第11話 全てを詰め込んだヤツ

『そーらーをこーえてー♪ ラララほーしーのかーなたー♪』


 可愛らしい歌声とは真逆の凶悪なまでの弾幕を前に僕と博士は悲鳴を上げる。


「今掠った!? 掠ったよな!?」

「多分気のせいです!」


 本当は確かに掠ったけどわざわざ博士の士気を下げたくないので嘘を吐きました。


『まるで某アニメのサーカスのように超高速変態軌道を行う戦闘機形態のエクスメタトロンッ! ラファ選手の魔導陣ビームを掻い潜っていくーッ!!』

『カメラが追い付けない高速戦闘をするヤツ』

『魔導陣の数は確かに異常ですが一つ一つの魔法はただ直線的ですね。これなら博士も回避は余裕なのでは?』


「無茶を言うな!?」


 同じ魔法使い系ジョブに就いているせいかすっかり解説ポジにいる王女の無茶ぶりに博士が絶叫した。まぁ確かに王女の言う通り相手の魔導陣から出てくる攻撃は直線攻撃のみで避けやすいのは確かだけども(避けられるとは言ってない)。


「ちと攻撃を緩めてくれんか!?」

『じゃあアト○君を作ってくれるー? 初恋なんだよねー』

「……○トムかぁ」

「博士ひょっとしてマジで考えてます?」


 それで本当に攻撃を緩めてくれるとは限らないと思うんだけど。そもそも初恋がア○ムって中々良い趣味をしてるというか君何歳なの?


「うーむ作るにしても七つの力の解釈で色々言われそうな気も――」

「博士!? 前、前っ!!」

「え? ぬおおおおおお!?」


 魔導陣ビームに当たりそうなところを博士が咄嗟の操縦で回避した。いや回避して貰わないと困るよ。戦闘中に考え事とかもう博士、操縦席降りろ。


『えーい!』

「ええい舐めるなよ!」

「基準値を超えた! 行けます!」

「『サウンドフルブラスト』!!」


 MAXではないもののボルテージゲージが基準値を超えたため、戦闘機形態のままサウンドフルブラストを放つ。


『おろぉー! 負けないよー!』


 僕らのサウンドフルブラストと彼女の魔導陣ビームが衝突する。グググ……と僅かな拮抗状態を経た後に僕らのサウンドフルブラストが彼女の魔導陣ビームを押していった。


「よし!」

『やるねー? だったら――』


 ――重ねてみようかー!


「は?」


 僕の口から声が漏れ出た。一個で足りないなら複数の魔導陣。そうやって押し負けている自分の魔導陣に更に複数の魔導陣を重ねてビームを重ねたのだ。


「マズイ!?」


 一瞬にして逆転された状況に、博士はすぐさま回避行動を取る。その瞬間、MAXではないとはいえ基準値を超えたサウンドフルブラストを飲み込んで僕たちがさっきまでいた場所に多重魔導陣ビームが通過した。


「……チートか?」

「気持ちは分かるけど現実です」


 恐らくボルテージゲージがMAX状態のサウンドフルブラストならあの多重魔導陣ビームを相手に勝てると思うけど、それだけで決着を付けるほどこの戦いは甘くない。きっと彼女の事だから何かをしてきても不思議はないだろう。


『振り出しに戻っちゃったねー!』

「くっ……!」


 再び鬼ごっこ状態になった僕たち。流石に博士の操縦技術だけじゃ厳しいかも知れない。だったら!


「『サウンドビジュアライズ』!」


 進行方向と同じ方向へ歌詞の壁を僕たちの側面に具現化させ続ける。


『どこへ行こうと言うのかねー?』

「博士!」

「そういうことか!」


 壁の向こう側に隠れている僕たちに向かって魔導陣ビームが殺到する。そしてこのタイミングで戦闘機形態から足だけを出して、逆噴射! 進行方向とは逆の方向へと逃げる。その瞬間。僕たちが向かうはずだった方向に魔導陣ビームが壁を貫通させていった。


『外した……あっ逆方向に逃げてるー!』

「……へぇ? これで外すんだ?」

「むっ、何か掴んだのか?」


 多分だけどあの魔導陣ビームは目視じゃないと狙いを付けられないんだと思う。普通魔法使い系ジョブというのは索敵系の魔法も存在している筈なのにだ。だというのに壁に隠れた僕たちを見失った。


「つまり索敵系の魔法を使ってないか――」

「――それか単に使えないかのどちらか、かのう」


 考えてみれば当然だ。魔導陣術士というジョブは魔法使いの中でも異色のジョブに位置されるジョブだ。魔導陣を介して魔法を使うジョブだけど、逆に言えば魔導陣が無ければ魔法が使えないジョブなんだ。


 魔導陣から生み出された魔法は魔導陣から飛び出すことはできるけど、基本的に魔導陣内が効果範囲。周囲の気配を探るなら巨大な魔導陣を設置して魔導陣内の気配を探るか、周囲一帯に魔導陣を設置して防犯システムのように連動させるか――。


『むー……だったら熱源探知用の魔導陣を作って眼鏡のようにかければいいもんねー!』


 ――もしくはあのように効果アクセサリーのように魔導陣を作るかのどちらかだろう。


「博士……一か八かの作戦があるんですけど、やります?」


 僕の言葉を聞いた博士は目を丸くさせると、ふっと笑みを浮かべた。


「好物な言葉じゃな」

「だったら行きますよ! 『サウンドビジュアライズ』!!」

『わぁーっ!? 変な文字がいっぱいだー!』

「そしてトドメの通常ライフル!」


 先ずは周囲一帯に様々な音を具現化させる。ゴゴゴゴゴとかバァーンとか、とにかく邪魔そうな漫画の擬音のようなものを選んでかく乱させた。それに加えてライフルを撃って先程ラファが作った熱源探知用の魔導陣の邪魔をする。


『むぅー邪魔だなぁー!』


 ライフルビームの熱源に邪魔されているその隙に、僕たちはラファの視界から外れるように移動する。例え熱源探知用の魔導陣を作っても、視界に入らなければ意味がないからだ。


 ここまでやってようやく準備ができた。


「行きますよ博士! 『MIXユニオン、起動』!」

「うむ! 『超時空機動勇者エクスメタトロン』、じゃああああ!!!」




『ピーガガガ……UNION MODE ACCEPT』




 その瞬間、先程まで戦闘機形態ファイターモードだったエクスメタトロンが再び人型へと変形をする。その際装着していたパーツも再びパージし、それぞれまた新しい姿へと組み立てられていく。


『な、なんだああああ!? エクスメタトロンがまたその姿を変えて行くぞおおおお!!?』


 背後に備え付けられていた一対のスピーカーからも、特徴的で懐かしさすら感じるテーマが流れる。それと並行してエクスメタトロンの四肢が折り畳まれて、代わりにパージしていたパーツが両足、両腕となって合体していく。


『あっ、そこかー! ってなんだあれー!?』


 今更気付いてももう遅い。


 これがエクスメタトロンの奥の手。今までのように役割が分かれていた科学、魔法、ジョブが渾然一体となり全ての要素が大幅にパワーアップを果たした姿! それはそうとあの、僕の画面になんか文字が出てきたんですけど。


 え、これ僕も言わないと駄目?


宇宙そらに蔓延る悪を討つため! 全てを滅せよと轟き叫ぶ! 最強無敵の天翔ける勇者! 超時空機動勇者エクスメタトロン・ビヨンドリアライズ――』


 これが、僕たちの勝利の鍵!


『――オン・ステージ!!』


 その瞬間、エクスメタトロンの背後からロゴが現れて爆発が起きた。いやはっず!? 恥ずかしいんですけど!? 何この口上ガイド!? 何この爆発!? 何このロゴォ!?


『かっちょいい……!』

「じゃろー?」

「おかしいのは僕だけか?」


 だけどこれで準備は整った!


「サポートを頼んだぞ!」

「任せて!」


 この形態はより僕の吟遊詩人としての力を発揮し、強化される形態だ。今まで手に入れたものを全てを駆使して完全攻略を目指す! やれることを全てやる! それが僕の戦いだ!


「行くぞセンリィィィ!!」

「僕の歌を聞けぇえええ!!」




『合体するヤツ!!』

『流石の私でも合体は燃えますねぇ!』

『今度は私とセンリきゅんの合体を――』

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