第2話 サブクエスト開始! ……えぇ
「属性詰め込みすぎ……!!」
店名が和名。
キャッチコピーはSF。
外観サイバーパンク。
周囲の光景中世ファンタジー。
ここだけ時空転移が起きて別世界のレストランがやってきたと言われても信じるレベルで他の世界観に喧嘩を売っていた。
「ささ、中に入って」
「いや待って、頭の中を整理させて!?」
「あ、あれ? もしかして嫌だった? 寿司」
「寿司!? ここ寿司屋なの!?」
あ、本当だ。
電光掲示板メニューにマグロとかアナゴとかある!
「……でも他にも『魅惑のセイレーン握り』とか見えるけど」
「食べると歌声良くなるよ」
「どんな寿司なの!?」
駄目だ、ツッコミきれない……!
「……でも、ごめんね。今はその寿司は食べれないんだ」
「食べれても頼まないんですけど……どうして?」
あっ、つい癖で聞いちゃった。
僕は昔から疑問に思ったことはすぐ口に出すからトラブルが絶えないんだよな。
「それはね――」
「おぉ! フィリン、帰ってきたか!」
「父さん!」
フィリンさんが事情を説明しようと矢先に店内から一人の男性がやってきた。フィリンさんの言葉から恐らく彼がフィリンさんのお父さんだろうか。
「アイツはどうだった?」
「殺してきた」
「そうか、殺してきたか」
娘の殺人行為を流した!?
「しかしアイツには参ったな……フィリンというものがありながら何故」
「……やめてよそんな話」
「お、おぉそうか……ところでそこのお嬢さんは?」
そう言って僕の方へと見る。
僕は怪訝に思って後ろを見るとそこには誰もいない。
お嬢さんっていうのは誰だろう。
……え、まさか僕のこと!?
「いや、あの、僕男ですけど」
『え?』
「え?」
……。
……え?
ここでフリーズする?
◇
「あ、美味しい!」
僕は今、お詫びとして『じくう処』という寿司屋で寿司を食べていた。定番のマグロからタマゴ、いくらやウニの軍艦巻きは当然としてパフェやラーメン、ハンバーグといったメニューも存在している寿司屋だ。
このゲームはちゃんと料理の味も感じられるので料理目的でゲームをやる人もいる。まぁ満腹ゲージが存在しているので無限に食べられないのが残念だけど。
「すまんな坊主、性別を間違えてよ」
「あぁいえ、よくあることですよ」
「よくあることなのか……」
よくあることです。
それで散々
「しかし……」
周囲を見てもそこにお客さんの姿は見えない。
外観はアレだとしても料理はちゃんと美味い。なのに忙しいという様子も見えないし、失礼だけど繁盛している様子もない。あっサーモンお願いします。
「不思議に思うか?」
「え?」
「いや、いいんだ本当のことだしな」
どうやら親父さんはこの状況について把握しているようだ。
「簡単に言えば喧嘩さ」
そうして親父さんは今までのことを語りだした。
「元々この『じくう処』は調理担当の俺と食材調達、時空間配達技術担当の相棒がやりくりしてたんだ」
「……寿司屋の話?」
「そうだが?」
思いっきりサイエンスな用語出てこなかった?
あっヒラメお願いします。
「数年後に俺と相棒はそれぞれ家庭を持ってな……それぞれ娘と息子が生まれたもんだから将来的に結婚させようって話し合って……」
つまりフィリンさんとルースは幼馴染にして婚約者同士の関係だったと。
「関係は良好そうに見えたんだけどなぁ……そろそろ結婚させるかって段階でいきなりルースの奴が結婚しないって言いやがってよ」
「えぇ……」
「おめぇはフィリンの何が気に入らねぇんだって怒ったんだ。それで相棒が宥めてくれたが勢い余って相棒を殴っちまったんだよ」
いや何やってんのさ。
全方向ぶん殴るマシーンか何か?
その話を聞いたフィリンさんがはぁとため息を吐く。
「やっぱり父さんが悪いよ」
「まぁ、そうなんだが。いやでもな?」
「でもも何も、それで話拗れて自慢のデリバリーサービスもバフ寿司も出来なくなって店が寂れたんでしょ」
「いやそもそもルースが悪いだろ!? 今更結婚しないとかふざけてやがる! お前を蔑ろにした件のケジメがないならずっとこのままの関係でいるぞ!」
「おじさんも昨日反省としてお詫びに時空配達装置の権限をこっちに移したじゃん。この件で意地を張ってるの父さんだけだよ」
そうフィリンさんが言うと「うっ」と親父さんが固まる。フィリンさんの話を聞いた限りじゃあお店の問題はもう解決してるようなものだ。
と思ったが。
「う、うるさい! ルース本人がケジメを付けないなら何も変わらん!!」
「頑固だなぁ」
まぁ確かに頑固だろう。
店の問題はとうに解決していて、後は親父さんが受け入れるかどうかの問題だ。その問題も、ルースがフィリンさんにケジメをすれば解決するという分かりやすい回答もある。
はっきり言って時間の問題だと思うけど。
「それで、今日もルースの野郎はナンパしてやがったのか?」
「そうよ。センリちゃん君をナンパしてた」
センリちゃん君って。
「確かにナンパするのも分かるけどよ」
「ちょっと? 今の発言に対して異議が」
「でもやっぱりおかしいよなぁ……結婚しないって言いながら今更彼女を探すってのは」
「ねぇ聞いてる?」
「……しょうがないじゃない。そのぐらい私の事が好みじゃないってことでしょ」
そう言いつつフィリンさんの顔は苦しそうだった。
僕のことを無視するのはともかく……僕の見立てでは、フィリンさんはそれでもルースの事が好きなんだと思う。
まだはっきりとした確証はないものの、普通ならこの出来事で両家族の関係は切れたようなものだろう。それでもちゃんとルースの家族からお詫びが来て、お店の問題は終わったけどそれでもフィリンさんはルースのことを今日も探していた。
多分、フィリンさんの中じゃまだ諦めきれないものがあるのかも。
まぁそれはそうと。
「あっホタテお願いします」
「俺が言うのもなんだけどこんな気まずい状況で良く食えるな」
「寿司に罪はないですし」
寿司、どうしてこんなに美味いんだ寿司。
反省しろ寿司。
「た、大変だ!!」
『!?』
その時だった、突如として一人の男性が大声を出して店内に入ってきたのだ。
「ハロン!? おい、どうしたんだよそんなに慌てて!?」
「息子が……ルースがとんでもない奴らに手を出しやがった!!」
これは、またひと悶着がありそう?
◇
死の淵から帰還したルースは懲りずにまたナンパを始めたらしい。
でもナンパした人がまさかのあるマフィアのご令嬢だったらしい。これに激怒した令嬢のお父さん……つまりマフィアのボスがルースを捕まえたという。
「ったく何をしてるのよアイツ……!!」
何故か僕を連れて急いでマフィアの屋敷へと向かったフィリンさんたち。彼らがマフィアの屋敷の場所を知っていたのは単にこの地域で有名なマフィアだから全員知ってるとか。
小学生の間で近所の怖いおじさんがどこにいるか理解しているようなものかな。
「見張りがいないぜ」
「どうやら総出でルースを虐めているらしい」
「それはもう死んだのでは?」
ルースのお父さん、名前はハロンさんがそう説明をする。
うん、いやもうミンチどころか跡も残らないでしょそれは。
『ぎゃああああああ!!』
「ルースの声だわ!?」
「おい待て! 無策で突っ込むのは危険だ!」
「でもいったいどうすれば……!!」
一般人がマフィアのお宅に突撃するのは無茶を通り越して無謀だ。かといってジョブも解放されていない僕に何かできることがあるとは思えない。
そう言えばどうして僕はこんな目に遭ってるんだろうね。
悩んでいるとフィリンさんのお父さんが懐から何かを取り出す。
「いや、俺に考えがある」
「父さん?」
僕を除いた全員、親父さんが取り出したものを見て目を見開いた。形としてはスマートウォッチみたいなものだ。
「それは俺が開発した『小型時空注文装置』じゃないか!」
「おじさん、まさか小型化に成功させたの!?」
なんか違う世界の単語がバンバン出てきてるぞ。これは僕の理解力が足りていないせいかな?
「これでルースの野郎をこっちに取り寄せる!」
「馬鹿野郎アイゼル! そいつはマーカーだれを塗った物でしか取り寄せできないんだぞ!」
マーカーだれって何?
「時空間転送する際に各細胞が分裂、拡散させないようにするための無味無臭の醤油だれのことよ」
「無味無臭の醤油……?」
ははーん?
さては僕をからかってるな?
「当然だがルースの体にはマーカーだれが塗られてない! いったいどうするつもりなんだ!」
まぁ確かにどこの世界にこういった状況を想定して醤油だれを塗っているという話だね。なんかもうシリアスなのかギャグなのか分からなくなってきたゾ。
「俺が塗りに行く」
「何を言ってるんだお前は!?」
本当にそうだよ。
「大丈夫だ、俺の体にもマーカーだれを塗っておく。それで俺がルースの体にマーカーだれを塗ったら俺とルースを注文してくれ」
「馬鹿野郎! その前にお前がリンチを受けて死ぬだけだ!!」
『おふううううううんっ!!』
揉めてる間にルースの悲鳴が響く。
もう時間がないのは確かだ。
なんかもうツッコミきれないけど、とにかく急がないとルースが危ない。
と、そこに。
「――マーカーだれは私が塗りに行く」
『フィリン!?』
なんとフィリンさんが挙手したのだ。
「父さんの足じゃあ一歩でも踏み出したら捕まるのは容易に想像できるわ。ならこの中で一番身体能力のある私が塗りに行けばいいのよ」
危険だ。そう言おうとしても目の前の正論に親父さんたちは反論できない。でもこのままじゃフィリンさん一人だけ突撃してしまう。
――だったら、もうこれしかない。
「――なら、僕が囮になります」
『え!?』
「おい! 坊主は俺らと関係ないだろ!」
「そうよ! そもそもなんでここにいるの!?」
「あなたたちが連れてきたんじゃないですか!」
なんですか。
ここに来てギャグを挟まないでくれますか。
え、ずっとギャグ?
それはそう。
「もう乗りかかった船なんです!」
流石にこの状況を見て『はい勝手にどうぞ』なんて言えない。
僕は僕にできることがある限り、どうしても困った人を見捨てることなんてできない性分なのだ。
「僕が囮になりますので、その隙にフィリンさんがマーカーだれをルースに塗ってください!」
「でも……!」
「大丈夫です! 僕もマーカーだれを塗りますので、準備ができたら僕も一緒に注文してください!」
僕の言葉にフィリンさんたちが顔を顰める。
だがこれしかないはずだ。
……いやこれしかないのかな?
もっといい方法があるのでは……?
「……分かった。お願いしてもいい? センリちゃん君」
「(ごめん、こっちはいまいち分かってないけど)はい、任せてください!」
こうして僕は、ルース奪還作戦を開始したのだった。
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