第3話
「そうやって私を太らそうとしているんでしょ? 私は騙されないから!」
「そんなこと僕はしないよ」
「信じない! 私に隠し事しかしない健のことなんて信じない! 健は優しそうに見えてそう言う罠を張っている人だから!」
君の中での僕は、どういう人物像なんだ?
「罠って……いらないなら食べるね」
僕はちゃんと忠告したし、そもそもの話をするなら僕自身の分だ。
口にパンケーキを頬張り込んだ瞬間に君は驚いたような顔を浮かべた。
「あー! 健のバカ!」
君はまたしても頬をフグのように膨らましていた。
「君が振られた話の続きを聞かせてよ」
「やだ! まだお詫びをもらってない!」
君はまた機嫌を損ねていた。そんな君の機嫌を直すために僕は訊いた。
「何が食べたいの?」
君は口を小さく開いて答える。
「シュークリーム……」
「コンビニのやつでもいい?」
「うん……クリームが二種類入っているやつ……」
こんな様子でも注文は欠かさず行うのか。
「じゃあ、ちょっと買ってくるからここで待ってて」
「うん! 待ってる! いってらっしゃーい」
もうすでに君の機嫌は直っていたが、僕は君のために久しぶりに走った。君を待たせまいと近くのコンビニまで走った。真夏で食後だったこともあり、口の中は苦く胃液が少しだけ戻ってきていた。それでも僕は走った。吐く時はコンビニのトイレだと心に決めながら。
コンビニに着くと、僕は君のためのシュークリームと君の好きなリンゴジュース、それと、自分用の水を買った。行きでは散々な目に遭ったから、帰りはゆっくりと歩いた。徒歩で言うなら五分の距離だから初めから走らなければよかったと後悔をしながら歩いた。
「お待たせ。喉も渇いていると思って、リンゴジュースも買ってきたよ」
君は満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとー! 健にしては珍しく気か利くじゃん!」
「珍しくは余計だよ!」
「ごめん、ごめん。冗談だよ」
「僕も青葉のように機嫌をわざと損ねようかな」
「シュークリームあげるから許してください」
「ごめん、ごめん。冗談だよ。そのシュークリームは青葉への些細なプレゼントだよ。青葉が食べて」
「じゃあお言葉に甘えて、いただきます!」
君は毎度毎度こうだ。「振られた」と言う割に愚痴のようなことはほとんど言わない。君が抱え込んだストレスなら僕が全部受け止めるのに、君は人を呼び出す割に深くは語らない。だからこうして無理矢理ではあるが僕から聞き出している。甘いお菓子で釣れるのは分かりやすくていいけど、僕だって本当はこんなことしたくないんだ。
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