第9話 野郎オブクラッシャー!!
今や名もなき王女となった彼女が、とある事故から『覚者』として活動し始めてから数年の月日が経った。
その間彼女は彼女を救い、彼女にこの世界の真実を教えた『主』から機械と魔法を融合させる技術を学び、この世界を破壊する兵器を作っていた。
その集大成こそがこの『重火破界球バーストノヴァ』である。
「本来の性能にはまだ程遠いですが……」
本来はバーストノヴァに搭載されている全重火器をコマンドージョブの人間にやらせることで真価を発揮する兵器だった。それが予想外からの妨害によって計画が狂い、コマンドーではない自分が制御することとなったのだ。
「それでも貴方たちを殲滅するには十分です!」
バーストノヴァの動力源は魔力である。正確にはその魔力と合わさることで爆発的なエネルギーを生み出す科学技術との併用ではあるが、これにより周囲の魔力を吸収することで半永久的に稼働できる兵器となっている。
「はああああ!!」
そしてここで更に王女自身の魔力を注ぎ、強化すればバーストノヴァの全兵装の火力は通常とは比べ物にならないレベルとなるのだ。
惜しいことにコマンドージョブの人間がいれば、そこにクリティカル増加や貫通力増加などのバフが付与されるのだが、仕方がない。
「行け! バーストノヴァ!」
――この時を以て、世界を破壊する!
◇
「ケツが割れた」
「元から割れてる」
さて、いつもの軽口を交わしながら、あの目の前の球体をどうするか考えよう。
「あれがあの女の切り札か」
「多分、あれがこのサブクエにおけるボスかも」
「じゃああれを破壊すればこの事件は終わるってことだな」
リョウがそう簡単に言う。
だがその次の瞬間だった。
まるで鉄同士が擦れる音と共に球体から様々な砲塔のようなものが伸びてくる。その様相はまるでハリネズミのよう。そして。
「っ、逃げろ!!」
教官の言葉と共に僕たちは駆け出す。その瞬間僕たちがいた場所が抉れ、気が付けば周囲一帯が吹き飛んでいった。
「……あれがあの球体の攻撃方法か」
「破壊すれば事件が終わるって言ってたけど……」
「わりぃ、やっぱつれぇわ」
言えたじゃないか。
やっぱつれぇでしょこれ。
「だが弱点もある」
「教官?」
「あそこの砲塔を見ろ」
教官が示す場所を見ると、そこには一部熱によって赤くなっている砲塔が見えた。もしかなくても、あれは先程撃ったことによるオーバーヒートだろう。その冷却のために球体の至る所から排熱が行われているのが見える。
「じゃあこのまま放置すれば……?」
「いや熱を冷ましている間に他の砲塔が代わりに出てきた。恐らくこのまま放置しても先に俺たちがやられるだろう」
やっぱり目に見える弱点はちゃんとフォローをしているんだ。まさしく弱点にならない弱点。だけどそれは、紛れもなく弱点の一つなのだ。
「……僕に考えがある」
「おっ、何か思いついたのか?」
:ついに邪悪な吟遊詩人の本領発揮か?
:これまで吟遊詩人要素あった?
:センリちゃんの倫理を無視した攻略好き
君たち酷いことを言っている自覚ある? 流石の僕でも涙目になるよ? そうなったら起訴することも辞さないからね?
「……見た感じ、多分きっと体内の膨大なエネルギーや火力に機体が追い付いていないんだと思う。そのせいで火力はあっても比較的脆くなっているんじゃないかな?」
耐久性がありそうな外部装甲ならともかく、中身の方はそれほど耐久がないと思う。
それどころか莫大なエネルギーの処理に複雑な構造をしてそうだから、そこにダメージを与えればあの球体は止まるはず。
「内部への攻撃か……」
「そのための手段も考えているけど……」
ぶっちゃけて言うと成功率は低い。あの球体の弾幕を潜り抜けて接近する必要がある作戦なだけに誰かが欠けたらご破算となる。
あーここに都合のいい駒がいたらなぁ!
「ふっ……俺たち、参上!」
と、そんな思いが通じたのか、僕たちの下にとある人物が現れたのだった。
「き、君たちは!?」
◇
「っ!?」
強烈な衝撃によってバーストノヴァが揺れる。その事実に驚愕した王女はこの衝撃を起こした犯人を捜す。するとそこにいたのは。
「――また貴方たちですか!?」
カオスレースの優勝賞品で貰った『バードボルテージバイク』に跨る僕と、その後ろの後部座席で立っているアルティメットシイングリョウがいた。
「凄いバイクだな! どこで運転を習った?」
「説明書を読んだんだよ!」
再びリョウのフルバースト。それによって王女が立っている球体は激しく揺れ、それどころかその一部の装甲が破損する。
「ただのカカシですな」
「くっ、コマンドーといえどその武装程度でどうしてバーストノヴァの装甲を!?」
当然、そのカラクリは存在する。リョウの過積載装備によるフルパワーコマンドーは当然として、今回は僕のスキルも使っているのだ。
スキル『BGMボルテージ』で吟遊詩人スキルの底上げは当然として、僕はリョウに二つのスキルを付与させた。
一つ目のスキル『開幕のエチュード』でリョウの身体能力を上昇させる。それにより装備重量を軽減させて武器の取り回しを向上させた。
そして最後は『活力へのオーバーチュア』。これは効果範囲内の対象に演奏を聴かせることで三十秒間対象のクリティカル率を二倍へと上昇させる吟遊詩人らしいバフスキルだ。
「だからといって! ただの道具如きに覚者である私に勝てるものですか!」
「試してみるか? 俺はコマンドーだぜ」
王女の意識がこちらへと向いた。彼女の言う球体……バーストノヴァのほぼ全ての砲口がこちらへと向かう。
「ぶっ放せセンリ!」
「今演奏に集中しているから自動運転なんだけど!」
だけどこのバイクの自動運転は高性能だった。迫り来る数々の弾幕を潜り抜け、リョウが撃ちやすい場所へと移動してくれる。カッコいい上に高性能とか最高過ぎなんだけど僕のバイク!
「くっ、ちょこまかと!」
「おうおうどうした、これで終わりか!?」
「減らず口を――ほう?」
「ん? 何を笑って……っ、横だセンリ!!」
「え!?」
このまま作戦は順調に進んでいったかと思われたがしかし、突如として横からミサイルが飛んできたのだ。
さっきまで演奏していた僕は気付くのに遅れ、その上そのミサイルはバーストノヴァの弾幕の影に隠れていたせいか自動運転も察知できていなかった。
ドカァン、と爆風に巻き込まれ、バイクから離れるように宙へと飛ばされる僕とリョウ。地面を転がりなんとか立ち上がると、そこには。
「はぁ、はぁ……良くもやってくれたなお前ら」
「まさか……!」
「ウェルズ、死んだはずじゃあ!?」
「残念だったな! 俺はまだ生きているぞ!」
ところどころ破損したパワードスーツを身に纏ったウェルズがそこにいたのだ。
「旦那が女だったことには驚いたが関係ねぇ……イッヒッヒッヒ……世界を壊せば全て救済される……ハハハ!」
「逃げろセンリ!」
リョウは装備重量の関係で体勢を立て直すのが遅い。その前に僕はウェルズの攻撃によってこのまま死ぬだろう。
「そう、このままだったら――!!」
「野郎ブッ殺っしゃああああ!!」
武器を構え、引き金に力を入れるウェルズ。そんな彼に僕は手の平を向けてこう叫んだ!
「――『コール』!!」
『使用者の命令を確認』
「へ?」
その瞬間、一筋の黒い閃光が迸った。
そして。
ドカァァァン!!
「ぶげらっぴいいい!?」
どこかへと吹き飛ばされたバードボルテージバイクが、自動運転によって僕の下に来る過程で油断していたウェルズを轢いたのだ。
:50000¥/ やったぜ。
:50000¥/ これだからセンリちゃんの配信はやめられねぇんだ
:50000¥/ センリ最強! センリ最強!
「あはははは! マジかよお前!」
「咄嗟にできてよかった……」
ようやくなんとか立ち上がったリョウに肩を叩かれる僕。痛い痛い……武器を握ってるせいで叩かれると痛いんですけど。
しかし、安心するのはまだ早かった。
「――そこ、動かないでくださいね」
『!?』
気が付けば、バーストノヴァの砲口全てが僕たちに照準を合わせていた。バイクに乗っていない今、あれらの弾幕を躱す能力は僕たちにはない。
――だけど。
「教祖様あああ! 言われたこと全部終わりましたよおおお!」
「!? この声……中から!?」
作戦は全部で三段階あった。
一段階目は僕とリョウによる囮だ。敵の攻撃を搔い潜り、時間を稼ぐのが僕たちの役目だった。
そして第二段階。それは僕たちが時間を稼いでいる間、とあるアイテムを持った信者たちがこっそりとバーストノヴァの内部に侵入して工作をするというもの。かなりの高温だろうけど信者たちだから信じる! うん!
そしてそれらが終わった最後の段階。
ここで僕たちの反撃が始まる!
「何を――!?」
「『CNフルセレクトッ!
――マーカーだれ全適、持ってけぇっ!
まるで時が止まったかのような瞬間だった。しかしその言葉による影響はすぐに現れることなる。一つ、また一つと空中に現れる無数の機械のパーツ。全部で七十三個あるパーツは全て――。
――バーストノヴァの物であった。
ズズゥンとバーストノヴァが力尽きる。兵器であるが故にパーツ一つ取っても致命傷となるバーストノヴァは、七十三個の部品を強制的に取り除かされたことによってその圧倒的な破壊の権能を維持することができなくなってしまったのだ。
「っ!? バーストノヴァが機能停止した!?」
「まだまだぁ!! 『サウンドビジュアライズ』!!」
信者たちに渡したのはマーカーだれだけではない。最後にして本命。彼らに渡したのは『サウンドビジュアライズ』を込めた『サウンドオブジェクト』。
内部を壊すように歌詞の柱を出現させるための物だったのだ。
「きゃあああ!?」
バーストノヴァの内部から突き出るように現れた歌詞の柱によってその場で転ぶ王女。その次々と行われる反撃によって、王女は頭がどうにかなりそうだった。
「そんな、主と共に作り上げた兵器が……長年の月日を費やした救世のための兵器がっ!」
これまで過ごしてきた思い出が走馬灯のように脳裏に過る。そして今度はズドォン! と突如として目の前に現れた具現化された意味不明な歌詞の柱に王女は涙目になる。
「『そして輝くウルト――』なにこれぇ!?」
その瞬間だった。王女様の近くで『ズン、キキィィーッ!』と音が鳴ったのだ。
『アイルビーバック』
「ッ!? ウィンドシールド!」
音が聞こえた方向へと体を向け、反射的に魔法を行使する。恐らくこの隙を突いてリョウとかいう武装モリモリマッチョマンの変態がこの場へと強襲しに来たのだろう。
このリョウのことはこれまでの攻防で理解していた。自分のところまで来たらきっと馬鹿の一つ覚えのようにフルバーストをするのだろうと判断した王女は、フルバーストから身を守るために魔法を使ったのだ。
しかしそこには。
「いない……!?」
音や声が聞こえたのは全てフェイク。そう、センリの持つ『フェイクボイス』によるまやかしの音だったのだ。
「俺の無上の喜びは――」
「しまっ」
声は反対方向。
魔法で身を守るにも一歩遅い。
「――お前の悲鳴を聞く時だ」
フルバースト。
股間のレールガンを含めた各種武装が火を噴いた。
「がっ」
しかし一瞬、そう一瞬。奇跡的に発動に成功したウィンドシールドは、ほんの少しだけ彼女の体を致命傷から守った。
だが彼女の運はそこで終わった。彼女がいるのは地上から数百メートル離れたバーストノヴァの頂上。
爆風によって吹き飛ばされた彼女は、そのままバーストノヴァの頂上から吹き飛ばされ、落下をしたのだ。
「あ、あああああああああああああ!!?」
ダメージによって魔法の構築もままならない。そんな彼女が落下中にとある景色が目に入った。それは巨大な砲塔をこちらに向けているアーノルドの姿だった。
「まさかこんなものを作るとはな」
センリは保険としてアーノルド教官にとあるアイテムを渡した。それは周囲の金属をゴーレムとして再錬成させる『マッドメタルゴーレム』のコアだった。
万が一センリたちが失敗した後、残るバーストノヴァに対抗するためにセンリは、周囲に落ちている金属や武器を『マッドメタルゴーレム』によって再錬成し、大型主砲を作り上げたのだ。
「作戦は成功した……だがそれはそれだ!」
娘を誘拐された怒りはまだ収まらない。ならば絶賛落下中の王女諸共あの球体を破壊しても文句は言えないだろう。だからこそ撃つ。だからこそ全てを壊し、報復する。
――それこそがコマンドーなのだから。
「地獄に落ちろ」
引き金を引き、巨大な砲弾が発射される。そうしてその砲弾は、事件を終わらせる最後の弾丸となってバーストノヴァを撃ち貫いたのだった。
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