第5話

 僕は皮肉を込めた言葉を返す。

 

(それはどうも)

(また振られたらまた慰めてあげるから安心して振られてね)

 

 僕の言葉に君は大袈裟に反応する。

 

(今度は絶対に大丈夫だから!)

(もう振られることはないから!)

(だから今度は私が健を慰める番だから!)

 

 僕は返す言葉が思いつかずにその場しのぎの笑っているスタンプを君に送った。既読はついたが、君とのキャッチボールは途切れた。

 家に着くと、僕はある薬を手に取った。一般的な風邪薬や痛み止めに使われる、アセトアミノフェンだ。効果は大してないことは分かっているけど、胸の痛みを鎮めるのにはこれしか方法を知らない。許容量はほんの数錠。一気に飲めば胸の苦しみが取れたりしないかな。そんなバカな考えはやめて、素直に一錠だけを手に取り水と一緒に飲み込んだ。

 こんなにも胸が苦しくなるのは久しぶりだ。高校のあの時以来だろうな。君はあの時から何も変わっていない。君は好きな人に夢中で、君から好きな人の話を聞かされる度に僕は君との距離を感じた。僕と君が結ばれる確率は、宝くじで一等に当たるよりも低い。僕はそうでもないと思っていたけど、あれは確か半年前の君が振られた日。「やけ酒だ!」と君に近所の居酒屋に無理矢理連れて行かれた時だ。僕は酔ったふりの勢いで君に訊いたのだ。


「もし僕が君のこと好きだと言ったら、君はどうする?」

 

 完全に酔っ払っていた君は、体を揺らしながら当たり前のような顔をして僕に言った。

 

「たけるとはおしゃななじみだかりゃね……」

 

 それ以上君は話すことはなかったけど、大体の想像はついた。その言葉を君の口からは聞きたくなかったから、本当に酔っててよかったと思った。

 それから君は完全居眠ってしまい、僕は背中に君を乗せた。この時の僕には選択肢が三つあった。このまま近くのホテルへと君を連れ込むか、僕の家へと向かうか君の家に向かうか。君の家の場所は知っているけどおぶって帰るには少し遠い。それに鍵もどこにあるか知らない。近くのホテルに泊まるのもいいけど二部屋取るのか一部屋にするべきなのか。迷った末に僕は自分の家へと連れて帰ってしまった。これが俗に言うお持ち帰り……。

 僕も生物学上のオスだ。そんな気持ちが全くないわけではない。だけど、ここで既成事実を作ったとしても君が僕のものになるわけではない。それに、そんなことをしてしまっては、君が二度と口を聞いてくれなくなるのは目に見えている。だから僕は、全力で我慢した。

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