第9話 敵が主人公の力に対応してくるヤツ
エネルギードレインシステム。要するにエネルギーが駄目なら物理で行けばいいじゃないという至極単純な対応をされてウリエルは敗北した。
「てへぺろ☆」
「ふんっ!」
「ぶげろぉっ!?」
ワイルドウリエルはエネルギー攻撃に対する優位性を誇る一方、その棒のような機体の通り物理による戦いは非常に不得手だった。つまり単純な方法でまっとうに倒されたわけなのだが、それでガブリエラが許すはずもない。
「お前さぁ……マジで情けなかったぞ」
「いやぁ近接手段の存在を忘れて突撃してしまいましたなぁ」
「テンション上がって突撃とか……はぁ」
テンション上がって視野狭窄。接近戦、それも物理攻撃が苦手な癖して突撃。四天王最弱という自称に偽りなしだ。しかしそんな情けない戦いをしたにもかかわらず、ウリエルに敗北者特有の雰囲気はなかった。
というのも。
「――これでお役に立てましたでしょうか?」
「……ふふーん☆」
ウリエルが意味ありげな言葉をラファに投げかけると、彼女はドヤ顔を見せた。
「うりっちのお陰でようやく掴めたよー!」
「お褒めに預かり光栄でございまぁす!」
「はぁ……この主従は……」
ガブリエラも分かっているのだ。ウリエルが勝利のためではなく分析のための時間稼ぎをするために戦っていたということを。だがそれを抜きにして戦いが無様過ぎたことに怒りを抱いていただけだ。
「それで? どうなんだお嬢」
「ふふふ……へっへっへ……ふひひひー☆」
「お嬢ってそういう顔をするのか……」
まるで夢を見る乙女のような表情を見せるラファにガブリエラがジト目を向ける。
「予想以上に最高だったよー!」
「フフフ……ハハハ……アーハッハッハァ! やはり私が体を張った甲斐がありますねぇ!」
「さーてこれから忙しくなるぞー!」
そう言ってやる気を滾らせるラファ。そんな彼女にガブリエラはしょうがないなと笑って諦め、最後に確認をした。
「忙しくなるって言ったが間に合うかぁ?」
「当然!」
ラファの目の前にホログラムが現れる。そこにはとある人型ロボットの設計図が書かれており、彼女がウリエルとの試合で大まかに構想したものだった。あとはウリエルが得た分析結果を取り入れ、練り上げるだけ。
「新しい機体を作るのに数時間も掛からないよ!」
その言葉に、サイロボギルドのメンバーは笑みを浮かべたのだった。
「やっぱ流石だなぁお嬢」
四天王最強が誰かと尋ねられれば、サイロボのメンバーは揃ってミカエルと言うだろう。だが四天王の中で規格外は誰かと聞かれれば、ミカエル以外の名前を言うだろう。
四天王最賢にして万能。
それがラファという少女の評価だった。
「そういえばミカエルの奴は?」
「あそこにいるよー」
「あぁセンリ……どうして君はセンリなんだ」
「もう駄目だなアイツ」
◇
「くそ……どいつもこいつも……!」
賑やかに笑う社員たちの会話を扉越しに聞いていた人物がいた。サイモン・ロボティクスのギルドマスターにしてサイモンズ・インダストリーの社長、サイモン社長だ。
「四天王のみならずラファまでもが私を否定するというのか!」
ミカエルたちがいる部屋から離れるサイモン社長。彼の頭の中にはシステムMIXとかいう自分の理念を全否定するシステムを開発した人物で埋め尽くされていた。
「許さん……絶対に許さんぞ……!」
積み重ねたものが崩れ落ちる感覚に苛まれながらもなんとか振り払い、サイモン社長はこの恨みどう晴らすべきか考える。
ラファが勝っても相手が勝っても結局のところ、どう足掻いてもサイモン社長が否定されるのは間違いない。
「ならばどうする……?」
一番良いのはキラースパイダーで勝つか、キラースパイダー以上の効率と合理を突き詰めた上位互換ロボットを作り上げるしかない。
「ミカエルに託すか? アイツの性格上、私の許可なしに勝手にキラースパイダー以外の機体に乗ることはないだろうが」
だが如何にミカエルと言えども性能で負けているキラースパイダーで勝つのは至難の業だろう。しかしだからといって今更上位互換を用意しようにも間に合わない。ラファに頼めばなんとかなるだろうが、先程の会話を聞いた限りではその助けも得られそうにないだろう。
「……いや、待てよ?」
何かに閃き、邪悪な笑みが浮かぶ。
「何を難しく考える必要がある?」
自分とて技術者の端くれだ。なればこそあのキラースパイダーの姿こそが最適解であるのは誰よりも理解しているのだ。最適解なら何を心配する必要がある。何に不満を抱く。キラースパイダー以外は不要であると証明して見せようではないか。
「せいぜい準決勝を楽しめばいいさ……貴様らは子供同士の遊びで存分に満足しておくんだな!」
残念なことにそのための準備には時間がかかる。だからこそ、ここは耐え忍んで我慢する必要があるのだ。
「決勝……そう、決勝戦こそが本番だ。ここで貴様らの目を覚まさせてやる……!」
――それが例え。
「大会を滅茶苦茶にしてでもなぁ……!」
◇
「もう準決勝かぁ」
「そうじゃのう……」
『ピーガガガ』
翌日の準決勝当日。控え室の中で僕と博士、ガー太郎の三人で試合の開始を待っていた。ふと、コメント欄を見れば準決勝進出について盛り上がっていた。
:いやぁ順調順調!
:ワイルドウリエルは強敵でしたね……
:強敵(自滅)
「ははは……」
まさかね、と思って博士に近接物理戦について提案したら予想通り簡単に倒せてしまった。やっぱりエネルギードレインシステムはエネルギー関連の天敵なだけで、それ以外は普通に楽勝というのはちょっと肩透かしだったけど。
「博士、これが終わったらついに決勝ですね」
「そうじゃのう……」
:なんかずっと上の空だね
:何考えてんだろう
:ロボットのことだろ←
「博士?」
「え、あぁいや……ちと相手のロボットについて考えておったのじゃ」
:やっぱりな♂
:博士はこうでなきゃ
:相手のロボットかぁ……
:そのままタコロボットを相手に無双するかと思いきや予想外の展開で接戦を演じてたね
「相手のロボットですか?」
「そうじゃな……ワシはな、相手のロボットを否定するためにこの大会に出たのじゃ」
「そう、ですね」
「じゃが結果はどうじゃ? これまで戦ってきた四天王は皆、自分専用のロボットを出してきたではないか」
ロマンを見せるつもりが逆にロマンを見せて来たのだ。その事実は博士にかつてないほどの衝撃を与え、相手に対する考えを改められた。
「ワシは未だかつてないほどワクワクしている! 次はいったいどのような機体が出てくるのか楽しみで仕方がないんじゃよ!」
:オラ、ワクワクすっぞ!
:実は俺も
:私も
:おいどんも
:おじいさんもおねーさんも
:やっぱさ、俺たちが見たかったのはロボット同士の熱い戦いなんだよね
「……はは」
博士の言葉とコメント欄の内容に僕は思わず笑った。やっぱり、ロマンだなんだと言いつつ博士は寂しかったのかもしれない。
盛り上がらない予定調和みたいな戦いに、見慣れたロボットの光景。きっと博士が見たかったのはそのような光景ではなく、もっとアニメで見たロボット同士の戦いが見たかったのだろう。
――そう、今までの戦いのような光景が。
だからだろうか。
『『システムMIX、起動ー!』』
その言葉を聞いて目を見開く。タマゴのような球体から飛び出すように、中から全く別物の白い機体が現れる。
「そんな、馬鹿な……」
「システムMIXだって……!?」
自分たちの専売特許だったはずの技術を相手が使ってきた。司会席にいる王女も驚愕していることから彼女が技術を漏らしたということはない。
ならどうやって?
いくら考えても答えはでない。
いや、浮かび上がったとある答えから目を逸らすしかない。だって、もしそれが本当だったら、相手は二人掛かりで生み出した超技術をたった一人で生み出したことになる。目の前に答えがあったからって、簡単に再現できるような技術じゃないにも関わらずだ。
『いいね、凄いねこの技術ー!』
対戦相手から無邪気な声が聞こえる。
『この大会に出てきたっていうことはついに動くんだよね博士ー?』
「……」
相手選手の言葉に博士は何も言わない。まるで博士のことを知っているかのようなセリフを吐く彼女と博士の関係を僕は知らない。
それでも、そんなある種の絶望感が漂う光景を前にしても博士は――。
「ロボット、最高……!!」
――ただただ笑っていたのだ。
『同一システムの敵が現れる展開のヤツ』
『いや、私は漏らしていないはず……? みるぷーお姉さんとお姉ちゃん力を競ってからの記憶がないのは確かですが……うっあたまが』
『緊張感皆無ッ!!』
※安心してください。王女様は漏らしておりません。
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