第2話 これが最初で最後の光のクッキング
何もない平原に巨大なキャンピングカーが疾走する。バネがいいのか石とかの段差に引っ掛かっても揺れは起きない。
景色が通り過ぎていく中、僕はというと。
「ふんふーん♪」
フライパンを持ち、キッチンに入ったことで料理人ジョブを解放した僕は、料理人へとジョブチェンジして料理をしていた。
熱したフライパンの上にバターを溶かし、先にみじん切りにした玉ねぎを炒める。全体が透き通ってきたら、次は小さめに切った鶏肉とグリーンピース、スイートコーンを入れて炒める。
ジャカジャカジャカ、と。
火が通ったら上にケチャップをかけて全体をからめる。終わったらご飯を入れて、その上に塩、コショウ適量を入れてご飯をほぐすように手早く炒めたらチキンライスの完成。
これを人数分の皿に移して、次はチキンライスの上に乗っけるオムレツの調理を人数分――。
「――チキンライスオンリーでいい?」
「いや最後まで頑張れよ」
「何人いると思っているのさ……」
僕。
リョウ。
ミリンさん。
灰になったウメェルさん。
そして。
「やぁみるぷーお姉さんだよ!」
はい、そして何故かここにいるみるぷーお姉さんを含めた五人が同じ場所にいます。
これで人数分のふわとろオムレツを用意するのかぁ。今まで毎日家族の料理を作ってくれるお母さんとか料理人の皆さんに対して改めて凄いなと尊敬しますね。
「というかなんでここにみるぷーお姉さんが?」
リョウのツッコミを受けながら、僕は人数分のふわとろオムレツを作ってそれぞれのチキンライスの上に置いて行く。
はいこれでふわとろオムライスの完成。真ん中を開くのもどれだけケチャップをかけるのかも各自お好みで。
「もー! 車といったらあたし! あたしといったら車でしょ! 配信で車に乗るって言うから運転手として来たのさ!」
まぁ確かにみるぷーお姉さんが来てくれれば運転は安心だと思うよ。
「だというのにこれはいったい何だべ!?」
そう言って、このキャンピングカーの運転席に指を差すみるぷーお姉さん。僕らもそこに視線を向けると――。
『目的地マデ、残リ数分、ダト思ウ』
――そこに運転手はおらず、代わりに独りでにハンドルが動いている光景があった。
「なんで自動運転なの!? どうして自動運転なの!? 嘘だと言ってくれドンドコドーン!」
「曖昧なナビだなぁ」
「ね~! あたしを構って~」
はいはい、取り敢えずオムライスを食べて落ち着きましょうねー。
「モグモグ……美味しい落ち着いた」
:うわぁ急に冷静になるな
:相変わらず乱高下してるテンションだなぁ
:もうセンリちゃん、扱い慣れてて草
「おぉ、自分結構なお手並みやないか!」
「ありがとうございます」
「面倒臭がる割に意外と料理美味いんだよなぁ」
「下手なものを出すと妹に当分煽られるから……」
その割に祭里の腕前って料理の手伝いができる程度の腕前だし、なんで煽って来るんだろうアイツ。まぁそれで煽られたくなくて、お母さんから学んできたという経緯があるんだけども。
「つまり妹のお陰ってことだな」
「神が認めても僕は認めないが?」
:そういや妹さんがいるんだった
:姉もとい兄のティーウイッターを代わりに運営している妹さんだね
:妹に対する扱いが悪いな(笑)
:【A・シスター】もっと私を敬って!
:なんか来たな
:名前のセンスがお母様と一緒……まさか?
:一応聞くけどAって何?
:【A・シスター】エンジェルのAだけど
:こーれ確定です
:親も親なら子も子やな
は? なに? 祭里がコメントを書き込んでるの? 今お兄ちゃん忙しいからあっち行っててよ。というかお母さんもそうだけど身内が僕の配信を見てるのってかなりの羞恥とか感じるんだけど!
「ほら、オムライスやでー」
「……モグモグ」
ミリンさんにあーんされて食べさせて貰っている灰になったウメェルさん。もう完全に要介護者の人になってるよこの人。
◇
今、僕たちが向かっているのは『
モンスターや通常動物の種類が多く、得られる食材系の素材が豊富なことから、ここには料理人を始めとした生産ジョブ御用達の採取エリアとなっていた。
そんな大豊森林の場所こそ、僕たちが求めるジャン流ウレシ味の極意が存在しているのだと、ヴェリシャスさんが言っていたという。
「場所は大豊山のどこかっちゅう話や」
「このキャンピングカーじゃあ中に入れないよね……」
RBF大会の報酬で貰ったこのキャンピングカーは、その説明文通り衣食住が揃った非常に快適な生活が空間が揃っていた。揺れもなく、中での作業が容易なことから僕は気楽に料理を作れたというわけである。
「……目的地に着いたらいよいよあたしの出番がなくなる?」
運転手の役割も機械に奪われ、探索するのに車も必要ないとなったらいよいよみるぷーお姉さんのアイデンティティが消失するのは最早確定的に明らか。そう危機感を抱いたみるぷーお姉さんがボソッと呟いた言葉に僕は頷いた。
うん、そうだね(無慈悲)。
「ヤメロー! シニタクナーイ!」
「死ぬわけないだろ」
コマンドージョブとしてこの中で最も力が強いリョウが呆れながら暴れようとするみるぷーお姉さんを抑え込む。
その瞬間だった。
ビー! ビー!
『危険運転ヲ、感知シタタメ、停止、シタイト思イマス』
「優柔不断だなぁ!」
そんなやり取りを遠い目で見ていた僕は、突如として聞こえて来たなんとも脱力する警報になんとか気を引き締めた。
あと、取り敢えず停止はなしで!
「いったいなんや!?」
「なんか、こちらと並走する乗り物がいる!」
「え、カーチェイス!? あたしの出番!?」
「多分!」
僕の言葉にみるぷーお姉さんが嬉々として運転席に座る。そんな彼女の姿を見て、改めて窓から現状を把握する。
「……コック帽を被った暴走族?」
一言で説明するならそれが一番適切だろう。特攻服のような格好来た集団がハンドル部分がやけに長いバイクを乗り回していた。それだけならまだ暴走族だと思うが、何故か全員コック帽を被って、背中に調理器具を背負っていた。
「なにあれ……」
「あれはまさか!?」
何か心当たりがあるのかミリンさんが叫ぶ。
「食で全国制覇を目指す暴走族!
なんだって?
『おいゴラァ!!』
『!?』
ミリンさんの言葉を疑っていると、駆胃堕俺の先頭を走る総長っぽい人がメガホンを取り出して声を掛けて来た。
『配信を見てたぜェ! ジャン流ウレシ味の極意って奴を探しているらしいなァ! そんな究極の極意があるっていうなら、俺らが手に入れないとなァ!』
「アイツら極意が狙いだったのか」
「やっぱ配信に乗せちゃ駄目だったんですよ」
「そないなこと言われても……ジジイがオッケー言うとったしなぁ」
取り敢えず、ウメェルさんのために極意を彼らに渡しちゃ駄目だ。
「極意は絶対に渡さない!」
『へッ、そうこなくっちゃなァ!! だったら取るべき手段は一つしかねぇだろォ!!』
「アイツら、何をするつもりだ!?」
『闇のクッキングバトルでタイマンだゴラァ!!』
!?
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