第4話 残念だったな、トリックだよ

『ポイズンウィスパーがレベルアップしました』

『ポイズンウィスパー:SLv.1 → SLv.5』


『ポイズンウィスパーが規定レベルに達しました』

『派生スキル:ポイズンボイスを習得しました』


 おかしいな、ポイズンウィスパーのスキルを使用していないのにレベルが上がって新しいスキルを習得している……。

 そう僕が首を傾げていると、リョウと教官が尋問によって素直になった男に対して質問をしていた。


「娘の場所を吐け」

「アンタ の娘、は 二番地区に いる」

「そうか……」

「何か、様子がおかしくない――」

「おふぅぅぅぅん!!?」

「え、ちょ何が――」

「おぅふううう!!?」


 何かこの人、僕が口を開く度に奇声を上げてるんですけど!?


「ストップだ。これ以上彼を苦しめないでくれ」

「何言ってんの!?」

「OHHHH!!?」


 とにかく僕がいると質問もままならないらしい。僕は渋々リョウに連れられて部屋から出た。そうしてしばらく経つと、待合室からリョウと教官が出てきた。


「どうだった?」

「あぁ彼は大丈夫だ、死ぬほど疲れてるだけさ」

「それはもう死んでるのでは?」


 いやそもそも聞きたいことはそれじゃない。


「詳しく教えて」

「あっはっは! まぁそうだな! 冗談はこれぐらいにして、あの男から聞かされた話を共有しようか」


 紆余曲折があったものの、こうして僕は事の始まりを聞かされた。説明役は教官へとバトンタッチされ、教官は顔を顰めながら説明を始める。


「尋問した結果、あの男はウェルズの手下だと判明した」

「ウェルズというのは?」

「俺が昔所属していた部隊の同僚だ……元、だがな」

「元?」

「ウェルズは死んだはずなんだ」


 曰く、当時所属していた部隊はモンスター被害によって壊滅し、アーノルド教官以外のメンバーは殉職したらしい。

 だからこそ教官は、今更になって死んだはずの同僚が生きていて、それも教官の娘を誘拐したという事実に衝撃を隠しきれない様子だ。


「ウェルズのことを聞いても?」

「あぁ……俺の知ってるウェルズは仲間思いだった。どんな状況でも仲間を見捨てない、部隊のムードメーカーだった」

「それがどうして教官の娘さんを……」

「アイツは俺の性格を分かっていやがる。娘を誘拐すれば計画に協力してくれると思って犯行に及んだんだ」

「計画って……それはいったい?」


 僕の質問に教官は忌々し気に顔を歪めると、静かにこう答えた。


「――この世界を破壊するつもりらしい」


 教官の言葉に僕は目を見開いた。


「世界を破壊!?」

「まさか……」

「馬鹿馬鹿しい話だ。アイツはもう狂ってしまった。手下曰く、モンスターのいるこの理不尽な世界を壊すのが目的と語ったが、何を言っているのか分からん」


 そう言って教官はため息を吐いた。そんな教官を他所に、僕はリョウとアイコンタクトをする。

 メインクエストや一部サブクエには、こうして世界の破壊を目論むキャラが出てくる。そんな彼らは共通してこの世界が『邪神が作りし箱庭』と認識しているのだ。知るきっかけはそれぞれだけど、全員この箱庭を破壊して元の楽園に戻りたいと願っている人たちばかり。


 そんな自分たちのことを彼らは『覚者』と自称した。


 当然としてこの世界の人間はこのモンスターがいる世界が常識であると認識している。だからこそ世界を破壊しようとしている『覚者』に対して人々は戦うのだ。


「取り敢えず、娘さんを救いに二番地区に行こう」

「そうだな……いや、先ずは貴様の装備を見繕ってからにしよう」

「あぁそうか、ジョブチェンジをしたから前の武器は使えないんだった」

「係にコマンドー用の武器庫にまで案内させよう。そこで武器を選ぶと良い」

「分かった。センリはこのまま教官と一緒に先に行っといてくれ」

「うん、分かったよ」


 一先ずの方針は決まった。という訳でこのまま二番地区に向かう予定だけど、先ず先に誰にもツッコミを入れなかったことにツッコミを入れよう。


「……あの人、ずっとこっちを見てるんですけど」

「……はぁ」


 そう、僕の尋問を受けた人がずっと壁越しに「じーっ……」と僕らの方を見ているのだ。いや正確に言えば僕だけか。認めたくないけど。


「仲間に なりたそう、な目で 見ています」

「自分で言ってるし」

「ふぉおおおお!!?」

「きゃああ!?」


 やっぱり怖いよこの人!?


「うん、まぁ……取り敢えずセンリの言うことは聞く感じだけど」

「仕方ない。体のいい肉壁にはなるだろう」

「噓でしょ一緒に連れていくの?」


 :これはセンリちゃんが責任を取らないと

 :もう元に戻れないねぇ

 :あの声と真逆の内容で狂わない奴はいねぇんだ

 :かわいそうに……

 :センリちゃんが尋問官じゃなければ狂わなかったのに……


「仲間の 場所、周辺 分かる」

「仲間が周辺にいるのだな?」

「私に、任せてください」


 果てしなく不安だ。でも教官とリョウに目を向けてもまるで大丈夫だという風に頷いてきた。嫌だけどここはこの人に任せるしかないのかな。


「……まぁ裏切らないなら」

「ありがとう ございます……――教祖様」

「教祖様!?」


 やっぱり不安なんだけど!?




 ◇




「あれがお前の仲間か」

「あぁ……ここで俺の連絡を待っているんだ」


 職業訓練所から出て少し離れた場所の茂みに隠れる僕たち。男が示した先を見るとそこには時折職業訓練所に顔を向ける不審な男がいた。どうやらあれが男の仲間だろう。


「大丈夫かなぁ」

「任せてください教祖様! 上手くやって見せますよ!」

「それが不安なんだけど」


 因みに男の口調はここに来る前に矯正させた。あまりにも怖いからASMR用マイクをチラつかせて命令したんだ。その際、顔を青くしながら興奮するように奇声を発した時はもうどうしようかって悩んだよね。


「それじゃあ行ってきます!」

「大丈夫かなぁ……」


 ――作戦はこうだ。


 男が仲間に連絡して教官をアジトに連れていき、僕は後ろから尾行してアジトに入ったら娘さんを探す手筈だ。

 僕にできるのかと不安に思ったコメント欄だけど、僕はマフィアとの戦いで隠密戦闘をこなしてきた。それも入手したてのジョブと初期スキルでだ。そうした実績があるから僕は教官の娘さんを探す任務を請け負ったのだ。


「おう、首尾はどうだ?」


 男の存在に仲間が気付いた。親し気に手を上げた彼に男はニッコリと笑みを浮かべると――。


「あぁ首尾は上々教祖神拳!!」

「ウボァ!?」

「えええええええ!?」


 やりやがったんだけどアイツ!? まだ僕たちから離れて数秒も経ってないよ!? 思い切りが良すぎるっていうレベルじゃないんだけど!?


「何やってんの!?」

「俺は何の茶番に巻き込まれているんだ……?」


 突然の事態に思わず僕と教官が仲間を気絶させた男に近寄る。すると僕の存在に気付いた彼は笑みを浮かべて手を振った。


「やりましたよ!」

「やらかしたんだよ!」


 明らかに作戦行動から逸脱した行為だ。やはりコイツを信用するのは間違いだったのかもしれない。


「えぇ、俺も事前に決めた作戦通りに動こうとしたんですが……やめました」

「やめたのか」

「なんで?」

「教祖様の魅力を他の人に伝えたいんです!!」


 :ははーん、さてはコイツ馬鹿だな?

 :曲がりなりにも悪人なのになぁ

 :まさかこれほどの変化とは

 :やはりセンリちゃんは魔性

 :人を狂わす吟遊詩人か


「というわけで、はい!」

「はいじゃないけど」


 まるで当然だというように気絶した仲間を僕に持ってくるけど、僕はどうしたらいい? 君は僕にどうしたいの? ねぇ答えてよ!


「つきましては俺と同じように神託を……」

「尋問のことか?」

「うそでしょ」




 数分後。




『教祖! 教祖! 教祖!』

『教祖様鬼かわええー! このまま邪魔する奴ら全員信者にしようぜ!』

『教祖様フォーエヴァアアアアア!!』


 気が付けば僕は即席神輿の上に乗せられて、無数の男たちによって担ぎ上げられていた。


「ウェルズがやらなくてもこのまま世界は崩壊するのでは?」


 そう教官が言うけど、先ずは僕の精神が崩壊しそうです。


『教祖! 教祖! 教祖!』


 た す け て。

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