第3話 過去の敵が味方になるヤツ

 サイロボギルドの会議を盗聴した僕たちは、そのままバードボルテージバイクを二人乗りしながら目的の採取地へと先回りした。

 そうして辿り着いた場所は、地下へと続く洞窟のような場所の入り口だった。


「ふむ、確かここはストリウム鉱石を掘り出せる場所じゃったな」

「ここを大量に採掘されたらロボット制作に支障を来たしていましたね」


 ストリウム鉱石と呼ばれるそれは、動力源から各部へと流れるエネルギー伝達の効率を大幅に上げる素材だ。

 ロボット制作の他にも車などの機械系に使われる鉱石だけど、使用頻度の関係で主にロボット制作の方に使われることが多いのだ。


「それでどれぐらい集めればいいんですか?」

「武装も考えれば五千は欲しい。じゃが時間も足りないことじゃし、最低限となると二千ぐらいは欲しいのう」

「二千……」

「鉱石二千個ぐらいでできるのは骨格だけじゃな」


 :装甲や動力はまた別だな

 :流石に骨格だけで戦うのは無理があるぞ

 :だからって人数足らんだろ

 :二人で二千個かぁ

 :時間が足りないな


 必要とする数まで採掘して行ってもいいけど、問題は時間がないことだ。もたもたしていたらサイロボギルドの人たちが来るかもしれない。でもコメント欄の言う通り、必要最低限と言っても二人じゃあ集めきれないだろう。


「ぴーががが」

「ガー太郎も合わせて三人じゃの」

「あはは……」


 口には出さないけど、例えガー太郎をカウントしても焼け石に水だろう。そこまで考えて、僕はとあるアイテムを思い出した。


「そうだ」


 先程思い付いた内容通りに、僕はストレージから鈴のようなものを取り出した。


 :まさかそれは

 :いや草

 :呼び出すんかここでwww


 チリーンチリーンと手の中の鈴を鳴らす。まるで遠くにいるものを呼ぶように響く綺麗な音色に博士はほうと感嘆した。


「なんじゃそれは」

「……信者召喚の鈴です」

「は?」


 これはリョウと一緒にクリアしたサブクエの中で貰ったものだ。ちょっと僕にとってはあまり使いたくない部類のアイテムだけど、この際仕方がないか。


 そうしてしばらくすると。


 ――ドドドドドド。


「な、なんじゃ!?」

「結構はやいなー……」


 地響きが鳴り、地面が揺れる。そして段々その音が近付いてくるのが分かり、博士とガー太郎はお互いを抱き締めながら恐怖に震えていた。


「……まー……祖様ー……! 教祖様ーッ!!」

「うわぁ……」

「お、おい! なんか来とるが!?」

「信者が来てますねー……」

「信者!?」




『信じる者たちの鈴』

 プレイヤーネーム:センリを信じる者たちを呼び出す鈴。これを鳴らせば一部の地域を除き、ランダムで10人~100人の信者を呼び出すことができる。呼び出した信者はセンリの命令通りに動き、ダメージを受けてもセンリへの信仰によって死なず、一時的に離脱する。




「我ら教祖様を信じる者たち総勢百名、馳せ参じました!」

「いきなり最大かぁ」


 まぁでもこれはこれで好都合なのかもしれない。ちょっとうるさいけど今の僕たちに必要なのは人数だ。ガー太郎含めて三人は流石に二千個までは足りないだろうけど、そこに信者たち百人が増えたら余裕で間に合うはず。


 というわけで。


「君たちにはストリウム鉱石を集めてきて欲しい」

「了解しました! つきましては教祖様のご神託を受け賜りたいのですが!」

「え?」


 :草

 :まさかのコストで笑うwww

 :センリちゃんの表情からしてタダ働きさせるつもりで草生える

 :やっぱタダ働きは狂信者でもダメみたいですね


 え、神託っていうとASMRのこと? 一人一人にやるの? 返って時間掛かると思うんだけど。サウンドオブジェクトで録音した物を渡すってのは……あっ駄目ですかそうですか。


 来たからには生で聞きたいと、なるほど。

 知るかそんなもん。




 ◇




 そうして多大な疲労感と共に、僕たちは素材の採取を完了させた。

 それもストリウム鉱石だけじゃない。動力源に必要な魔石を採取したり、装甲に必要なモンスターの素材を集めたりと色々終わらせて来た。

 その上で、僕のASMRを聞いた信者が予想以上に張りきったお陰で必要最低限どころか博士が望む量の素材を入手できたのだ。


「ふむ……ワイバーン系の鱗の下に弾力性に優れたフロッグ系の素材を張り付けて衝撃を吸収するという方法は……」


 博士が集めて来た素材を見ながらブツブツと独り言を言いながら考える。時折素材を手にしてあーでもないこーでもないと発言した次の瞬間に素材を放り出した光景を見た時はイラっと来たけども。


 因みに信者の方々は既にお帰り頂いた。


 時間も過ぎて行くと、僕の目の前に段々と人型のロボットが組み立てられていくのが見える。

 博士がロボット好きな性格だからか、西洋騎士風のかなりカッコいいデザインになっていて心がワクワクする。


 しかし突如として手を止めたと思ったら博士はいきなり頭を抱え始めたのだ。


「う~……駄目じゃ駄目じゃあーっ!!」

「ちょ、どうしたの博士!?」


 ;やっぱり素材とか足りなかったか?

 :ロボット制作って難しいところあるよね

 :まぁ初めて作ったロボがガー太郎で次は指だけだしなぁ


「もしかして素材に何か問題が?」

「素材は大丈夫じゃ……」

「じゃあ設計に不備とか」

「ワシの設計は完璧じゃもん……」

「だったら何が問題なんですか!」


「まとまり過ぎて面白くない」


「はっ倒しますよ?」


 予想以上に予想以下な答えを聞かされて衝動的に手を出さなかった僕を褒めて欲しい。

 まぁロボットができないよりかはマシな回答だと思うけど、確かにロマンを重視している博士にとっては死活問題なのかもしれない。


「今ってどんな感じなんですか?」

「お主のことも考えて、各部にスピーカーのような物を装備させておる。鎧兜にあるマスクを下げると露出された口から『ギガンティクスボイス』が。手の平には音の波導で敵を吹き飛ばす『オラクルハンド』とかあるの」


 :それでいいじゃねーか!!

 :それで面白くないって何www

 :もういいよこれで

 :これ以上何を求めるんだ……


 博士の理想が想像以上に高すぎて何も言えない。なんでそんなロマン武装やって面白くないって言うの? これで面白くないならどのロボットも博士の理想を超えられないよ!


「音楽の力というと少々安直が過ぎたか?」

「安直……?」

「これ以上は動力の問題が出てくるが……」


 手に入れた素材の範囲内だけで博士はなんとか頑張ろうとしているものの、やはり限界はあるようだ。そのせいで博士は不完全燃焼気味らしい。


「やっぱ駄目じゃあ! 固定観念やら常識が邪魔して思うように作れん! 技術的困難とかクソくらえじゃい! 何か新しい技術とかないのか!?」

「無茶言わないでくださいよ」


 しかしだからといってここで放り出すことはしない。何か博士の力になれないかと考えていると、突如としてメッセージが来た。


『フレンド:アーノルド・リークスからメッセージが届きました』


「……これは」


 そこに書かれていた内容を見て、僕は閃いたのだった。




 ◇




「ふん、ようやく起きたかと思えばダンマリか」

「……」

「貴様一人であのような兵器を作れるはずがない。恐らく協力者がいた筈だ。そいつのことを話せ」

「……ふっ」


 アーノルド教官から威圧されるように詰問をされるも、治療も終え、目が覚めたばかりの王女は何も言わない。それどころか何も怖くないというように教官からの質問に鼻で笑う始末だ。


「フッ、貴様がその気なら俺にも考えがある」

「……?」


 どうあっても口を割らない王女に、アーノルド教官は決断した。彼は歩いて尋問室の扉へと行くと、ドアノブを回して開く。そうしてそこから現れたのは……。


「っ!? 貴女は……!?」


 そう、僕である。


「久しぶりですね」

「……何故この方を?」


 僕の言葉を無視して王女が教官の方へと向く。そんな王女の視線を受けた教官は、王女の方へと近付くと懐からとある写真を見せた。


「コイツを覚えているか」

「? この方は確かウェルズの部下の……」


 そう言った王女に教官は写真を仕舞うと、次に懐から取り出したのは板のようなものだった。そして教官はその板に映し出されている映像を王女に見せた。


「今の姿がこれだ」

「なっ!?」


 教官が見せたそれに王女が絶句する。


 何故ならそこには――。


『教祖! 教祖! 教祖!』


 あれだけ使命に誇りを抱いていた部下が、別人のように目を輝かせて理解不能な言葉を連呼していたのだ。

 なんと悍ましい姿なのだろう。あれだけ共に理想を追い求めていた部下の変わり果てた姿に王女は恐怖を抱いた。


「これが数分後のお前だ」

「ヒェッ」

「センリ」

「……はい」


 教官の言葉に僕は王女の前へと近付いた。


「お久しぶりです」

「わ、私に何をするつもりですか!?」

「いやASMRを……」

「くっ殺してくださいっ! 人間の尊厳を奪われるぐらいならここで死んだ方がマシです!」

「そこまで?」


 まぁとにかく、僕には王女の持つ技術力が必要だ。機械と魔法、そしてジョブの力を融合した兵器を作り上げた技術を持つ彼女だからこそ、きっと博士の助けになれると思ったんだ。


 ちょっとここまで言われると流石に傷付くけど、まぁいいか。




「近付かないでください! 何を持って……マイク? そのマイクで何をするつもりですか!? やめてください、やめ、ヤメロォー!」




 こうして王女を協力者にした僕は、王女からの助力を得てロボットの完成を目指した。そして時間は過ぎ去って行き――。


 ――ついにRBFが始まったのだ。

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