第14話 テスト期間
朝のホームルーム。
「今日から定期テスト一週間前になりますね。部活で忙しかった人も早く帰ってしっかり勉強してきてくるように〜」
担任の女教師の言に教室が悪い方向にざわつく。
テスト期間は学生に強いストレスが溜まる時期だが、僕はそれほど嫌いではない。
ぼっちでも孤独に努力を重ねれば、リア充共を見下せる唯一のイベントだからだ。
ついでにいつもウェイウェイ言ってる奴が多少静かになったり、まじめな雰囲気に嫌そうな顔をするのを見るのがおもしろい。
うちは進学校だし、まじめに勉強しない人間はそれほどいないが、部活が休みなのをいいことに遊びの計画を立てるアホもいるにはいる。
帰宅部の僕には関係ないけれど。
どんな進学校だろうが働きアリの法則とやらは適用されてしまうものなのだろう。
「ひおりん、放課後一緒に勉強しましょ」
「おっけ〜い。じゃあ早く下校しちゃおっか」
放課になると早速潮海が氷織を勉強に誘っていた。
「あ?お前ら今日は勉強会か?俺も連れてけ」
「あ!あたしも行きたーい」
それに逆巻と松原が加わろうとするが、
「おいおい、そんな数集まったら集中できないだろ。学年ツートップの邪魔すんなって」
成瀬がそこに水を差した。
さすがに空気読みの成瀬だ。
「ちっ、お前はまたそうやっていい子ちゃんぶりやがる」
「だから言い方!正論だろ。俺らじゃあいつらに何か教えてやることもあんまりできないし」
逆巻も成瀬も、腹立つことに成績は優秀だが、あの二人には一歩届かないのも事実だ。
「.......わかってるっつの。そう言うからにはお前が俺に付き合えよ燐」
「もちろんそのつもりだって。だから二手に分かれうって言いたかったんだよ。今日から部活ないしな。瑠衣子はどっちにする?」
「う.......あたしもそっちに混ざっていい?」
逆巻と成瀬が約束をすると、松原がバツが悪そうにそこに加わった。
「お、瑠衣子は勉強に自信なしか?」
「そ、そうでもないけど。改めて言われると、ちょっとあの二人の間には入れないかも……」
「今回見返してやるくらいの気概でいりゃいい。さっさと行こうぜ」
「だな。俺らも10番台程度は狙うつもりだし、必要なら教えあっていけばいい」
「うぐ、やっぱり二人ともなんでもできちゃうんだ。でも、ありがとー」
青春的雰囲気で逆巻達が教室を出ていこうとすると、会話を聞いていたのか、そこに混ざれないものかと有象無象が増えていく。さすが人気者達。
ふん、そんな風に馴れ合って勉強するお前らに僕は負けたりしない。
僕も帰り支度を終え、帰宅を試みつつ、ふと考える。
逆巻も成瀬も、運動がトップクラスにできる。
勉強もこのクラスでこそトップにはなれないが、普通のクラスなら、トップを張れるほどの成績。
おまけにかっこよくて、友達と楽しく勉強して……。
いやいやいや、案ずるなそれでも僕の方が成績は上なはずだ。心を平静に保て。
奴らは僕よりアホなんだ。今はテスト期間だ、見下していけ僕。
「ちょっと待ちなさいよ」
心で謎の葛藤をしながら教室を出ようとすると、厳しい声の潮海に引き止められた。隣で氷織が不思議そうな顔をして、僕と潮海の動向を見ていた。
「し、潮海さん……?な、なに?」
「何じゃないでしょ。三咲、あなたこの前私にしたこと、忘れたわけじゃないわよね?あんな屈辱は初めてよ」
本来あり得ない組み合わせと不穏な言葉に、まばらに残っている教室の生徒たちがざわついていた。
そういえば僕こいつ相手にちょっと本音漏らして生意気な事言ったんだっけ。別にあの後何もなかったし、大丈夫と思ってたけど、内側に怒りを溜めていただけだったらしい。いつの間にか完全に呼び捨てされてるのが証拠だろう。さすがにモデルという肩書きもあるだけにプライドが高いのかも。
「ご、ごめん……だ、だから」
皆の視線が痛いのでやめてね。早く帰らせて、まじで。
「三咲。私とひおりんの勉強に付き合いなさい」
「え……?」
潮海の爆弾発言に僕は潮海の頭のイカれ具合を疑った。なぜこいつが僕を誘うのだ。
「ひおりんもいいかしら?」
氷織も驚き顔だったが、すぐに顔を輝かせた。
「いい!すごくいい!三咲くん、一緒に勉強しよ!」
今にもスキップを始めそうな勢いで賛成していた。
「そ、そんなにひおりんがテンション上げてくれるとは思わなかったけど……まぁそれは保留するとして」
潮海が氷織の勢いに押されつつ、僕に圧をかけるように言う。
「三咲?謝罪の気持ちがあるなら断らないわよね?」
「いいよね!?三咲くん!」
断じて良くない。クラスの連中の僕への視線に気づけクソ美人共が。逆巻達でさえ気を使って間に入らなかった場所に僕が入るわけねーだろうが。
だから、はっきり言ってやる。
「は、はい……わ、わかり……ました」
ってね。
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