第3話 デュエルスタンバイ! えぇ……?

「こほん……すまないマナナン、ちょっと騒がせてしまったね」

《大丈夫デス。見てて楽しいデス》

「た、楽しいか……」


 確かに僕たちのいつもの日常だけど、紛れもなく痴態の一部だから僕たちは素直に受け止めきれない……まぁお母さんだけ別だけども。


「実は君のことは千里の配信で知っていたんだ」

《そうなんデス?》

「だから君の事情も過去も全て知っているよ」

《だから簡単にわっちゃあのことを受け入れられたのデス?》

「いや? 配信がなくとも息子が信頼する仲間なら喜んで歓迎するさ」

《――……》


 父さんの言葉にマナナンが照れるようにプルプルと体を震えさせている。可愛い。

 そんな彼の様子を微笑ましげに見ていると、父さんが話をまとめるように言った。


「さてこれで我が家の紹介が終わったということで、次は……」


 確かにこれで僕たち家族の紹介は終わり。それで次は何を話すかと黙って聞いていると、父さんがまるでダムが決壊したかのように目を輝かせた。


「――そのスマホの性能を確認したい!」

「あーやっぱり好奇心を抑えられなかったか……」


 確かにスマホの性能は規格外だ。初めてこのスマホの姿を見た時、父さんは目を輝かせていたし。


「まあ、そこは大人だから好奇心は抑えとかないとね……」

「でも最終的に我慢できない辺り、やっぱり子供みたいだよねー」

「でもそこがいいのよ!」


 はいはい惚気惚気。

 まあそんな僕たちの話し声が聞こえないのか、父さんは構わずにスマホの説明書を広げた。


「実はそのスマホの説明書を読んでいてね……そのスマホの充電方法に太陽光チャージがあるというじゃないか」


 まあ確かにあるね。

 あの社長のことだから絶対コラボしてたあのゲームをモチーフにしているに違いない。

 父さんはそんなことを分かっているのか、期待するような目でマナナンに問いかけた。


「それはつまりあれだろう? 太陽に掲げて叫ぶんだろう?」

「父さん……」


 まぁ父さんも僕ほどじゃないけど娯楽創作物が好きだからね……気持ちは分かるよ。

 だけどそんな期待とは裏腹にマナナンは淡々と答えた。


《別に外にいるだけで充電が行われるので、叫ぶ必要はないデス》

「……そ、そうか」

「何故そこだけ現実的なの?」


 因みに、このスマホにマナナンがやってくる過程でスマホ本体に関する情報をマナナンの記憶領域にインストールされるため、この時点でマナナンは僕らよりこのスマホに詳しいよ。


「……だけど別に叫んでも構わんのだろう?」

「全然諦めてなくて草」


 シッ、祭里!


《確かに叫んでも変わらないデス》

「なら試しに太陽光チャージをしてみてもいいんじゃないか!?」

「でも父さん」

「なんだい千里」

「バッテリー残量を見ても、そんな充電するほどの量じゃないと思うんだけど」

「それは……確かにそうだが」


 父さんが目に見えて落ち込んじゃった……面倒臭いね。でもそんな様子を見かねたのかマナナンからとある提案をする。


《それではバッテリー消費の激しい機能を使うデス。それなら太陽光チャージもやれる意義を見いだせるデス》

「そこまでやる必要があるの?」


 それとやれる意義とまで言わないであげて。父さんが微妙な顔をしてるから。


「因みにどんな機能なの?」

《それではこの端末を机の上に置くデス》


 マナナンの言葉通りに僕はスマホを机の上に置いた。 そしてその瞬間。


《よいっしょっとデス》

『ちっちゃいマナナンが出てきた!?』


 空中に投影してたディスプレイが消えて、いきなりスマホの画面から手乗りサイズのマナナンが飛び出してきた!


「え、これどうなってるのー!?」

「やばい可愛すぎて鼻血がッッッ」

《新型ホログラムシステムによって周囲の環境を読み込み、端末を中心に部屋一つ分の空間内で自由に行動ができるデス》


 そう言いながらマナナンはスマホの周囲をトコトコと歩く。


「これ実態あるの……?」

「いやホログラムって言ってるじゃないか祭里」

「あっ本当だ触れない……」

「お母さんさぁ……」

《手の平を上にして机の上に置くデス》

「こう?」


 マナナンの言う通りにお母さんが手の平を机の上に置くと、お母さんの手にマナナンが乗ってきたじゃないか!


《わっちゃあには触れないデスが、わっちゃあ側からなら触れるデス》

『おぉ……!』


 お母さんが手を持ち上げても、その動きと連動してマナナンもお母さんの手の上にいる。凄い、同期ズレも違和感もない!


「私も私も! ほらマナナン! 私の手の上にも乗って!」

「ほらお母さん手を下ろして……お母さん?」

「――」


 お母さんが真っ白になってる……! 可愛いの過剰供給で灰になったんだ……!


《とうっデス》

『あっ!』


 手を下ろさないお母さんの様子を見かねたのか、マナナンが突如としてお母さんの手から飛び降りる!

 思わず支えようとして手を伸ばしたけど、なんとマナナンが何もないところでサーフボードを取り出して滑空をし始めたのだ。


《スイ〜デス》


 そして机の上に降りると、両手を広げてやりきったみたいなポーズを取った。可愛い。


《このようにわっちゃあはホログラムであるため、結構動きに自由度があるデス》

『わー……!(ぱちぱちぱち)』

「二人とも……お母さんの息が」

『止まってるんでしょ? 分かってる分かってる』


 これでホログラム機能について分かった。それじゃあこの機能を使用している間はどれぐらいバッテリーを消費するんだろうか。


《今の残量ならおおよそ十二時間くらいデス》

「え?」

「はい」

「かいさーん」


 父さんが何とも言えない顔のまま、そのまま僕たちは解散したのであった。


 そうして場所は僕の部屋。

 僕の部屋に祭里がいた。


「ねーお兄ちゃんさぁ。この後ゲームにログインしてマナちゃんと触れ合うんでしょ?」

「触れ合うって……まぁ一緒に旅をする仲間だからね。その意味なら確かに触れ合うか」

「いいなぁ……あっじゃあ私も行く!」

「え、祭里もやるの?」

「別にいいでしょー? 久し振りに兄妹でゲームをやろうよー!」

「いやマナナン目当てなのは分かってるから……」


 今更建前なんていらないよ。


《マツリも一緒に行くデス?》

「もち! それと向こうの世界では祭里じゃなくてエーシスって名前だからね!」

《分かったデス》

「じゃあまた向こうの世界でねー!」

「はいはい」

《またデス》


 そう言って祭里は僕の部屋から出て行った。


「さて、僕たちも行こうか」

《行くデス》


 その時ふと好奇心が湧き上がった。


「……ねぇ、ちょっと試していいかな」

《なにをするデス?》

「その、コホン……」


 僕はスマホを持ってVRリンクにスマホを向けた。そして――。


 ガチャリ。


「あっお兄ちゃーん! 待ち合わせはいつもの広場で――」

「――プラグイン! マナナン・マクリール.EXE! トランスミ゛ッ!?」

「……」

《?》


 まって。

 まってください。

 によによしたかおをしないで。




 ◇




「ねー? いつまでも顔を隠さないのー」

《大丈夫デス?》

「放っておいて……」


 :消え入りそうな声で草

 :何があったしwww

 :おっエーシスおるやんけ

 :今度は兄妹配信か?

 :見てみろ、妹ちゃん明らかにマナナン狙いだろ

 :ずっとマナナンを抱えてて草


「やっほー! お兄ちゃんの妹のエーシスでーす! ちょっとお兄ちゃん、私の前で黒歴史作っちゃったから落ち込んでる最中でーす!」

「うるさいBL作者……」

「仕返しに核弾頭レベルはやめて」


 :お互いノーガード戦法で草生える

 :こういうところ兄妹よな

 :この遠慮しなささ、まさに家族って感じやわ


「ところでさぁ……なんでこの広場を待ち合わせ場所に指定したの」

「私もねー! 配信で見てたけど、やっぱり生で人が吹き飛ぶ展開見たいし!」

《吹き飛ぶデス?》

「そうそう! お兄ちゃんがこの広場で誰かと待ち合わせをすると毎回誰かが吹き飛ぶんだよ! そういったお約束から、ここはお兄ちゃん限定魔の広場って呼ばれてるの!」

「もう共通認識になってる……」


 確かに一度ならず三度も超えて六度目だからね……怖いよこのホラー現象。


「そう言ってる側からなんだろうあの人だかり!」

「うわぁデジャヴ……」


 :今回はあそこで事件が起きるんですね!

 :どこぞの名探偵レベルで草生える

 :確かあそこって……


「行ってみよう!」

「あっ待って!」


 エーシス、そしてマナナンと一緒にその人だかりに行くとそこには――。




「ドラゴンハンター・リョウマにクロスしているドラゴンスケイル・インビジジブルの設定を公開!」

「何をするつもりだ!?」

「鎧と化してもその力は衰えない! ドラゴンスケイル・インビジブルの設定によりクロスしているドラゴンハンター・リョウマの攻撃は相手キャラクターカードの防御を無視して直接相手にダメージを与えることができるぜ!」

「なんだとぉ!?」


 奇抜な髪型をした少年の言葉により男が悲鳴を上げる。そしてその宣言通り、ステージゾーンに立っている鎧を着た男キャラクターが透明になり、相手のキャラクターを素通りしてそのまま相手の元へと疾走していく!


「お前のメンタルは5! 俺のドラゴンハンター・リョウマの攻撃力は10! これでお前はメンタルブレイクだぜ!!」

「う、うわあああああ!!!」


『セイヤァッ!!!』


 ドラゴンハンター・リョウマの攻撃により全てのメンタルを破壊された相手プレイヤーが吹き飛んだ!!


「ぶげらりろぉおおおお!?」




 ◇




 サブ7 切り札は常に手の中に




 ◇




 ドサリ、とトドメを刺されたプレイヤーが地面に落ちる。そんな相手を見て、先程までその男性と相手をしていた少年がサムズアップした。


「カオッチャ! 楽しいデュエルだったぜ! またこの俺、混沌王カオス・イン・ザ・カード公式宣伝プレイヤーの『ジャッジ』とデュエルしようぜ!」




 今回はこういう感じかぁ……。




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 あとがき

 先に言っておきます。

 作者のカードゲーム知識はそれほど多くありません。


 デュエマは原作漫画エジプト編序盤まで。

 初期のアルカディアスが入ってたスターターデッキで遊んでコロコロの付録に付いてた付録カードをボルメテウスのファイルに入れながら眺めていました。

 ここつい最近デュエプレを起動してゆっくりと今と昔の違いを確認しながらストーリーを進めてます。


 遊戯王は原作漫画未履修、アニメはARC-Vを除いたDMからVRAINSの途中、そしてSEVENSの途中まで。

 OCGはストラクのみで遊んでました。あとはマスターデュエルでランクに行かず友人たちと遊ぶだけ。


 上記の浅い知識でオリジナルルールのカードゲームを書いていくので是非暖かい目で見守っててください……!

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