第8話 敵幹部の一人が狂人のヤツ

「それでは! 第一回戦突破を祝して~? かんぱーい!」

『かんぱーい!』


 の音頭と同時に手に持ったジュースを飲む。ゴクゴク……と飲んで、噴いた。


「いやなんでみるぷーお姉さんがここに!?」


 貴女無関係ですよね!? と目を見開きながらツッコミを入れる僕にリョウが肩を回してまぁまぁと宥めてきた。いやちょいちょいちょい。


「しかもリョウまでいるんだけど!?」

「そりゃあ勝利祝いだから仕方がないだろう」


 :いえーい!!

 :やっほー飲んでるー?

 :久しぶりに熱くなったぜー!


「そういやカオスレース優勝時にお祝いとかやってなかったって思ってな。せっかくだからと今回の祝勝会でまとめて祝おうってな感じで参加したぜ」

「招待状を送ってないのですが?」


 僕と博士、ガー太郎とリスナー。ついでに共同開発をした王女を含めて、ささやかな祝勝会をしようと思ったら、なんか余分な人たちみるぷーお姉さんとリョウが来てびっくりだ。いや嬉しいけどもね。


「ふっ、センリちゃんのお姉ちゃん枠はこのあたし! ぽっと出のお姉ちゃんなんかにセンリちゃんは渡さにゃい!」

「まさかこの私とお姉ちゃん力で張り合うつもりですか?」

「僕に姉はございませんが」


 :姉を名乗る不審者VS姉を騙る元テロリスト……ファイッ!

 :勝手に戦え

 :ダー○ライも仲間に入れろ

 :ダーク○イが何をした?


 あの二人の間に絶対入っちゃいけないと僕の直感が言っている。多分間に入ったら闇の姉共に好き勝手される未来しか見えない。


「なぁセンリ、博士は何やってんだ?」

「博士? ……あー」


 リョウの言葉に博士の方を見ると、博士は恍惚そうな表情を浮かべて『超時空機動勇者エクスメタトロン』のボディを手入れしていた。


「ガー太郎、ワシは堪らなく嬉しいぞ。彼奴等の方にもロマンを分かる者たちが存在していた。その事実にワシはこの歓喜の心を抑えられなんだ……!」

「ぴーががが、そうですね」

「それにしてもこの光沢、この硬さ……ワシが考えていた最強のロボットそっくりじゃあ」

「ぴーががが、よかったですね」

「ちょい舐めても……」


「ぴーががが、キッモ」


 ガー太郎と同じように侮蔑の表情を込めた眼差しで博士を見た僕は、リョウの方へと向き合った。


「気にしないで」

「お、おう」


 :それにしてもやっぱびっくりしたなー

 :まさか人型ロボを出してくるなんてな

 :あれ言い方的に社長に無許可っぽいような

 :独断で草


「明日の対戦相手って確か……」

「サイロボギルドの四天王の一人、ウリエルさんだね」


 四天王と言うと、僕は今日戦った四天王のガブリエラさんという人と戦った。そしてふと思うのだ。明日戦うウリエルさんもまた、アレを出すのではないかと。


「彼女だけが特別という線もあるが……明日戦う相手も同じ四天王だ。その可能性を考えた方がいいかもな」


 漆黒の人型ロボット。機体性能に差があれど、小回りの利く四肢があるだけで僕たちと拮抗して見せたその事実に戦慄を禁じ得ない。そう考えると楽に勝てると思った試合に暗雲が立ち込めるというものだ。


「対戦表見た感じ、順当に考えれば決勝戦まで四天王全員と戦う計算になるな」

「四天王全員が見事ばらけてるよね」


 作為があるというかなんというか。そう言ったことを疑わずにはいられない組み合わせで思わず苦笑いが出てくる。対戦表には四天王同士が戦うグループがなく、僕と博士が勝ち進めれば四天王全員とぶつかる状況になるのだ。


「対策とかしてるのか?」

「しようと思ったんだけど……」

「ぶっつけ本番じゃ!」


 はい、博士がこの通りでやってません。


「えぇ……」

「見てみたいんじゃ! 彼奴等がいったいどのような機体を出してワシに魅せてくれるのかを! それを全身全霊で見たいんじゃ!」

「だそうです」

「性癖に全開なヤツ……」


 これで優勝する気があるのだろうかこの人……。




 ◇




 翌日の第二回戦、当日。


「こ、これは……!?」

「よもや初手で出してくるとはのう……!」


 試合開始前に既に『キラースパイダー』はなく、現れたのは昨日とは細部に違いがあるものの、同じ漆黒の機体。


『『バースデイコマンド、起動完了』ぉ~!』


 昨日のギガントガブリエラが鬼武者というイメージなら、今目の前に存在している機体はまさしく吸血鬼。胴体や手足が異様に細く、そして長い。特筆すべきはその機体にはマントが羽織られており、風によって揺らめいていた。


 これが四天王、ウリエルが乗る


『ハッピーバースデイ! ワタクシィッ!』


 抑圧された『本性』を曝け出した本当の姿。


『『ワイルドウリエル』、どうかお見知りおきを』


 やっぱり、対戦相手は奥の手を隠していた。そしてそれを開幕で晒した。恐らく元の『キラースパイダー』では僕たちの相手にならないということで最初から本気で来たんだ。


『開幕出し惜しみせずに全力を見せるヤツ!』

『センリきゅーん! その棒っ切れをへし折ってくださーい!』

『おーっとぉ!? まさかの専用形態での登場だー!! これは短期決戦で勝負を決めるつもりかー!?』


 参ったね……最初からキラースパイダーだったら開幕で瞬時に消し飛ばす予定だったけど、専用形態を出されたらその予定もご破算だ。だけど幸か不幸か、今の僕たちはシステムMIXを起動している状態だ。だから初手どのような攻撃が来ようとも対処できる自信があるんだけど……。


「ほぉ、初手からその姿とは……」

『えぇ! 何せ私は四天王なれど最弱の身……ガブリエラ殿を倒した貴殿らを相手にキラースパイダーでは力不足でしょう!』


 だからこその本気なんだ。その事実にどうやらこの戦いは簡単に行けそうにもないと感じてしまう。


『それでは両者準備が整った様子ですので、始めましょう! 次元を超え、常識を超えた力を持つ機体と殻から飛び出してきた漆黒の影!! 『超時空機動勇者エクスメタトロン』VS『ワイルドウリエル』……レディー、ファイッッ!!!!』


 司会の宣言と共にエクスメタトロンは相手の行動に備える。そんな僕たちの姿を見て、相手は笑った。


『クックック、やはり私の懸念は的中していた!』

「……どういうことじゃ」

『いえね? 私は常日頃社長の理念という物に懐疑的だったのですよ。効率と合理を突き詰め、技術の最適解は我が社であるという理念にね!』


 最適解とはその時、その状況に応じた『最も優れた答え』だ。


『しかし最適解とは常に塗り替えられるもの! それを怠りただひたすらに古い最適解に縋りつく社長を見限り、私は四天王全員に提案をしたのです! いつか来るべき新時代に対応できるように! 私たち専用の機体を作るという提案を!!』


 それが彼らの言う『バースデイコマンド』なんだ。僕たちという新時代に対応できるよう彼らが本当の意味で生まれるという願いを込めての『誕生の日』だったんだ。


『――というのもですね? 私が以前見た日本の芸術作品にとあるロボットが主人公の作品がありました。主人公を作った当時は主人公こそが最先端という扱いでしたが、やがて美術品として飾られ目が覚めた時は既に周囲の科学技術が自分の性能よりも遥か上にまで成長しており――』

「『サウンドフルブラスト』」

『グワーッ!』


 いや長いよ。

 隙だらけで博士がつい撃っちゃったよ。

 多分僕が操縦席にいても撃ってたと思うよ。


『ぬおおおお……! なんという仕打ち……! 私が懇切丁寧に説明しているというのにこの扱い!』

「なっ、まだ生きているじゃと!?」


 僕も同じ気持ちだ。まさかエクスメタトロン唯一の超高火力ビームを受けても原型を残しているなんて。ボロボロではあるけどなんて耐久力なんだ!


『ふっ当然でしょう! 四天王最弱であろうとあくまで四天王という枠組みでの話! 貴方たちみたいな有象無象より弱いとは言って――』

「イヤーッ!」

『アバーッ!』


 二度目の『サウンドフルブラスト』。しかしそれでもボロボロになっただけで破壊には至らない!


『クックック……不思議に思うでしょう?』

「くっ!?」


 かなりふらついているけどようやく立ち上がったウリエルの機体に僕たち戦慄する。超高火力ビームを二発受けてもまだ倒れない耐久力……棒人間みたいな外見の癖して耐久力は僕たちの予想を超えている……!


 そうワイルドウリエルに警戒していると、その機体が羽織っているマントに異変を感じた。よく見てみると、そのマントはまるで蝙蝠の羽のように異様に膨らんで、帯電しているではないか。


 そして。




『リリース』




 ズビャアアンッ!!!


「うわああああ!?」


 ウリエルがそう言い放ったその瞬間、ステージが半壊するほどの雷電が迸ったのだ。あまりの威力に、僕らの機体が衝撃で吹き飛ばされるほど。


「そんな、馬鹿な! システムMIX以外であれほどの威力を出せる筈がない!」


 博士の言葉に僕も同意する。あれは僕たちの『サウンドフルブラスト』を超えた威力だった。広範囲に広がったお陰で威力自体は分散されたものの、直撃すれば僕たちの機体が持たないほどの威力……!


「もしかして……!?」


 ワイルドウリエルの先程の姿を見て僕は逆に考えた。僕らの『サウンドフルブラスト』を耐えたのではなく、吸収したとしたら?

 そして吸収した力を解き放ったとしたら? 確かに僕たちの『サウンドフルブラスト』を超えた威力を発揮できるだろう。それも二発分だとしたら納得が行く。


『そう、これぞこの機体の能力!』


 ウリエルの声が会場中に響く。


『相手のエネルギーを吸収し、我が物にする『エネルギードレインシステム』! さぁもっと、もっと私に攻撃をしてください! 攻撃を受ければ受けるほど私のリビドーが跳ね上がり、これ以上ない芸術となる!!』


 恍惚そうに笑うウリエルに僕は顔を引き攣る。一方博士は面白そうに目を輝かしていた。変態しかいないのかここは。


『ヒャーハハハハ!! 君たちの情熱を私にぃぃぃ!!! そっそいでぇぇぇくださあああああああい!!!!!』


 狂乱しながら突撃してくる相手に、僕たちは迎撃の構えを見せた。




『戦闘中に狂乱するヤツ』

『もしもしポリスメン様でしょうか』

『さぁどうなるこの試合!(現実逃避)』




 ◇




「負けちゃいました☆」

「なんでだよ!?」

「ごほっ!?」


 ガブリエラのツッコミによってウリエルがダウンした。

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