第6話 敵も真の力を見せてくるヤツ

 翼のように展開された一対のスピーカーからズン、ズン、ズン、とステージを震わす重低音が特徴のBGMが流れる。


『おいおい……さしずめ処刑用BGMってか……!』


 彼女の言うことは合っていた。これはまさしくガブリエラに対する処刑用BGMであり、博士を高揚させるための勝利用BGMなのだから。


「ふおおおお! 来た来た来たぁっ!」

「だからってあまり興奮しないように……」

「ふおおおおおおおお!!」

「駄目だ聞いてない……」


 興奮するのも分かるけど、興奮しすぎると博士の身が保たないのだ。その、全力を出し過ぎてガス欠になる感じで。


『チッ、たかが見てくれが変わっただけで!』


 相手選手が無数の腕を操作してこちらに攻撃しようとする。ついさっきと同じ展開だけど、システムMIXを起動した今は違う!


『な、なんだぁ!?』

「ふははは無駄無駄無駄ァ!」

『コイツ、動きがさっきと違う!?』


 彼女の言う通りだ。さっきまでの余分な部位が付いていたせいで可動域も低く、運動性能に難があった『セーブモード』とは違う。

 今の『エクスメタトロン』は危なげなく、寧ろ余裕全開で彼女の攻撃を躱しているのだ。


「これがこの機体の真の姿じゃあっ!」

『クソ、嫌な予感しか感じねぇぜ! それがウリエルの言っていた終焉の曲か!』


 終焉の曲とか言われてるの初めて聞いたんですけど。まぁある意味彼女の言う通り、今流れている曲は彼女にとっての終焉の曲かもしれない。


『その曲を止めないとヤバイって予感がビシビシと感じやがるっ!』

「ならば止めてみるが良い!!」


 曲が盛り上がる度にエクスメタトロンの動きも良くなっていく。その事実に、薄々感じていたガブリエラがまさかと目を見開いた。


『曲の盛り上がりと共に上がっていく機体性能……いったいどこからそんな動力が……まさか!? その曲自体が!?』

「その通りである!!」

「いやもう手の内全部バラしていくスタイル!」


 テンションが上がると勢いとノリではっちゃけるんだからこの人ぉ!


『おぉーっと!? 先程のずんぐりむっくりしていたエクスメタトロンがまさかの形態変化!! 一転してスタイリッシュとなった機体にガブリエラ選手、捉えきれないー!!』

『変身してスマートになるヤツ!』

『性癖発表おじさんも目を輝かしています! 効率と合理を突き詰めたサイロボの機体に風穴を空けるが如く、未知なる技術を持った旋風が吹き荒れるぅーっ!!』


 司会の言葉に観客席がわあああと沸き上がった。


『しかし気になりますねぇ! 既存のロボットの運動性能を遥かに超えるというのに全くエネルギー切れの兆候が見えません!』


 司会の言葉も尤もだ。


 カオスレースの時に説明したけど、この世界の燃料は基本的に何でも良い。そこに格差はなく、あるのは燃料となる素材の入手難易度ぐらいだ。


 共通するのは、使えば消費するということ。


 だというのに、僕らが乗るエクスメタトロンにエネルギー切れのような兆候はないし、寧ろ何かを消費しているような様子はない。強いて言えば操縦している博士の体力ぐらいだろう。


 だけど、それを馬鹿正直に話すつもりはない。少なくとも大会が終わるまでブラックボックスのままでいて――。


『説明しましょう』


 へ?


『え、誰ですか?』

『センリきゅんたちに技術提供し、共同でエクスメタトロンを開発した技術者の一人です』


 いや司会の席で何やってんの王女様ぁ!?


『え、え!? 説明してくださるんですか!?』

『流石に技術の全てを大会中に明かすことはできませんが、概要ぐらいなら説明しましょう』


 いやいやいや、説明しなくて良いって!? なんで当然のように司会席に座ってるの!? なんでスタッフの人たち『ラッキー!』って顔をしながら王女の席を用意するんだよ!?


 王女は僕のASMRによって協力者信者になった人だ。

 彼女が持っている技術を求めて仲間に引き入れ、彼女と共にエクスメタトロンを作り上げたというのに、どうしてそんな裏切り行為を……!?


『あなたはセンリ選手たちと同じチームのはず……なのにどうして説明をしてくださるのでしょう』


 司会もそのことに気付いているのか、怪訝な顔で王女に尋ねた。


『良いことを聞いてくれました』


 待ってましたと言わんばかりに答えるんじゃないよ……だがこれで、王女の口から弁明を聞くことができ――。




『センリきゅんとお姉ちゃんの共同作業で生まれた子供を自慢したいからです』




 何言ってんのさあなたぁ!?


『性癖を優先するヤツ』

『ありがとうございます』


 凄い、性癖おじさんと変態王女が握手する歴史的瞬間だ。空白の時代になってしまえ。


『それはつまり……百合では?』


 司会者さん?


『へー? ふーん? ほーん? ほほー? なるほどなるほどー? そういう関係なんだはーん? よし、良いでしょう! 特別ゲストとして解説を許しましょう!』


 良くないよ!?


『性癖に忠実なヤツ』

『ありがとうございます』


 なんなのこの人たち……。


『では解説いたします。あれは我が主から学んだ技術を更に発展させた技術……通称『システムMIX』です』

『システムMIX……!?』

『科学、魔法そしてジョブ……この三つの力を合わせ、既存の性能を遥かに凌駕するシステムのことです』


 普通に説明しちゃった……まぁそこまで説明されるともう諦めもつく。それに技術を広めること自体、博士が望んでいることだから遅いか早いかの違いだ。


『合わせるというと?』

『機体を科学、武装は魔法、そして動力はジョブの力で利用しているのです』

『動力をジョブで……!?』

『そしてそのエクスメタトロンには吟遊詩人としての力を動力にしたまさにセンリきゅん専用の機体……!』


 そう、王女の言う通りこの機体は僕がいるからこそ成立する特別な機体。僕が、この機体のメインエンジンなのだ。


「いやワシ専用の機体なんじゃが……」

「あっ……そうですね!」


 すみません流れ的に博士の存在を忘れてました。


『やっぱりそうか! ってことはこの曲は吟遊詩人のスキルの……!』

「コホン……御名答じゃっ!!」


 ガブリエラ選手の言葉に博士が肯定する。そう、一対のスピーカーから流れるこの曲は吟遊詩人にとっての必須スキル『BGMボルテージ』のための曲だったのだ。


『ボルテージを上げれば上げるほど機体性能が上がるってことか! こりゃあ観察に徹している場合じゃねぇな!』

「無駄じゃ無駄じゃ! 最早会場を含め、ワシらのボルテージは最高潮に達している!」


 そして最高潮にまでなったボルテージは、更なる力をエクスメタトロンに齎すのだ。


『チッ、上がんのが早すぎんだろ!?』

「MAXハイボルテージ……博士ぇ!!」

「行くぞガー太郎!!」


 博士の言葉にロボットを制御するためのメインOSとなったガー太郎が返事をする。




『ピーガガガ……Yes, sir』




 その瞬間、装備していたライフルが光輝き、銃口へと光が収束していく。


『これが……ウリエルが言っていた光か!』


 ボルテージがMAX時に使用できる『超時空機動勇者エクスメタトロン』が持つ唯一の超高火力兵装。


『はは、こりゃあ……っ!』


 ガブリエラに逃げ場はない。寧ろ地面に固定されているその『キラースパイダー』が彼女の逃げ場を無くしているという皮肉。

 耐久力があるといっても、それが無意味なことは先の予選で分かっているはずだ。


「行くぞぉっ! 二人共ぉぉお!!」

「これで終わりだぁ!」

『ピーガガガ……DESTROY』


 ゴォォォオオオオッッッッ!!!


 その瞬間、放たれる超高出力極太エネルギービーム。吟遊詩人が生み出すボルテージの力。


 即ち――『サウンドフルブラスト』。


『光になれぇええ!!』


 全てを飲み込む光の暴力であった。


『やっぱり――』


 目の前に広がる極大の殺意ロマンにガブリエラは見ることしかできない。機体もろとも光に飲まれて試合に負ける。それが今彼女に迫っている運命。


 そう、このままでは――。


 なら。


『――アレを使うしかねぇよなぁ!』


 自身が所属する会社も、社長すらも裏切る究極の奥の手を使うことにしたのだ。




『『バースデイコマンド、起動』!!』




 サイロボギルドが誇る『キラースパイダー』が光に飲み込まれたその瞬間。『キラースパイダー』から上空へと飛んでいく何かが現れた。


「なにっ!?」


 その光景に博士の口から驚愕の言葉が出てきた。そしてそれは僕も例外ではなく、ただ現れたその存在に目を見開くしかない。


 まるで蜘蛛の足のように、背中に無数の腕が生え、その手には大小様々な武器のパーツを持った漆黒の人型ロボット。


『ハッピーバースデイ……アタシ!』


 文字通り殻を破って現れたのは、ウリエルが提案しラファが製作したガブリエラの。抑圧された『本能』を曝け出した本当の姿。


 ――その名を。




『『ギガントガブリエラ』……!! ここからが本当の戦いだぜお前らぁ!!』




『人外体型から人型になるヤツ!!』

『センリきゅーん!! お姉ちゃんが応援してますよー!!』

『誰かこの二人を止めて!?』

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