエリストは……? っ! ねぇレフェさん! 急いでみんなにジョブ:決闘者を外すように告知して! この配信を見ているみんなもジョブを変更するんだ!」

「っ、そうか!」


 :おk

 :おぉジョブを変更したら勝手に承諾されなくなったぞ!

 :でも断れないだけなら、まだ混沌王を遊びたい俺は別に変更しなくてもいいか


『ふっ、まぁ最初に追加されるルールはそんなもんだろうな』

「なんでこんなことが……」

『可能さ。そう、我が結社カオスティック・ギルティアに宿るあるエクストラリワードのお陰でなぁ!』

『っ!?』


 エクストラリワード。


 その言葉を聞いた瞬間みんなから声が失う。

 それは当然だ。エクストラリワードという技術が生み出すその効力は計り知れない。見つければ一攫千金。人一人どころか人類全体の文明が一段階進化するレベルの規格外。


 それを彼らが持っているだって?


『さぁ!』


 ローブの男がローブを脱ぐ。

 その中から出てきたのは筋骨隆々の男。


「この黄道十二星座が一人、おとめ座のヴァルゴ様が相手だ! 最年少天才デュエリスト様よぉ!」

『黄道十二星座!?』

「さぁ行くぜ天才!」

「くっ、やるしかないんだぜ……!」


 エクストラリワードを悪用するという相手に、ただ混沌王が好きなだけの少年が戦いの火蓋を切られる。


『デュエル!!』


『ランダムで先攻後攻を決めます』

『ジャッジが先攻になりました』


「俺のターンだぜ!」


 五枚の手札を一瞬見て、ジャッジ君が進行する。


「先ずは手札からジャンルカード『大狩猟祭』を展開するぜ! このカードの設定により俺は一ターン中一回、一般演出権を消費しないで手札からドラゴンハンターと名の付いたカードを登場させることができるぜ!」


 そうしてジャッジ君が出したカードはドラゴンハンター・リョウマだ。

 攻撃力、耐久力共に2のカードで、最弱よりはマシだけど性能だけ見れば弱すぎるカード!


「だがドラゴンハンターと名の付くカードには共通する設定があるぜ! それは場に登場した時、デッキからディザスタードラゴンと名の付くカードを手札に加えることができるんだぜ!」

「へぇ、弱小キャラが強力キャラを手にすることができるカードか」

「それだけだと思ったら大間違いだぜ!」


 そう言って、ジャッジ君はデッキから『ディザスタードラゴン・アシッド』を手札に加える。攻撃、耐久共に20の最上級キャラだ! 


「更に展開している『大狩猟祭』の設定によって俺はディザスタードラゴン・アシッドを特殊演出させるぜ!」

「だけど設定の内容が……!?」


 エーシスが驚くのも無理はない。

 ディザスタードラゴンと名の付くキャラクターカードの共通点は高いキャラ性能を誇る代わりに持ち主の言うことを聞かないという欠点がある。


「システム側のランダム判定によってディザスタードラゴンは俺にもお前にも牙を剥くぜ! 当然それによって俺のキャラが倒された場合、俺の方にメンタルへのダメージが来るぜ!」

「ハッ、とんだピーキーキャラだなぁ!」

「だがそれを乗りこなしてこそのデュエリストだぜ! 俺はリョウマの設定を開示するぜ!」


 リョウマはドラゴンを狩るハンターだ。それ故に暴れる龍を狩猟し、その力を鎧にするのも彼の役目!


「リョウマの設定によって自分の場にあるディザスタードラゴン・アシッドを狩猟し、ドラゴンスケイル・アシッドへと加工するぜ!」


 所謂名称変更ルールだ!

 ドラゴンからスケイルへと名前を変えたことにより、暴走状態が解除されてクロス可能な設定へと変化させる!

 そのままドラゴンスケイル・アシッドをリョウマにクロスすれば、リョウマはより強力なキャラに――。


「だがここで俺は! ディザスタードラゴン・アシッドを対象にシチュエーションカード『擬人化要素アペンド』をシーン展開!」

「ヴァルゴがジャッジ君の設定開示中に割り込んだ!?」


 その瞬間リョウマの設定対象となるはずだったディザスタードラゴン・アシッドが可愛い少女の姿になった!


『……ほえ~?』

『お前、アシッドなのか!?』

『ほえー!』

『くっ、こんな可愛い子を加工するなんてできない!』


 可愛い女の子を前にリョウマは包丁を落とした!


「擬人化した動物キャラには誰も干渉することができない! 勿論擬人化による能力消失によってそのキャラの設定は消え、性能は最弱の1ステータスだ!」


 :駄目だなー駄目駄目

 :擬人化とか萎えるわ

 :どうして人にする必要があるんですか?

 :うーんこのケモナー末期患者


「リョウマ!? 良いから早くそのアシッドを鎧に加工するんだぜ!」

「お前、俺の話を聞いてたか!?」

「散々龍を狩ってきた癖に今更人の形をした龍に躊躇を見せるんじゃないぜ!」


『ぐぉおおお!!? お、俺はあああ!!』


 ジャッジ君の人の心を感じられない鋭い発言にリョウマが葛藤する。なんて深いテーマなんだ……これが命をやり取りをするということか。


「まぁいくら言ってもシステムの処理的には終わったことだ! とっとと諦めて前に進むんだな!」

「くっ、だが俺にはまだ一般演出権を使用していないぜ! 俺は手札からドラゴンハンター・ユウタを登場させるぜ! これによってデッキからディザスタードラゴン・インビジブルを手札に加えるぜ!」

「だが『大狩猟祭』の設定は一回限定だ! そのドラゴンを特殊演出させることはできないぜ!」

「くっ、これで俺はターンエンドだぜ……!」

「なら次は俺のターン、ドローだ!」


 流石は黄道十二星座とかいう大層な肩書の一人……! 天才デュエリストであるジャッジ君の展開を妨害するとは!


「俺はミドルフェイズまで飛ばしてシチュエーションカード『魔法少女の契約』をシーン展開! 相手フィールドに存在するステータス3以下かつ属性:人間のカードを対象にするぜ!」

「な、何をするんだぜ!?」

「対象にするのは擬人化したディザスタードラゴン・アシッドだ!」


 その瞬間、マスコットキャラがシチュエーションカードのイラストから飛び出してジャッジ君のフィールドにいるアシッドちゃんに問いかけた。


『僕と契約して魔法少女になってよ!』

『ほえー!』


 そして気が付いたら、魔法少女の衣装を着たアシッドちゃんがヴァルゴのフィールドに移っていたのだ。


「アシッド!? どうしてそこにいるんだぜ!?」

「キャラのコントロール権奪取とキャラの強化を併せ持つシチュエーションカードだ! これによって魔法少女マジカル☆アシッドのステータスはそれぞれに+3されるぜ!」


 つまりオールステータス1だったアシッドがマジカルアップしてオールステータス4になったっていうこと!?


「はぁ、はぁ……! 自分のカードが相手に奪われたせいか、心が苦しいぜ……! しかもなんか頭も痛いぜ……!」


 :もうやめて!

 :ジャッジ君の性癖はボロボロよ!

 :小学生になんてことを!?


「その素質があったってことだな……分かるぜ小僧。俺もハルカが他の奴に使われているところを見ると切なくなってくる時がある」

「そ、素質……だぜ?」

「それ以上いけないンゴ」


 とにかくこれでヴァルゴの場にあるキャラはジャッジ君のリョウマよりもステータスが高い。つまり――。


「クライマックスフェイズ! 魔法少女マジカル☆アシッドちゃんでリョウマに攻撃!!」


 アシッドちゃんの魔法ステッキから放たれた強酸攻撃によってジャッジ君のリョウマが溶解されていく!


『ほえー』

『ぐわあああああ!!? ――……だが、これで良かったのかも、しれない……』


 更には耐久力2を超えた攻撃力4の攻撃なため、それを超過した2のダメージがジャッジ君のメンタルに届いてしまう!


 ジャッジ。

 MP40 → 38。


「くっ……! だがメンタルに一回ダメージが入ったことで俺はハプニングデッキから一枚ハプニングカードをドローするぜ!」


 そうしてジャッジ君が引いたカードは。


「……っ! 作品の人気は順風満帆とはいかないぜ! 誰かにメンタルを与えたその時、お前にハプニングがやってくるぜ!」


 ジャッジ君が先ほど引いたカードを掲げる!


「俺はハプニングカード『キャラ人気低迷による没』を発動するぜ! 対象はお前の場にあるアシッドちゃんだぜ!」

「くっ!」


『ほえ~……』


 アシッドちゃんが悲しい声を出しながら元々の持ち主であるジャッジ君の没ゾーンへ行った! 聞いてて心が痛む光景だ!


「お兄ちゃん、没ゾーンって?」

「没ゾーンへ行ったカードは原則このデュエル中に使用することができない、所謂このデュエルから除外されたということだよ」

「アシッドちゃん可哀想……」


 でもこれでヴァルゴのステージゾーンにキャラが存在しなくなった。反対にジャッジ君にはドラゴンハンター・ユウタがいる。


 メンタルダメージが入ったけどまだまだ序の口。

 でも一つだけ言って良い?




 さっきから絵面が酷いっっ!!

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