第36話 「スイッチング・アガートラム!!」
次々と財宝がある上層から今いるフロアへと財宝が零れ落ちてくる状況の中で、僕とこサギは二人の頂点プレイヤーと相対していた。
「もう一人のプレイヤーがいない……つまりお前たちは俺たちの足止めというわけかぁ……」
爆発アフロダイナマイトの男の言う通り、ハツモとマナナンには例のリワードを探すように言ってある。僕らはそのための時間稼ぎだ。
「まぁ雇い主がいない今、リワードがどうなろうと俺たちの知ったことじゃねぇ……戦えればそれでいいからよ……」
「あたくしも同じ考え」
二人から発せられる威圧感に僕たちは無意識に喉を鳴らす。
「タッグマッチか……」
「あたくしはタイマンの方がいい」
「じゃあそうしよう……」
軽いなぁ……。
「じゃあウサギさん」
「っ!」
「あたくしは貴女を指名するよ」
そう言った瞬間、ゴスロリ少女が大鎌を振りかぶりながら猛スピードでこサギに向かって突撃してくる。
「っ、この!」
ゴスロリ少女が持つ大鎌とこサギが装備しているアガートラムが激突する。
「踏んっ、張れない……!」
「あたくしたちは別の場所で戦おうか」
一瞬の拮抗。だけどゴスロリ少女の勢いに押され、こサギはそのまま彼女と一緒に後方へと吹き飛ばされていった。
そうして残るのは。
「アンタの相手はこの俺だぁ……」
「……そっか」
階段を上っている途中でどこかこの男にマークをされている感覚がしたけどやっぱり勘違いじゃなかった。ゴスロリ少女がこサギをマークをしたと同時に、彼もまた対戦相手として僕をマークしているんだ。
「俺の名前はダイハツ……」
「……センリ」
「俺のことはダイナマイト爆発の略だと覚えててくれ……」
「いや聞いてないけど……」
まぁ散々内心でアフロ、爆発、ダイナマイトの三種類を組み合わせて呼んでたから特に変わりはないけども。
「さて、楽しい戦いをしようか……!」
◇SIDE 混沌ウサギ
「くっ!」
勢いが強すぎて彼女ごと別の場所に飛ばされてしまいました……!
「そう言えばお互い自己紹介をしてなかったね」
「今更ですか……!」
「あたくしの名前はミカヅキ」
「……」
「ミ○キーって呼んでね」
「流石に死にたくないのでお断りします」
:やぁ!
:ハハッ!
:隠れてないですよ!!
「貴女の名前を教えて」
「もう見えて元頂点配信者だったんですけど……」
「ごめんなさい配信に興味ないの」
配信と切っても切れない関係にあるこんばこプレイヤーであるにも関わらずこの言いよう。流石頂点プレイヤーといったところですか。自分が突き進む道以外を切り捨ててるから頂点プレイヤーになっているのでしょう。
:実際ミカヅキの配信って垂れ流しだからな
:挨拶も何もなしで始まって終わるし
:ある意味混沌ウサギと真逆のタイプだ
「……私の名前は混沌ウサギです」
「あら貴女も混沌って言うのね」
「も?」
「この子の名前も混沌なの」
そう言って彼女が見せたのは白と黒が渦巻いた一本の大鎌だった。
「いや武器じゃないですか!?」
「武器に名前を付けるのは当然」
「銘とペットの名前は違うと思うのですが」
うーん実に独特な感性の持ち主ですね……。
:何を考えているのか分かるから言うぞ
:おまいう
:お前が言うな
まだ何も口に出してませんが???
「さて」
「っ!」
「一本目はさっきので確認したから次は二本目行こうか」
大鎌の二刀流スタイルとなったミカヅキに息を飲む。一本だけでもかなりの衝撃と早さだったのに、更にもう一本ですか。
:通常二刀流ってのは力が分散するからどっちもメインには適さない
:どうした急に
:両手で振るより片手で振るとどうしても遅くなるからな
:だけど彼女はブリューナクを切り刻んだ時は八本の大鎌を高速で振った
:つまりミッ○ーに常識は通用しねぇってこった!
:↑言い方ぁ!!
「よいしょお」
「早い、でも」
先ほどの激突で目が慣れたため彼女の動きは見える。
(二本の大鎌による回転切り――)
私はその攻撃に対し、腰を落とし、思いっきり体を反らして水平に振り回される一本目の大鎌を回避。
(次は二撃目――!!)
一本目を回避したことで次に来る二本目の攻撃は回避動作をしている私に向かって直接迫り来る。
そこで私は片手を地面に伸ばし、思いっきり手の力だけで地面を押す。その瞬間僅かに浮かび上がった私の下を大鎌が通り過ぎた。
「やるね」
「まだ……まだ……!」
回避しただけじゃ終われない。私はそのまま両手の大鎌を全て振り切って隙を晒しているミカヅキに左足を向ける。
私の左足にはティル・ナ・ノーグ産の武装が付いている。元は四肢を欠損した人のために創り出された義手だけど、今は戦士を補うための武器!
――変形自在、銀の四肢。
「伸びろ、アガートラム!!」
「あら」
左足に装備しているアガートラムが槍に変形してミカヅキの顔をへと伸びていく。
直撃。
そう思った束の間。
「……なっ!?」
「三本目使っちゃった」
不意を突いた私の攻撃は、彼女が取り出した三本目の大鎌によって防がれた。そうか、直撃する寸前に片方の大鎌から手を離し、三本目の大鎌を取り出したんだ。なんという早業。なんという判断の早さ。
「くっ……」
防がれたと理解した私は彼女を吹き飛ばすように足に力を込めて、彼女から距離を取る。だけど彼女は微動だにせず、その場に立っていた。
「やっぱり初見の武器相手だと冷や汗掻くね」
「その割に対処して見せているじゃないですか」
「見てから防御余裕だった」
彼女の言葉に思わず顔を引き攣らせる。
さっきの攻防で確信した。恐らく彼女は速さと器用に特化したスタイルとキャラビルドをしている。ありとあらゆる状況に対し誰よりも早く対処する速さに、八本の大鎌を高い技量で使いこなし、振り回す器用さ。
だからって防御や体力がないわけじゃない。
闘技場の頂点に立てるほど成長してきたため、キャラの育成度合いは私よりも遥かに上なのは当然です。つまりキャラとしての性能が段違い過ぎて、格下プレイヤーからの攻撃に強い耐性を持っているのです。
「……っ」
これが闘技場の頂点プレイヤーの一人、ミカヅキという彼女の強さ。
だけどそれがなんでしょう。相手が頂点プレイヤーだとしても、こちらは元頂点配信者。
頂点と元頂点。
そこに違いはなのですから。
「うんまだやる気で結構」
「……当然です。まだ私が負けたわけじゃないですしね」
マスタリーレベルの差やスキルビルド、経験。どれを取っても私は彼女の足元には及びません。ですがそれらを覆せる手段がこんばこにはあるのです。
それがアイテム。
ステータスが存在しないこのゲームにおいて、ジョブ以外にも重要な要素を担う要素の一つ。それがアイテムなのです。
逆転の鍵は足に装備しているアガートラム。
銀色の輝くアイテムこそが私の切り札。
「うん様子見はやめた」
「……!」
「これから全力で行くね」
そう宣言した瞬間、彼女は両手の大鎌を放り投げる。だけどそれだけじゃない。彼女はなんとストレージから次々と別の大鎌を取り出しては投げていったのだ。
「普通は両手でそれぞれ一本しか武器を装備できない」
「っ!」
だけど私が見たブリューナクを切り刻む光景。あの光景ではミカヅキが計八本の大鎌を振り回した光景が見えた。
同時に武器を装備する手段はある。センリきゅんの配信で出てきた亮二さん……いや、プレイヤーネーム『リョウ』が使った『ボディーアタッチメント』というアイテムを使えば複数の武器を同時に装備することができる。
だけどそれを使えば移動速度が下がる。
それではブリューナクを切り刻めない。
ならどうすればいいのか。
「見せてあげる」
答えはすぐ目の前にあった。
ミカヅキが一本の大鎌を両手で握って突撃してくる。やはり早い。でもアガートラムを装備して、運動能力に補正が掛かった私なら対処できる。
――けど。
「あ……!」
私の予想に反して、ミカヅキは手に持った大鎌を私に向かって投げたのだ。まさかの己の得物を手放すという行為に一瞬固まったもののまだ対処できる。
投げられた大鎌を冷静に回避して――。
「『コール』」
「宙に投げられた大鎌が手にっ!?」
回避動作後の私に大鎌を振りかぶるミカヅキ。そんな彼女に対し、私はアガートラムのもう一つの機能を叫ぶ。
「スイッチング・アガートラム!!」
左足に装備したアガートラムが私の左腕に移る。そして銀となった左腕を前に翳し、私は彼女の大鎌をアガートラムで防御した。
「へぇ瞬時に装備先を変更できるんだ」
彼女がそう口にする傍ら、彼女は彼女のすぐ後ろに落ちてきた大鎌をキャッチして反転。振り向きざまに一撃を振るう。
「っ、スイッチング・アガートラム!!」
左腕に装備しているアガートラムを再び左足に装着。向かってくる大鎌を蹴り上げた。だけどまだまだ攻防は終わらない。
「『クレセント・デス』」
それはブリューナクを切り刻んだ時に見たスキル。確かジョブ:グリムリーパーが持つ、三日月型の不可視の刃を放つスキルの名前だった。
「――!!」
それをまるでジャグリングするかのように次々と落ちてきた大鎌をキャッチしながらスキルを放ち、また宙へと放り投げていく。
これが彼女の八本の大鎌を扱うバトルスタイルの正体。一度に全てを装備するのではなく、使う時に一瞬装備して解除。そして瞬時に周囲の大鎌へと切り替えるのが同時に八本の大鎌を使うスタイルの正体。
「くぅっ……!」
量が多い。
でも捌き切るしかない……!
「『シャイニングブースト』!!」
足元を狙った斬撃を前に飛び込んで回避。
受け身を取りながら再びジャンブ。
体を捻り、迫り来る斬撃を銀の足で蹴り飛ばす。
回ったり、跳ねたり、まるでブレイクダンスを踊るかのように回転しながら全方位の斬撃を次々と躱し、迎撃し、叩き落していく。
「はああああああ!!」
「いいね」
こちらは必死だというのにミカヅキは全然疲れを見せていません。周囲にある大鎌を器用に広っては捨てて、捨てたかと思えば大鎌を使って引き寄せる。
化け物みたいな器用さ。
なのにまだまだ速度が上がっていく。
「『ルナティックシュート』!」
「『コール』」
「なっ!?」
迫り来る大鎌を蹴るつもりでスキルを発動したのに、武器を呼び戻すスキルでタイミングをズラされた……!
隙を晒す私に大鎌を振り下ろすミカヅキ。
回避が、間に合わない――!!
「だったら!!」
回避が間に合わないなら受け流すまで! 私は回避ではなく前を突進し、振り下ろそうとするタイミングでミカヅキの腕を掴んで背負い投げをした。
「あら」
「やあああああ!!」
そのままの勢いで彼女を投げ飛ばす。だけどミカヅキは大鎌を地面に突き刺し、威力を弱めながらそのまま着地した。
「足癖どころか手癖も悪いんだ」
「言い方……っ!」
まだまだ終わらない。
センリきゅん……そっちも頑張ってください!
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