第3話 再びゲームへ! ……えぇえええ!?

 リワード担当者との話し合いはすぐに終わった。難しい手続きもなく、ただ同意書に同意するだけの簡単な話し合いだった。

 契約の内容もただエクストラリワードによって生じる利益は全て僕らのもので、その利益に対して何かしらの請求はしないというもの。

 また僕たちに対するあらゆる不利益から保護するという明らかに僕たちに有利な話ばかりだった。


「以上で、何かご質問等はございますか?」


 そう言って、リワード担当者が優しく微笑んだ。裏なんてなさそうな顔。だからこそ、こんな一方的に僕たちに有利過ぎる条件が怪しく感じる。


「では私から……」


 父さんが挙手をする。


「はいなんでしょう」

「私の目から見ても、この同意書は私たちに有利なものばかり。それでは御社に対しあまりにも利益が少ないように見えるが、そういった点はどうお考えなのでしょう」


 直球過ぎる質問だ。だがそんな質問を受けても、担当者の表情は変わらない。それどころかまるで想定していたような雰囲気を感じる。


「えぇ、その疑問は当然のことです。私自身も、初めは『ゾーンリンク』と『BES』の両社長から聞かされるまで疑問に思っていました」

「……つまり?」


 父さんの反応に担当者は微笑んだ。


「それはもう、両社長から熱弁されましたよ」


 VRマシンである『VRリンク』と『ヒュプノスシステム』を作った『株式会社ゾーンリンク』。そして『こんばこ』を開発、運営する『BES』こと『株式会社ボックスエンターテインメントソフトウェア』の二人の社長が話す真意。


 ――それは。


「娯楽に満ち溢れた楽しい世の中にすることが、私たちの目的なのです」




 ◇




「さて」


 僕は今『こんばこ』の世界にログインしてる。手には吟遊詩人装備のリュートを持ち、ちゃんとジョブも吟遊詩人だ。

 エクストラリワード関連で色々あって数日が過ぎた。気が付けば亮二との約束まであと二日しかないという状況にいる。というわけで、今日こそはゲームをしたいのだ。


「さて、先ずはチュートリアルからだね」


 中断してたチュートリアルを進めよう。これをクリアすると『こんばこ』内のメインコンテンツと一部サブコンテンツが解放されるから、必ず進めとかないと。


「あっそうだ」


 そしてもう一つ、僕はやらなければならないことがあった。


 ――それは。


「えーと……どうもー……?」


 :どうもー

 :新人さんだー

 :うお可愛い……!

 :面白そうなチャンネル名見かけたから見に来たけどこれは当たりの新人かな?


 そう、配信である。

 僕の視界には配信を見てくれてる視聴者さんからのコメントが流れていた。

 流石に初回でしかも初の配信業だから、見てくれる人もコメントをする人も少ない。けどちゃんと人がいて、僕の配信を見ている人がいる事実に体が緊張で震えてくる。


「センリ、です。あの……よろしくお願いします」


 :よろー

 :よろしくー

 :声もいいな

 :声も顔もいいとか完璧か?


 ちょっと緊張するけど、今のところ優しい人たちで良かった。まぁたまに恥ずかしいコメントとかあるけども。


「ははは……」


 そんなリスナーからのコメントを見て、愛想笑いをする僕。そんな状況に陥りながら、僕はこれまでのことを思い返した。


 僕が配信者になることについて、一回亮二に連絡したことがある。

 僕自身配信者になるのはあまり興味が無かったものの、成り行きとはいえ亮二より先にCTuberになるのだ。


 アイツも曲がりなりに配信者を目指しているわけで、烏滸がましいとは思うけど僕が配信者になることで亮二と競合してしまう可能性がある。

 だからそのことについて連絡したのだけど、亮二からの返事はというと。


『え!? マジ!? CTuberになるの!? いいよ! チャンネル名教えて!』


 いや軽いよ君!


 そうだった。亮二はこういう奴だったのだ。生粋の配信者オタクであり、配信者になるためならその青春すら捧げる男。

 そんな男が新しい配信者の誕生に喜ばない筈は無い。まぁそれが亮二の良いところなんだけども。


 閑話休題。


「それじゃあ今日は、チュートリアルを進めたいと思います」


 :OK

 :おっけー

 :でもあれ? チュートリアルを受けてない初心者にしては武器を装備してるな?

 :武器っていうか楽器やな

 :もしかして吟遊詩人?


「あ、チュートリアル受けてないけどジョブは習得しました」


 :変な経緯だな

 :普通チュートリアル中にジョブ入手だけど


「いやぁ……それがですねぇ……」


 そう言って、初日に起きた状況を思い返しながらリスナーに説明をする。

 バカップルの問題に巻き込まれたこと。マフィアに喧嘩を売ったこと。バカップルの惚気を見てしまったこと。取り敢えずサブクエの内容だけを説明する。


 :いや草

 :草

 :しょっぱな波乱過ぎwww

 :なんだよマフィアって(笑)

 :なんでバカップルからマフィアなんだ


「いやそれは僕が聞きたい」


 マジでそれ。

 しかし最初は緊張していたけど、話していけば流れが良くなった気がする。バズることは考えていないけど、こういう人と話しながらゲームをするのも中々楽しいかも。


「ちょっとそこの君」

「え? あ、はい」


 と、しばらく話し込んでいたのか。広場で立っていたことがトリガーになってどうやらチュートリアルが開始されたようだ。

 その証拠に僕に話しかけたのは、あの時のようなチャラ男ではなく、ちゃんとした兵士だった。


 :お、マジでチュートリアルやってないんだ

 :↑だからそう言ってる定期

 

「気の所為でなければ何も無いところで君が現れたように見えたが……君はどこの者だ?」


 そう、僕たちプレイヤーは急にこのデミアヴァロンの中央広場に現れる。それはゲーム的な仕様ではなく、ちゃんとしたシナリオ的演出であり、それがプレイヤー自身の謎に繋がる伏線となるのだ。

 いや、まぁメインストーリーは見ていないと言ったけど、それでもネタバレを食らう時があったからさ……うん、しょうがないね。


「えーと分かんないです」

「分からない……? 取り敢えず詰め所まで来て貰おうか」


 :【悲報】今日初配信の配信者、捕まる

 :初手牢屋は基本

 :いつかこうなるとは思ってた……

 :↑お前も初対面やろwww

 :うーんこれは可愛過ぎ罪で死刑!


 なんか君たち好き勝手言ってない?

 まぁとにかく兵士についていかないとチュートリアルが始まらないため、ついていくしか無いけども。


「それじゃあ行くz――」

「ヒャッハーッ!!」

「ぶげらっぷぅーっ!?」


 と思ったら兵士の兄ちゃんが見知らぬクソデカオープンカーに撥ねられたぁ!?


「えええええええ!?」


 :ええええええええええ!?

 :兵士くん吹っ飛んだあっ!

 :え、何事!?

 :俺の知ってるチュートリアルじゃない!

 :超 展 開 ☆


「え、ちょ、大丈夫ですか!?」

「すまない……故郷にいる妻にこれを……ガク」

「兵士さぁぁぁん!?」


 そんな、僕のチュートリアルが!? いや違うそういうツッコミを入れてる場合じゃない。僕は兵士さんが懐から取り出した手紙を受け取る。すると。


『サブクエスト:あの世で待ってるが開始されました』


 いやサブクエ名が不穏!? それどころかなんか急にサブクエを受注したんだけど!?


「おーう……間一髪だったなぁ、嬢ちゃん」

「え、そ、その声は!?」


 兵士を轢いたクソデカオープンカーから一人の男が降りてくる。優に三メートルを超える巨体。クソデカオープンカーだから当然だけども、運転手の人もかなりデカい。


 だがそれ以上に僕はこの声を知っている。外見だけで言えばマ◯ベルのキ◯グピンみたいな厳つい巨体を、僕は知っている。

 ザルド・ファミリーのボス、ザルド・フォーランド。前のサブクエで喧嘩を売ってしまったマフィアのボスだ。


「このザルド様がぁ、娘の頼みによって迎えに来たぜぇ……」

「え、やだぁっ!」 




 ◇




 サブ2 飽いた女傑は速さを求める


 ――『サブクエスト:MAD RACER 〜怒りのクレイジーロード〜 が開始されました』




 ◇




「行くぞぉ」

「やだぁっ!!」


 :え、何これ!?

 :なんか普通に配信見てたら怖い人に拉致されてんですけどぉ!?

 :え!? これもしかしてサブクエ!?

 :知らない俺こんなクエスト知らない!




 ――現在、同時視聴者数2500人。

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