第12話 最強VS最強のヤツ
超時空機動勇者エクスメタトロン・ビヨンドリアライズモード。僕たちが乗る機体の奥の手であり、この形態を維持できるのは三分。
それ以上は「制限時間のない究極形態はあり得んじゃろ!?」と主張する博士によって解除されてしまうのだ。
「ふん! お主なんぞ三分もあれば十分じゃ!」
『見せてよその機体の性能とやらをー!』
腕を組んでふんぞり返る僕たちに向かって無数の魔導陣ビームが襲い掛かる。
しかし。
『消え――』
突如として彼女の視界から僕たちが消える。
だがトリックとしては至極単純な話だ。ただ僕たちは上昇して回避をしただけ。その速度がラファの視界から消えるほどの速さだっただけなのだ。
『あっ上だー!?』
「それだけじゃないぞ! 周囲を見るが良い!」
『え? あ、なんか浮いてるー……?』
上昇と同時に周囲にキューブ状の物体をばら撒いたのだ。そう、ご存知最早十八番となっているサウンドビジュアライズを込めたサウンドオブジェクトだ。
「さぁ奏でるんじゃセンリ!!」
コクリと僕は頷いた。その瞬間、背後にある一対のスピーカーから勇ましいという感じのイントロが流れる。
『これはー……曲?』
それでは、行きます!
超時空機動勇者の戦歌
作詞:マスクド・リプル
作曲:センリ
《燃えろ戦うディーバ》
「行くぞぉぉぉ!!」
無数のサウンドオブジェクトから歌詞の柱がアークラファエルに向かって飛び出す。
『やばー!?』
攻撃を受ければ大ダメージは確実。そう考えたためラファは向かってくる歌詞の柱に対して魔導陣ビームで迎撃しなければならない。
だがそれをすれば――。
《情熱走り 今こそ完成の 超時空勇者よ》
僕たちに向かって魔導陣ビームを放つ余裕がなくなるのだ。それに加えて僕はとある吟遊詩人スキルを使っていた。
『なにこれー!? 普通に押し負けてるー!?』
そもそもの話、サウンドオブジェクトからサウンドビジュアライズが飛び出してきてもそれ自体に殺傷力はない。ただ飛び出す勢いの衝撃で攻撃をしているだけに過ぎないんだ。
だからそこにスキル『SEエフェクト』を使った。
これは対象の何かしらの判定時に別のSEを付与させてSEに応じた効果を発動させるスキルだ。
簡単に言えば、爆発のSEが『ドカァァン』だったらそこに『SEエフェクト』で『ズバンッ』というSEを付与すれば、爆発の力が斬撃の力になるというわけである。
つまり、この歌詞の柱には斬撃の力が付与されているのだ。斬撃の力を伴った歌詞の柱が『ズバァン!』とSEを鳴らしてアークラファエルの魔導陣ビームを切り裂いて行っているのである。
《神の声を その身に刻め 迸る鋼鉄ロマン》
その隙を突いて、僕たちはアークラファエルに向かって両手を開き、両手首をくっ付けながら前に突き出す。謂わばファイナルフラッ○ュみたいな構えだ。
「響かせ勇気の歌! サウンドストリーム!」
その瞬間。
強化されたサウンドフルブラストが両掌から解放された。その威力は途中で気付いたアークラファエルが多重魔導陣ビームで迎撃しようとしても押し負けるレベル。
『これ……っ、無理かなー!?』
迎撃は無理だと判断したアークラファエルは自身の前に多重防御魔導陣を展開する。だがそれすら破壊し、サウンドストリームと多重防御魔導陣が相殺される形で消滅した。
『威力やばーっ!?』
「だが相殺したことは褒めてやろう!」
《偉大な力 僕らの ビヨンドリアライズ》
やっぱりアークラファエルには防御用の魔導陣が存在していた。サウンドストリームでようやく相殺できる時点でかなりの硬さだ。あのまま通常形態で接近戦をしなくてよかったとホッとする。
『ちょこまかとーっ!』
再び迎撃の合間に僕たちに向かって魔導陣ビームを放つも、真の姿を見えたエクスメタトロンを捉えることができない。
『だったらー! 全天球魔導陣ー!』
「これは!?」
《守れ僕らの平和 響かせろ勝利の歌を》
僕たちを囲むように無数の魔導陣が球体のように展開されていく! 逃げ場は完全に塞がれ、僕たちを囲ったそれぞれの魔導陣からビームのような光が集まっていく。
だけど、これで止まる僕たちじゃない!
《今だ響かせ 腹に込めた愛の奔流》
「腹から声を出す! ストマックブラスト!」
腹部から砲塔が展開され、巨大な光が解き放たれた。それと同時に機体を回転させ、ストマックブラストの光で全ての魔導陣を破壊していく。
『嘘でしょー!?』
「誰もワシらを止められん!」
博士のその言葉と共に、僕たちは周囲の歌詞の柱が飛び出したサウンドオブジェクトを回収する。
そうして回収した歌詞の柱を積み重ね、巨大な剣へと作り上げる。外部の武装がない代わりに吟遊詩人スキルによって武器を作る、それがエクスメタトロンビヨンドリアライズの力!
《悪を切り裂け 運命を断つ刃》
「一刀両断! 超時空リリック剣!」
巨大な歌詞の剣が、SEエフェクトによる斬撃SEを伴ってアークラファエルへと振り下ろされる――!
『諦めてたまるかー! ビッグ魔導陣ソード!』
だがそれで終わる彼女じゃない。彼女もまた魔導陣を縦に重ねて巨大な剣のようなものを作って対抗してきたのだ。
いやそんな使い方ありなの!?
「ぐっ!!」
『うぅん!!』
規格外な方法で作り出された二本の剣がぶつかり合う。上段から振り下ろされた超時空リリック剣と下段から振り上げられたビッグ魔導陣ソードが拮抗し、周囲にとてつもない衝撃波を放つ。
「ぐぎぎぎぎぎっ!?」
『むむむむむぅーっ!?』
二つの力は互角!
しかし!
「むっ!?」
『あっ!?』
互角だからか、両者の剣は共に砕けたのだ。
それを瞬時に認識したアークラファエルは多重魔導陣ビームを僕たちに放つ。だけど最早後手であっても余裕で回避できるのが今のエクスメタトロン!
『外したぁ!』
《行け 僕らの》
「うおおおおおお!!!」
背中にある一対のスピーカーからサウンドフルブラストが放出され、僕たちの機体を加速させる。片足を前に突き出し、キックの構え!
「ハイパアアアアア!! ボリュウムゥゥゥ――」
――キィィィィックッッッ!!!
超高速で解き放たれるキックがアークラファエルに迫り来る。そんな光景を前に、彼女は目の前に多重防御魔導陣を展開した。
激突する最強の矛と最強の盾。
「はあああああああ!!!」
『くぅぅっ!! これも、重いぃ……!!』
ハイパーボリュームキックの前に多重防御魔導陣が悲鳴を上げる。
「貫けええええ!!」
『ま、ずい……!』
ピシリピシリと魔導陣の壁にヒビが生まれる。だけどそれで楽観視でいられるわけにはいかない。彼女の多重防御魔導陣がひび割れると同時にこちらのハイパーボリュームキックの勢いも徐々に衰えていく。
「ぬおおおおお!!」
『負けてたまるかぁあああ!!』
そして。
『あ』
パリンと、多重防御魔導陣が破壊された。このままエクスメタトロンのハイパーボリュームキックが炸裂する……というところで。
『あっぶなー!』
「躱された!?」
そう、こちらもキックの勢いは既に消えており、アークラファエルの回避行動で回避できるほどの勢いしかなかったのだ。
そしてアークラファエルの視線は既に僕たちの機体をロックオンしていた。彼女の魔導陣は目視によるロックオンが必要。つまり今のこの状態はかなりマズイ。
それでも!
《超時空機動勇者――》
「放て鉄拳! 超時空ロケットパアアンチ!」
『はぁ!?』
右腕が解き放たれ、鋼鉄の拳がアークラファエルへと向かう。
『ぶへぇ!?』
超時空ロケットパンチが顔面に突き刺さり、彼女の視界は塞がれた。決着を付けるにはここしかない!
《――エクスメタトロォォン!!!》
『ここじゃあああ!!』
彼女の背後に移動して通常サイズの超時空リリック剣がアークラファエルの背中へと迫る――!
しかし。
『――音で把握してるよー』
彼女は僕たちの場所を把握していた。目視でやらないと確かに狙いは付けられない。しかしそれは別に目視じゃなければ狙いを付けられないというわけではない。明確に対象の場所さえ分かれば、目視は必要ないのだ。
このような、聞こえてくる曲の方向が分かって尚且つゼロ距離だったら尚更のこと。わざわざ攻撃する瞬間に叫ぶテレフォンパンチがあったからこそラファは僕たちの場所を把握していたのだ――。
『私の、勝ちー!』
背後に向かって多重魔導陣ビームを放つ。
これで終わった。
勝者はアークラファエル。ラファの勝利で、この試合は終わりを告げたのだ――。
スカッとラファが放った多重魔導陣ビームは外れる。
『え?』
「――フェイクボイスだよ」
ラファが撃ったのはサウンドオブジェクトだった。『エクスメタトロン』と歌った時点で生の演奏は既に終わりを告げ、後はフェイクボイスで博士の声を真似た台詞と音楽を録音したサウンドオブジェクトだったのだ。
『あっ――』
グサリ、と全く別の方向から現れた僕たちによってアークラファエルの体に超時空リリック剣が生えた。超時空リリック剣によってパイロット席を貫かれたラファはこれで敗北。
つまり。
「ワシらの、勝ちじゃ」
『……あーあ、負けちゃったなー』
そう宣言する博士に、満足そうな声音でラファが呟く。
「お主のアークラファエルは強かった」
『博士のプレゼントがあったからだよー……』
それでも、ビヨンドリアライズモードになってようやく勝てた時点で彼女の技術や魔導陣の扱いは脅威的だった。
これが四天王最賢のラファ。
強敵と呼ぶに相応しい相手だった。
『決勝は多分みかえっちだと思うけど……気を付けてね?』
「みかえっち……ミカエルか?」
『そう……でも、わたしのパパが何か企んでるよ』
彼女の言葉に博士が黙りこくる。
だけど彼女と博士の会話の時間はもう終わりだ。アークラファエルから放電が現れ、もうすぐ限界だと分かる。
『またね博士』
「……ワシの名前はマスクド・リプルじゃよ」
『ふふ、そうだったそうだったー』
そんな彼女の言葉を最後に、僕たちは彼女の機体から離れる。一人佇むアークラファエルは……ラファは、仮想の宇宙空間に広がる星々を見ながら、こう呟いた。
『余は満足じゃあー……』
そうして、アークラファエルは爆発したのだった。
『決着ゥゥゥゥ!! 歴史に残るレベルの熱戦を繰り広げた両選手に会場のボルテージが最高潮に達しています!! RBF大会準決勝を制したのは『超時空機動勇者エクスメタトロン』だあああああッッ!!』
『これまでの戦い全部なヤツ』
『はぁ……はぁ……! センリきゅんのライブでオタ芸してたらちょっと体力が……うぷ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます