第5話
『う……ここはどこだ……?』
「目が覚めたんだぜ?」
『こ、この声……公式デュエリストか!』
その瞬間、自分がいる位置にスポットライトが上から照らし出される。
『うお、まぶし……なんだこれは?』
このタイミングで、その謎の人物は自分が椅子に縛られている状態にあることに気付く。
首を動かして周囲を見ても、周囲は暗くてどういう場所なのか分からない。
そう彼が混乱していると彼の正面にババンッ! と一つのスポットライトが落ちた。
そうして現れたのは――。
「――どうもだぜ」
『いや何してんだお前ら!?』
いきなりスポットライトで現れた黒づくめの集団に謎の人物が困惑する。
彼らが公式デュエリストの集団であることは分かったがどうしてそんな全員黒いスーツにサングラスを掛けているのか理解できない。
「ふいんきを出すためだぜ」
『は?』
「俺たちはこれから君に対して尋問をするからね」
『はぁ!?』
少年とは違う若い男の声の言葉によってその謎の人物が絶叫する。
『尋問だと!? ふざけんなこの縄を解け!』
「どうやら君のローブは特殊な性能をしているようだねー。こちら側から剝がせないどころか君の名前さえ見れないとかおかしいねー」
「いったい……どこで手に入れたンゴ?」
『ハッ、誰が話すか! 知りたければ俺とデュエルして勝ってからにするんだな!』
いやどうしてデュエルならいいの? と流石にデュエル脳過ぎる人物の発言に今度は公式デュエリストの人たちが困惑した。
「こっちは真面目な話をしているんだぜ」
『おいおいお前らはデュエリストだろ!? デュエリストならデュエルで話し合え!』
『えぇ……?』
こう、今まで住んでる世界が違うような人の言葉に思えてきたぞ。
確かにジャッジ君たちはデュエリストだ。でもそれ以前に一般人だ。
混沌王が好きだからこそ運営の下で混沌王の公式デュエリストとして仕事をすると決めた人たちなんだ。
それなのに明らかに混沌王を使った何かで人に迷惑をかける存在がいた。
下手すれば混沌王のイメージが悪くなる恐れがある事態なだけに、ただその謎の人物の言うようにデュエルで決着を付ければいいわけでもない。
こんな事態になっているからこそ、公式デュエリストたちは事態の解決を急ぐべく『デュエル=遊び』という手段を取る余裕なんてないのだから。
「つまり話さないってことか?」
レフェさんの最後通告だ。
それに対する返答は――。
『デュエルに勝てたらな』
――決裂の言葉だった。
「じゃあ尋問をやるねー」
「いや、あの、ちょっと待って」
『? 他に誰かいるのか?』
本当に待って。尋問をするのはいいけどこれは駄目でしょ? ねぇ、待って?
「これから貴方に尋問システムを行使するねー」
『尋問システムだと? ハッ! それはNPCに対するシステムだろ? 人間である俺にそんな尋問システムが効くわけないだろ!』
確かにその通りだ。ヤスの時は結局尋問システムを使わなかったけど、多分使っても飴と鞭ゲージは出なかったと思う。
人間の心理って飴と鞭、どちらか一方のゲージを最大にしただけで自白するような単純な生き物じゃないしね。
因みにヤスにはあの後ちゃんと要望通りのASMRをプレゼントしたよ。
彼女と一緒に大事に聞くッス! って言ってた。恥ずかしいからわざわざ言わないで。
「それは果たしてどうかなだぜ!」
『なん、だと……!?』
「使用するにあたってちゃんと事前調査済みさ! というわけで君の出番だよセンリさん!」
「いや、ちょ、待っ――」
その瞬間暗闇に潜んでいた僕の姿がスポットライトによって照らし出される。そうして僕は彼らの前に現れて――。
『――そんな、まさか』
:!?
:!?
:!?
:これは!?
:ガタッ!
:【G・マザー】50000¥/ うほほほほほほ
:【みるぷー】50000¥/ うほほほほほほ
:【混沌ウサギ】50000¥/ うほほほほほほ
:【ヤス】50000¥/ うほほほほほほ
:【ミカエル】50000¥/
:オールスターで草
:ミカエルはなんか言え
:うほほほほほほって言え
「う、うぅ~……」
『混沌王初期から登場し、今なお人気が衰えない混沌王シリーズの公式ヒロインキャラクター『マジカルレッド・ハルカ』だとぉ!?』
『完成度たけーなオイ』
たけーな、じゃないよ!? なんでよりにもよって僕にそのキャラのコスプレをさせるのさ!?
「この中で一番可愛く、そして完成度の高いレベルで着こなせるのがセンリさんしかいないからさ!」
「僕男なんだよ!!?」
「ま、『マジカルレッド・ハルカ』は幼少の頃に男からTSして、成長した後にマジカルブレイバーズに選ばれた戦隊レッドっていう設定だから……だぜ」
「だから!?」
その設定と僕にいったいどういう関係が!?
衣装を見た感じ、全体的に赤色が目立つヒラヒラとした魔法少女でところどころ装甲のようなものがある恰好だ。
頭にあるやけに大きいとんがり帽子がトレードマークで上半身はいいんだけど……下半身のスカートがやけに短い! 完全に太ももが見えてるほど短いスカートで、角度によってはお尻が――!?
:ジャッジ君ずっとチラチラ見てて草
:ま、多少はね?
:嘘つけもう戻れないぞ
:当たり前だよなぁ?
:センリちゃんが可愛すぎて小学生の何かが危険で危ない
『ま、まさか!?』
「彼……彼女に尋問を任せるつもりさ」
「なんで言い直したの!?」
『なんて極悪な連中だ……!? 全デュエリストの初恋を尋問役に抜擢するなんて悪魔を通り越して神だぞお前ら!!』
「それは褒めてるの!? 貶してるの!?」
パシャパシャパシャパシャ!!
「いいねお兄ちゃんいいよ~? 配信カメラに映らない角度からこんにちわ! これでお母さん相手に売ってお金がっぽがっぽだね!」
《がっぽデス?》
「今はもうお金に困ってないじゃん!! ってか撮るなよもう!」
:【G・マザー】あとでお話があります
:マズイ、流石のお母様もご立腹に……!?
:【G・マザー】事前に価格考えてから来なさい
:あーっと!! 売買交渉に移る気だーっ!
:【F・ファーザー】あとでお話があります
:【G・マザー】アッハイ
:お父様からのストップで草
「それでは尋問を始めるんだぜ!」
「くっ……またこのパターンなの!?」
そうして僕は、その謎の人物の前に顔を赤くしながら近づいていく。
思いっきり顔を顰めながら近づいていってるのに、どうしてやけに息が荒いのこの人? 怖いよぉ。
『ち、近付くな! クソ、似てないのになんだこの気持ちは!? 顔が美少女過ぎて俺の中のマジカルレッド像が上書きされていく!? やめ、ヤメロォー!』
『尋問システムを開始します』
『プレイヤーに対する尋問システムはNPCに対する尋問システムとはルールが異なります』
『尋問によって喜怒哀楽といった感情のバイタルが変動しますので、その変化から尋問による返答の参考にしてください』
『あくまでミニゲームですので、本ミニゲーム自体に自白作用の効果はなく、人体に悪影響はございません』
『本ミニゲームによって何か問題が生じましたら、本運営のカウンセリングセンターにまでご連絡ください』
その瞬間僕たちの目には拘束している人物の体から伸びる、感情のバイタルや感情の説明などが映るようになった。そうして見えるその人物の感情は――。
『現在の感情:喜のバイタルが多いです』
『どうやら何かを期待しているようです』
いや尋問に何を期待してるの!?
◇
『――というわけで俺はデュエルしかないって思ったんだ……』
「兄貴は頑張ったよ……オレも兄貴の気持ちが分かるぜ」
『ハルカぁ……!!』
涙ぐむ男に僕は頭を撫でた。
『現在の感情:バイタルがオーバーロードしています』
『感情が過負荷を起こしなんやかんやで嘘を吐けず、本当の事だけを喋るようになっています』
「センリさん……恐ろしい子ッ!?」
「なんだろう……センリがあの男に優しくする度にどうして心が苦しくなっていくんだぜ……?」
「そうやって大人になっていくんだねー」
「本物のマジカルレッドだンゴ……!」
「身内の、それもお兄ちゃんのハニトラを見せられる私の感情よ」
《センリは凄いデス》
:【G・マザー】センリは私が育てた
:お母様!!
:ありがとうありがとう……
:センリちゃんがここぞという時にちゃんと大胆に演技してくれるのマジでお母様の功績だろこれ。おい誰かス○ザリンに五千兆点渡してこい
:なんでスリ○リンなんだよwwww
周りに流され、コスプレさせられて演技をするという後悔に見舞われている僕だけど、今更ながら一言言うよ。
――おい、デュエルしろよ。
最初からデュエルを受けてたらこんなことをやらないで済むのに。そう思いながら心の中で涙を流す僕でした。
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