第2話 はだけるファミリー
「――ということがあったんだ」
某国のホテルにある最上階スイートルームで家族と再会した僕は、家族に今日の事を話した。
「……なんというか、やはりとんでもないことに首を突っ込んでいたな千里」
「え! 一大企業の社長さんとコネが!?」
まともな反応を見せる父さんに反して、祭里のこの利益しか目に行かない反応よ。僕は祭里の今後が心配だよ。
「あっお土産あるわよ」
「お母さんもお母さんでマイペース過ぎない?」
手渡された買い物袋を開けるとそこには。
「なにこれ?」
「千里の服」
「思いっきり女物なんですけど!?」
外国に来てまで息子の女装を所望!?
「お父さんの分もあるわよ」
「いや、遠慮しとく……」
「父さんの目が虚無に……」
我が家の母は強い。
はっきり分かんだね。
「お土産はともかく……楽しんできたようだね」
「お兄ちゃん」
「なに?」
「いっぱい物を買えるって、いいよね」
「そ、そう」
まぁ確かに今の僕たちにはお金が有り余るほどあるのだ。買い物でストレスを発散するタイプでもある我が家の女性陣にとって今回の旅行はかなりの発散になったことだろう。
「それにしても……」
部屋を見ればかなりの量の買い物袋が置かれているのが分かる。サイズも大小様々で、試しにやけに大きい荷物を見るとそこには『フードキング』という名前が表面に書かれていた。なんだろうこれ。
「おっ、千里も気になるのか!」
「それ父さんが買ってきたのよ」
まぁ、父さんは新しいものとか珍しいものが好きだもんね。書かれている写真を見るに調理器具っぽい道具が一つの機械に集まっているような写真が見えるし、フードって言うからにはやっぱり料理に関係するものかな?
「なんだと思う?」
「うーんフードプロセッサーとか?」
「フードプロセッサーでこんな大きさだと返って邪魔になるんだけどなぁ」
お母さんの苦言よりの言葉に父さんがチッチッチと指を振るう。その動作だけでも色気があるんだからお母さんに弄られるのも当然だね。
「これはこの国が作った全自動調理マシンだ!」
『全自動調理マシン~?』
父さんの言葉に僕たちは胡乱気な声を出す。
「店主の言葉によれば、中に材料を入れて表面のパネルに料理名を入れるとどのような料理でも三分以内に調理してくれるマシンらしい」
どのような料理でも三分以内で!?
そりゃあ確かに凄い。下処理とか気にせず三分で食べられるとなると料理の概念が覆されるぞこれは。そう思っていると、お母さんが意地悪な表情を浮かべて父さんを見ていた。
「それがあれば私はもう用済みってこと?」
その一言に僕たちはあっと気付いた。
確かにぶきっちょ人間である父さんを除いて僕たちはある程度料理もするけど、主に料理するのはお母さんだ。だから食卓の女王であるお母さんの出番を奪うような機械の登場にお母さんは上記のような発言をしたんだろう。
まぁ表情を見てもからかう気満々であることから、怒っていないというのは確かだけど。だけどそう思っていたのは僕と祭里だけで、父さんは目に見えて狼狽えた。
「え? あっいや違うぞ? そういうつもりで買ったわけじゃないんだ……ただ物珍しくて……」
「ふーん……私の料理はもう食べたくないと」
「いや違う! 朱里の料理は毎日食べたいぞ!」
はいはいごちそうさまでした。
というわけで実演だ。からかいも終わって試しにフードキングを梱包から取り出す。といっても重いなぁこれ!
「ふぅ……ようやく取り出せたな」
「これ使い終わったら掃除してまた箱に戻すんでしょ? えー私はまた手伝うのやだなんだけどー!」
「……」
父さんがしょんぼりしちゃった。多分このフードキングを取り出す時に「思ったより重いし邪魔だな……」って思ったんだろう。娘の言葉に反論しないことから多分そんなことを考えてそう。
というわけで試しに父さんがこの時のために買っておいた材料の数々をフードキングに投入していく。
「……何か買ってきた材料を見た感じ、肉じゃがっぽかったのは気のせい?」
「それじゃあ出てくるレシピは肉じゃがに固定されそうね」
「えーと……なんかチャーハンっていう項目があるんだけど」
「お米入れてないのに!?」
「どうだ不思議だろう?」
まぁ確かに不思議なんだけど、なんで肉じゃがの材料を入れてチャーハンの項目があるんだよ。それに他にもショートケーキとかピザとかあるんだけどおかしくない? 明らかに材料揃ってないでしょ?
「よし、それじゃあ何を食べようか?」
そう言って、父さんが気を取り直したかのように僕たちの顔を見た。まぁ取り敢えず食べたいものから選ぼう。
そうして最大二つ同時に三分以内に調理できるという機能にびっくりしながら僕たちは、出された料理をモグモグと食べる。
因みに僕はチャーハンを頼み、父さんはラーメンを。お母さんは海鮮丼で、祭里はショートケーキだ。いや肉じゃがの材料で出てくるレパートリーじゃなくない?
「うん」
「うんうん」
「うーん」
なるほどね。
「うん美味しい」
「美味しいよね」
「普通に美味しい」
確かに美味しいけど、で? って感じ。劇的に美味しいって感じじゃなくて普通に美味しい。衝撃度で言えば高級寿司屋で食べた寿司の方が上だろう。
「……あっ、イタリアンパスタもあるぞ」
「そうモグモグ……」
「ふーんモグモグ……」
反応薄いなぁ。
まぁ別に不味くもないし、この機械の真価はどんな材料でも三分以内でどのような料理でも作り出せる点だからね。
味も普通に美味しいからいいじゃんという思いもあるけど、最初に父さんが自慢してきた時の勢いがなくなってて反応に困るな。
「……」
父さんが本当にこれは良い買い物だったか……? って感じでフードキングを見ている。確かにあったら便利ではあると思うよ。うん。
まぁ、なんだろう。何かを買う時は一旦冷静になって買った方が良いっていう教訓を得られたね父さん。
「因みにいくらで買ったの?」
「……千万超えてたような気がする」
『は?』
一瞬ヤバいだろって思ったけど、お母さんたちもそれぐらいの買い物をしてきたのを思い出したのか何も言えなくなる。
もう僕たちの金銭感覚は駄目だよもう。
◇
「……もしもし?」
超絶怒涛空前絶後天元突破天上天下唯我独尊級のスイートルームのベッドで寝ていた僕は、突如として発せられたスマホの着信に起きてしまった。
スマホを取って画面を見るとそこには祭里の名前が。電話を取ると、いきなり金切り声が耳に響いてきた。
「もうお兄ちゃん大変だよ! いったい何時まで寝てんの!?」
「今何時なの……?」
「もう昼だってば!」
「……昼かぁ」
ヤバいでしょここのベッド。休みの日だからってアラームを付けてないけど、そのせいで大遅刻しちゃった。
「いいから早くこっちに来て!」
「こっちってどっちだよ……」
「父さんとお母さんが大変なの!」
「……なんだって?」
祭里の声に僕は目が覚めて、急いで着替えることにした。
そうして祭里が言った場所まで走っていくと――。
『ふぉおおおおおおお!!?』
なにあれ。
なんか父さんとお母さんが服をはだけたような幻覚を周囲に見せながら倒れていく光景が見えたんだけど。あの二人と同じ家族と思われたくないよ僕。
「あっお兄ちゃん!!」
「祭里……何があったの?」
「起きないお兄ちゃんを置いて三人で周囲を散歩していたら、喧嘩している人を見かけて……」
喧嘩に巻き込まれたの? でも父さんたちを見てみればその表情は恍惚そうな表情を浮かべている。アカン、あの二人の美貌でその表情は死人が出る。
そう思っていたら、突如として若い男の声が奥から響いた。
「どうだ! これが料理というものだ!」
「な、なんて美味しいんだ……! これに比べたら我が社が作ったフードキングはブタの餌だ……!」
調理器具を持った料理人の前に数人の大人が恍惚そうな表情で倒れている。いったい何が起きているんだこの光景は。
「なにあれ」
「……父さんとお母さんはアレに巻き込まれたんだよ」
「オレの名前はウメェル・ジャン・メッシー! 流離いの料理人だ!」
混乱する頭で祭里の話を聞いて行くと、どうやらフードキングの返品を兼ねて散歩していたら、フードキングを開発した社員と流離いの料理人ウメェルが喧嘩しているところに遭遇。
紆余曲折を経て、何故か料理対決の審判になってしまった父さんとお母さんは、ウメェルさんが作った料理を食べてあぁなったらしい。
「オレはこの料理で世界の胃袋を掴む!」
「お、おう……」
「む、まさかそこにいるのはセンリか!?」
「え!?」
ちょっと、この人僕のことを知っている!?
「いや配信で有名になったでしょお兄ちゃん」
「……そうだった」
まぁ外見もあまり変えてないから気付く人もいるか。
「まさかここにエクストラハンター・センリがいるとは……! センリ、実はお前に頼みがある!」
僕のところに来ていきなり頭を下げてきたウメェルさんに僕たちは顔を引き攣った。
「え、な、なに?」
「オレは世界一の料理人になりたいんだ! だからオレと一緒に『カオス・イン・ザ・ボックス』にある、とあるリワードを探して欲しい!」
「えぇ……?」
どうやら、僕はまた何かに巻き込まれたようです。
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