第4話 好奇心はレーサーをジェノサイド
盛り上がる曲とはなんだろうか。
思い出の曲、定番の曲、ネタ曲。人によっては違う曲を挙げるだろう。であるならば、この状況における盛り上がる曲については、ゲームBGMに絞って定義するとしよう。
ゲームBGMというのは、数々の曲がプレイする人に没入感を与え、感情を揺さぶるのを目的とした曲が多い。
ではその中で盛り上がる曲とは何か。
僕の考えではいくつかある。最も盛り上がる曲は今後の切り札にするとして、ならその中で次に盛り上がる曲とは何か。
ゲームプレイの中で一番聞くBGMであり、常にプレイヤーを高揚させる目的を持つBGM。
そう、戦闘BGMだ。
「――ッ!」
ギターのヘッドから火が噴く。
脳波スキャンシステムにより僕が弾きたい曲をシステムが把握し、勝手に僕の指を動かし、僕の好きな戦闘BGMを勝手に弾いてくれる。
:おっあのゲームのBGMじゃん!
:フゥッ! 盛り上がるぅー!
:版権大丈夫?
:なーにBESが全部許可取ってくれてる
:まぁこんばこプレイ中とかカオスチューブ配信限定だけども
それでいてちゃんと自分で弾く感覚があるから楽しい! そう、僕はこれを求めて『こんばこ』を求めていたんだ!
僕らが駆ける『マッドデストロイヤー』が加速する。
本大会用にカスタムされたこのモンスタートラックは、最高時速600キロを誇る。だが残念なことに速度という面ではこれを超えるバケモノが存在するのがこのカオスレースだ。
だけど僕がギターを鳴らし、ブーストエンジンを起動させている今は違う。
「くっ、うっ……!」
加速された『マッドデストロイヤー』を運転するカトリーナさんが苦しそうな呻き声を上げる。何せブーストエンジンを起動させた今の『マッドデストロイヤー』は最高時速1200キロに届くのだ。
僅かなハンドルの傾きにすぐさま横転してもおかしくない状況なのに、それでも制御できているのは彼女の確かな才能故だろう。
「よーし先頭到達! カトちゃん、速度を緩めていーよー!」
「分かりましたわ!」
流石にガソリンの問題があるため、常に最高時速で走るわけには行かない。
そういったことを踏まえて、先ず僕たちの目的は集団を抜けて一番前に行くことだった。先頭に行けば警戒するのは後方だけとなり、より運転に集中しやすくなるのが狙いだ。
今の速度は300キロぐらい。そこにみるぷーお姉さん謹製のブーストエンジンは『現在の速度を倍にする』効果を持つためその倍の600キロ。それが今の速度だ。
だけど。
『さぁいきなりの波乱を見せたカオスレース! 化け物速度で走る彼らの先頭を走るのはこのチームだぁ!!』
――ゴォォォッ!!
『優勝候補である『ジャンクライン』だぁぁぁ!』
――先頭は僕たちじゃなかったのだ。
「そんな、まさかあれは!?」
それは車というにはあまりにも異形過ぎた。
音速を超え。
鋭く。
高く。
そして大馬鹿過ぎた。
――それはまさにロケットだった。
『これがワイらのロケットスタートやぁーっ!』
「いやロケットスタートってそういう意味じゃないと思うよ!?」
:ロケットスタート(直喩)
:こんなの車じゃないわ! ただのロケットよ!
:だったら飛べばいいだろ!
:ずりぃwww
確かにルールでは問題ないがあまりにも露骨過ぎる。いやもうファンタジー世界観とか技術力とかおかしいよもう。
しかしマッハを超える乗り物か。確かに速さを競う競技なら合理的だろう。
だけど、カオスレースはそんなに甘くない。
「……『CN04、
『あれ、急に動作が――』
ドガァァァン!!
『おっとぉ!? 先頭をひた走っていた『ジャンクライン』のロケットが突如として爆発したぁ!』
:センリさん!?
:アンタまた性懲りもなく!?
:二度目は流石に言い逃れできんよwww
:500¥/ これから毎日ドゥンドゥンやろうぜ!
「違うんですぅ!! 何かズルイ乗り物を乗ってる奴を蹴落としたいだけで爆発させるつもりはなかったんですぅ!!」
「センリちゃん楽しくなってなーい?」
……あの、実はちょっとだけ思っていました。いやでもおかしいな? なんで『マーカーだれ』を塗ったどのマシンも爆発するんだろう?
:あと数十台にも塗ってますけど……
:いやまさかね?
:いやいやそんなそんな
試す? いやでも……流石に全部が爆発するわけないよね? 適当に何か重要そうな部品を選んだけど全部起爆に直結するようなものとかじゃないよね? ね?
「……『CNフルセレクト、
:いやおい待てwww
:この子やりやがったwww
:好奇心に抗えなかったセンリちゃん
その瞬間だった。
◇
『あれ、急に車がギャアアア!!』
『このレースに全てを懸けるギャアアア!!』
『見てくれ親父……俺の速さギャアアア!!』
『このレースが終わったら俺はギャアアア!!』
『クックック……まさかこの試合のスポンサーに俺の親がいると思いまギャアアア!!』
『もしもし? あーオレだよオレ。オレオレ。今試合に出てさぁちょっとお金がギャアアア!!』
『オッス! 俺の名前はカケル! カオスレースのレーサーに憧れてる小学三十六年生ギャアアア!!』
『愚かな人間よ……このレースで優勝した暁には貴様ら人間共を滅ぼギャアアア!!』
『自分木造の馬車なんですけどギャアアア!!』
………………。
…………。
……。
◇
:やめろおおおおお!!
:あのチームに賭けてた金があああ!!
:爆 殺 ☆
:こりゃあひでぇwww
:50000¥/ 初見
:諸悪の根源がここにいると聞いて
:おうおうこの落とし前はうお可愛い許す
:↑クソチョロスギィ!
「あははははははははははははは!!!」
「なははははははははははははは!!!」
カトリーナさんとみるぷーお姉さんがゲラゲラと大爆笑をしている。
いやもうこれは酷い。メリーナさんの車を含めて、百個あった『マーカーだれ』の内使った二十七個が全部爆発してる。これそういう効果無いよね? ね?
『なんということだああああ!! スタートしてまだ最初の難関ポイントに辿り着いていないというのにこの有り様!! 百組いたチームの内二十七組が謎の爆発により塵となって消えたああああ!!』
なんですかこれ、地獄ですか。しかも僕の手で作り出した地獄絵図だ。優勝のためなら何でもするって言ったけどこの結末は想像してなかった。本当だ、信じてくれ。
え? 爆発するかもしれないと考えておきながら実行した? よし、この話は終わりにしよう。
「あと三秒で『
みるぷーお姉さんの言葉に僕は気を引き締めた。
メインストーリー序盤の『こんばこ』の世界には凶悪なモンスターや異常気象が渦巻く混沌の大地だった。みるぷーお姉さんの言う『岩雨平原』という場所も、そういった異常気象の一つなのだ。
:うわぁ懐かしい
:こういうのあったなぁ
:もう一部のサブクエでしか見れないしね
:レース中は皆の進行度が初期に変わるからな
この平原は空から大小様々な岩が落ちてくる危険地帯だ。無警戒のまま歩くと上からプレイヤーめがけて岩が落ちてぺしゃんこにするため『岩雨平原』と名付けられた。
そんな岩が降り注ぐ平原を前に、みるぷーお姉さんとカトリーナさんは笑みを浮かべていた。
「カトちゃん、覚悟は良い?」
「……えぇ、よろしくってよ!」
「よーしいきまっかー!」
そう言って、みるぷーお姉さんが車の
「プラス60で駆け抜けて」
「了、解!」
みるぷーお姉さんの言葉によってカトリーナさんが更にアクセルを踏む。時速約660キロで駆け抜ける『マッドデストロイヤー』。その瞬間。
ドゴォォンッッ!! と、巨大な岩が僕らの後ろに落ちてきたのだ。
:すげぇ
:もしかして読んでた?
:流石みるぷー
:↑みるぷーお姉さんダルルォ?
「さぁ次行くよー!」
「えぇ!」
この後、みるぷーお姉さんの指示によってハンドルを切るカトリーナさん。みるぷーお姉さんはまるでどの位置に、どのタイミングで、どのような大きさの岩が落ちてくるのか分かっているかのように指示を出すため、岩の欠片すら車体に当たらないレベルだ。
『クソ! 読みが、うわあああ!?』
『しまっ、避けた先に岩が――』
『岩回避、ヨシ! ぶべっ』
他の参加者でもこの平原で潰れているというのに、なんて正確さだ。流石カオスレースの常時完走者であり、優勝経験もある実力者。
これが僕のチーム。
これで、僕たちは優勝を目指すのだ。
そんな時である。
『――へッ、ついにこの時が来たなぁみるぷーよぉ!』
スポーツカーみたいな車に乗ったチームが後方から猛スピードでやってきて、僕たちと並走しに来たのは。
「へぇーよく来たねぇ! このみるぷーお姉さんに挑戦するとは、その根性嫌いじゃないよ!」
『んなっ、嫌いとか好きとか何言ってんだテメー! そういうのは俺が勝って、俺が改めてだな……』
「ところで君誰だっけー?」
『オィィィイイイ!』
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