第3話 超次元クッキングバトル開幕! えっえっえ

 というわけで、最終的にウメェルさんの熱意に流されて約束してしまった僕は彼と一緒に『こんばこ』をやることとなった。自家用ジェットで帰宅した僕は、一先ず旅の疲れを癒して、後日ウメェルさんと待ち合わせの日程を組む。


 そして待ち合わせ当日。


「……待ち合わせは広場かぁ」


 僕は今、デミアヴァロンの広場に向かっていた。広場には全くの良い思い出がない。絶対僕+広場という組み合わせで誰かが犠牲になると思っているだろう。誰だってそう思う。うん、僕もそう思う。


「と、ようやく着いたけど……あれ?」


 広場がやけに騒がしい。人だかりも多く、プレイヤーNPC問わず広場の中央を囲んでいた。それとさっきから空がやけに神々しく光ってて眩しい。思わず空を見上げるとそこには。


「ウ、ウメェルさん……ッ!?」

『……『幸福』というのはこういうことか』


 ウメェルさんが空を昇っていく。


 ウメェルさんの生涯を祝福するように、ラッパを持った天使が彼を見送っている。涙を流し、それでいて恍惚そうな表情を隠せないウメェルさんに僕は唖然とするしかない。

 ウメェルさんの輪郭が徐々にぼやけていく。僕が手を伸ばしても彼には届かない。決して届くことのない場所へと、ウメェルさんが逝った。




『ぶげら~~~~~~~ッッ』




 ◇




 サブ5 黄金の手は胃袋を掴む




 ◇




 ウメェルさんはそうして二度とここへは戻らなかった……悔しさと幸福の狭間に苛まれ、永遠に天を彷徨い続けるのだ。そして僕は次第にまぁもうどうでもいいかと諦め――。


 そのうち僕は考えるのをやめた。




 ――ウメェル・ジャン・メッシー、ここに眠る。




「いや何昇天しとんねん!?」

「あいたァッ!?」


 と、思ったら見知らぬ女性がウメェルさんの本体の頭を叩いたことで蘇生した。


「なにこれ」


 見れば中央広場には大型のキッチンが置かれており、僕たち観客側には大きいテーブルが並んでいた。そのテーブルには二種類の料理が置かれており、ウメェルさんはスプーンを持ちながらその皿の前で倒れていたのだ。


 親し気な雰囲気を放つ女性に支えられ、フラフラ状態で立つウメェルさん。そこに、一人の男が声を発する。


「無駄なんだよ……無駄無駄」

「くっ、ヴェリシャス……ッ」


 ヴェリシャスと呼ばれた長い髪を後ろで結んだバンダナの男が冷たい目でウメェルさんを見つめる。


「お前には足りないんだ……覚悟が」

「覚悟だと……」

「理想だけでは誰かの胃袋を掴めはしない……その結果がこの様だ……そう、お前は今ッ! このヴェリシャス・ジャン・フッディーの料理を食べて敗北を悟ったのだッ!」


 バァーン! 突き付けられる事実にウメェルさんが絶望する。確かにウメェルさんは昇天していた。その理由がこの恐らく多分クッキングバトルによるものだとしたら、ウメェルさんは間違いなく敗北したんだ。多分。


「む、まさかそこにいるのは……」


 引きながら様子を見ていると、僕の存在に気付いたヴェリシャスさんが目を見開いて僕を見ていた。


「え? えーと、その」

「……ほう、エクストラハンターか。偶然とは思えないな。もしかするとお前が呼んだのかウメェル」

「……ッ!」

「賢明な判断だな。お前如きではあのリワードを見つけることさえ不可能だろう。だが助っ人を雇ったからと言って解決するとは大間違いだな」


 えぇ……なんで僕の登場で更にウメェルさんを責めるの? というかなんでこの人も僕のことをエクストラハンターって呼ぶの? もう訳が分からないよ。


「お前は……だから前しか見えていないんだ」

「オレは……」

「お前にジャン流ウレシ味の極意を継承する資格はない……」

「ま、待て……」

「そこの料理を食べてとっとと失せるんだな……」


 そう言って、ヴェリシャスという男はウメェルさんたちから去っていった。いや去るのお前なんかい。


「うっ……」

「ウメちゃん……」

「うああああああああああ!!!」


 慟哭するウメェルさんと、それを悲痛そうな表情で見つめる女性。そんな光景を、僕は訳分かんないものを見るような目をしながら見ていた。


「あっ、そこの料理は食べてええで」

『お、おう』


 シリアスそうな雰囲気を出しといて急に軽くなるのやめて貰えます? ドラマ撮影の舞台裏じゃないんだからさ。


「あの……」

「ん……? あぁアンタがウメちゃんが言っとったセンリっちゅうプレイヤーやな? すまんなぁ今こいつしょげとんねん」

「そ、そう……」


 しょげてるでいいのかなこれ。

 明らかに絶望して放心状態だと思うんだけど。


「ウチはミリンっちゅうんや、よろしゅうな」

「あ、センリって言います……」

『ほああああああああ!?』

「何事ッ!?」


 驚いて声がする方向を見てみれば、二種類の料理を食べていた観客が天に昇る(物理)勢いで絶叫していた。うん訳が分からないね。


「あれがウレシ味の妙技かぁ……」

「なにそれ?」

「一般人が知らんのも無理はない……あれは隠された人間の味覚、即ちウレシ味を刺激するジャン流の技の一つなんや」


 なんだろう、急に新しい用語を出すのやめて貰えます?


「……取り敢えず配信開始しても?」

「ええで」

「そっかぁ」


 軽いなぁ。


 まぁ……はい、というわけで配信を始めます。


 :きたあああああああああ!!

 :配信やってる!

 :優勝おめー!

 :またエクストラリワード取ってて草生えますよ

 :おめー!

 :センリちゃんのお陰で最高の報酬を貰えました

 :流石エクストラハンターや!


「あ、ありがとうございます……」


 ちょっとだけ期間が空いた配信だというのに、以前と変わらないどころか大幅に視聴者が増えていた事実に僕は驚きを隠せない。取り敢えず、今日の配信目的について先に話してしまおう。


「えーと本日はティーウイッターで告知した通り、偶然知り合った方と一緒にゲームをやる予定です」


 :おっゲストいるのか

 :偶然知り合ったって……w

 :まぁそれもオンラインゲームの醍醐味だよな

 :誰だろう


「この人です」


 そう言って、僕はミリンさんに支えられているウメェルさんをカメラの配信に乗せる。ウメェルさんは口から魂を出していて白目を向いていた。


 :なんか死んでる

 :え、何があった?

 :既に何かが終わったあとだこれ!


「料理人のウメェルさんです」


 :え、なんだって?

 :料理人?

 :なんだろう、毎回唐突に超展開を出すのやめて貰えます?




 それ僕のセリフゥーッ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る