第2話 ボーイミーツガールするヤツ
サザナミ博士は考えた。
大会の期日も近いし、ロボット制作ならともかく一から素材調達となると確実に間に合わないと。ならばここでサイロボギルドのロボットなり素材なりをパクればいいのではないかと考えたのだ。
対してセンリは考えた。
いや盗んだら駄目だろと。
「ロマンで打ち負かす話はいったいどこへ?」
「だって彼奴等、統一規格のパーツ量産のために大量の素材を採取するせいでこちらに素材が回らないんじゃ!」
「それで彼らから盗むって発想が極端だよ!」
:このジジイ、倫理観が死んでる
:まぁでも実質独占状態だからなぁ……
:生半可な手段じゃ大会に間に合わないのは確か
だからといって明確な犯罪行為をやれば、先程襲撃をしに来たPKたちと同じ
そう考えるとやっぱり盗みはリスクが高すぎると思う。
「うむぅ、だがしかしな……」
「やっぱり今回の大会は諦めるしか……」
大会は毎月行われるので、今回の参加を見送っても別に問題はないだろう。ただ今大会限定の賞品とかが貰えないだけで、ロマンロボで打ち負かすのは別に後の大会でもいいというわけだ。
「……それでもワシはこの大会に出たいんじゃ」
「博士……」
それでも博士は拒否をした。ロマンがあるロボットで打ち負かすのが博士の目的ではあるものの、それはそれとして何かこの大会でやるべきことがあるみたいだ。
「せめて素材だけあれば……」
「素材だけ……」
でもそう考えても無理な物は無理だ。ましてやサイロボギルドからロボットや素材を盗むという手段なんて……あっ。
「いやでも……」
「なんじゃ? 何かを思いついたのか?」
「流石にこれはなぁ……」
「いいから話すんじゃ! これはロボット業界の未来を左右する一大事なのじゃぞ!」
「うーん、まぁ言いますけど……」
博士に催促された僕は、躊躇いながらもついさっき思い付いた方法を話す。
「盗むのは駄目なんですけど、じゃあ盗まなきゃいいんですよ」
「え」
:おや?
:君は何を言っているんだい?
:今度は何を思いついたの?
「博士、やっぱり盗みは駄目です」
「うむ、まぁそうだな」
「でも潜入ならいいんじゃないんですか?」
「え」
:センリちゃん!?
:!?
:え!?
:もしもしポリスメン?
:ここに倫理観ぶっ壊れてる男の娘が
:潜入なら大丈夫とは(哲学)
「潜入するのはやっぱりサイロボギルドです」
「お、おう」
「そこで次の採取候補地を聞いて、彼らが素材を採取しに行く前に先回りして素材を採取するんですよ」
:やっぱり盗みじゃねーか!
:情報! 情報だからセーフ!
:盗みは盗みなんだよなぁ
大量に素材を採取するということはそれなりに大人数で行われなければならないことだ。
当然そのためのスケジュール管理とか会議をやるのは当然のことで、僕たちはその情報を聞くのが目的だ。
「だが先回りでいいのか?」
「採取された素材のリポップ時間ってそれなりに長いじゃないですか」
そのような仕様で彼らが大量採取をしてしまえば、当分その地の素材を採取することができなくなる。だからその前に必要な素材分だけは取りたいのが僕の考えだ。
「まぁでも流石にマナーがですね――」
「いいじゃろう」
「え?」
実物を盗むよりかはマシとはいえ方法は明らかにグレーゾーンだ。だから僕は最後に冗談だと一笑に付そうと思ったけど博士が何やら決断をした。
「いやあの博士?」
「その案に賛成じゃ」
「いや待って」
:センリちゃんが動揺してるwww
:センリちゃんが始めた物語だぞ
:中途半端に良心が残ってなければよかったのに……
「ではお主は女装をして潜入するんじゃ!」
「なんで女装!?」
「え、いやお主男じゃろう? もしや女だったか? ワシの目が曇ったか?」
「いや男ですけど……」
「じゃあ女装で問題ないじゃろがい!」
「だからなんで女装を!?」
「さてやれるだけやってみるぞ、ガー太郎!」
「ぴーががが。れっつしーふ」
「話を聞いてよぉ!!」
◇
「おいなんだあの可愛い子……」
「いや知らんが……きっとどこかのお偉いさんの客では?」
「……」
「お、おい! こっち見て微笑んでくれたぞ!」
「バーカ、俺の方を見たんだよ!」
僕は今サイロボギルドに潜入している……その、女装で。このゲームってどの性別でも分け隔てなく、着れる衣装に制限がないからこうして僕が女性の服を着ても問題ないんだけど……なんで誰も気づかない?
「なんだこのプリティーガールは!?」
「声を掛けてくる!」
「おい馬鹿止めろ……お偉いさんの客だったらどうすんだ」
結構堂々としているのに、みんなお偉いさんが呼んだ客だと信じて誰もツッコミを入れてくれない! なんなのこの状況!? 潜入って言うか普通に招き入れられてるんですけど!?
:50000¥/ ありがとう……ありがとう……
:50000¥/ 保存用と観賞用と実用のためにスクショしました
:50000¥/ もう俺の性癖はボドボドダァ!
:【G・マザー】50000¥/ おっほー
:【みるぷーお姉さん】50000¥/ おっほー
変な投げ銭ばっかり来るぅ……。
:【G・マザー】一応言うけどサイロボ側にチクったら神の権限でもう二度と拝ませないから
:ヒェッ
:イエスマム!
:了解!
お母さんがそうやって釘を刺してくれるのはありがたいけど、いったいどういう権限をお持ちで?
それに博士に無理矢理女装させられた結果、同時視聴者数最多を更新し、登録者数が大幅に増えているし。もう訳が分からないよ。こんな女物の服を着て、ちょっと髪型を変えただけなのになんで誰も男って気付かないんだよぉ……怖いよぉ。
「えー次の候補地を言うぞー」
「っ!」
適当に歩いていくと、とある部屋の中から上記のような声が聞こえた。
僕はすかさず『サウンドオブジェクト』を作成して誰も見つからない場所にくっ付ける。これで数分後に回収しにくれば、彼らが会議していた内容を知ることができるぞ。
そうして適当に歩いているその時だった。
「そこで何をしている?」
「ひゃあっ!?」
僕の後ろから突如として男の人が声を掛けてきたのだ。
「え、えーと……ちょっと散歩を……」
「ふむ?」
赤い髪の眉目秀麗な男の人だ。軍人のような服を着て、その佇まいから並大抵の人じゃないオーラを感じる。言うなれば敵組織のイケメン幹部か何かのような感じの人だ。欠点としてはゲーム内だというのに目元に隈があるぐらいだろうか。
:凄いイケメンだ
:センリちゃんから離れろ!
:でもコイツどっかで見たことあるような
「貴女のような方が『サイモン・ロボティクス』に来訪する予定はなかったはずだが……」
マズイ、ポジション的な意味で結構上の人かもしれない……! 彼がそうやって僕を訝しんでいる間、僕は何か対策を考えないと……あっそうだ!
「こ、こう見えて私は吟遊詩人なんです。その縁でここの方から個人的に歌の披露をお願いされて来たのですよ」
「個人的に?」
「そうです」
「というとアイツが呼び出したのか? 芸術狂いのアイツならまぁ分からなくもないが……はぁ、だから事前に申請しろとあれほど……」
なんか結構苦労人なんだね……だけど好都合だ。ちょうど僕の言葉を裏付けるような人がいてよかった。さて、作戦はここからだぞ……。
「良ければ私の曲をお聞かせしましょうか?」
「なに?」
「歌は心と精神に安らぎを与える芸術です。見れば、相当お疲れのご様子なので一曲披露していただきたく……」
「ふむ……まぁここ最近疲れ気味だからな……せっかくだから頼むとしよう」
「ありがとうございます……では」
僕はストレージからリュートを取り出す。曲は……適当に癒しっぽい曲でもいいか。歌詞は残念だけど用意できてないから無しで。
:まさかオリジナルかこれ?
:楽曲検索しても該当曲なし……
:即興でこれとかやっぱ才能あるなぁ
:歌詞はなくていいぞ
「これは……」
僕の曲を聞いてイケメンがぼーっと聞き入る。いやそんな聞き入っているとちょっと照れる。警戒を解かせるために曲を演奏しているだけなのに、思った以上に油断してくれて困惑してしまう。
「――」
目を瞑って曲を堪能するイケメン。
そんな彼に、僕は近付いていくと――。
「『スリーピィウィスパー』」
「んっ……うぅん」
「おっと」
いとも簡単に睡眠状態に入ったイケメンが倒れようとしたところを僕が抱き抱える。そっと床に寝かして、僕はふぅーと息を吐いた。
「上手く行った……」
:油断を誘うために演奏したのか
:油断してればウィスパー系の効力も上がるしね
:あれを聞けば誰も油断する。俺もそーする
「さて、もういい時間だよね……?」
その後、僕は誰からも怪しまれずに会議の内容を録音した『サウンドオブジェクト』を回収し、そのままギルドの建物から離れたのだった。
◇
「おい起きろミカエル!」
「ん、うん……? ここは?」
「寝ぼけてんのか? ってか寝てたしな!」
「? 寝てた? 私が?」
同じ軍人服を着た同僚に叩き起こされたミカエルは、自分が先程まで寝ていたことに驚愕していた。
何せリアルの方もゲームの方も仕事が忙しく、あまり寝ていないのだ。というよりもゲーム内の仕事もリアルの仕事に含まれているのだが。
「お前がこんな床で寝てるとか、明日は槍が降るな!」
「……」
「おいどうした? やっぱ仕事がキツイか?」
「……まぁキツイのはいつものことだ」
サイモン・ロボティクスはとある外国の企業が作り上げたギルドだ。その目的は『こんばこ』で開催されるRBFを制覇し、その賞品を独占すること。そのためにロボット事業がメインの本社が自らのロボット工学技術を用いて、大会用のロボットを作り上げて来たのだ。
「おいおい辞めるなんて言うなよ? お前は我がギルドが誇るエースパイロットなんだからな!」
「……分かっている」
肩を組もうとした同僚を避けて、ミカエルは自室に戻ろうとする。彼の頭には今、とある人物のことでいっぱいだった。
「あの曲は凄かったな」
自分が寝落ちするほどの曲を弾いて見せた彼女を思い浮かぶ度に、心臓が大きく脈打つ気がした。こんなにも自分が夢中になれるほどの演奏して見せた彼女の姿が頭から離れられない。
「……会いたいな」
プレイヤーネーム:ミカエル。
ゲーム内で初の恋を感じた日だった。
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