第3話 親友と再会! ……えー!?
デミアヴァロンの中央広場にて。
翌日、学校が終わった僕は早速『こんばこ』の世界へとログインをした。亮二との配信の約束はまだまだ時間があるため、チュートリアルは諦めるとしてとにかく装備品を集めることにしたのだ。
「チュートリアルって結構長いからね……」
間に合わない、ってほどじゃないけど約束の時間ギリギリになるし装備が貧弱だと亮二とのプレイに支障が出るかもしれない。一部コンテンツができないってだけでその他の準備は用意できてるしね。
さて、現状僕の装備はというと。
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手:みるぷーブースト用マッドフレイムギター
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これとアイテム欄に移してある入門用吟遊詩人のリュートの二つしかない。
これはみるぷーお姉さんからお礼にと、レース中に使ってたギターを貰った物だ。
後はこのギターに対応するブーストエンジンも貰ったけど現状ブーストエンジンを搭載できるアイテムなんて……。
「待てよ?」
確か僕はレースの優勝賞品であれを貰ったじゃないか。そう考えて、僕はアイテム欄からあれを取り出した。
「よしっと」
アイテム欄から出てきたのは『バードボルテージバイク』だ。本当にバイクか? ってぐらい黒くて大きい大型バイク。直立するためのキックスタンドなんてなくても、常時直立しているという機能も付いている。
このバイクの説明にカスタマイズ機能があると書いてあったはずだ。このバイクならみるぷーお姉さんから貰ったブーストエンジンを搭載することができるはず。
いやでも……。
――か、
「かっこいい……!」
まるでSF映画に出てくるようなバイクで僕はウハウハ大満足です。これは先ず乗って試運転しないとこのバイクに失礼なのでは?
それならじゃあ……乗るしかないよね!
「よし……えい!」
ハンドルを握って跨ぐように飛んでぐぐぐ……すとん。
「あ、あれ? ……えい!」
ぐぐぐぐぐ……すとん。
「はぁ、はぁ……」
どうしよう。試しに乗ろうとしたら足が届かなくて跨ぐことができないんですけど! 嘘でしょ……僕のバイクなのに乗れないんですけど!
『使用者の搭乗意思を確認』
「おろ?」
『自動搭乗機能をオンにしますか?』
「えーと、取り敢えずオンで」
『了解しました』
「うわぁ!?」
突如として聞こえて来た機械音声に従っていると、突然僕の体が浮いた。そしてそのままバイクのシートにまで持っていかれると、ストンとバイクに乗ることができた。凄い。このバイクってこういう機能があるんだ。
いやそれにしても。
手触りの良い材質に、大型バイクだけど乗れば僕の体格にフィットするシート。メーター部分はデジタル画面になっていて、ここからカスタマイズ画面や楽器の登録画面に移動することができる。
近未来バイクとはこのことだろう。実際に乗ると分かるこの充実感は楽器を初めて手にした時の感動と同じぐらい。
「お、おぉ……!」
これは、テンションを上げざるを得ない!
「おおおおおおおおおおお!!!」
「何やってんだ?」
「きゃああっ!?」
ブルルゥン! と声をかけられたショックでハンドルにあるアクセルを回してしまった。その瞬間、発進されるバイク。
僕は風になった。
「わあああああああ!!」
「センリィィィ!?」
「むっ、そこの君ちょっと話が」
「どいてえええええ!!」
ドカァァァン!!
「ぶげらっぽぉぉぉう!?」
新任のチュートリアル兵士をバイクで轢いてしまった!? きりもみ回転するチュートリアル兵士になんとか謝りたいけど、あまりの速度にハンドルを握る手を緩めることができない!
気が付けばもう兵士から離れてしまって僕はもう後戻りができなくなった。
「ご、ごめんなさぁぁぁい!!」
『サブクエスト:悪徳との戦いを開始しました』
あとなんかサブクエも受注しましたぁぁ!
◇
「酷い目に遭った……」
「いやぁ声をかけてすまなかったな!」
「いや本当だよ……」
何とかバイクを止まらせることができた僕は、改めて僕に声をかけてくれた男を見る。そこには幼い頃から過ごしてきた幼馴染の面影が残るプレイヤーキャラクターがいた。恐らく彼こそが今日僕と待ち合わせる相手。
「亮二、じゃない……リョウか」
「おう! そっちはいつも通りセンリだな!」
ゲーム内で初めて出会う亮二。装備は僕より整っていることから、恐らくチュートリアルを終わらせているのだろう。
いやまぁ当然か。今でもチュートリアルを終わらせてないプレイヤーなんて僕ぐらいだろう。
それにしてもリョウか。今までオンラインゲームやソシャゲをやる時は『リョージ』だったけど、配信のために名前を変えたのかな?
「そういえば、待ち合わせの時間より早くない?」
「俺も時間があったら少しでもゲームを楽しみたいからな」
なるほどね。ゲームプレイの頻度は僕ほどじゃないけど、リョウもゲーマーだ。何もおかしくはないだろう。
「それでセンリは?」
「僕は装備を集めに武器屋に行こうかなって」
「ふーん?」
そう言うとリョウがジロジロと僕のつま先から頭まで見る。
「よく見ると初期装備だな。チュートリアルは終わらせて来たのか?」
「……始めてすらいないです」
「だろうな!」
あっはっはと笑うリョウに僕はぷくーと頬を膨らませて不満を露わにする。
「仕方がないじゃないか! チュートリアルを始めようとしたら知らないチャラ男がナンパしに来るし、チュートリアル兵士はさっきので計二回吹き飛んだし!」
あれ、でもそう考えるとこの中央広場ってかなりの厄ポイントなのでは?
「まぁセンリのことだからどうせトラブルに巻き込まれてると思ってたが……まさかチュートリアルすら受けられないってのはなぁ」
「くそぅ……まさかゲームの中でもこんな扱いとか……」
あっはっはと笑うリョウ。
顔面をぶん殴ろうかな?
「どうどう、その振り上げた拳を引っ込めてくれセンリ」
「……はぁ、だからチュートリアルは諦めて装備を整えたいんだよ」
「事情は分かった。俺もセンリの付き添いに行きたいが……」
リョウがメニューを開いてちらりととある個所を見る。
「残念だがもう時間だな」
「え?」
リョウの言葉にまさかと思いながらメニューを開いて現在時刻を見る。するとそこにはもう配信の時間まであと数分という情報があった。
「もうこんな時間!?」
「バイクで手間取った分の遅れた感じだな」
「そんなぁ……」
またしても僕はこのまま初期装備で人と活動することになるのか。
「それじゃあ配信をやろうか!」
「まぁしょうがないか……」
僕の方も配信の準備をする。今日この時間に配信することは祭里に頼んで既に配信について告知をさせていた。だからこのまま配信をすればある程度の人数がこの配信を見るだろう。
リョウと目を合わせて頷く。
そして、僕たちは配信を始めたのだった。
「ど、どーも! センリちゃんのチリチリチャンネルCTuberの、センリです! 今日は配信を見てくださり、ありがとうございます!」
:きたああああああ!!
:センリちゃん優勝おめでとー!
:今日は確か初のコラボ配信
:早くない?
:ティーウイッターで経緯の説明があったやろ
良かった。ちゃんと結構な人が見てくれている。現状だと五千人ぐらいか。これからまだまだ増えるかも。
そしてそんな挨拶を終わらせた僕はリョウの方へと見る。
――するとそこには。
「やぁみんな! ティーウイッターフォロワー数三十万、CTuberに憧れて幾星霜のリョウだ!」
え? フォロワー数三十万?
「え、ええええええええええ!?」
:きたあああああ!
:リョウの初配信キタコレ!
:もしかしてその隣にいるのは?
:すっげぇ可愛い!
「え、ちょ、どういうことなのリョウ!?」
:え、リョウ!?
:あの人気インフルエンサーの!?
:すげぇ! 初コラボがあの大物かよ!
:みるぷーお姉さんを忘れてない?
:コラボと明言したのは今回が初だから……
コメント欄でもリョウの存在を疑う人はいない。まるでみんなリョウのことを知っているみたいだ。しかもかなりの有名人という認識で。
「実は俺、三十万人からフォローを受けてる大人気インフルエンサーなんだ」
「そーなの!?」
あっだから龍一兄はリョウに無理難題を出したんだ。リョウの今の知名度なら行けると思ってるから、あの条件なんだ。なんだ、心配して損したじゃないか。僕の登録者数でも行けるかどうか分からなかったから不安に思っていたんだ。
「でもそっか、CTuberになるためにリョウは妥協してこなかったんだよね……そりゃあ最初から登録者数ゼロで挑むわけないか」
「そう言ってくれてありがとう、センリ」
:なんだこれてぇてぇか?
:幼馴染か……ありだな!
:これはガチ恋勢憤慨
:リョウがCTuberバカっていうのは理解できてるし、センリちゃんに限っては配信初めてまだ二日だからね?
:そうだった
:ガチ恋勢介入する余地なしだった
「それじゃあ本日はセンリと一緒に『こんばこ』を進めていくぞ!」
「うん!」
幼い頃から憧れていた『こんばこ』とそれを配信するCTuber。僕は何もしてこなかったけど、リョウはこのためだけに頑張ってきたんだ。なら僕も、そんな彼に恥じないよう頑張ろう。
「よし! 先ず始めn――」
「うぇええええい!!!!」
「ぶげらっそぉーっ!?」
と、思ったらブーストを噴かせた三輪車に撥ねられたぁ!?
◇
サブ3 鋼の漢は浮かぶ夢を見る
◇
「えええええええ!?」
:!?
:ええええええ!?
:!?
:何が起きた!?
:えええええええ!?
:リョウが死んだ! この人でなし!
:マジで何が起きた!?
キキィーッとブレーキ音を出しながら止まる三輪車。その三輪車を運転していた人がこちらへと振り向いた。
「あたしこそがセンリちゃんの初コラボ相手! やぁみるぷーお姉さんだよ!」
そう言って彼女はそのまま三輪車でブーストを出しながら走り去っていった。
「……え」
え、このためだけに!?
それを言うためだけに登場したの!?
何なの、怖いよぉ!
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