第10話 アイルビーバック

 事件は終わった。アーノルド教官が追い打ちをかけるように攻撃を加えたため、些かオーバーキルかもしれないけど、コメント欄が大盛り上がりだからオールオッケーだと思おう。


 :うおおおおお!!

 :稀に見る大迫力なバトルで熱い!

 :50000¥/ ボス戦おつかれー!

 :50000¥/ 二人ともカッコいいです!

 :50000¥/ 最強! 最強! 最強!


 ところで今更な話をしていい? あの、これまで結構な数の投げ銭を貰ってきたけど、結構投げ銭の桁が多くない? ちょっと実感が湧かないレベルで何か途轍もないことになっている気がしてならないんだけど。


 いやエクストラリワードで毎月おかしいぐらいのお金が振り込んできている時点で今更なんだけどね。


「よぉナイスアシストだったぜセンリ」

「リョウ!」


 ちょっと一息ついていると、リョウがゆったりと近付いてきた。もう武器を装備していなくてもいい状況になったため、リョウは少しずつ体中の武器をストレージに仕舞いながら歩いている。


「初心者だというのにとんでもねぇことになったな」

「それはそう」


 あのバーストノヴァと王女様を攻略できたのは僕がこれまでクリアしてきたサブクエによる報酬アイテムとリョウの規格外な身体能力のお陰だ。

 これらが無かったらクリアできてないと思うし、まぁそもそもリョウが普通の身体能力だったらコマンドーにもならず、このサブクエも発生しないと思うけど。


「よくやった貴様ら」

『教官!』


 そこに教官がやってくる。見ればアリッサちゃんが教官の後ろに隠れながら僕を睨むように見ていた。


「あの強大な相手を前によく戦った……そして私の娘を救ってくれたことも、心の底から感謝する」


 そう言って教官が頭を下げたのだ。


「あ、頭を上げてください教官!」

「そうだぜ。教官がいたからクリアできたんだ」

「……ふっ、すまないな。ほら、アリッサもお礼を言うんだ」

「……ふん!」


 教官から礼を促されてもアリッサちゃんはそっぽを向いた。やっぱり洗脳状態の甘えたがりと違い、本来の性格は結構キツめなのかも。


「……ありがと」

「え?」

「なんでもない!」


 再びそっぽを向くアリッサちゃん。どうやら素直になれない性格なだけで根は優しい子らしい。


「ふふ、ありがとうねアリッサちゃん」


 その姿がとても可愛らしく、僕はつい無意識で彼女の頭を撫でた。するとアリッサちゃんは目を細めて頬が緩んだ顔をした。


「……ママ~♡」


 あっ。


「はっ!? ち、違うからね!? アンタのことをママって呼んでないんだから!」

「……」


 教官が遠い目をしている。いやあのごめんなさい。洗脳は解除されている筈だと思うんだけど洗脳の後遺症が残ってるなんてことは……うん。聞かなかったことにしよう! そう無責任に問題を放り投げると、リョウが教官に一つ質問をした。


「それで、ウェルズとあの王女様は?」

「王女様?」


 教官が首を傾げた。そう言えばあの女の人が王女だと知ったのはコメント欄の反応からだった。でも教官もあの女の人の正体にピンと来ていない時点でそもそもあの人は本当に王女なのか、それとも……。


「え? あー……あの女の人のことだが」

「あれが王女だと? どうして王女だと思ったのかは知らんが……とにかく、ウェルズは部下に拘束を命じている。あの女に関しては知らん」

「知らない?」

「落下中でしかも、この俺があの女諸共デカブツを撃ち抜いたんだ。あれで生きているとは思わないが、少なくとも無事ではないだろう」


 それを聞いて、僕とリョウは残骸となったバーストノヴァを見る。そこには教官の部下らしき人たちが周囲の瓦礫の中を調べている光景が見えた。王女の死体が出るかもしれないし、出ないかもしれない。ただその残骸の中から何かの痕跡がないか調べているのだろう。


 と、そんな時だった。


 ――ガヤガヤガヤガヤ。


「あれ、どうしたんだろう?」


 何やら何かを見つけたのか、瓦礫を調べていた教官の部下がざわついている。僕たちはお互いの顔を見ると、その部下たちの下へと近付いた。


「どうした?」

「あっアーノルド教官! 実は……」


 他の部下が担架を持ってきた。いや、担架だって? まさか……。そして案の定、僕たちが浮かべた予想通りのことを部下が報告する。


「例の女を瓦礫の下で見つけました」

「なんだと?」

「まだ、生きています」


 その発言に僕たちは目を見開いた。いやしぶとすぎるだろう。リョウのフルバーストと教官の一撃だぞ。それで生きていられるとか常軌を逸している。しかし、部下は続けて以下のことを言った。


「ただ負傷が激しく、今すぐ治療をしないと命の危機かと」

「ふむ、流石にダメージは残っているか」


 流石に教官はここからトドメを刺すつもりはなく、王女の身柄を拘束して監視付きの治療をするよう部下に命令する。


「了解しました。それとウェルズですが」

「聞こう」


 教官が部下からの報告を聞く。その横から聞いていた僕たちもウェルズの容態を知ることができた。曰くウェルズも重症で意識が戻らないということと、彼が着ていたパワードスーツも破損しすぎて使い物になりそうにないという話だった。


「あのスーツか……コマンドーであればかなりの戦力になりそうだが仕方がない。現状ウェルズとあの女の意識が戻らない今、情報収集は保留にするしかない」

「了解しました!」


 敬礼をすると部下が離れていった。そんな部下の姿を見た教官は、次に僕たちの方へと顔を向けた。


「さて、ここまで本当にご苦労だった。ウェルズとあの女の意識が戻れば君たちにも報告しよう」

「分かったぜ」

「はい、ありがとうございます」

「そして……」


『コマンドーの教官、アーノルド・リークスからフレンド登録の申請が来ました』

『アーノルドの娘、アリッサ・リークスからフレンド登録の申請が来ました』


 僕とリョウに二人からフレンド登録の申請が来た。僕たちは目を見開いたけど、すぐに笑みを浮かべてフレンド登録を承認した。


『フレンド登録の申請を承諾しました』


「何かあれば連絡をしてくれ」

「寂しかったら来て上げなくもないから!」


 こうして二人は去っていったのだった。




 ◇




 しばらく流れる無言の時間。ここに残った事後処理をしている部下たちの掛け声を聞きながら、僕たちはようやく口を開いた。


「終わったなぁ」

「終わったねぇ」


 完全に全てが終わったあとのセリフだ。初の配信デビューで初のジョブで凄いのにまさかこんな大規模なサブクエストに繋がってしまうなんてとんだ誤算だ。

 それにリョウの恰好を見て欲しい。武器を装備するために上半身裸の下半身インナーという露出度が高すぎる変態スタイルになっているんだぞ。


「いやーん」

「はっ」


 :草

 :センリちゃんの貴重な鼻で笑うシーン

 :こういうところやっぱり幼馴染なんだなぁ


 と、そんな時だった。


「おおおい! 教祖様ああああ!!」

「っ、こ、この声は!?」


 声が聞こえた方向を見ると、そこには僕がこれまで信者にしてきた人たちがいた。どうやら彼らはリーダーであるウェルズと技術提供をしていた王女様がいなくても、僕のことを教祖と呼んでくれるらしい。


「もうあいつらは戻れないな……」

「そう思うけど言わないでよ……」

「教祖様! 実はあなた様に渡したいものがあるんです!」


 そう言って、最初に信者にした男が僕にとあるアイテムを渡してきた。形状は鈴のようなもので毒々しい紫色をしていた。


『アイテム:信じる者たちの鈴を入手しました』


「え、なにこれぇ!?」

「何かあった時、その鈴を鳴らしてください! その鈴を鳴らせば俺たちが駆けつけてきますんで!」

「えぇ……?」

「それじゃあまた後でー!」


 :センリは どこでも信者 を 手に入れた!

 :召喚獣か何かか?

 :こんな酷い召喚獣は初めて

 :吟遊詩人から遠ざかって行くね


「いや草」

「草じゃないけど!?」


 まさかこんな事態になるなんておかしいよ! だけどこんな衝撃はまだ序の口だった。僕が頭を抱えていると、ようやくサブクエストのクリア通知がやってきたのだ。




『サブクエスト:誘拐された愛娘をクリアしました』

『報酬として『ロケットランチャー/THE FLASH』を入手しました』


『エクストラリワードの取得を確認しました』


『物理学者リークス・サワンの真空エネルギーの生成と抽出理論の権利がプレイヤー名:センリへと譲渡されました』

『後日、エクストラリワードに関するご案内がありますのでご確認ください』』




『え?』


 僕とリョウの口から同時に呆けた声が出た。思わずお互いの顔を見ると、僕たちはお互いが何を獲得したのか理解した。


「まさか……」

「センリもか……」


 :エクストラリワード!?

 :え、二人同時に!?

 :ってか一気にエクストラリワードが二つも!?

 :やばいって!?

 :なんだこの内容!?


 配信しているから僕たちエクストラリワードを獲得したことを視聴者にも分かってしまった。それによってどんどん増える同時視聴者数。それまでにエクストラリワードという存在は規格外なのだ。


「僕は、何か真空エネルギーに関する論文だった」

「俺が獲得したエクストラリワードとは違うのか」

「え、違うの!?」

「あぁ……俺のは物体を透過させる技術らしい」

「なにそれ……」


 リョウの言葉に僕は理解が追い付かないでいた。コメント欄は今以上に盛り上がっていた。完全に僕たちのキャパオーバーだ。だからだろう。僕たちはこの場でどうするかお互いに察して頷くと、配信に向けてこう言ったのだ。


『ご視聴ありがとうございました! ティーウイッターフォロー、高評価、チャンネル登録をお願いします! またね!』


 流石の幼馴染である。

 見事な連携だった。




 ◇




 -----------------------------


 キャラ:センリ

 性別:男

 ジョブ:吟遊詩人


 アイテム一覧

 小型時空注文装置(マーカーだれなし)

 バードボルテージバイク

 マッドメタルゴーレム

 入門用吟遊詩人のリュート

 ASMR用マイク ランク3

 信じる者たちの鈴

 ロケットランチャー/THE FLASH


 装備一覧

 手:みるぷーブースト用マッドフレイムギター


 スキル一覧

 吟遊詩人マスタリー:SLv.2

 サウンドオブジェクト:SLv.1 → SLv.2

 フェイクボイス:SLv.1

 スリーピィウィスパー:SLv.1

 開幕のエチュード:SLv.1 → SLv.2

 風の音撃:SLv.1


 BGMボルテージ:SLv.1 → SLv.2

 SEエフェクト:SLv.1

 サウンドビジュアライズ:SLv.1 → SLv.2

 活路へのオーバーチュア:SLv.1

 死力のフィナーレ:SLv.1

 パラライズウィスパー:SLv.1

 ポイズンウィスパー:SLv.1 → SLv.5


 ポイズンボイス:SLv.1


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『信じる者たちの鈴』

 プレイヤーネーム:センリを信じる者たちを呼び出す鈴。これを鳴らせば一部の地域を除き、ランダムで10人~100人の信者を呼び出すことができる。呼び出した信者はセンリの命令通りに動き、ダメージを受けてもセンリへの信仰によって死なず、一時的に離脱する。




『ロケットランチャー/THE FLASH』

 誘拐された愛娘の報酬で手に入れたロケットランチャー。とある映画で登場した有名なロケットランチャーがモデル。撃つには説明書が必要。




『物理学者リークス・サワンの真空エネルギーの生成と抽出理論』

 世界中を転々とし、エネルギーを研究している物理学者リークス・サワンが書いた論文。机上の空論でしかなかった真空エネルギーという存在を実現させたという内容が書かれている。真空状態の容器にとある化学物質を入れると通常のエネルギーの何倍にも勝るエネルギーの生成が可能となった。その際、抽出する技術を発明したものの、現状生み出された膨大なエネルギーの貯蔵に耐えるほどの器は未完成である。


 ※公開時予想利益:予測不能

 ※内訳は後日、ご連絡いたします。


 ※当権利はリークス・サワンご本人から株式会社ゾーンリンクと株式会社ボックスエンターテインメントソフトウェアへと移譲されています。

 ※当権利のエクストラリワードを入手したプレイヤーは、株式会社ゾーンリンクと株式会社ボックスエンターテインメントソフトウェアが共同所有している当権利を入手できます。


 ※当権利を入手したプレイヤー及びプレイヤーの関係者に対するいかなる不利益からも、株式会社ゾーンリンクと株式会社ボックスエンターテインメントソフトウェアがお守りいたします。




 サブ3 鋼の漢は浮かぶ夢を見る


 ――完。

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