第41話 横並び

霧夜ねぇの指示により、僕と氷織は車に乗せられ、姉付きで氷織を自宅に迎えることになってしまった。足も痛いし楽に帰宅できたのは助かるが。


「お茶淹れてあげるから、二人とも適当なところに座ってて」


姉の言葉に氷織が僕の方を向いてくるので軽く頷きを返す。


二人で居間のダイニングテーブルの椅子に横並びで腰掛ける。


すると霧夜ねぇが三人分のお茶を持ってくると、僕らの向かい側に腰掛けると思われたが、


「ねぇ、なんでそういうことするの?氷織が嫌がりそうなことしないでよ」


なぜか椅子を動かして無理矢理氷織を挟んで横並びに座りやがったので、僕は姉に文句をつけざるを得なかった。


「向かいに座ったらお姉ちゃん一人で寂しいじゃない」


「知らねーよ。四人がけなんだから狭いじゃんか」


「月夜が昔思いついた方法でしょ」


「はぁ?」


「小さい頃私がお母さんの隣に座ったら、きーきー言ってよくこうしてたよ。僕を一人にすんなーって」


そんなこと覚えているわけがないし、この僕がそんな無様な真似をするはずがない。


「ふふっ……」


「ほーら月夜の可愛いお友達も笑ってる」


「なんでお前が笑うんだよ。僕はお前が気まずいと思って……」


「あ……ごめんねつきくん。すごく嬉しかったよ……?泣かないで?」


「こんなんで泣くわけあるかい!お前らいきなり二人で組んで僕を馬鹿にしてんじゃねー!」


「じゃああなたが向かいに座ったら?」


は?何言ってんだろこいつ。


「……で?霧夜ねぇは氷織のこと聞きたいいんだろ?好きにすれば?答えないけど」


「ふふ……離れるのは……いやなんだ」


「そうみたいね。この子昔から心は成長してないもの」


あー、なんかイライラしてきたな。もう自室で布団かぶって寝ようかな。


僕の言うことを無視してひとしきりからかった後、霧夜ねぇはようやく氷織に向かって話し出す。


「あなた……お名前は?」


「あ、えっと……有栖川……氷織です」


「有栖川……?」


氷織が改めて名乗ると一瞬だけ霧夜ねぇは引っかかりを覚えたような顔をしたが、すぐに言葉を続ける。


「まぁいいか。氷織……いい名前ね。月夜とは今日たまたま一緒なだけ?それとも普段から?」


「……できるだけ……一緒にいてあげたい……です」


「ふむ……月夜が本音で甘えるだけはあるね。じゃあ、月夜に質問。この子は?」


「……うるさい」


僕は霧夜ねぇに改めて質問には答えない意思を示す。


「つきくん……私は?」


「お前も……こっち見るなって……」


しかし今度は氷織が無垢な顔でこちらを向いてくるので少しだけ顔が熱くなった。


「うん。もう大体わかった。えい」


すると霧夜ねぇが納得したような顔で言うと、座ったまま氷織の首に手を回した。


「わ……。あ……あの」


氷織がまごまごと動揺するが、霧夜ねぇは気にした様子もない。


「私も気に入った。ま、月夜の分厚いフィルターを通った子をわざわざ私が見直す意味もないけど。こんな天邪鬼と仲良くしてくれてありがとうね」


「そんな……私は……むしろ……」


「いいから。よしよし……あなたは頑張ってる」


霧夜ねぇが氷織の頭を優しく胸に抱いてそんなことを言う。初対面でどんな接触の仕方をしてるんだ。


「霧夜ねぇが氷織の何を知ってんだよ。いきなりそういうのやめてあげてよ」


強引に止めるか迷ったが、氷織が案外平気そうな顔をしてたので文句を言うだけに留めることにした。


「知らないけど、大体可愛い女の子はなんか頑張ってるでしょ。言葉で仲良くするのめんどくさい。スキンシップした方が色々伝えやすくて、効率良いのよ」


「出たよテキトー」


「お姉さん……つきくんと……同じ匂いが……します」


「そりゃ姉弟だしね。月夜と違って乳臭くはないと思うけど。あなたもとってもいい匂いがするわ」


誰が乳臭いだバカねぇが。さっきから言いたい放題だな。


「つきくん……お姉さん、素敵な人だね?」


「ちょろすぎだろお前。勘弁してよ」


「ひおちゃん、今日はここでゆっくりしていきな。月夜は根暗そうだけど、こう見えてびっくり箱みたいな子だから、相手してやれば退屈はしないと思うし」


「ふ……びっくり箱……」


霧夜ねぇが氷織を謎の呼び方で馴れ馴れしく呼ぶが、当人はあだ名になれているのか、それを気にした様子もなく、くすっと笑っていた。


「だから笑うな……誰がびっくり箱だよ」


くそ、この短い時間で霧夜ねぇに何個も悪口言われた。ムカつく。


結局、霧夜ねぇの淹れたお茶がなくなるまで、謎の連携を見せる二人に僕は終始からかわれ続けたのだった。







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