第3話 パターン化した狂気! ……ええ(諦め)

 僕は今、チュートリアルを受けている。


「そっちへ行ったぞ!」

「はい!」


 兵士さんの声に僕は彼が武器を構える。こちらに向かってくるのは、目を赤く光らせ、混沌のオーラを身に纏う一匹の角が生えたウサギだった。


「『風の音撃』!」

「――ッ!?」


 元がホーンラビットだからか、毎回そよ風と言われる『風の音撃』でも倒せた。だけど、目を赤く光らせたコイツは通常とは異なる性質を持つようだ。


「っ、そんな!?」


 目を赤く光らせ、混沌のオーラを身に纏うモンスターは倒してもまた蘇る。更に狂暴となり、暴走をするこのモンスターのせいで、僕と兵士さんは苦戦を強いられていた。


「なんなんだコイツらは!?」


 兵士さんが怒鳴るように言う。中央広場にいる僕から話を聞くために、詰め所へと向かおうとした矢先にこれらのモンスターに襲われたのだ。

 本来は壁の外にいるはずのモンスターなのに、まるで街の中から現れたかのような登場に、僕と兵士さんは交戦せざるを得なかった。


「クソ、倒す度に強くなる……!」

「兵士さん!?」


 たった二匹。それも序盤の国で出てくる弱いモンスターだというのに、兵士さんはやられそうになった。


 そしてその次の瞬間。


「……なっ、なんだこれは……?」

「え!?」


 ホーンラビットが飛び、その凶悪になった角を兵士さんに貫こうとした矢先。ホーンラビットの体が空中で止まったのだ。ホーンラビットの体を纏っていた混沌のオーラが消えて、代わりに青いオーラのようなものがここにいる全てのホーンラビットを

纏っていた。


 そしてそのオーラはモンスターだけじゃない。


「お、お前! その胸はいったい……!?」

「む、胸……?」


 兵士さんの言う通りに僕の胸を見ると、そこには青いオーラを纏ったホーンラビットと同じようなオーラが、僕の心臓に当たる部分から出ていたのだ。


「なに、これ……」


 今の状態に困惑するものの、二体の異常ホーンラビットがまるで時間が止まったかのように停止しているのは間違いない。だからこそ、僕は混乱する頭を無理矢理抑え込めて、二体のホーンラビットに攻撃を仕掛けた。


『ぎゃぴっ』


 リュートから放たれた『風の音撃』を受け、あれだけ厄介だった二体のホーンラビットはいとも簡単に倒れ、復活することはなかった。


「……」

「……」


 気付けば僕の胸から零れた青いオーラは消え、辺りには静寂が流れた。


「取り敢えず……」


 ショートソードを納刀した兵士さんが言った。


「詳しい話は詰め所で聞こうか」

「はい……」




 ◇




 はい、以上チュートリアルの内容でした。


 詰め所で尋問を受けていた時に何やら偉い人が僕を解放してくれたり、その後偉い人の命令で兵士さんから案内を受けたり。最後には総合ギルドでギルド証という名の身分証明書を登録したりしたのだ。


 :これで一人でデミアヴァロンの外へ行けるね

 :5000¥/ チュートリアルおめー!

 :ここまで来るのに長かったな……

 :どうせチュートリアル中にまた何か起きるかと思ってたけど特に問題なく終わったね


 コメント欄の通りに確かにチュートリアルは問題なく終わった。これまでチュートリアルをやろうとしたらチャラ男が来たり、兵士が吹き飛ばされたりと散々な目に遭ってきたからね。


「ようやく僕にも人並の運が……」


 :ほんとぉ?

 :絶対この後なんかあるぞ

 :槍が降ったりして来てなwww


「フラグを立てないでよ」


 僕の場合洒落にならないんだってば。


 とにかく、このチュートリアルで僕たちプレイヤーに関する謎が生まれたわけである。

 どうして中央広場に突然現れたのか。どうして僕の心臓から青いオーラが出ているのか。どうしてその青いオーラが混沌のオーラを身に纏ったホーンラビットを復活させずに倒せたのか。


 突如現れた『カオスモンスター』と呼ばれる特殊なモンスターと、僕を詰め所から釈放させた偉い人が僕を見て言い放った『アバター』という単語の意味。それらの意味に関わる謎とこれから起きる長い物語が始まるのだ。


 カオス・イン・ザ・ボックス。

 ――これは、罪と罰の物語である。




『チュートリアルをクリアしました』

『プレイヤー:センリは『スロウスハート』に目覚めました』




 ◇




「ここを通るのは嫌なんだけどなぁ」


 デミアヴァロンの中央広場は一番地区から七番地区を繋ぐ中継場所だ。だから地区間への移動はこの中央広場を通る必要があるんだけど……僕にとってこの場所はろくな思い出がない場所である。


「あっ、そう言えば……」


 中央広場の適当なところで座った僕は、ストレージから『吟遊詩人のリュート』を取り出した。この楽器は総合ギルドでの登録帰りに新しいリュートを購入したんだ。因みに入門用のリュートは下取りに出さずに、記念としてまだストレージの中にあるよ。


 さて。


 手に持ったリュートを見て、構える。




 吟遊詩人のリュート。


 吟遊詩人として生きるあなたへ。

 手に楽器を持ち、勇気の音色を奏でれば。

 音楽は常に君と共にある。




 :おっ、何するん?

 :楽器を持って……?

 :何か演奏でもするのか?


「実はね、吟遊詩人になったらやりたいことがあったんだよ」


 吟遊詩人を選んだのは自分で楽器を弾いて、歌を歌いたかったから。脳波スキャンシステムで脳内にあるメロディーを指が勝手に演奏してくれるけど、それでも自分の指で演奏する感覚は感動のあまりとても言葉では言い表せないほど。


 :なんだこのメロディー?

 :すっげぇいい曲……

 :似てるものはあるけど聞いたことないな

 :もしかしてオリジナル!?

 :え、センリちゃん作曲できるの?


「ううん、できないよ」


 でもできないからこそ、ゲームで頭の中にあるメロディーを演奏できるのが一番の楽しみだった。歌を歌うことが好きで、その中には自分が考えたメロディーや歌詞を歌うのが好きというのもある。

 だからこそ、吟遊詩人になったら自分の考えたオリジナルの曲を歌うのが僕のやりたいことだったのだ。


 :もうメロディーからして最高

 :センリちゃん才能あるよ

 :この曲を配信してくれー!


「それでは行きます『鋼の漢』」


 今日までに考えた歌詞を思い浮かべ、僕は歌った。テーマはつい先日リョウとクリアしたサブクエの内容から着想を得た歌詞だ。




「爆発する本能 いざ行け信者

 負けるなマッスル 気分はハッスル

 そびえ立つレールガン ビッグレールガン

 レールレール ガンガンコカン

 鋼の漢よ 敵を貫け」




「――……決まった」


 :はいストップ

 :何この……何?

 :恵まれた曲から来るクソみてーな歌詞

 :ガンガンコカンwww?

 :歌詞はいいんで曲だけください

 :微妙に笑えばいいのか分からないラインを突いてくるのやめて?


 あれ、なんか反応が微妙そうだけど……やっぱり素人が考えたメロディーは駄目だったのかなぁ。メロディー部分は即興で考えたからやっぱり練り込み不足だったのかも知れない。


 :違う、そうじゃない

 :逆や逆ぅ!

 :作曲と作詞は別にした方が良いと思う、うん(善意からの忠告)


 そこまで言うなら……よし分かった! じゃあ作曲は別の人に頼むとするよ!


 :やめろぉ!

 :その有り余る作詞への自信はなんだ……

 :リョウの嫁だろ、なんとかしろよ

 :【リョウ】昔から歌詞の部分だけは都合のいい目をしているんだ(白目)

 :幼馴染の保証来たな

 :苦労を感じさせる文面だぁ……


 さて、僕のやりたいことはこれで終了! 念願叶ったオリジナル曲での演奏はこれまで得て来たトラブルによって荒んだ僕の心を癒してくれるよう。気分を一転した僕は、その場から立ち上がる。


 そして。


「ナイス演奏だったのうお主」

「え?」


 後ろからお爺ちゃんのようなしわがれた声が届いた。後ろを振り向くとそこには白衣を着た猫背のお爺ちゃんが立っていたのだ。


「ワシはお主のような逸材を探しておった!」

「え、ええ?」

「どうじゃ? ワシと一緒にステージに立ってみんか?」

「ステージ!?」


 :もしかしてスカウトか!?

 :センリちゃんアイドル化計画!?

 :いやでも思い直せ!

 :そうだった! あの魔のオリジナル歌詞を聞いてこの反応とか絶対ヤバイって!


「ステージの上で歌って欲しいんじゃよ!」

「ステージの上で歌う!? そんな、僕は……確かに歌を歌うのは好きだけどステージで歌う感じじゃなくってぇ……」


 :まんざらでもなさそう?

 :さては褒められてその気になりかけてる?

 :可愛い

 :でもやめるんだ! 誰も幸せにならない!

 :思ったけど何気に俺らボロクソに言ってるよな


「お主なら行ける! ワシはティンと来たんじゃ!」

「てぃ、ティンと……」

「それはもうティン! ティン! とじゃ!」


 あまりの熱意に僕の心が揺れ動かされる感覚がする。僕がステージの上で歌う……その言葉に、どこか惹かれる自分がいるのが分かる。


「さぁワシと共に往こう!」

「お爺ちゃん……!」




「全世界ロボットバトルファイターズトーナメントを!!」




「あっお断りしまーす」

「なんでじゃあ!?」


 :やっぱりな

 :あの歌詞でスカウトとかおかしいと思ったもん

 :今度はロボットかぁ

 :やっぱセンリちゃんはそうでなくっちゃな


「話を! ワシの話を聞いてくれても!」

「い、いやちょっと……」

「頼むぅ……! 一生のお願いじゃあ……!」

「む、むぅ……」


 勘違いしたことは恥ずかしいけど、お爺ちゃんの必死の頼みに心がさっきとは別の意味で揺れ動いている感覚がする。僕はいつもそうだ。こうして必死に頼まれるとどうしても断れない性格なのだ。


「はぁ……分かった分かりましたよ」

「ほ、ほんとか!?」

「でもここじゃあ駄目です。場所を移しましょう」


 何せここは魔の中央広場。ここで何かを進めようとすると何かしら人が吹き飛ぶ怖い場所である。この場合はこのお爺ちゃんが吹き飛びそうだ。


 だというのに。


「だ、騙されんぞ! そうして逃げ出すつもりじゃな!?」

「え!?」

「ワシは本気じゃ! ガー太郎! あれを持ってこい!」

「ぴーががが、了解しました」

「え、何!? ロボット!?」


 いつの間にかこのお爺ちゃんの隣にいた小型の黄色いロボットが敬礼をする。そして彼はどこかへと行って数分経つと、彼は僕が持っている『バードボルテージバイク』とほぼ同じ大きさの台を引きずって戻ってきた。その台の上にはシーツが被せられており、何が乗っているのかは分からない。


「持ってきました」

「よいか!? これこそトーナメント戦を勝ち抜くためにワシが絶賛制作中のロボット! その名も――」

「おいぃ! お前がセンリだなぁ!?」


 お爺ちゃんが何かを告げるその瞬間、僕たちに野太い声の男が届いた。


「だ、誰!?」

「な、なんじゃ今ちょうど良い所に……って」


 声が聞こえた方へと向くとそこには。


「ヒャッハー! 俺らはルーキー潰しのPK! 配信で有名になったルーキーを潰す荒くれどもよぉ!!」

「いや見るからに悪そうな人たちが来たぁ!?」


 どこの世紀末だよ!

 次から次へと何なのもう!


「お命頂戴するぅ!!」

「うわ、ちょ!?」


 頂戴するって世紀末ヒャッハーの癖してなんで刺客みたいな発言!? いやそれよりも先ずはこの状況を切り抜けないと……!


「くっ、こうなったら……!」


 ヒャッハーにはヒャッハーを。そう連想した僕はストレージから『みるぷーブースト用マッドフレイムギター』を装備。そしてギターのヘッドを彼らに向けた。


「ファイヤー!!」

『ぎゃあああああああ!!!!』


 ギターのヘッドから炎が噴出し、荒くれどもが燃え盛る! うわぁ……なんて猟奇的な光景なんだろう。ゲームやっててこんなんばっかだよもう。


 :何か知らんけど汚物は消毒じゃあああ!!

 :燃えろおぉおお!!

 :この世の終わりみたいな光景だな……


「くそぉ、ふざけやがってぇ!!」

「う、うわぁ!?」


 だけど、数人根性があるのか耐性があるのか、炎を受けてもこちらに迫ってこようとする人たちがいた。このままだとやられてしまう!


「炎じゃ駄目だ……だったら!」


 今の僕に火力のある武器はマッドフレイムギターの他に一つある。使い道はないと思ってたけど、せっかくだから使ってみようじゃないか!

 そう思って、僕は現在の武器から『ロケットランチャー/THE FLASH』へと変更! なんか説明書の通知が出てきたけど、見る余裕はないからスキップ!


「な、なんだそれはぁ!?」

「ひ、ひぇー!?」


 突如として構えたとんでもなく大きいロケットランチャーに荒くれどもが恐怖を抱く。そんな荒くれどもに向かって、僕は引き金を引いた。


「いっけぇええええ!!」


 ――その瞬間。


『え?』

「あっ」


 本来は彼らに行く予定だったミサイルが後方へと放たれ、黄色いロボットのガー太郎とその台を吹き飛ばしたのだ。


「ぶげらっぴぴぴぴぴーっ!?」

「ガー太郎ぉぉぉ!!?」




 ◇




 サブ4 天翔ける勇者はかく語りき


 ――『サブクエスト:博士が愛した超時空機動勇者が開始されました』




 ◇




 :はい、やっぱりこういう始まりでしたね

 :い つ も の

 :さーて、次は何が始まるのかなー?

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