第4話 敵幹部が登場するヤツ
「くっくっく……今月もまた始まったぞ……! 収穫祭の時が!」
RBF大会のVIP席で一人の男が笑う。彼の名前はサイモン。サイモン・ロボティクスのギルドマスターで、リアルでは某国のロボット兵器を事業とした会社『サイモンズ・インダストリー』の社長である。
「まーた始まったぜ……」
そんな社長に社員でもありギルドメンバーでもある女性、ガブリエラが辟易とした表情で呟いた。
「口を慎めガブリエラ」
「へいへい……我がエースパイロットは真面目だなぁ。つい最近過労でぶっ倒れてた癖によぉ」
「それを言うな……」
ガブリエラの言葉に眉目秀麗の男、ミカエルがため息を吐く。あの日ミカエルが床で寝落ちした姿を目撃して以降、こうしてからかわれるようになったのだ。
「なーんの話してんのー?」
「ラファか」
「よぉお嬢!」
そんな時、二人のところに一人の子供が現れた。サラサラな金髪に人懐っこそうな表情。それも当然のことで、実年齢十六歳とリアルの方も子供なのだ。
だがこの年齢で既に有名大学を飛び級で卒業しており、父であるサイモンのコネで入社を果たしたものの、その能力を疑う者がいないほどの優秀さを誇る天才児であった。
「いやぁお嬢の親父さんがまたいつもの発作って奴でよー」
「うわー」
ガブリエラの言葉にラファがドン引きしたような表情で自分の父を見る。
「誇ることじゃないんだけどなー」
「複雑だよなぁ……自分の父親があんなクソみたいな性格をしててよぉ」
「ねー」
「お前たち……」
ガブリエラもそうだがラファも自分の父親のことを嫌っていた。というのもリアル、ゲーム含めてこの会社に入社した社員は社長のことを嫌っていると言っていいほど社長に人望がないのだ。
リワード目的で『こんばこ』のプレイを社員に強制し、自らゲーム内に立ち上げたギルドに強制加入をさせるという身勝手さ。そしてロボット愛もクソもない合理的過ぎる兵器で大会賞品を独占する方針。
その上給料据え置きなのだから心証が悪いのは当然のことだった。
「ん、ん~! やはりラファ殿を社長にした方が得策だと思いますな~!」
「あっうりっちだー」
「今度はウリエルか」
「なんだよ全員揃ってんじゃねぇか」
そして最後にやってきたのは身振りが大げさな男ウリエルだ。彼もまた社長のことを嫌っているものの一人で、いつもラファを次の社長に仕立て上げようとする四人の中で最も自由奔放な人間だ。
「ところでミカエル殿」
「……なんだ」
「ミカエル殿の言う吟遊詩人……調べましたが誰も招き入れておりませんぞ」
「芸術狂いのお前でもか」
「流石の私でも、でございますな~」
ウリエルの言葉にミカエルは考え込んだ。あの後芸術狂いと呼ばれるほどの性格を持つ男ウリエルに、ミカエルが出会った麗しい吟遊詩人について尋ねたものの、彼は誰も招待をしていないと返答をしたのだ。
「しかしミカエル殿を夢の世界へと導いた謎の吟遊詩人ですか~……ん~! 私もその方の曲を聞きたいものですな~!」
「なっ、その話をどこで……お前かガブリエラ!」
「やっべ!」
「わぁー!」
「くっ……! ……はぁ」
ミカエルの剣幕にガブリエラとついでにラファが逃げ惑う。そんな彼女たちの様子を見てため息を吐いたミカエルは、謎の美少女吟遊詩人について思いを馳せる。
「……私が見たのは幻だったのか?」
だがそれにしては目撃証言はあった。ということはあの日、実際に誰もが見惚れる美少女がギルドに入ってきたことだけは確かなのだ。
「君が誰かは分からないが……」
VIP席にある窓から空を見る。どこかにいる『歌の君』とまたもう一度会えることができたのなら、この気持ちを伝えたいと願わずにはいられない。
――これがサイロボが誇る四人の精鋭。
ガブリエラ。
ラファ。
ウリエル。
そしてエースのミカエル。
人は彼らを――。
――四天王と、呼んだ。
◇
『さぁ始まりました! 『全世界ロボットバトルファイターズトーナメント』! 通称『RBF』! 機械がぶつかり、メロディーを奏でる! 鉄と油が臭い立つ鋼鉄の暴力! 果たして誰がこの大会を勝ち上がるのか! 司会と実況はこの私! ロボ宮がお送りします!!』
司会の言葉に会場にいる観客が歓声を上げる。今月に限って久しぶりに盛り上がりを見せる会場に事情を知らない常連客が困惑を見せる。それもそうだ。何せ今大会に限って、とある配信者が出場することが分かっているのだから。
『いやぁ~! 見渡すばかりの客、客、客! 今回の大会には何かがある! 謎の盛り上がりと集客を見せるRBFにこの私もワクワクが止まりません~! ではそんな皆さんに特別ゲストをご紹介いたしましょう!!』
ロボ宮が隣の席に手を向ける。
その瞬間、炎が現れ、消えたと思ったら見知らぬ誰かがいた。
『好きな性癖を発表する竜人です!!』
誰?
え、誰なの?
ねぇあのおじさん誰?
誰なのぉ!? 怖いよぉ!
『え、誰ですかあなた』
『間違われて突然表舞台に出てくるヤツ』
『え、間違われて好きな性癖を発表するおじさんが来た?』
ロボ宮がスタッフに確認するとどうやら間違えて似たような人を連れて来たらしい。まぁ同じ性癖発表ならええやろとこのまま進行することになった。
『それでは改めまして! 本大会におけるルールをご説明いたしましょう! 今回はまさかの最多出場者数! なので二つの場所で予選を行い、計十六組になるまで潰し合うバトルロイヤル形式を行います!』
そして残った十六組で勝者を決める戦いが始まるわけである。
『それでは観客席の皆様! モニターをご覧ください!』
ロボ宮の言葉と同時に、観客席全員が見れる位置に巨大モニターが出現する。そうして映し出されたのは、二か所の荒野に佇む参加者たちのロボットだった。
『それでは始めましょう! 勝利へのステージに挑めるのはいったい誰なのか! 全世界ロボットバトルファイターズトーナメント……いざ希望の未来へ、レディーゴー!!!』
◇
「おいおい、四人の内三人が同じ場所とか作為あるだろ」
転移させられた場所でガブリエラがそう呟く。
彼女が乗るロボットは、ロボットと呼ぶには些か躊躇する外見をしていた。その姿はガチガチに耐久力を高めたキューブ型の胴体から無数の腕が伸び、それぞれの手には重火器を装備させたような姿だったのだ。
「はぐれちゃったのはうりっちだねー!」
「ここで味方と潰し合うか……」
ここに転移させられたのは四天王の内三人……ガブリエラ、ラファ、ミカエルと、サイモン・ロボティクスに所属するギルドメンバーが数十名だ。いずれも大きさや細かい部分は違えど、ガブリエラが乗るロボットと同じ外見をしていた。
「クッソォ! よりにもよって四天王たちかよ!?」
「運が悪すぎだろぉ!!」
他の参加者たちから悲鳴のようなものが聞こえる。
RBFの勝敗は相手のパイロット席を潰した方が勝利するというルールだ。だがサイロボギルドが乗るロボットのパイロット席はいずれも並大抵の火力を叩き込んでも傷一つつかない最硬素材でできていた。
その上相手の操縦席を確実に叩き込む過剰な火力。まさしくロマンも何もかなぐり捨てて効率と合理性を求めた機体だろう。
「では、一先ずは有象無象を消すとしよう」
『了解!』
『う、うわあああああ!!?』
ミカエルの言葉と共にサイロボギルドのロボットたちが重火器を構えた。その姿を見て一斉に散る他の参加者たち。
だが、その火力から逃れられる者はいない。
「一つ」
「二つぅ!」
「みーっつ!」
一体、また一体と消えていく参加者たち。
このままではサイロボギルド以外の参加者たちは根絶やしにされ、残るのは同じギルド同士の戦いという予定調和。こうしてまたサイロボギルドがこの大会を独占するのかと誰もが思った。
だがしかし――。
『しゅーりょー!! ここでまさかのアナウンスだーッ!! これまでの予選から大幅に時間を短縮して、ついにトーナメントへと進む参加者たちが決まったあああ!!』
『!?』
突如として辺りに響いた司会の言葉に四天王を含めたこの場にいる参加者が驚愕した。始まって数分。脱落した参加者は少数。それなのにいきなり予選が終わってしまった事実に動揺を隠せない。
「……何が起きた?」
「っかしーな、それほど倒しちゃいないんだが」
「多分うりっちがいる場所が原因じゃないー?」
「なんだと?」
ラファの言葉に、ミカエルは一応もう一つの予選地にいるウリエルへと連絡を入れる。ザーザーと砂嵐のようなものが流れ、ようやく画面が映った。そして彼に声を掛けようとした瞬間。
『は、はは……!』
掠れた笑い声が響いた。
「ウリエルか? どうしたウリエル、そこで何が起きた」
『ひ、光ですよぉ……!』
「光?」
同僚のウリエルの様子がおかしい。あの芸術に狂い、いつも大胆にかつ大げさに振る舞う道化が、今やどういう訳か冷や汗をかきながらまるで笑みを浮かべるように顔を引き攣っていた。
『あぁそう、そうです……! 終焉の曲が流れていると思ったら、突如として光が私たちを包み込みました……! あぁいえ、私は咄嗟に緊急脱出を用いたので無事だったのですが、それでも生き残ったのは私とあの機体のみ!』
ウリエルの言葉が頭に入らない。確かウリエルがいた荒野にも少なくない数のギルドメンバーがいたはず。
それなのにサイロボギルドが結集して作り上げた耐久力を貫いて、一瞬で殲滅させたというのはいったいどういうことか。
「いったい、何が起きているんだ……!?」
◇
ふしゅううう……と全身から煙を吐き出す一つの機体。煙によって全身を覆われ、誰もその全容を知ることができない。ただ分かるのは、煙の向こう側から二つに光る、双眸の光りだということのみだった。
『予選A地点を突破したのはサイモン・ロボティクス所属、四天王のウリエル! そして――』
誰もがその光景をみて唖然とする。
『今大会初出場! 一瞬の内に全てを薙ぎ払ったのは機体登録名『超時空機動勇者エクスメタトロン』!! そしてその化け物機体を駆けるのはこの二人!! センリ選手とマスクド・リプルだあああああ!!!』
その言葉に、一泊遅れて観客席が歓声を上げる。誰もが思った。このつまらない大会を破壊するのはきっとこのチームなのだと。
誰もが思った。ロマンというものを見せてくれるのは、きっとこのチームなのだと。
――いつもの予定調和かに思えた大会に……さざ波が起きたのだ。
『予選を一瞬で終わらせるヤツ』
『あ、はいありがとうございます。性癖発表おじさん』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます