第8話 何が始まるんです?
リョウは考えた。手に入れたコマンドーというジョブを最大限に活かしきる武器はなんだろうと。
コマンドーは装備する近代武器によって性能が変化するジョブだ。最初はこれから向かう戦いに適した武器をと考えていた。しかし係の人から案内された武器庫で武器を見ていく内に疑問に思ったのだ。
武器を複数本装備したらどうなるのかと。
奇しくもセンリと同じ考えに達したリョウはここで天啓を得た。即ち、全ての部位に武器を装備しようと考えたのだ。だが覚えているだろうか。このゲームは両手合わせて最大二本しか装備出来ないのだと。
――だがここに例外が存在する!
このゲームには、複数部位に武器を装備したいというプレイヤーの要望により実装されたアイテム『ボディーアタッチメント』が存在するのだ。
このアイテムを体の自由な箇所に装備することで、そこを新しい装備の枠として追加することができるのだ。
これによって頭にチェーンソーを装備したり、両手の指をシザーハンズみたいにしたり、四肢に全部パイルバンカーを装備したりとやりたい放題するプレイヤーが現れることになる。
しかし当然デメリットも存在する。
アイテム『ボディーアタッチメント』で追加された装備枠に武器を装備すると、これまでなかった『装備重量』が発生するようになるのだ。当然各部位に装備すればするほど重量も上がり、移動どころか指先一つ動かすだけで困難な状態になる。
――だがここに例外が(二回目)。
リョウの肉体は規格外である。常軌を逸したアルバイトの掛け持ちとそれによる肉体や精神への負担はリョウの肉体を規格外へと成長させたのだ。
ベースがリアルの肉体スペック準拠であるゲームの中でも規格外。故にリョウだけが複数の武器を装備し、装備重量:規格外であっても行動できる要因。
これにより全ての部位に近代武器を装備させる人間武器庫作戦が始まった。
そしてこれぞ究極生命体アルティメットシイングリョウの完全解剖図である!
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キャラ:リョウ
性別:男
ジョブ:コマンドー
装備一覧
頭:小型固定砲台
目:サングラス
肩:ツインランチャー
腹:ストマックガトリング
右腕:マシンガン
右手:アサルトライフル
左腕:小型副砲
左手:ショットガン
尻:バーストハリケーン
股間:レールガン
右太もも:グレネードランチャー
右足:キャラピラー付きキャノン砲
左太もも:リトルキャノン
左足:キャタピラー付きキャノン砲
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これが勝利の鍵だ!
◇
「変態だー!!!!」
:なんだこのイカれたカス○ムロボは
:これがコマンドーの姿か? これが?
:近代武器とは?(哲学)
コメント欄の困惑も理解できる。リョウの今の姿は到底人間がしていい恰好を遥かに超えている。ってか『ボディーアタッチメント』のアイテムで思い出したけど、確かそのアイテムって着ている装備を外さないといけない条件があったはず。
つまりリョウが装備しているその武器の下は……。
「アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー」
「ベイビーじゃないよ!?」
つまり
「がっ、くそ……なんなんだいったい」
「……どうやらまた一人、相手が現れたようですね」
「なんなんだあの恰好は……!」
「大惨事大戦だ」
股間のレールガンと共に各種武装の弾幕が解き放たれる。最早やぶれかぶれだ。この場所や敵をまとめて吹き飛ばす勢いである。
「――!」
だがここに来て危機感を抱いたローブの人がウェルズの前に出てくる。その瞬間、リョウから放たれた弾幕はローブの人の手前で爆発を起こした。
「なんだあれ……シールド?」
爆風によって一瞬透明な何かが渦巻いているのが見えた。そんな僕に、心当たりがあった教官が言う。
「魔法だ。恐らくは高レベルのウィンドシールド……」
「魔法……魔法!?」
ついにここでファンタジー要素が!
いや違うそうじゃない。曲がりなりにもこのゲームはファンタジー世界だ。ちょっと他の要素が主張してきているだけで特段驚くことではない。
問題は相手がかなりの実力を持つウィザード系のジョブ持ちだということ。それに加えてパワードスーツを作成できるほどの技術を持つ相手だということが分かった。
「血が出るなら殺せるはずだ」
「!?」
リョウが再び弾幕を発した。だけど今回に限ってローブの人が顔を歪めたような雰囲気を感じる。
その瞬間だった。リョウが放った弾幕を前に、ローブの人が急いで逃げるように回避行動を取ったのだ。
そしてローブの人の後ろに立っていたウェルズは――。
「ウワアアアアアア!!」
弾幕に巻き込まれ吹き飛んでいった。
「ターミネイト」
:20000¥/ リョウ最強! リョウ最強!
:50000¥/ ヒュー!
:余裕の火力だ、変態度が違いますよ
:ところでなんで二回目は避けたんだ?
「アイツまさか……マスタリーレベルが上がったのか?」
「あっ!」
教官の言葉に僕は気付いた。ジョブの本領はマスタリーレベル2になってからだ。あんなに武器を持ち歩いてフルバーストもすればマスタリーレベルも簡単に上がるだろう。それによって更に火力が上がったリョウの弾幕は、あのローブの人のシールドを超えたんだ。
「OK」
ズドン! とリョウが左手のショットガンをローブの人に向けて放つ。だけどローブの人が生み出した土の壁によって散弾が防がれてしまった。
「ところでアイツの口調、おかしくないか?」
「多分あれ、照れ隠しだと思う」
「ノープロブレム」
幼馴染の僕だからこそ分かったけど、流石にあの恰好はリョウでも羞恥心を抱かせるものだ。だからあぁして無節操に名言だか迷言か分からないセリフを言って羞恥心を隠しているんだろう。
「……良くもやってくれましたね」
土の壁が崩れ、その先からローブの人が現れる。その人は弾幕によるダメージを食らいパワードスーツが破損した状態で倒れたウェルズを見ると、怒気を滲ませた雰囲気を纏いながらリョウを見た。
「……許しません」
ローブの人が、羽織っていたローブを脱ぐ。
するとそこから現れたのは……。
『!?』
つぎはぎだらけの衣装を着た女の人だった……!?
:おいもしかしてあれって
:王女様!?
:確かずっと消息不明だった王女様!?
:メインだと姿絵しか見れなかったのに
:本編前に既に消息不明だった王女様がこのサブクエで出てくるのか
コメント欄の反応を見る限り、どうやら彼女は王女と呼ばれている人らしい。ただゲーム開始時には既に消息不明となっており、立場とその姿絵しか知らないというが……この国って王政だっけ?
いやそれよりも。
「ははーんこれネタバレかな?」
:あっ、メイン知らない人?
:貴重な初見だ!
:まぁネタバレっちゃあネタバレ?
:まぁゆーて微妙
:メインに関わらないフレーバー要素だよ
なるほど。テキストや背景でしか描写されないフレーバー要素をサブクエに登場させるパターンのシナリオか。
そう言えばこのゲームにはメインに出てくるサブキャラクターやフレーバー要素をメインに据えてサブクエで活躍させる要素もある。このシナリオもそういうカテゴリーなのだろう。
「やはり貴方たちは邪魔な存在ですね……仕方がありません」
王女のその言葉と共にこの場所が鳴動する。
「な、なにが起きてるの!?」
「見せてあげましょう――」
床がひび割れ、地下から何かがせり上がって来る気配を感じる。
「っ、ここから離脱するぞ! センリ! リョウ!」
「は、はい!」
「何が始まるんです?」
僕はアリッサちゃんを抱えながら信者たちが空けてくれる道を通って逃げる。だけど、リョウだけは鈍重な動きで逃げているのが見えた。
「リ、リョウ!?」
「やはりあの装備量じゃ走るのもキツイか……!?」
通りでここに来るまで時間が掛かったわけだよ!
「……俺を置いて先に行け」
「リョウ!?」
リョウは走るのを諦めた。恐らく最後の最後まで王女に攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。
「――アイルビーバック」
「アイルビーバックじゃなくてその
「あっ!」
あっ! じゃないんだよなぁ。
尻を覆うように装備しているバーストハリケーンを思い出したリョウは、前屈みの状態になってバーストハリケーン……つまり突風機を使って脱出を試みる。その瞬間、強烈な突風が尻もとい装置から噴出し、リョウの体を押し出したのだ。
「うおおおおおお!?」
「きゃああっ!?」
ついでに尻の突風が王女を吹き飛ばす光景が見えた。
「うわぁ……」
「うおおおおお!!」
とにかく、リョウはその勢いで僕たちを置き去りにして先に脱出に成功した。そんな馬鹿みたいな光景を見て、僕たちも急いで脱出を目指したのであった。
◇
ウェルズたちがいた倉庫が崩れ、中から機械仕掛けの球体が現れる。その球体の上に、髪がボサボサになった王女が立っていた。
「許さない……絶対に許さない!!」
怒りに燃える王女は全世界に宣戦布告するように叫んだ。
「これが世界を滅ぼす救世兵器! 何もかも壊して差し上げましょう!!」
戦いは、クライマックスへと突入した。
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