第13話 誰かといた?


こんなんだから僕には友達ができないのである。


学校を終えた僕は、自室でなぜ潮海の提案をあんなに強く断ったのだろうと考えていた。


そうしていると、インターホンが鳴り、今日も氷織が僕の家に遊びに来た。


「……来たよ」


「ん……来たね」


氷織の学校との見た目、中身の変化にも慣れてきた僕は適当に挨拶をして、部屋に招き入れた。


ちなみに今日は水曜日である。


僕の家で遊ぶといういつの間にか習慣化した行事は、一応、僕の親の仕事が遅いこと、氷織の表の生活を考慮して週一回、週末の金曜日を設定している。


とはいえ、氷織は感情優先であまりこれを守らず、メッセージも寄越さずに突然来ることが多々あるので、正直あまり意味を為していなかった。


金曜日でなくても親の仕事が僕の下校より早いことはまずないため、少し遊んで帰すくらいのことはできる。だから今のところ問題ないといえばないのだが。


そんなことを考えていると、氷織が脈絡もなくタイムリーな話題を振ってくる。


「あの場面……みてた時……誰かといた?」


氷織の声のトーンが低い。が、その程度で僕がビビると思ったら大間違いだ。


「うんにゃ、誰もいなかったね」


「そっか……」


「うん」


少しの間を置いて、氷織がこちらに寄ってきて口を開く。


「なんで嘘……つくの?見えてたもん……あまちと一緒にいたの」


そのセリフを予想していた僕は、自分からその距離をさらに縮めて言ってやるのさ。


「うん。僕も君が見てたの見てた。どっちが先に嘘ついたか勝負しようぜ?」


「……はっ」


氷織が虚をつかれたような顔をした後、しおしおと体の力を抜いて、拗ねたような顔になった。

甘いんだよ馬鹿め。


「うぅ……あまちと……何喋ってたか教えてほしい……つきくんのこと……知りたい」


む。敗北を知りながらも、惨めたらしく説明を乞うか。まぁ、敗北を認めるのなら僕としてもやぶさかではないがな。ふはは。


「いいけど……じゃあ、氷織もあの先輩と何喋ってたか教えてよ……。途中よく聞こえなかったから」


「うん……?」


あれ?何言ってんだ僕。

氷織の訝しげな返事に、ふと、そう思ってしまった。


「気になる……の?つきくん……私のこと……好き?」


「え?えっと……」


直球な質問に思わず少し言葉に詰まる。


「あぁ、友達としてね。あの場面にいたのに何話してたか聞こえなかったら多少気になるでしょ。それだけ」


そう、それだけだ。

ちょっとあれ?とか思ってしまったけど、友達としては、趣味は合うし話しやすいし、好きなのはそうだと思う。めんどくさいことは多々あるが、理解の及ぶ範囲だし、というか昔の自分と似たようなもんだし、なんだかんだそれも含めて心地良いと感じている自分はいる。


けど、男女の好きとかとは、多分違う。明確にそうだと思えないし、えろいことしたいとかも、あまり思わない。


いや、そりゃ女の子な部分にどきどきすることくらいあるけど、それが氷織だからってわけじゃないし。


氷織が途轍もない美少女なのは誰が見てもそうだし、仕方ないと思う。


「そ、そっか……そ、そうだよ……ね」


僕と付き合いたいと勘違いしている氷織からすれば期待外れな返しに多少落ち込んだかと思ったが、気づけば氷織は何故か頬を紅に染め、ほっとしたような息を吐いていた。


「え?ちょっと?僕の話聞いてた?」


「う、うん。わ、わかってる……よ?と、友達として……でしょ?」


「う、うん。そんな恥ずかしがんないでよ。僕もなんか恥ずかしいじゃん」


「は、恥ずかしがって……ないよ?ちょっと……びっくりした……だけ」


「そ、そう」


こいつこんなんで僕と付き合えなきゃ死ぬとか言ってたのかよ。自分の胸に手をやる氷織にそんなことを思いながら、僕はあの時の潮海との会話を割と細かく話した。


潮海との約束は完全に破ってるが、連絡先という賄賂も受け取っていないのでセーフということで。つーか最初からバレてたし、約束でもないわ。


「え?つきくん……それであまちと……連絡先、交換しなかったの.......?どうして.......?」


「別に.......いいじゃん」


どうして。それは僕が、世間一般に言う友達というものを本当は恐れているから。


それだけ……だろうか。


単純に入試の件で個人的に潮海が気に入らないというのはもちろんある。


ただ、あの時、なんとなく氷織の顔が浮かんだ。


そしたらなんとなく潮海と連絡先を交換する……友達になるというのが嫌な気がした。


無論、連絡先を交換したから無条件に友達になるというわけじゃないのはわかっているけれど。


「つ、つきくんは........わ、私がいれば.......十分?」


「そ、そんなこと言ってない。なんかお前がヘラんのが怖いなって思っただけだから」


氷織がまたまた頬を染めて言うので、僕も少し動揺して返す。

照れるなら自分でそんなこと言わないでほしいものだ。


「うぅ……そんなこと……ないもん……ちょっとしか」


「そのちょっとしかは絶対ちょっとじゃない奴」


「むぅ。でも……私、なんかそれ聞いたら……変」


氷織の頬を押さえてじっとする姿に、なんか僕も変になりそうだった。


「も、もうこの話はいいでしょ。氷織もなんか話してよ」


「う、うん。でも……私は……特に何も……。いつも通り謝って……断るだけ……だったから」


ぽつぽつとした氷織の話は、本当にそれ以上特筆することもないようなものだった。


氷織がそれを断り続ける理由を僕は敢えて聞くことはせず、今日も適当にゲームして漫画読んでお菓子食って過ごすのだった。

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