第7話 ロボットが必殺技を見せてくるヤツ

 突如として現れた漆黒の機体。地面に着地したそのロボットはまるでウォーミングアップをするように手足をブラブラさせ、調子を確認していた。


「は、はは……なんじゃ。お主らにもロマンを理解する心があったということか!」

『ハッ! 社長のやり方にはムカついてたんだよ! 会社の方針でなきゃあんなタコみたいなロボット、誰が操縦するかよ!!』


 自分のところの偉い人に対してボロクソに言ってるよこの人……。


『さぁてようやく二本足で立てたんだ! その試運転に付き合って貰おうかぁ!』

「来るよ博士!」

「うむ!」


 ウォーミングアップを終わらせ、操縦の感覚を掴んだのか『ギガントガブリエラ』が詰め寄ってくる。早い!? 当然のことだけど、地面に固定されていた『キラースパイダー』と違って移動もできている!


『オラァ!!』

「うおぉ!?」

『よお躱せたなぁ!』

「くっ!?」


 無数の手から繰り出される攻撃を躱せているからといって、全部が全部余裕なわけではない。彼女の動きを予測して回避できているけど、それでも限界はあるんだ。そしてその事実を、彼女も理解していた。


『やっぱりだなぁ! 稼働時間も運動性能も! 確かにアタシの機体はアンタらの機体よりもあらゆる面で劣っている! だがなぁ――』

「ふぅっ、ふぅっ!!」

『――アタシのギガントガブリエラと戦えているのはその機体の性能のお陰だということを忘れるなよ!』


 彼女の言う通り、機体性能の面ではこちらの方が上だ。でも僕たちと彼女の間には決定的な差というものがある。


『そこのパイロットォ! 声からしてジジイだと思うが、アンタには集中力も体力も、そして反射神経が足りねぇんだよぉ!!』

「ぐぅあっ!!?」


 ついに彼女の攻撃が僕たちの機体に当たってしまった。蹴りによってかなりの衝撃を受けながら後退する僕たち。


「くっ……!! これが……っ!」


 なんとか機体を制御させて、転倒を防ぐことができたけど、彼女の言葉に歯噛みするしかない。


「……これが、若さか」

「博士……」


 二人の間に存在する決定的な差。


 それが年齢の差である。


 例えどんなに知識を積み重ねようとも、技術があろうとも、高齢による身体能力の低下は如何ともしがたい。そしてその差によって、例え機体性能に差があろうとも同じ人型という条件なら、パイロットの差で拮抗させられるのだ。


『アタシもアンタも良いデモンストレーションだったぜ!! けど勝つのはアタシの方だぁ!!』


 ギガントガブリエラが右腕を掲げる。その瞬間、背中から生えた無数の手が、手に持ったパーツを次々と右腕に装着していった。


『ギガントォ……』


 そうして現れたのは巨大な円錐型の物体。


『ドリルゥ……』


 高速回転を始め、巨大な殺意が渦を巻く。全てを貫かんとその矛先を僕たちへと向ける。そして。


 ゴゥッ!!


『ブレイカアアアアアアッッッ!!!!』


 僕たちに向かって天すら貫く暴力を伴い、突進してきたのだ。


「いやパクリでしょそれぇ!?」


 某アニメの必殺技そっくりでびっくりだよ! 


『ドリルのヤツ』

『やはりドリルはロマンですねー』

『お爺様、避け切れずに負けたらビンタですよ』


 司会席の人たちが何かほざいているな。それはともかく、その元ネタに似た迫力はまさに脅威的だ。当たればただでは済まないのは確実だろう。


『アタシが憧れた究極の一撃だああああ!!』


 迫り来る巨大なドリルに上も下も左右にも逃げ場はない。あまりの巨大さにどこへ行っても避け切ることができない!


 そう。


 このままなら!


「避けることができないなら……!」

「やるのか、センリ!」


 僕はただメインエンジンとしてここにいるわけじゃない。僕は博士のパートナーでサポーター! このシステムMIXには、僕の力が存在している!


 だから。




「――『』」




 


『なっ!?』


 相手選手から驚愕の声が漏れる。それもそのはずだ。必殺の一撃でトドメを刺そうとしたタイミングで、急に真下から巨大な二本の柱のようなものが飛び出たのだ。

 その瞬間、真下からの柱によってドリルを上へと押し上げられ、そのまま僕たちの上を通り、過ぎ去った。


『何が、起きた……!?』


 ズガァンと音を立てて、見当違いな場所に激突した先程の有り得ない出来事に困惑する彼女。見れば手にあった巨大なドリルが背中の腕によって分解されて、元の右腕に戻っていくのが見える。


「システムMIXは三つの力を一つに合わさった技術だ」


 機体は科学。武装は魔法。そして動力はジョブ。王女が語った内容に間違いはない。だけどそれだけが全てじゃないのも事実だ。


 科学は機体だけなのか。

 魔法は武装だけなのか。

 ジョブは動力だけなのか。


 当然、それだけじゃない。


「ロボットというスケールでジョブの力を発揮する……それもシステムMIXの一つなんだ」


 僕の言葉に誰もが唖然とする。当然その中には、僕たちの対戦相手も例外ではなかった。


『は、はは……! なんだよそれ……!』

「『MIXコンバート』」


 手に持ったライフルが独りでに分解され、また別の武装へと変化していく。魔法の杖からジョブの武器へと。そうしてライフルから生まれ変わったのは一つの楽器。


「『吟遊太鼓、鉄騎の型』」


 太鼓のバチをそれぞれ両手に持った形態の『エクスメタトロン』。これがこの機体が持つ接近戦用の形態の一つだ。


「行くぞぉ!!」

「はい!」

『くっ!?』


 急激なエネルギー消耗によって動きが鈍ったギガントガブリエラに向かって接近。両腕交差して防御態勢に入った彼女に向かって、僕たちは左手のバチを下からかちあげて彼女の防御を崩す。

 そして無防備となった懐に向かって、空いた片方のバチを叩き込んだ。


 ドンッッッ!!


『あぁっ!!?』

「更にもう一発じゃ!!」


 ドドンッッッ!!


 まるで和太鼓を叩くようにバチを交互に叩き付けていく。背中のスピーカーから流れる曲とセッションするように叩けば、BGMボルテージと合わさって威力も上がっていく。

 それだけじゃない。バチで叩き付ける度にジョブの無限に近いエネルギーが彼女のギガントガブリエラへと流れ込み、内部から破壊していっているのだ。


『ああああああああ!!』

「うおおおおおおお!!」


 もう彼女に助かる道はない。

 もうその機体に勝ち目はない。


 だからだろうか。


 そんな自分の状況を受け入れた彼女の口から、このような言葉が出てきたのは。




『へ、へへ……カッコいいじゃねぇかよ……!』




『……!』


 きっと、彼女の中に反則だとか卑怯といった感情はないのだろう。自分が所属しているグループの理念を裏切ってまで『ギガントガブリエラ』を解放したのは、僕たちの機体を見て彼女自身の本能を刺激されたんだ。


 彼女もまた、ロボットが好きな同志の一人なのだから。


「どっこいしょおおお!!」

「やあああああああ!!!」

『ピーガガガ――!!』


 曲の盛り上がりが最高潮に達すると同時に両手のバチを同時に打つ。そうして一拍遅れると、エネルギーを過剰に注ぎ込まれた彼女の機体が爆発を起こした。




 ◇




『けえっちゃくぅぅぅぅぅ!! 第一試合を制したのはぁ! 今大会初出場にして我々に数々のロマンを見せてくれた『超時空機動勇者エクスメタトロン』ッッッ!! サイロボギルドらしからぬ人型ロボットが現れても、怯まず! 更なる形態へと変化してガブリエラ選手を打ち破ったああああ!!』


 サイロボギルド専用のVIP席から聞こえる司会の声。それによって沸き立つ観客席。それらの事実から、やはりどう考えてもサイモン・ロボティクスが所属する四天王……ガブリエラが敗れたのだと実感した。


「あーあ負けちまったなぁ」


 VIP席に先程の試合で負けたガブリエラがやってくる。そんな彼女に対して、とある人影が駆けよって彼女の胸倉を締めあげた。


「貴様、いったい何を考えている!?」

「おいおいなんだよ社長さん」

「あの機体はいったいなんだと聞いているんだ!!」


 サイモン・ロボティクスのギルドマスターにしてサイモンズ・インダストリーの社長、サイモンが怒るのも無理はないだろう。


「我が社の製品は効率にして合理! 我が社の技術こそが世界の最適解! それを貴様は無視してあんなものを持ち出していったいどういうことだ!?」


 ガブリエラが持ち出したロボットの姿。まさしくあれはサイモン社長の理念を否定するものだった。最適解でなければいけないのに、よりにもよって四天王と呼ばれる社員がその最適解を否定してしまえば、それだけで会社の信用が揺らいでしまう。


 だがそのことを糾弾されても、ガブリエラの表情に何一つ曇りはなかった。


「どの道アンタの最適解は最初のビームで消し飛んでたさ」

「なっ!?」

「ならアタシがどうしようとアタシの勝手だろ。結果は負けたけどな!」


 あっはっはとあっけらかんと笑う彼女にサイモン社長は顔を引き攣った。そう、ガブリエラの言う通り最初の時点で社長の理念は負けていた。それどころか予選を含めればもう既に負けているのだ。


「さて……どうだったよ」


 胸倉を掴む社長を突き飛ばしながら服を整える彼女。そして彼女はミカエルたちの方へと向き、上記の発言を発した。


 最初に答えたのはミカエルだった。


「声も可憐だった」

「そういうことじゃねぇんだわ」


 ミカエルのポンコツ発言にジト目を向くガブリエラ。コホンと咳をしてポンコツを視線に入れないようにして、他の二人に視線を向けた。


「システムMIX……どうだったよ」

「ふーむ……いや無理ですな! あっはっは」

「機体性能の次元が違うなー」


 ギガントガブリエラを制作したラファでさえこの発言だ。やはりセンリとドクター・リプル、そして司会席にいた謎の女性技術者が作ったシステムMIXとやらはかなりの技術水準ということだろう。


「せめてなー」

「……せめて? どういうことだお嬢」

「――せめてもう一回観察したいなーって」


 その言葉に周囲の人間が押し黙った。


「お嬢、まさか」

「ならばその役目、この私が受けましょうぞ」

「うりっち頼めるー?」


 ラファとウリエルのやり取りを聞き、ガブリエラはため息を吐いて諦めた。そしてラファのそのような頼みを聞いたウリエルは笑みを浮かべると、大仰に両手を開いた。


「勿論! 何せこの私、四天王最弱なれど社長より有能な人間でございますれば――」


 ――必ずや、成功させて見せましょう。




『必殺技がロマンの塊みたいな奴』

『キャーッ! センリきゅーん!!』

『ところでこの人いつ帰るんだろう』

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