第10話 主人公と敵の力が同系統なヤツ

「さぁ始まりましたRBF大会準決勝ゥ! 前回まではサイモン・ロボティクスの独壇場でしたがぁ! 今回はなんと初参加でありながら四天王すら打ち負かした驚異のルーキーが現れましたァッ!」


 司会の言葉と共に観客席のボルテージが盛り上がる。見れば観客の数は昨日までより多くなっていた。それも当然だ。ガブリエラを始め、ウリエルをも打ち倒したという話題にようやく今回の大会は今までのような展開とは違うと周知されたのだ。


 :俺らのお陰ってわけ

 :ずっと宣伝してました

 :ロボットに興味ない層にもやったぞ!

 :友達いないのでただ眺めてました

 :↑お前……

 :↑↑涙拭けよ

 :↑↑↑役立たずだなぁ

 :↑鬼で草


 なんかコメント欄に悲しい出来事があったけど、まぁとにかくこうして色んな人に見て貰えている状況になっているわけである。


『それでは紹介いたしましょう!! 赤コーナー! 全ての常識を破壊し、全てのロマンの生みの親ァ! 今回もまた我々に魅せてくれるのだろうかァ!? 機体登録名『超時空機動勇者エクスメタトロン』……センリ選手とマスクド・リプルのぉぉぉっご登場だああああああああ!!!』


 観客席から聞こえる歓声と共に、システムMIX起動状態のままでステージに上がる僕たち。凄い……見渡す限り人だらけだ!


「ほほう……最多観客動員数じゃのう……!」

「こんな大勢の人たちに見られるのか……」


 カオスレースの時とか、配信の時とかは人の姿が見えなかったからなぁ。今までの試合もここまでの人はいなかった。当然だけど人が増えるにつれてプレッシャーも緊張感も跳ね上がっていくんだ。


『次は青コーナー!!』

「来るぞセンリ」

「……はい!」


 向かい側の転送装置特有の青い光が現れる。


『四天王はもう三人目となった! 二人の仇を取り、今再びサイモン・ロボティクスの栄光を示すことができるのか!? サイモン・ロボティクスが誇る最賢の才女! 機体登録名……え、『発表後に公開』!?』


『え!?』


 司会の困惑に僕と博士が耳を疑った。これまでは『バースデイコマンド』とやらで結果的に違う機体の名前が出てきたけど、どれも最初は『キラースパイダー』だった。それがいきなり発表後に公開とはどういうことなのか。


「……現れるぞ!」


 博士の言葉に身構える僕。


 するとそこに現れたのは――。


『……タマゴ?』


 誰かがそう呟く。そう、転送されてきたのは巨大な白いタマゴだったのだ。二十メートルを超える僕たちの機体よりも頭一つ分大きいタマゴ。その異様な光景に観客を含めて誰もが困惑する。


『なんていうことだ……!? サイモン・ロボティクス所属のラファ選手はいったい何に乗ってきたというのか!? 見てくれは完全にタマゴ! タマゴです! 見てください! 性癖発表おじさんも困惑しております!』

『ヤ、ヤツ……?』

『語尾かなんかだったんですかそれ』

『……これは、あり得ませんね』

『おっと特別ゲストの一人であるえーと……そういえばお名前は?』

『お姉ちゃんとお呼びください』

『お断りします』


 今更な話なんだけど、なんでナチュラルにいるんだろうあの自称姉の元テロリスト。


『魔力がおかしいのです』

『魔力?』

『魔法使い系のジョブに就いている私には見えるのです。周囲の魔力を吸収しているという異様な光景を……!』


 王女の言葉を裏付けるように、観客席では試しに魔法使い系ジョブに聞く人が見える。そして聞かれた魔法使い系ジョブの人も困惑しながらも肯定していた。


「ふむ、つまりはエネルギーを吸収しているのではないか?」


 博士の言葉に僕は困惑した。


「エネルギーを吸収? いったい何のために?」

「それは当然、使うためじゃろう」


 その言葉に僕はようやく目の前の光景の正体に気付いた。相手がタマゴであろうとこの大会はロボットバトルだ。つまり目の前のタマゴはロボットで、周囲から魔力を吸収しているのはもしかして――。


「動くための動力が、魔力……?」

『せいかーい!』

『!?』


 突如としてタマゴの中から少女のような声が響いた。その声にびっくりした僕たちは思わずエクスメタトロンを後退させた。


『貴方たちの試合全部見てたよー! 革新的でワクワクしたー!』

「……嬉しいことを言ってくれるのう? それで、その姿の説明をしてもらえるかのうお嬢ちゃん?」

『ふふーん! きっと驚くと思うよー?』


 ドクン、とタマゴが脈動する。


『!?』

『そもそもこの大会が終わったら広める予定なんでしょー? だったら予定を前倒ししても問題ないよねー!』

「……まさか」


 とある可能性に気付いた博士が顔を引き攣る。それと同時に目の前のタマゴにピシリと亀裂が走った。


『誰よりも早く受け取ったよー! からのプレゼントーっ!』


 割れる――。


 そう思った瞬間、周囲に光が包み込む。そして僕たちの耳に信じられない言葉が届いた。


『『システムMIX、起動ー!』』

「そんな、馬鹿な……」

「システムMIXだって……!?」


 光が収まると同時に、僕たちの視界にそれが映った。


 それは、一言で言えばまるでデフォルメされたカートゥーン調のデッサン人形。装飾もなく、ただ体全体に金色のラインが走っている白い女性型ロボット。機械的なヘイローを頭に浮かばせて、綺麗な金色の瞳がこちらを見ていた。


「浮いて、る……」


 そんなロボットが、膝を抱えて宙に浮いていたのだ。ロケットエンジンならともかく単独での滞空はモンスター以外あり得ないはずなのに。


 これが、ラファが乗る機体。


『ハッピーバースデイ、わたし!』


 抑圧された『自由』を曝け出した本当の彼女。


『『アークラファエル』をよろしくねー!』


 もう一つの、システムMIX。


『もうこの大会で何回驚いたことでしょう!? 唯一無二と思われたシステムMIXにまさかラファ選手が再現することに成功ーッ!  果たしてどちらの性能が相手を勝れるのか!? システムMIX対システムMIXの準決勝――』

『センリきゅーん! お姉ちゃんは悪くなかったですよー!!』

『ロボットが女性型のヤツ』


『『超時空機動勇者エクスメタトロン』VS『アークラファエル』……レディー、ファイッッッ!!!』




 ◇




「システムMIXを再現、のう……?」

『なーに? もしかして疑ってるー?』

「当然じゃ! 二日披露しただけでシステムMIXを完全に再現されるほどワシらの技術は甘くないぞ!」


 その言葉と同時に博士がライフルで射撃をする。


 しかし。


「ぬっ!?」


 サウンドフルブラストではないにも関わらず、ライフルから射出されたビームはアークラファエルに到達する前に弾かれた。


『――当然、何から何までエクスメタトロンと同じじゃないよ?』

「バリア……?」

「これって……リョウの攻撃を防いだ王女と同じ……!?」


 魔法という単語が脳裏に過る。


『システムMIXはそれ単体で運用する物じゃない。パイロットの技量、趣味、趣向に合わせてカスタマイズをするための……ただ再現しただけじゃあその真価を存分に発揮できないことは解析中に分かったよー!』


 ラファの言葉に博士が冷や汗をかきながらも口角を上げる。再現されただけじゃなくシステムMIXの設計思想すら理解しているラファに興奮しているんだ。


『エクスメタトロンが吟遊詩人とのMIXならわたしのアークラファエルは『魔導陣術士』とのMIX!!』


 その瞬間、アークラファエルの周囲に無数の魔導陣が現れる。


「っ! 博士!!」

「これは……逃げの一択じゃな!」


 魔導陣術士……それは魔導陣を専門に扱う魔法使い系ジョブの一種。魔導陣を介しての魔法開発性に富んだ玄人向けのジョブだ。そしてそんな職業をラファのような天才少女が使えばどうなるのか。


 それは。


『いっせいそうしゃー!』

「ぬおおおおおお!!?」

「あわわわわわ!?」


 蹂躙の始まりである。


『ロボットなのに魔法を使うヤツ』

『す、ステージがああ!? ラファ選手の圧倒的火力によってロボットバトル専用に作り上げたステージが破壊されていくうぅ!!』

『小さな個体が圧倒的火力を出すヤツ』

『これって私の二番煎じじゃないですか?』


 何アークラファエルに対抗意識を持ってんの? 王女のバーストノヴァとは火力の面で印象同じだけど絶望感で言えばこっちの方が上だよ!


『これがアークラファエルの力だよ博士ー!』

「博士博士と……! ワシの名前はマスクド・リプルだとあれほど――」

『やだなぁー声を聞いたらすぐに分かったよー!!』


 彼女の言葉に僕は目を見開く。初対面であるにも関わらず博士と呼んだり、やっぱり彼女は博士の事を知っているんだ!


『正体を隠しているようだけどわたしはすぐに分かったよー? そろそろ動くんでしょー? もう我慢の限界なんでしょー? わたしはずっとこの時を待ってたんだよぉー!』

「……」

「博士……?」

「このままでは避け切れんな」


 彼女の言葉を無視するように博士が呟く。彼女と博士の関係は分からないけど、博士はこの話について何も話すつもりはないようだ。ならば、と。僕は意識を切り替えてこの試合に勝つための助けをするだけ。


「博士、あれで行きましょう!」

「あれ? ……あーちょっと心の準備が必要というか腰にきついからあまり使いたくないというか」

「了解! 戦闘機形態ファイターモード!」

『ピーガガガ……ACCEPT』

「ワシの話を聞いてぇ!?」


 その瞬間、ライフルを構成しているパーツが分解され、エクスメタトロンの体が折り畳まれていく。そうして次々とパーツが折り畳まれたエクスメタトロンに装着されていき――。


「完成! 戦闘機形態ファイターモード!」

「ぬおおおおお!? GがGでジジイィィッ!?」

『なんとぉ!? エクスメタトロンが戦闘機に変形したあああ!!』

『ロボットが変形するヤツ』

『そうあれぞエクスメタトロンのもう一つの能力。エクスメタトロン自体が様々な形態に変形する機能があるのです』


 なんか他のもネタバレしてるけどこの王女ポンコツ


『なんという変態軌道!! アークラファエルが放つ魔導陣による魔法を次々と掻い潜っていくぅ!』

「アカン、目が霞んできた……」

「もっと早く出せないですか?」

「鬼か?」


 だってアークラファエルが生み出す魔導陣は一向に減少する気配がないんだ。恐らく周囲の魔力を吸い取ることで無限の動力を得ているんだろうけど……このままじゃああの魔導陣の攻撃を受けるのも時間の問題だろう。


『おーっとここでお知らせです! 大会協議によりこれ以上は会場が耐えられないということで別のステージに変更するようです!』

「別のステージ!?」

『中止にはならないのでご安心ください!』


 その瞬間、周囲の光景が真っ暗闇に変わる。いや完全な暗闇じゃない。遠くを見れば小さな光の点が点在しているのが見える。


『粋だねー』

「ここは……宇宙か!?」

『そう、ここは宇宙ステージ!! RBF用に作られた架空の宇宙空間です! 勿論ゲーム内世界観とはなんら関わりないのでご安心ください!』


 空間が広がる。逃げる場所も戦う場所も無限に拡張される。いやでも嫌な感覚がするのは僕の気のせいかな?


 そう思ったその時。


『これなら――』


 嫌な予感が実現する。


『――本気を出してもいいよね?』


 魔導陣が一気に増えました☆


 じゃないよ。どうするのこれ。これ運営の贔屓か何かじゃないの。僕は訝しんだ。


「うわあああああ!!」

「うーんグッバイ腰!」

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