第4話 森の奥地に潜むクッキング試練

『フッ、完敗だったぜ……完杯だけに』


 そう言いながら駆胃堕俺の皆さんは去っていった。あと面白くないですよそれ。


「腕慣らしに丁度いい相手だったな!」

「もう大丈夫なの?」

「あぁ! 心配かけてすまねぇな!」


 僕の目にはウメェルさんはすっかり復帰したような様子だ。だけど、気掛かりなのはそんなウメェルさんを痛ましそうに見るミリンさんだ。


「ここにジャン流ウレシ味の極意があるんだな!」

「え、あぁはい……情報によるとここだって」

「流石エクストラハンターの情報網だな!」

「やめてください」


 本人が了承していない名称は使用するのはお控えください。


「ここからは歩きだな」

「あたしのアイデンティティ……」


 キャンピングカーを仕舞い、僕らは目の前の森を見る。奥から甘い香りが漂い、様々な動物の気配がする生命力。


 これが食材系採取スポットの名所『大豊森林』。

 この森の中央にある大豊山にウメェルさんが探すジャン流ウレシ味の極意があるのか。

 するとふと、これから探索を始める僕たちにみるぷーお姉さんが注意する。


「先ず始めに言うけど、こういう採取スポットって基本奥に行けば行くほど採取難易度も危険度も跳ね上がるからねー。大豊森林も例外じゃないどころか、少なくとも大豊山を含めた周辺は特に危ないから気を付けろよー?」


 :まともなアドバイスだ

 :急にまともな発言がきてびっくりした

 :付け加えるとロボットで飛ぶのも駄目だゾ

 :空を飛ぶモンスターの群れとかいるからな……


 博士が作ったメタトロンは一人用だ。だからメタトロンで直接大豊山に行く場合は今いる全員を運ばないといけないし、そうなったら飛行モンスターの群れに襲われたら戦闘できずに詰むかもしれない。


「確かに一筋縄じゃ行かないな」

「うーん……あっ」

「どうした? 何か思いついたのか?」


 とある作戦を閃いた僕にリョウが楽しげな表情をする。いやでもなぁ。絶対これやったら何か言われそうな気がするんだよなぁ。


「何でもやるのがお前だろ? だったら躊躇するな」

「……これで炎上したらリョウの責任だからね?」

「いや待て、お前何をする気だよ」


 はい、僕の中でリョウが全責任を取ると承諾しました(強引)。というわけでストレージから取り出すのはとあるアイテム。


 それは――。


「――鈴?」


 ミリンさんの言葉に、リョウとみるぷーお姉さんは「あー」と苦笑いを浮かべた。




 ◇




「前方問題ありません! 教祖様!」

『ぎゃあああああ!?』

「いやあの悲鳴は問題大ありでしょ」


 あっ、悲鳴が途絶えた。


「……問題がなくなりました!」

「いいのかなそれで」


 僕が使ったのは『信じる者たちの鈴』だ。

 これによって百人の信者を召喚し、僕は彼らに対して大豊山へと繋がる道の安全確認をさせていた。


 :これが人海戦術かぁ

 :地雷処理の間違いでは

 :もう信者たちに対する扱いが板についてきたな


「良かった。批判コメントがない」

「今更お前の思い切りが良すぎる使い方に批判する視聴者なんていないぞ」


 :寧ろこれを見に来ているまである

 :もっと邪悪な面を見せて♡

 :↑暗黒面へと誘うシスの暗黒卿か何かか?

 :元から暗黒定期


「誰がナチュラル暗黒じゃい」

「我ら信者の数、六割を切りました」

「探索を続けて」

「はい!」

「うーんこれは暗黒だねセンリちゃん」


 だって使えるものを使わないと勿体ないし攻略が滞るじゃん……エリクサーだって普通に使うよ僕は。


 それから数時間後。


 そんなこんなで信者たちの数が一割を切ったところで僕たちは、ようやく大豊山へと辿り着いたのだった。


「尊い犠牲だった……」

「そうだね」


 みるぷーお姉さんの言葉に同意する。


 :大丈夫? ちゃんと感情籠ってる?

 :もう完全に信者のことを道具としか見てない?

 :信者のことだから道具扱いされても喜びそう


 失敬な、ちゃんと頑張ってくれた信者たちにはASMRとかやってるんだよ? 面倒だし、目が死ぬし感情も死ぬからこうなってるだけなんだってば。


「それにしても……あれだけ犠牲を出してようやく大豊山に着いただけか」

「更にここからジャン流ウレシ味の極意を探さないと駄目なんだよね……?」

「ある意味本番かー」


 みるぷーお姉さんの言葉に僕たちは悩む。当然のことだけど大豊山の中は非常に危険度が高い。信者たちの戦力は当てにならず、戦闘系ジョブはリョウと意外にも食べた料理の数や質の分だけ強化する『フードファイター』ジョブを持っているミリンさんぐらいだ。


 え、僕?


 ロケットランチャーとかロボット、火を噴くギターとかはあるけど吟遊詩人の僕に戦闘は無理だよ。何を言っているの?


「うーん……この道……いやでも」

「ミリンさん?」

「どうしたミリン」

「なぁウメちゃん、なんかここの道見覚えがあらへんか?」

「見覚え?」


 ミリンさんの言葉にうーんと悩むウメェルさん。そんなウメェルさんを他所に、ミリンさんが急に駆け出した。


「ミリンさん!?」

「追い掛けるぞ!」


 リョウの言葉に一同、駆け出したミリンさんを追い掛ける。すると前方にいたミリンさんが急に走るのを止め、こっちへと向いてきた。


「おーい! やっぱここウチ知ってるでー!」

『え!?』


 ようやくミリンさんに追い付いた僕たちは、静かにミリンさんの言葉を待つ。


「ここってウメちゃんらがジャン流の修行のために使っとった修行場と似てんねん!」

「なんだって!?」


 ミリンさんの言葉にウメェルさんが目を見開く。そして今度はその言葉を意識しながら周囲を見ると、徐々に目を見開いた。


「本当だ……確かに似ている!」

「どういうことなんだ?」

「……多分、リワードって言われてもやっぱりジャン流の人に受け継いで欲しいから、ジャン流の人にしか分からない道を用意しているのかも」


 :なるほどそういうパターンか

 :特定の誰かに受け取って欲しいリワードってパターンも珍しくもないからな

 :そこはリワード提供者と運営の契約次第だしね

 :まぁそれでも万が一はあるけど

 :そこも了承してるんだろ


「ということは……!」


 ウメェルさんがいきなり山道を登っていくのを見て、僕たちも後に続く。不規則そうに見えて、確信しながら登るウメェルさんの足取りに迷いはない。そうしてしばらく登っていくとそこには。


「……同じじゃないか」


 切り開かれた山の奥に、お寺のような場所が広がっていた。ウメェルさんやミリンさんの反応見るに、どうやらここはウメェルさんたちが修行してきた現実の場所と変わらない外見をしているらしい。


「ここに、極意が?」


 無意識の呟いた僕の言葉が風に乗る。


 その瞬間だった。


『――左様』

『!?』


 突如として老人の言葉が周囲に響いて僕らは驚く。その声の持ち主を探していると、気が付けば目の前に一人の老人がいた。


「なっ、いつの間に!?」

「ミスディレクションじゃ」


 :マジシャンかなんか?

 :さっきまでの雰囲気はなんだよ!

 :突然の横文字に脱力しますよこれは


 それは本当にそう。せめて気配を絶っていたとかもうちょっと仙人っぽい用語で説明をして欲しい。世界観が壊れるでしょ(今更)。


「爺さま!?」

「ジジイ!?」


 脱力していたら、突如としてウメェルさんとミリンさんが叫ぶ。どうやら二人の知り合いっぽいけど、あの風貌からしてもしかしてミリンさんの説明にあったファンキージジイの方だろうか。


「否……わしは今もどこかで遊び惚けているオリジナルから生まれたもう一人のわしじゃ。そうじゃのう……わしのことは『ジャン老師オルタナティブパーリナイ』と呼ぶが良い」

「ダッッッッッ」

「ちょっと抑えて、みるぷーお姉さん」


 :なんだこのジジイ!?

 :贅沢すぎない?

 :贅沢な名だねぇ……今からアンタの名はオル太老だよ!

 :オル太老wwwww

 :草

 :草

 :天才か?(笑)

 :へけっ!


「オル太老に決まったようです」

「なんで?」


 僕の言葉にオル太老が引いた。


「爺さま……いやオル太老さま!」

「え、わしの呼び名これで決定?」

「頼む、オレにジャン流ウレシ味の極意を伝授してくれ!!」

「え? あ、あー……コホン……ほう? 極意を知りたいとな?」


 あまりの事態にちょっと切り替わるのに時間掛かってて、真剣なウメェルさん以外全員笑いを堪えてしまうのは勘弁してほしい。


「察しの通り、極意伝授用のわしが極意を知っているということはわしのオリジナルも知っておるということ。それを何故わざわざこうも迂遠な方法で極意を教えるのか……」


 オル太老の言葉にウメェルさんが喉を鳴らす。


「それは試練を与え、極意を伝授するに値する者かどうかをしばらく配信に集中したいと言うオリジナルの代わりに見定めること」

『!?』


 オル太老の言葉と共に僕たちとオル太老の間にキッチンが出現する。


「試練は至極単純じゃ」


 ウメェルさん以外の僕たちの視界が急に切り替わる。そして気が付いたら僕たちはオル太老と同じ側へと転移されていた。そうして僕たちの対面にいるのは困惑している表情を見せるウメェルさん一人のみ。


 そんなウメェルさんに、オル太老が言う。




「飯を作り、このわしNPCの心を震わせてみよ」

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