第11話 告白現場 1
学校に着くと、誰かと話すこともない僕はすぐに席に座り、自分の居場所を確保する。
氷織と成瀬は先に教室にいた逆巻と潮海を中心とした数人の輪に自然と入っていった。
「有栖川、昼休みに2年の奴が会って欲しいってよ。またさっさと断ってこい」
後から入っていったにもかかわらず、すぐに逆巻が氷織に話しかけた。
「え?用件次第ならそうするけど.......なんでさかまがそんなこというの?」
氷織が本当に不思議がるように真っ直ぐな瞳でそういうと、成瀬が心底面白そうに噴き出す。
「っく、余計なお世話だってさ修斗」
「チッ。燐テメェ」
ふむ、陽キャどもの会話から察するに、氷織は何か先輩から呼び出しを受けたようだ。ぼっちの僕と違ってやっぱり大変そうだ。
「はいはい、余計な修斗はあっち行ってなさいな。ひおりん何かあったら私を呼びなさい」
「あまちー、ありがと〜」
「餌が増えるだけだろ」
「あら?今何か言ったかしら?」
「なんでもねぇよ」
まぁ、僕には関係ない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昼休み。今日は快晴だ。
僕はさっさと昼休みの教室というぼっちには過酷な環境を抜け出して、人の目に触れない屋上に出ていた。
今日のお昼ご飯はコンビニで買ってきたおにぎりである。
いそいそとビニールを剥がしたところで、メッセージが来た。
最近は教室以外でお昼を食べると、氷織からメッセージが来るのだ。
また教室で潮海達と話しながら打っているのだろうか。
『(氷織)つきくん……お昼食べ始めた?』
『(三咲)今から』
『(氷織)じゃあ私も……今から食べるね』
『(三咲)う、うん。好きにしたら?』
『(氷織)今たこさん……口にいれたの……つきくんは?』
『(三咲)おにぎり食べてるよ』
『(氷織)おにぎりのどこ?』
『(三咲)どこって……まだ上のところ』
『(氷織)もっと……詳しく知りたい』
ちっ、めんどくさい奴め。一気に打ち込んで黙らしてやる。オタクの早打ちと早口を舐めるなよ。
『(三咲)具に届いてなくてあんま美味しくないとこ!!目算で4分の1ってとこやね!あ、いま具に届いた!具は鮭ね!!青いコンビニのやつ!」
『(氷織)そっか……4分の1。鮭……。あ……どこのおにぎりとかは……あんまり興味ないよ?』
『(三咲)はっ倒すぞ』
『(氷織)一品ものばかりじゃなくて……バランスよく食べなきゃ……だめ。おかずも食べて』
なんなんだこいつ。
「これだったら一緒に食べた方が楽までありそうだなぁ……」
思わず独り言が口から出た。
もはやメンヘラが行き過ぎてお母さんみたいになっている。僕の母さんだってこんなにうるさくないのに。
いや、むしろこれはメンヘラじゃなくてお母さんと考えれば、大した問題じゃない気も……
「あ?袋になんかタッパーが入ってる」
『(氷織)つきくんの袋に……おかず……入れておいたから……食べてほしい』
なるほど重大な問題オッケーやね。くっそ、いつの間に。
蓋を開くとそこには、卵焼きと卵焼きと卵焼きが入っていた。すかさず僕はメッセージを送る。
『(三咲)こんなに卵焼きあったらバランス悪いだろがい!』
『(氷織)つきくんが……初めて私の食べてくれて……美味しいって……言ってくれたから……』
そういえば確かにすごく美味しかった。とりあえず食べるか。
『(三咲)ふーん。今食べてるけどやっぱり美味しいから機会があったらまたわけて』
僕は卵だったら割となんでも好きなのでギリ助かると思い、ついそう送ってしまった。
しかし、氷織は料理が得意なんだろうか。
少なくとも卵焼きはすごく美味しいから、他にも色々作れそうだけど。
いつもより満腹になった僕は、うとうとして寝過ごす前に教室へ戻ろうと、早めに屋上から校内に入った。
すると……
「潮海ちゃん、どうしてもだめか?今付き合っている男がいないんだったら」
「だから……私は——」
屋上から入ってすぐの踊り場で一組の男女に遭遇した。
「あ、え、あっと……」
なんだなんだ、何か面倒事の気配がするぞ最悪だ。
男の方は知らない。自分に自信のありそうな爽やかな顔つき。ネクタイの色からして二年生。先輩みたいだし知らなくて当然だ。
しかし、女の方は知っている。
うちのクラスの潮海雨音。青髪碧眼ポニーテール。氷織と並ぶ二大美少女の片割れ。
こういうのに縁のない僕でも、これを見れば状況の察しくらいはつく。
どうやら告白現場というやつらしい。
今朝の会話からして、先輩の呼び出しを受けていたのは氷織だったような気がしたけれど。
まぁ、潮海も氷織に負けない程の美少女だし、なんと言っても、割と有名なモデル。
別に不思議じゃないかと納得していると、潮海が屋上から出てきた僕を見て、ヤケクソ気味に笑ったような気がした。
「き、来てくれたのね?」
潮海の言葉で、その笑みの意味を悟った。
僕を利用して、このしつこそうな男を振り切るつもりなのだ。
「は?おい、潮海ちゃん、こいつと知り合いなのか?」
「だから、こ、この人!本当はこの人と付き合ってるのよ!」
「なっ、そ、そうなのか?こんな明らかに陰キャな奴と……ど、どうして」
ふざけるなよこいつら。僕を巻き込むんじゃねぇ。
「え?い、いや、あの……」
思考とは真逆に口はもごもごと言うことを聞いてくれない。
「ね?三咲くん?」
非リアぼっちを黙らせようと、最大限のリア充圧を放つ潮海の言葉に頷きそうになったとき、ふと思った。
(待てよ、そんな噂がもし広まったら……氷織は……)
「……」
なぜか、氷織が泣きながらカッターを両手に持つ姿が脳裏に浮かんだ。やばい、夢に出そう。
「潮海、お前は僕を殺す気なの?」
「は?な、何言ってるの、三咲くん」
「おい、ちゃんと説明してくれ!」
「落ち着いて先輩。君の疑いは至極真っ当にして正しい。実際、僕と潮海は全く付き合ってなどいない。なんなら喋ったことすらねぇ。このクソ女はたまたま居合わせたからと僕を都合良く使おうとしているだけなの」
「な、何?そ、それは本当か?」
「本当です。証拠ついでに今すぐ僕はこの場を去る。じゃあ、お幸せに」
「は?ちょ、三咲くん!?」
それだけ告げ、驚く潮海を無視して、僕は階段の手すりに体重を預けて腹ばいになる。
「「小学生か!」」
背後から追ってくる突っ込みを振り切って、良い子は真似しない最速降法で、僕は階段を降りていった。
まじで危なかった。あんなところでおどおどしていたら命が終わるところだった。潮海の奴め、まじで覚えてやがれ。
今度お前が僕の席の後ろを通っても絶対背中を丸めてやらないからな。
くそ、入学から何度告白されてるのか知らないが、二度とあんな告白現場になど遭遇してたまるか。
そう考えながら、屋上階から4階に手すりを使って滑り降り、3階に続く階段の踊り場に降りようとすると、一組の男女の声が聞こえた。
「有栖川、俺と……」
あああああああああ。
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