サブ4 天翔ける勇者はかく語りき

第1話 主人公と博士が出会う時、物語が始まるヤツ

「ひぃ!? 逃げろぉ!!」

「なんだあの火力は!?」

「あんなんがこっちに来たら死ぬぅ!」


 向きを間違って撃ってしまったロケットランチャーの威力を見て、荒くれPKが逃げ惑う。結果的にオーライだったものの、こっち側の傷は予想以上に深かった。いや、こうなったのは説明書を読まなかった僕の責任だけど。


「ごめんなさい……」

「ワシのロボット……」

「ぴー……がががが……」


 巻き添えで吹き飛ばされた黄色いロボット……お爺ちゃんが言うにはガー太郎は無事だった。良かったと同時に彼らに対して強烈な罪悪感を抱く。そんなことを想っていると、お爺ちゃんがぽつりと呟いた。


「――責任は」

「……へ?」

「責任は取ってくれるんじゃろうな……?」


 いや、まぁ……そうなるよね。


 :責任は体で

 :ぐへへ

 :まぁこれで断れなくなったよね


 コメント欄の言い方はアレだけど、お爺ちゃんたちに対して酷いことをしてしまった僕に拒否権がないのは確かだ。まぁ元々お爺ちゃんの話だけは聞く予定だったので別に問題はないけど。


「分かりました……それで僕には何を?」

「取り敢えずワシの研究所に来てもらおうか」

「はぁ……」


 そう言って、お爺ちゃんに連れられたのはまるで廃棄された町工場みたいな場所だった。ボロボロだなぁとか、これでロボットを作る研究所? とか結構僕が言えたセリフじゃない考えが浮かんでくる。


「さぁ、入れ」

「お邪魔しまーす……」


 :うわぁ

 :中もボロボロだな

 :妙に生活感があるスペースがあるけど


 コメント欄の言う通り、ボロボロな内装の一角に整理されたスペースが存在していた。ベッドやテーブルがある辺り、もしかしてあそこで寝泊まりをしているのだろうか。


「散らかっていてすまんの。あっガー太郎、台はあそこら辺に置いといてくれ」

「ぴーががが、了解しました」


 僕が吹き飛ばした台の残骸をガー太郎がお爺ちゃんが指示していた場所に置いて行く。そして彼は自分に課せられた命令が終わったら、今度は冷蔵庫に行って水を用意し始めた。


「……」

「凄いじゃろ、ワシが作ったガー太郎は」

「はい……え? 作った?」

「そうじゃ。ガー太郎はワシが初めて作った自立型ロボットじゃ」


 :ほーん自立型ロボット

 :ロボットかぁ

 :そういやRBFに出るって言ってたな


 RBF。全世界ロボットRバトルBファイターズFトーナメント。車という乗り物もそうだけど『こんばこ』のこれまでの大型アップデートでロボット制作システムが実装され、それによってロボット同士による格闘大会が生まれたのだ。


 だがその大会の人口はカオスレースより低い。


 ――というのも。


 :サイロボが強すぎる

 :あそこ一強でおもんない

 :なんだよトップ10全部サイロボのロボットとか


 そう、RBFに参加しているRBF専門海外ギルド『サイモン・ロボティクス』の作るロボットが強すぎて誰も勝てないのだ。

 それもサイロボギルドが作るロボットは人型ロボットというわけでもなく、実用、効率、合理的をメインにした無骨なロボットばかり。


 絵的な華もなく、全てが統一された規格。無骨なロボットが悪いわけではないが、効率を突き詰めすぎて返って代り映えしない戦いにいつしか大会の人口が下がっていった。そうしてできたのが現在のランキングが全て『サイロボ』によって埋められた独占状態となっているわけである。


「そう言えば名乗っておらんかったな。ワシの名はサザナミ。是非ワシのことは博士と呼んでくれ」

「それじゃあ博士で。それで博士はRBFに参加するって言ってたよね?」

「あぁそうじゃ!」


 ドン! と興奮したように博士がテーブルを叩く。


「お主には是非ワシと一緒に大会に出て欲しいのじゃ!」

「ちょちょちょ、近い近い!」


 顔を近付けた博士を手の平で押し留める。それでもなお興奮した博士は、拳を作って自分の目的を熱弁した。


「ワシはな……この大会で為さねばならぬことがあるんじゃ!」

「為さねばならぬこと……?」

「即ち――」


 クワッと目を限界まで開かせ、叫ぶ。


「ロマン満載のロボットで彼奴等を叩き潰すことじゃあ!!」

「じゃー。ぴーががが」

「えぇ……」


 ろ、ロマンですか……まぁ確かにRBFにはロマンが足りないと言う配信者の言葉とか聞いたことがあるけど……。


「大体なんじゃあのロボットたちは! 無骨なロボットも捨てがたいが合理性を突き詰め過ぎて最早生産工場ロボットのようじゃ! 二本足? 何それ美味しいの? と言わんばかりにどいつもこいつも固定台やらやりおって! ワシが思い描いていた人型ロボットのバトルとかどこ行ったんじゃ!? ダブル動力炉による超パワーは!? 変形ロボや合体ロボは!? ふざけんなリアリストめ!」


 リアルロボット過ぎるにも大概にしろというわけですか。思ってた以上に博士の大会への情熱が斜め上だったよ。


 :分かる

 :思ってたより博士の心が少年に溢れてた

 :男はいつまでも変わらねぇからよ……

 :この博士とはいい酒が飲めそうだ


「それで僕を誘った理由は?」

「ズバリ! お主の音楽の力じゃ」

「音楽……!?」


 :おっ、マク○スか?

 :ヤッ○デカルチャー!

 :俺の歌を聞けぇーっ! ってか?

 :キラッ☆


「ワシが作ったロボットにはいまいちインパクトに欠けておってな……それで何かユニークな能力を付けられないかと考えていた矢先にお主の曲を聞いたのじゃ」

「えぇ……」


 僕の歌は兵器か何かですか? ちょっと複雑な気分なんですけど。


「そんな顔をするんじゃない。ワシは決してお主の事を貶しておらんぞ? お主の音楽の力はワシに多大なインスピレーションを与えてくれた。お主の才気溢れる音楽の力があったからこそ、ワシは声を掛けたんじゃ」

「博士……」

「……まぁ歌詞は置いといて」

「え、何か言いました?」


 まぁとにかく、博士にそこまで期待されたら僕も頑張るしかない。巨大ロボットかぁ……これまでロボゲーを遊んできたけどVRでのロボゲーはやったことがない。

 きっとリアルのような搭乗席で操縦をするのだろうか。ちょっとじゃなく、かなり楽しみだ。


「分かりました! 頑張って操縦します!」

「いや操縦するのはワシじゃが」

「へ?」


 :博士が操縦!?

 :博士兼パイロットかぁ

 :センリちゃん自分が操縦できると思ってたのに梯子を外されて草


「え、僕が操縦するんじゃないんですか?」

「ワシが作ったロボット、ワシに最適化されたロボット、ワシ好みのロボット! ならばワシが操縦するしかないじゃろがい!」

「えぇ……」

「やだやだやだワシが操縦するもん! 誰にも操縦席を渡したくないもん! ワシが一番上手く操縦できるもん!」


 :駄々こねてて草

 :なんだこのジジイ!?

 :心が少年というか全く成長してないっていうか


「わ、分かりました! 分かりましたから!」

「ほんとか? ワシからパイロットの座を奪わないのか?」

「本当ですってば……」


 呆れるように言うと、それが本当だと分かった博士が立ち上がった。


「コホン……まぁかと言って、操縦席は渡せんが搭乗席は用意してやるぞ」

「どういうことですか?」

「複座式にするんじゃよ」

「複座式ロボット……!?」


 :おぉロマンだな

 :やっぱり二人で出るなら複座式だよな!

 :じゃあ操縦が博士で、センリちゃんがサポートか

 :カオスレースの時と同じだな

 :センリちゃん、今回も操縦側ならず


「クックック……! いやぁ腕が鳴るのぉ! そうと決まれば早速今のロボットを改修して――」


 そう言って、博士が振り向く。

 そこには僕が木っ端微塵にしたロボットの残骸があった。


「あっ」

「……まぁ、最初からじゃな」

「ご、ごめんなさい!」

「いや、いいんじゃ……どうせ指しかできておらんし」

「指しか!?」


 そのたったの指のパーツだけでよくワシが制作しているロボットなんて言ったね!? 破壊した僕が言うのもなんだけど!


「素材が足りんかったのじゃ……しかも指のパーツで全て使ってしまって、今新たにロボットを作ることなんてできん」

「まぁ研究所の有り様を見れば納得ですけど……」

「しかしそこにお主という存在が現れたのじゃ」

「え、僕?」

「お主、総合ギルドに登録しておるな?」

「まぁ登録してますけど」


 :なるほどね

 :なければ調達すればいいじゃない

 :そうか、今壁外へ行けるんだったな

 :壁外で素材調達か!


「そう! これからお主はワシと――」

「ゴクリ……っ!」




「サイロボに忍び込んでロボットや素材をパクるんじゃ……!」

「いや泥棒ーっ!?」


 とんだクレイジージジイだよこの人!

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