サブ3 鋼の漢は浮かぶ夢を見る
第1話 デェェェェェェェン
「あっはっは! 三輪車に轢かれるとか凄い体験だったぜ!」
「ごめんね……突然のみるぷーお姉さんが」
:あの三輪車、ブースト付いてたんだが
:カオスレーストッププレイヤーが三輪車で人と交通事故(誇張なし)
:事故か?
:故意だろあれwww
:初コラボマウントで人を殺害しようとした女
:それで笑って流すリョウの器よ
「相変わらず愉快な人との繋がりを持ってるな」
「あぁ、うん……ソウダネ」
愉快……うん愉快だね。色々とお世話になってきたから多くは言えないけど、愉快で良い人だと思うよ、うん。
「さて、気を取り直して――」
「ちょっと待った」
「お、おう? どうした?」
一旦この中央広場の周囲を見て警戒する。
「場所を移そう」
「どうしてだ?」
どうしても何も……。
「ここにいるとまた誰かが吹き飛ばされる気がして」
:いや草
:そういやセンリちゃん、ここで人が吹き飛ぶところを何回も見たんだっけwww
:魔の中央広場やんけ!
:センリちゃんに話しかける男ぶっ転がしゾーン
:草生えるわwww
:草に草を生やすな
僕の言葉とコメント欄の反応でリョウがお腹を抱えて笑い転げる。
「いやwww笑うわwww」
「笑いごとじゃないんだけど」
そのせいでこっちはチュートリアルを始められない不具合に陥っているんだけど。
「あっはっは……はぁ、まぁ俺も二回吹き飛ばされるのは勘弁だな。よし、事情は分かった。それなら総合ギルドの酒場に行こうか」
「総合ギルドの酒場か……」
「知ってると思うが、それぞれのジョブギルドを統括する施設だ。そこでパーティーメンバーを集めて依頼を受けることができるぞ」
他の人の配信でそういう施設があることは知ってる。多分チュートリアルの進行時に総合ギルドの説明が入ると思うけど、まさか先にリョウの口から出てくるとはね。僕はいつになったらチュートリアルを始められるんだろうか。ちくしょう。
「そこで今日の目的を話そう」
「了解」
◇
「センリはエクストラリワードを知ってるよな?」
「うぶぐふっ、ごほっ、ごほっ……!」
単刀直入に発せられたその言葉に僕は飲んでいたジュースをのどに詰まらせた。凄いなこのゲーム、ちゃんとこういう反応を再現してくれてるんだぁ(現実逃避)。
「大丈夫か?」
「いや、ごめん続けて」
僕が既にエクストラリワードを手に入れていることは家族以外誰にも言っていない。まぁリョウに関しては報告しようとしたらタイミング合わずに話せずじまいだけど。
それはともかく、前回手に入れたエクストラリワードは初回で、しかも未配信だったから特別に非公開を選ぶことができた。だから誰も僕が物質転送に関するエクストラリワードを手に入れたことを知れていないのだ。
ただ配信が前提となった今では、次にエクストラリワードを入手した場合非公開とならずに配信を通じて公開されることになっているけど。
「それで、実はとあるサブクエの報酬がエクストラリワードなんじゃないかっていう噂があるんだ」
「そんな噂が!?」
曰くそのサブクエは誰もクリアしたことがない。
それほどの難易度なら報酬も豪華に違いない。
豪華ということはエクストラリワードなのかも。
「――ってさ」
「何その楽観的な連想ゲーム」
いやマフィアの屋敷に首を突っ込んだらエクストラリワードを手に入れた僕が言えたことじゃないと思うけど。それでも考えが浅はか過ぎない?
「まぁ事の真偽はともかく、誰もクリアできないほどの難易度なのは間違いない。ここで俺がこのサブクエをクリアすればバズると思わないか?」
「そう簡単に行くのかな……?」
まぁ確かに三十年経っても様々な人間が新規として入って来るこのバケモノゲームだ。そんな人たちがクリアできないサブクエをクリアすれば、それなりに盛り上がるかもしれない。
「事情は分かった。それで僕はどうすればいいの?」
「簡単なことさ」
そう言ってリョウは僕の肩に手を置いた。
「センリにもそのサブクエに参加して欲しい」
「……へ? いや当然参加するけど……?」
サブクエの手伝いをするなら当然一緒にサブクエを受けに行くのは当たり前のこと。だというのにどうしてリョウはわざわざ念を押してまで?
:あーあ
:鬼畜だなぁ
:何も知らないセンリちゃんを地獄に連れていくという所業
「……因みにお聞きしますが、どういう内容のサブクエでしょうか?」
「ジョブクエストさ」
ジョブクエスト。そのクエストを進行、もしくは達成すると新しいジョブを入手することができるクエストだ。その誰もクリアできないサブクエが……ジョブクエスト?
「とにかくどうだ? やってくれるか?」
リョウの笑みに僕は怪訝な顔をする。だってこういう面白そうな顔を浮かべている時は大抵何かの思惑を抱いていることが多いのだ。恐らくリョウの言うジョブクエもそういうパターンに違いない。
まぁそれでも、僕に選択肢はないけど。
「……分かったよ。僕、やってみるよ」
VRを貰った恩もあるし、なるべく手伝いたい思いがある。だから僕はリョウの頼み事を引き受けるのだ。
「あぁ良かったぜ!」
そう言ってリョウは安心するように笑うと――。
「――これでおばさんから貰った秘蔵写真を使わなくて良かったぜ!」
「待ってお前今なんて言った?」
:秘蔵写真について詳しく
:センリちゃんの秘蔵写真!?
:なんてうらやま……けしからん!
:これは責任取って私たちも見分を……
秘蔵写真って何?
おばさんって僕のお母さんだよね?
貴様、僕のお母さんから何を貰った!?
◇
リョウの後を着いていく。
今いる場所は総合ギルドの中にある職業訓練所だ。チュートリアルを進めていくと、ここで改めて様々な武器の扱いを学び、自分に合ったジョブの方向性を探る場所だという。
まぁ当然、僕は知らないんだけどね!
そうして職業訓練所にある受付の前に着くと、リョウが受付カウンターに向かって声を掛けた。
「すまない、訓練相手としてアーノルド教官を指名したいんだが」
「……失礼ですが、その意味をご存じでアーノルド教官を指名していらっしゃるのでしょうか」
「あぁ、分かってる」
「そうですか。ではこちらの同意書にサインをしてください」
「分かった……ほら、センリ」
「え、あ、うん」
受付の物々しい雰囲気に気圧されながら、僕はリョウから同意書を受け取った。その際、受付の人が僕の顔を見て同情的な視線を送ったことに疑問を抱いたけど。
「えーと……何々?」
・いかなる影響が生じても責任は負いません。
「おぉぉぉい!! 内容が不穏ーっ!!」
「書いたか?」
「書けるかああああああ!!?」
これブラック会社とか悪徳商法とかの常套句だよ!? こんな見え見えの地雷誰が踏むの!?
「俺は書いたけど」
と思ったらリョウは既にサインを終わらせている! コイツ見え見えの地雷を踏みに行ったぞ!?
「センリ、書くんだ」
「何その圧!? いったい僕に何をさせようと!?」
;ぐへへ
:さぁ、こっち来いよぉ……
:大丈夫、苦しいのしかないから……
;気をしっかり持てば諦めもつくんやで
「コメント欄が地獄の亡者!」
「大丈夫、途中リタイアしてもいいからさ」
「リタイアして大丈夫ならそもそも参加しなくてもよくない……?」
あ、駄目?
リアクション取ってからリタイア?
もしかしなくても芸人扱いされてる!?
「はい、これを」
「ありがとうございます、すぐにお呼びしますね」
抵抗空しくサインを書かされて、同意書が受付に渡ってしまった。
「いったい、何が起きるんだ……?」
「おっ、教官が来たぞ」
「え……?」
リョウの言葉に僕は顔を上げる。するとそこには、受付の人に連れられて一人の男性がやって来るのが見えた。スパルタ教官っぽい衣装の人が僕たちに近付いて、興味深げに僕とリョウを見る。
「貴様ら、この俺と訓練することの意味を理解しているんだな?」
「当然だ。俺はここで――」
リョウは口角を上げて、まるで獰猛な狼のように笑みを浮かべると。
「――『コマンドー』になる!!」
――そう、言ったのだ。
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