第15話 それぞれの勉強事情


『(氷織)つきくんと……堂々と一緒にいれるの……嬉しい』


『(三咲)勘弁してよ。どうせ潮海がいるんじゃ素は出せないじゃん』


『(氷織)それでも……嬉しい。つきくん……いるだけで……今日は……頑張れそう』


氷織とのそんなメッセージが裏でありつつ、あまりのミスマッチに様々な場所で嫌な視線を受けながら、僕はなんか良さげな喫茶店に連れて来られていた。

テーブル席に案内されると、最初に氷織が口を開いた。


「そういえば、あまち、なんで三咲くんを誘ったの?」


「その質問が最初に来ると思ってたんだけどなぁ。今更なのね?」


「いや〜、なんかテンション上がっちゃって」


席は氷織と潮海が並んで座り、向かいに僕という構図だった。


思えば表の氷織とこんなに近くで長い時間一緒にいるのは初めてだ。見れば見るほど、素の氷織とのギャップに、こりゃ疲れるわ、と言う感想が浮かんでくる。


「私がこいつに入試の成績で負けたの、ひおりんは知ってるでしょ?」


「もちろんだよ。三咲くんは頭いいんだから」


わざわざ言うことでもないとは思っていたが、氷織にも知られていたのか。


「む……なぜあなたが自慢げ?まぁ、まぐれでしょうけどね。まぐれとわかってはいるけれど、今回も負けてひおりんの隣に並べなかったらと思うと、気が気でないのよ。だから、敵情視察。こいつがどんな勉強するのか、本当に私より勉強ができるのか、知っておきたいのよ」


「なるほど……さすがあまちはぬかりないね〜」


ふむ、そんな理由があったのか。存外納得できる理由だな。頭イカれてるとか思ってごめん。


店員が注文を聞きにくると、氷織と潮海はマダンテだがパルプンツェだか良くわからん名前の飲み物と、フルーツサンドを頼み、潮海が氷織とパシャパシャ写真を撮っていた。


どうやら新しくできた店舗のようで、開店記念でドリンクバーでもないのに500円で飲み放題になるらしい。


大したリサーチ力だ、さすがリア充女子。


一緒に撮りたがる氷織の誘いを丁重に断りつつ、僕はとりあえずアイスコーヒーと、卵サンドを頼んでいた。


「くく、また一番にクラスの男子達が投稿見てるわね。この変なアイコンは吉田ね。私達のファンなのかしら?」


「気持ち悪いねぇ〜」


潮海と氷織が冗談めかしてそんなことを言うが、割と恐ろしい内容である。ピンスタってそういうのわかるもんなの?やってないから知らないけど、怖い。僕には見る専になることも無理そうだ。


「さて、遊びはこのくらいにしましょうか」


潮海が強キャラみたいなセリフを吐くと、教科書を取り出し、真面目な顔つきになった。


僕も今度勉強始める時に真似しちゃおっかな。


「早速実力を見せてもらうわよ。まずは数学のこのページの問題。私と二人でやって、速さと正確さを勝負よ」


「あ、有栖川さんは、い、いいの?」


「あぁ、ひおりんはいいのよ。どうせ私が勝つのわかってるから」


何を言ってるんだ?氷織は学年首席だぞ?

潮海は数学が得意とかそういう話だろうか。


「ちょっと勝手に決めないでよあまち。私もつき……二人と一緒に問題解きたい」


「えぇ?なんで今日は珍しく食い下がってくるの?まぁ、いいけど。ほら、ここのページよ」


「はいはい〜」


氷織の奴がちょっとボロだしそうで怖いし、疑問は一旦置いておくか。


「三咲も準備できたわね?」


「う、うん」


おとなしく僕は同じページを開き、問題を解いていった。

沈黙が続き、ペンの走る音だけが響く。


どうでもいいが、氷織は袖の上から被せるようにペンを握って、すらすらと整った字を書いている。


器用なものだ。


しばらくして、潮海が声を上げた。


「はい、私は終わったわよ。三咲、あなたは?」


「あ、ちょ」


潮海早いな、普通にすげぇとか思っていると、僕の意思などガン無視で、書き込み途中のノートを奪い取られた。


「うわ、あんた字下手ね……」


うるせぇよ。人に読まれたくないからわざと崩してるんだっつの。本気出せばもうちょっとだけうまいし。


「ていうか……なに……これ?」


僕の書き込みを見て潮海が目を見開く。


「全然できてないじゃない……。ここなんて、基礎でしょ?平均的な学力で簡単に解けるはず。どういうことなの、三咲?また猫被ってるんじゃないでしょうね」


「そ、そんなわけないよ」


紛れもなく今の僕の実力であった。


「どういうことなのよ……もう」


潮海がため息と共に僕に恨みがましい目を向けていた。

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