第35話 「これが俺の最後の花道!!」
上へ行く階段はキャンピングカーが通れるほど幅が広い。だからガタンガタンと振動に耐えながら登っているけど……。
「そんな使い方もあるのかよ……」
後方から僕らを追い掛けてくるグエッコーたちにハツモが声を漏らす。
なにせ八本あるそれぞれの大鎌の上にグエッコーたちが魔女の箒のように跨り、爆風による推進力でこちらを追い掛けていたのだ。
いったいどこの魔法学校の生徒だ。それに跨りながら大鎌にしがみ付いているグエッコーたちと違い、頂点プレイヤーの二人は両足で大鎌の上に立っているという強者感溢れるスタイルとか畏怖しか感じない。
:なぁにあれ
:新手の桃○白かなんかかあれ(笑)
:八本ある大鎌の移動を全部制御するとか
「言っただろ……俺たち頂点プレイヤーはどのような相手でも対処する術を持っていると……」
つまり今の僕らのように乗り物で逃げる相手に対する対処法も彼らは持っているということか。知りたくないなぁそんな情報。
でも。
「それならそれで!」
ストレージからロケランを構え、照準をグエッコーたちに合わせる。これまでグエッコーたちの追跡を撃退してきた信頼と安定の手段だ。
「コード:ファイアーワークス!!」
「う、うわあああああ!?」
例え階段が広くとも幅には当然限界がある。それなら火力が低くても広範囲にミサイルをぶち込めるコード:ファイアーワークスなら彼らを落とすことができるはず!
「あ、当たる当たるぅ!?」
「狼狽えるな……想定内だ」
だがそんな無数のミサイルを前にダイナマイトアフロが冷静に答える。そして彼は僕が放った無数のミサイルを前に両手を広げたのだ。
「『マルチロック:オーバー』……『ファイアーワークス:オーバー』」
その瞬間、彼の背後から無数のダイナマイトが飛び出し、一つ残らず僕が放ったミサイルを全て迎撃したのだ。
「……なるほどね」
:トンデモアイテムでも駄目なのかよ!
:流石頂点プレイヤーだぜ……
:これは他の攻撃だとどうなる?
「コード:レイジングストリーム」
「『ガトリングダイナマイト:オーバー』」
――結果は、相殺。
全モード中の最高火力を誇るコード:レイジングストリームでも駄目なのか。多分、こと火力に関しては相手の方が上だろう。流石全身ダイナマイトアフロ。爆発に関しては譲らないってことか。
「お、おぉ! よし、よし行けるぞ! このままあいつらを吹き飛ばせ!」
「いいや……このまま泳がせるぜぇ……」
「な、なに!?」
「アイツらが向かってるのは恐らくリワードがある場所……このまま泳がせれば自ずとリワードがある場所に辿り着けるぜぇ……」
「そ、そうか!」
「僕たちも聞こえてるんですけどぉ!!」
僕らにも聞こえるような声量で言うとか、よっぽど自信があるのかそれとも挑発をしているだけなのか。どっちにしろムカつくなぁもう!
「どうしますセンリきゅん!」
「なんとかして叩き落すしかない!」
このままこの先の財宝フロアでリワードの争奪戦を始めた場合、この戦力差でリワードを勝ち取れる未来が見えないのだ。誰かが残って足止めしても、その後に残ったメンバーで争奪戦をするのもリスクがある。
だから取れる手段はここでなんとしてでも全員叩き落すか、そうでなくても人数を減らすのが最善!
故に!
「『サウンドビジュアライズ』!」
左右の壁に歌詞の壁を出現させてグエッコーたちの進行ルートを遮る! だけどまるで意味がないと言わんばかりに中央が爆発して、グエッコーたちが素通りしていく。うーん知ってた!
「脆いなぁ……」
:そりゃあBGMボルテージなしじゃな
:ロケラン使用中は吟遊詩人のバフ止まるからな
:かといって今から演奏に入っても流石にいきなりゲージMAXにはならんよ
「だったら――」
オノマト爆弾をありったけ投げ込んでやる!
「……考えたな?」
ゴゴゴゴゴ。
レロレロ。
ズキュウウウン。
メメタァ。
多種多様な擬音が次々と生み出され、グエッコーたちの行方を阻む。だけどそんな擬音の柱を彼らは避けていく。
それでも。
「へ? うわああああ!?」
部下の一人を乗せた大鎌が擬音の柱を避けきれずに激突する。
「お、俺の部下が!? おいいったい何をしているんだ!」
「わざと空白地帯を作り……そこへ誘導するように回避した先に壁を作る……実に嫌らしい配置の仕方だ……」
「火力で敵わないなら君の負担を増やすまでだ!」
いくら化け物みたいな制御力を持っていても、合計八本の大鎌を同時に制御しながらこの擬音の柱を避け続けるのは至難の業だ。だから必ず綻びが生まれる。その証拠が先ほど制御をミスって激突させてしまった光景を見れば分かるだろう。
「良い工夫だ……」
だけどそんな僕の取った行動に彼はただ称賛するだけだった。その言葉に訝しんでいると、さっきまで黙っていたゴスロリの少女が後方に向かって手を伸ばし、発言する。
「『コール』」
その時だった。
ガンガンガンと壁にぶつけながら、先ほど部下ごと脱落した大鎌がゴスロリの少女の手元に戻ってきたではないか。まさかあの大鎌、僕のバードボルテージバイクと同様の機能が備わっているのか?
「例え大鎌を落としても意味はない……そして」
「制御の質が、上がった……!」
「一人脱落すればその分俺の負担が減るわけだ……」
これまで擬音の柱をギリギリで制御して回避していた爆発ダイナマイトのアフロだけど、制御する数が減った瞬間余裕をもって回避してきているではないか。
「精々頑張って減らしておけ……だがそれで雇い主の部下を減らしても……俺たち頂点プレイヤーとの対決は避けられないと思え……」
「結末は変わらないといいたいのかな……?」
「どんなに抵抗しても構わないが……あまり手の内を見せない方がいい……最後の楽しみに取っておきたいからなぁ……」
最後の楽しみ、つまり戦い。
本当にこれだから戦闘狂は嫌になるなぁ……!
◇
「待てごらぁ!!」
「誰が待つかバーカ!」
一方、地下の方へ向かっているダナンたちは、後ろからグエッコーの部下たちから追われていた。
「『ストライクバースト』!」
『我が盾になる』
「おい何を言って――」
グエッコーの部下の一人がスキルを使って強力な弾丸を放つ。射線的にはダナンに直撃するルートだが、そこにダグザが割り込む。
その結果。
キュイン! と甲高い音を鳴らして放たれた弾丸はダグザの筋肉によって弾かれた。
『嘘だろ……』
奇しくも部下とダナンの声が揃った。
『我が鋼の肉体に防げぬ物なし』
「……こりゃあ良い壁だな」
「守護神を壁にするとか罰が当たりそうだね……」
◇
「もう、すぐか」
時折見える窓によって見えた景色から、僕は外部から見たタワーの高さと比べてもうそろそろ目的地に着く頃だと理解する。
「もうそろそろ目的地か……」
「くっ……」
だというのに僕たちはまだグエッコーたちを落とせずにいた。これまでの抵抗で落とせた数は合計で三人。いずれもグエッコーたちの部下だけで、肝心のグエッコーや頂点プレイヤー二人を落とせていない。
このまま、このまま僕たちはこの戦力差でリワードの争奪戦をするしかないのか。いや流石にリスクが高すぎる。僕らはなんとかしてでもリスクを減らさないと!
「はぁ!!」
「何回やっても同じことだ……むっ」
懲りずにオノマト爆弾を投げて妨害をする僕たち。そんな擬音の柱を余裕で回避し続けているアフロ爆発の男だけど、ここに来て彼は表情が変わった。
それも当然だ。オノマト爆弾を隠れ蓑にして投げられた物が他にあり、その投げられた物の正体がグエッコーたちにとって不可解なものだったのだから。
――それは。
『ぴよー』
「……ひよこだと?」
「――危ない」
その瞬間爆弾ひよこが爆発し、強烈な爆発が彼らを包んだ。って、爆弾ひよこ? まさか……!
「そう、俺ッスよ……!」
「ヤス!?」
爆弾ひよこを投げた者の正体。それはキャンピングカーの上に立っているヤスだった。そんな彼の行動に僕たちは驚く。そして彼の手にはなんと、ハツモが持っていたはずの錬金鍋があったのだ。
「ヤスが借りたいって言っててな……」
「不意のアンブッシュはアウトローの特権ッス! アイツらが油断していたところにポイッ! 俺の作戦が炸裂したッスね!」
なるほど。だから僕たちと一緒にじゃなくキャンピングカーの上に登っていたのか。確かにそれなら彼らの不意を突ける。
:やるじゃねぇか!
:流石はヤス
:これで奴も一網打尽に!
「危なかったなぁ……」
『!?』
だけど煙が飛び出してきたのは無傷の彼らだった。そんな、爆弾ひよこの爆発を受けても目立った傷がない!?
「あたくしのお陰ね」
「助かったぜぇ……」
ゴスロリの少女が対処したのか。
確かにブリューナクを切り刻んだ速度を持っている彼女なら咄嗟の対処ができたのだろう。だけど別の問題が一つ。
「ヤスゥ……!!」
「おっとぉ……」
「別行動中と言ってたがこれはどういうことだぁ?」
「いやぁそれは……」
ヤスのことがグエッコーにバレたのだ。
「お前を我がハゲの同志であると見込んで雇ったんだ! なのにどうして俺たちを裏切ってそいつの側に着く!?」
「……」
グエッコーの言葉にヤスは困ったような顔を浮かべる。だけど、一瞬考えるとヤスはグエッコーに向けて笑みを浮かべた。
「まぁハゲの雇い主より美少女の雇い主だな」
「はぁ!?」
グエッコーの混乱の叫びが響く中、ヤスは錬金鍋の中に眠ってる爆弾ひよこを取り出して再び投げた。
「つまりこういうことだぜグエッコーさんよぉおお!!」
「おいおい待て待て待て!!?」
――だけど。
「おっと……それは勘弁してぇなぁ……」
「なっ!?」
流石に爆弾ひよこを脅威だと思ったのか、アフロ爆弾の男が爆弾ひよこに向かってダイナマイトを放り投げる。その瞬間ダイナマイトは独りでに動き、投げられた爆弾ひよこにくっ付いた後、ヤスに向かっていったのだ。
「『ホーミングマイト:オーバー』」
「まず――」
「ヤス!?」
ドカアアアアアン!!
爆弾ひよこの衝撃によってキャンピングカーが揺れる。だがそこはキャンピングカーなのか、爆弾ひよこの爆発を受けても僅かな破損だけで済んだ。
いや心配するのはそこじゃない。
「ヤス!!」
爆弾に直撃したヤスだ。防衛ゴーレムすら一撃で破壊する威力の爆発を受ければヤスはもう――。
「心配しねぇでくだせぇッス――」
「――ヤス?」
爆風から一人の影が飛び出す。
「まさか……」
「アウトローのスキル『食いしばり』ッス!!」
致命傷から一度だけ復帰するアウトローの切り札の一つ。それをヤスが発動して生きていた。だけど。
「ヤス!!」
ヤスはもう身を投げ出していた。
もうキャンピングカーから離れたのだ。
「リワード、取ってくださいッスよセンリちゃん」
ヤスの最後のセリフと思えるような言葉に、僕たちは目を見開きながら手を伸ばす。
「これが俺の最後の花道!!」
ヤスが持っていた錬金鍋の中身を見せる。するとそこには眠っていた無数の爆弾ひよこが起き始めている光景があったのだ。
「――ボーイッシュASMRをよろしくッス」
その瞬間。
爆弾ひよこが一斉に起爆し、ヤス諸共グエッコーたちの体を包み込んだ。その威力は今いるフロアが崩壊するほどの威力で、僕たちは対爆発用装備を展開したキャンピングカーの中で衝撃に耐えながら、光に包まれたのだった。
◇
「死ぬところだったなぁ……」
爆発によってワンフロアが崩壊し、上にあった財宝が今いる場所に流れ落ちてきている光景で、頂点プレイヤーの二人が起き上がる。
「戦う前に死ぬのは勘弁」
周囲を見れば上から漏れ出した財宝がまるで雪のように積み重なる光景だ。でも長年闘技場の頂点に君臨していた二人には大した価値だと思っていない。
彼らが望むのは闘争。
即ち心昂る戦い。
「相手は……」
「生きてて欲しいね」
二人のその言葉に呼応するかのように、二人のプレイヤーが彼らの前に現れた。
「――全く無茶するんですから」
「――でもヤスの犠牲は無駄じゃなかった」
僕とこサギ。それぞれ新しい武器を装備して、頂点プレイヤーと対面する。
「それは……」
「性能のいい武器で挑むのは感心」
こサギの左足にあるのは、元は片腕用の武装が変化した片足バージョンの『アガートラム』。そして僕の手には『金の竪琴』。
ヤスの行動によって上を支える天井が崩壊し、財宝があるフロアの崩壊と共に財宝が落ちてきた。その時に、咄嗟に探索技能を発動させたハツモが偶然この新しい武器を見つけたのだ。
勝てるかどうかは分からない。
でもやるしかない。
『あるもの全部使って――』
――攻略して見せる!
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