インタールードその4

第1話 これから始まる新世界

「それじゃあ行ってくるよ」

「お土産期待しててねー」

「また夜にホテルでね」


 そう言って、手を振りながら歩いて行く父さんたち。僕たちがいるのは海外の某国。そう、僕たちは海外旅行に来ていた。


 というのもだ。


「……さてと」


 僕はこの国で会いたい人がいるからだ。サザナミ博士の人格の基となった現実世界の博士……漣光士郎博士に会うために。


 サブクエスト:博士が愛した超時空機動勇者をクリアして、報酬としてエクストラリワードをゲットした僕は、そこである程度の真相を掴んだ。


 だってサザナミ博士と漣光士郎博士という同じ名前だよ? それに加えてサザナミ博士から『そっちの世界にいるもう一人の自分』という発言。これは絶対繋がっていると思ったんだ。


 頼まれたことは出来る限り叶えてあげたい。そう思った僕は、一か八か運営に連絡して本人に会うことができないか尋ねた。


 その結果がこれだ。


 運営の方からスケジュールを組んでくれて、せっかくだからと僕らは土日を利用してカオスレースの時に得た自家用ジェットでこの国に来た。因みに自動運転だったから父さんの出番はなかった。


 ただ。


『お、おおおおお……!』


 操縦席には乗れるから気分だけは楽しめたらしいけどね。


「ここかぁ……」


 僕の前には世界的に有名な、某国のロボット企業である『サイモンズ・インダストリー』のビルがそびえ立っていた。

 ここが現実世界の博士がいる場所か……。

 思い切って中に入ると、受付近くにいた黒いスーツの男の人が僕に気付いた。


「ようこそ満長千里様。お待ちしておりました」

「は、はい!」

「緊張しなくとも大丈夫ですよ。立場的には満長様の方がこの場にいる誰よりも高いので」


 そんなこと言われても。

 正直実感がないから何も変わらないと思うのは僕だけでしょうか。そう心の中で思っていると、テクテクと奥から歩いてくる何かに気付く。


「あれは……?」

「実はあなたのご来訪を心待ちにしていた方がいるのですよ」


 見た目は黄色いガチョウのロボットだ。本物は見たことないけど、多分本物と同じような体格をしているようなそれは、僕の前に立つとスピーカー音声のような声を発した。


『ぴーががが、ようこそセンリ』

「もしかして……ガー太郎!?」

『ぴーががが!』


 僕がまさかと思ってそう発すると、目の前のガチョウは嬉しそうに小躍りをする。可愛い。というかもしかして、ガー太郎のガーってガチョウのガーだったのだろうか? いやぴーがががと鳴くからという理由もありそう。


「ガー太郎様は、漣光士郎博士とは違って本体の意識をゲーム世界のガー太郎に移していたんです」

「じゃあガー太郎はゲームの中でも本物だったんだ!」

『ぴーががが、いぐざくとりー』


 翼を器用に操って親指を立てるような形にするガー太郎。可愛い。


「それでは、ご案内しましょう」

「あ、はい!」

『ぴーががが!』




 ◇




 そうして僕は現実世界の博士と会うことができたんだ。


「実はお主のことは配信初期からのファンでの。お主がティーウイッターアカウントを開設時にもフォローしとったんじゃぞ」

「え、本当ですか?」


 そう言われてティーウイッターのフォロワーを見てみると確かに『ドクターサザナミ』という名前がフォロワー欄の中にいた。なんてこったこの時点で既に博士の存在が伏線として存在していたのか。


「それにしてもこれが生センリか! まさか髪型と色以外はゲームの中の容姿とそっくりとは……いや本当に凄まじいな?」

「ははは……」


 博士も性格や態度はゲーム内の博士となんら変わらなかった。これで博士はゲームをやっていないと言うんだからやっぱりNPCに関する技術力は凄いなあの運営は。


『ぴーががが』

「おぉガー太郎もよくやったな! 念のためとゲームの世界に送ったがまさか巨大ロボットの制御OSになってくるとは、お主やるではないか!」

『ぴーががが、頑張りました』


 嬉しそうにガー太郎を撫でまわす博士を見ていると、扉の方から視線を感じた。ふと何気なく扉を見ると、そこには色々な人がこっちを見ていたのだ。


「ありゃ気付かれちゃったー」

「そ、そりゃあ気付きますよ……」


 僕と同じぐらいの女の子が部屋に入って来る。どう見ても外国人の外見をしているけど、僕たちはちゃんと言葉が通じ合っていた。


 というのもだ。


 僕の首には猫のデザインがされた可愛らしいチョーカーがあった。そのチョーカーの存在のお陰で、僕は日本語を話しているつもりでも口から外国語として出力され、相手の言葉は日本語として聞こえるようになるのだ。


 これぞ過去に発見されたエクストラリワード『思考伝達装置テレパシーシステム』の応用で作成された自動翻訳機だ。これの登場によって他言語を学ぶ価値が下がったけど、お陰で世界中の人々との間にある言語の壁が消えたわけである。


「ラファだよー! そして本当の名前はリーファ! よろしくねー!」

「ラファさん……!」


 声の感じからして幼いと思っていたけど、やっぱり僕とあまり変わらない年齢だ。そんな彼女が博士たちが作ったシステムMIXを再現したんだから天才はいるんだなって。


「次はアタシの自己紹介だな!」


 次に現れたのは勝ち気そうな大人の女性だ。


「アタシはガブリエラ! ゲームと同じ名前だぜ!」

「よ、よろしくお願いします!」


 リテラシーやセキュリティに関しては昔より格段に進歩したとはいえゲーム内で本名プレイとか中々大胆だなぁ。


「次は私ですね」


 そう言って次に出てきたのは礼儀正しく頭を下げた紳士そうな雰囲気の男性だった。いや誰?


「ウリエルを操作しております、ユリエルです」

「はぁ……え!?」


 ウリエルってあのウリエル!? ドМで奇声を上げながらイジられキャラとして定着されてしまったあのウリエル!?


「その節は大変申し訳ございません」

「コイツ、ゲームの中だと性格変わるんだよ」

「いやはや、お恥ずかしい限りで」

「変わるって言うレベルじゃないんだけど」


 他人じゃなければ二重人格を疑うレベルの変わりようだよ! まさか現実だと紳士的な好青年とか誰が想像できるのか。


「さて……次で一先ず四天王最後になるんだが」

「四天王最後……というと」


 あの人だよね。

 正直に言うと会いたくないけど、ユリエルの件もあるし、それに博士の関係者だから挨拶だけはしないと。


「おい、いつまで入り口のところに突っ立ってるんだ?」

「すまない、まだ心の準備ができていないんだ」

「何言ってんだお前」


 あぁうん。

 どうやらあの人はあの人のままですね。


「よし準備できた……ようこそセンリさん私は――はぅあ!?」


 バターン! と僕の顔を見た瞬間、イケメンが急に仰向けで倒れた!? え、何、どういうこと!?


「どうしたマイケル!?」

「……可憐だ」

「はぁ?」


 ガブリエラさんの言葉にミカエル……現実世界の名前で言うとマイケルさんがゆっくりと立ち上がって、真っ直ぐに僕の方へと視線を向けてきている。


「私の名前はマイケル……まさか現実でもセンリさんの魅力によってこの気持ちを抱くとは思わなかった……この気持ち、まさしく愛だろう」

「気のせいでは?」

「最早センリさんに惹かれるのは運命と言ってもいい。こうして私に二度の初恋を抱かせるとは、流石だセンリさん」

「気のせいでは?」


 そんな言動をやっても僕の近くまで近付かないの、無駄に紳士的だなぁと現実逃避をする。どうして僕の交友関係ってこんなに癖が強いんだろう。


「くっ……明確に壁があるというのも中々に心が苦しいな……私の存在はセンリさんにとって受け入れ難いのだろうか」

「気のせいじゃないです」

「マイケルよ」

「博士……?」


 悩むマイケルに、博士が近付いていく。


「恋愛と言うのは時に一歩引いてみるのも手じゃと……ワシは思うぞ」

「博士……!」

「ロボットを作るのと一緒じゃ……行き詰ったら一旦離れることでアイデアが湧くのと同じようにの」

「深いですね……」


 それに巻き込まれる僕の心情を考えて? 一歩引いたらもうそのまま引いて行ったらいいのに。


「お主にこれを渡そう」

「こ、これは?」

「3Dプリンターで作ったマスクド・リプルさざ波の仮面じゃ」

「分かりました……! これからはこの仮面を被ってセンリさんを見守りたいと思います!」


 僕は今なんで仮面の継承シーンを見せられているの?


「これから私は『ロマンティック・ミカエル』と名を変え、センリさんを遠くで見守ると誓おう」

「ダッッッッッサ!」

「それ本人の前で言うー?」

「とんだ変態紳士ですね」


 他の四天王からも散々な評価を受けてますけど。


「ではさらばだ!」


 そう言ってこの部屋から出ていく『ロマンティック・ミカエル』。え、これから僕あのストーカー仮面に見守られながら生きるの? 地獄かな。


 そう酷い光景に目を遠く見つめていた僕を他所に、一人の黒服の男性が博士の近くに来て口を開いた。


「博士……最後に一つ聞きたいことがあります」

「お? おぉ、なんじゃゴクラク殿」

「ゲーム内のサザナミ博士はどうしますか?」

『……あ』


 ゴクラクという人の言葉にこの場にいる誰もが気付いた。そうだ。ゲームに登場するサザナミ博士は今いる漣光士郎博士の人格を基にしたNPCだ。こうして役目を果たしたということはサザナミ博士の役目も終わったということなのだから。


「……消すのか?」

「それは博士の意思次第ですね。私どもの考えとしては削除と言う手段は取りませんが、もし博士がゲームをやるという上でゲームの中のサザナミ博士が邪魔だと言うのなら削除するのも考えております」

「博士……」


 僕の気持ちとしては削除して欲しくない。だってそうだろう? ゲーム内の博士と現実世界の博士は確かに別人だけど、共に巨大ロボットに乗って共に戦ってきた博士はあのゲームの中の博士なのだ。


「心配せんで良い」

「博士!」

「言うなれば双子の弟ができたようなもんじゃ。彼奴がいたからこそワシはワシの目的を達成できたし、こうしてセンリと出会えた」


 博士は真っ直ぐとゴクラクさんへと見つめる。


「削除はせん。何しろ彼奴は――」




 ――ワシによろしくと伝えてくれたのじゃから。




 ◇




 こうして、プレイヤー間でとある話題が生まれた。


 曰く、『こんばこ』のとある街に、サザナミ博士に似た2Pカラーの姿をしたもう一人の博士が現れたのだ。コウシロウ博士と名乗ったそのプレイヤーは、サザナミ博士とガー太郎と共にロボットを作っていき、RBF大会を盛り上げていくこととなる。




 そして博士の技術が全世界へと公開された現実世界では、各企業が博士の技術を元にロボットを作り、競っていく社会が出来上がっていく。その中でも新しく社長として就任したリーファ社長の会社は他社よりも先んじていた。


 それから世界初の巨大人型ロボットができたのは、公開されて約一か月後の月日が経ってからというのは、また別の話である。

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