第2話 ようこそ満長家へ!
《ここがセンリの住む家なんデス?》
「うん、そうだよ」
スマホの画面から空中に浮かぶ3Dディスプレイ。そのディスプレイに映ったマナナンが現実世界の僕の家を見てそう呟く。
《まさか別世界とは思わなかったデス》
「ははは……」
そう、僕は今リアルパートナー権を使ってマナナンを現実世界に連れてきているのだ。マナナンにもっと思い出を作って欲しい。
そうした考えから僕はリアルパートナー権を行使したわけである。
「やっほー! マナちゃん初めましてー! お兄ちゃんの妹の祭里だよー!」
《初めまして、マナナン・マクリールデス》
「いやぁ~! 可愛い! 抱きしめたい!」
「抱きつくならゲームの中でして」
連れてきていると言っても、マナナンは僕の新しいスマホの中だ。実際に実体としているわけじゃない。ただあの社長のことだ。その内ゲームキャラをロボットにインストールして現実世界に連れ出すとかやりそうで怖い。
……いやもう、漣博士のエクストラリワードが公開されてるからもう既に作ってある可能性があるのでは……?
「……」
それにこの新しいスマホ。
実はリアルパートナー権の申請をした際にゾーンリンク社から郵送してきて貰ったものだ。
性能は従来のスマホを遥かに超えて、画面には3Dホログラムディスプレイ搭載、バッテリーは太陽光などといった性能をしていた。
「……性能がガチだ」
性能のモチーフが完全に○グゼシリーズのあれだ。太陽光バッテリーとか狙ってるでしょ。外に行って叫べばいいのか?
ガサリと同封されていた手紙を読む。するとそこには社長からのメッセージが書かれてあった。
『拝啓、次なるAIの隣人へ
リアルパートナー権の申請、承ったよ。
その際、専用の携帯端末を進呈するよ。NPCのAIをそのままに連れて行けるそれの名前はパーソナル・ターミナル・スマートフォン。
そう、略してPE――』
流石にそれ以上はいけないのでそっと手紙を折り畳んだ。何回見てもあの人の○ックマンエグゼ愛が強すぎるね。一応社長からの貴重な手紙なので大切に仕舞うよ。
さて。
「……それでお母さん?」
「……何かしら」
「顔怖いよ」
「普通に見てるだけだけど」
「だったら瞬きぐらいしてよ!!」
真顔で見続けてるからマナナンが訳も分からずに見つめ返してる始末だよ!
いいんだよマナナン、そんな人を見なくても。君は解放されてもいいんだ。
「はい、終わりだよ」
「えー」
見かねた父さんがお母さんの後ろから手を回して目を隠す。そんな父さんにお母さんはぶーぶーとぶー垂れていた。
《愉快な人たちデス》
「まぁ……」
苦労したことはあったけど、それでもお母さんたちといて不幸だと思ったことはない。マナナンに受け入れられている事実に僕は安堵した。
「さて今後は私たち満長家と暮らすんだ。各自、マナナンに自己紹介をしようじゃないか」
「そうだね」
「よろしくねー!」
《分かったデス》
「あの、だったら目から手を放してくれると……」
先ずは僕だね。
「僕の名前は満長
《改めてよろしくデス》
「それと我が家の長女ね」
「長男ですが?」
長女は祭里の方だよお母さん。
「私は次女だった……?」
「ボケに乗っからないの」
毎回お母さんのボケに後追いするんだから君。そんな風に呆れていると祭里がドンと机を叩いた。
「でもお兄ちゃんがお姉ちゃんだったらどれぐらい楽だったか私いつも思うの!」
「どうした急に」
「いつも兄妹で顔面偏差値を比べられて! それで毎回お兄ちゃんの方が可愛いと言われる毎日なの!」
「祭里?」
ちょっと落ち着いて?
マナナンの前だよ?
「ラノベの兄妹とか見てよ! 兄はフツメンで妹は容姿端麗が王道なのに現実は妹美少女、兄超美少女なんだよ! いいなと思った小中学校のイケメンはほとんどお兄ちゃんに告白済みとか頭おかしくなるよぉ!」
「祭里さん!?」
ちょ、スタァァァップ!!!
「お姉ちゃんだったら羨望の眼差しで見れるのに、お兄ちゃんだから嫉妬しかない! これはもうお兄ちゃんを女の子にしないと私の沽券がむぐぅ!」
「それ以上言ったら祭里の勉強机に隠されてる本を暴露するよ……?」
「ヒント出し過ぎオワタ……」
特大のカウンターを食らった祭里が白目を剥く。そんな祭里にお母さんが声を掛けた。
「隠してる本って執筆中のBL同人誌でしょ? 私知ってるわよ」
「こひゅ」
「ちょお母さん、祭里が息してないよ!?」
「トドメを刺してどうするんだ!?」
可哀想だと思うけど、実は家族全員知ってるって言ったら亡骸すら残らない気がする。そんな僕たちのやり取りを見たマナナンから一言。
《ここでもセンリは人気なのデス》
「ぐぅ……でも人気の種類が……!」
《センリの容姿が優れているのは本当なのデス》
「はうっ」
複雑だけどマナナンの飾り気がない本心に胸がきゅんってなった……!
「千里の可愛いはお父さん譲りよねぇ」
「うぐっ、矛先をこちらに向けてきたか……!」
「お父さんはねぇ。高校の頃からの知り合いだけど、もう本当にあれなの!」
《あれとはデス?》
「魔性の姫!」
「ぬおおおおおおおおお!!?」
うぐっ、なんだろうこっちにまでダメージが……! 実の父のなんか僕と似通った昔話を聞くとか罰ゲーム以外何物でもない気がする!
「言動は完全に男子なのに、外見含めてふとした仕草や匂いが完全に人を惑わす魔性そのもの! もう男子も女子も関係なく魅了していったわね!」
「ヤメテ……ヤメテクレ……」
《みんなから愛されてるデス》
「はうっ」
父さんがマナナンの純粋な言葉にやられて胸を押さえている!
「こ、こほん……不本意な流れだが、私は千里と祭里の父をやっている満長
《よろしくデス》
「じゃあ次は私ね! 私の名前は満長
「お母さんには気を付けるんだよマナナン……この人が一番の危険人物なんだから」
「人の親に向かって随分な言いぐさねぇ」
家族に対する前科がいっぱいあるんだよなぁ。
「可愛いを愛でるために生まれたモンスターだし」
「全ての闇を経験してる主腐だとずーっと思ってるよ私」
祭里の言葉にも一理ある。
この人、子供たちの趣味は愚かネット上のほぼ全ての趣味に理解を示している完全究極生命体レベルの度量と知識を持ってるからね。
「ほほう? じゃあ今度は主観視点VR物を撮りましょうね~」
『ひぇっ!?』
だ、駄目だ勝てない! 不満を言った果てに待つのがお母さんの変態力では絶対に勝てない!
「くぅっ! ねぇ~え~! よくこんな闇の化身と結婚する気になったねお父さん!」
「闇の化身は言い過ぎだぞ祭里……欲望の化身と言い直しなさい」
「欲望の変態!」
「うーん……まぁ」
「主演一名様ご案内ね」
「待ってください朱里様」
「父さんも参加するならお母さんも出てよ!」
「こうなったら家族全員参加じゃーい!!」
ガヤガヤといつものように騒いでいく。
これが僕の現実。
これが満長家の毎日。
《――暖かくて楽しい家族デス》
この日、僕らの日常に一人家族が増えました。
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