エピローグ
「んふふ、ケーキショップのオーナーの夫がいるって最高ね」
セシリエは、ご機嫌に新作のケーキをパクりと頬張った。
結婚式を挙げてからふた月。
新妻となったセシリエは、元々の清楚さに色っぽさが加わり、更に魅力を増した。
そんな女性がケーキを食しながら、ほう、と溜め息を吐くのは、なかなかに悩ましい光景である。
そこに、別の皿を手にしたエーリッヒが現れ、愛する妻に声をかける。
「お味はどうですか、奥さま?」
「たいへん美味しゅうございますわ、旦那さま」
「実はもう一皿あるのですが、こちらも試してみますか?」
「喜んで!」
セシリエがいるのは夫エーリッヒのケーキショップ。
そう、エーリッヒが考案した倉庫改装型ショッピングモールの一画に潜りこませてもらった(挙句2年分のテナント料をタダにしてもらった)例の店だ。
本当は普通に街中で店を構えるつもりだったエーリッヒは、その時のシュミレーションもしっかりやっていて、諸経費とか予想売り上げ額とか、あれこれと算出していた。
その時はじき出した利益予想額と比べると、今は桁違いの売り上げを出しているという。
ショッピングモール内にある唯一のケーキショップという要素は過分に影響しているだろう。
けれど、エーリッヒの営業努力も大きいとセシリエは思っている。
定番のケーキに加え、季節ごとの味を作り出して特別感を演出したり、今日の様に新作の研究も怠らない。
さすが「食べる専門」を自称するだけの事はある。
こんなの食べてみたい、こんな形のケーキがあったらな、とケーキへの思いは尽きる事なくあるエーリッヒは、自分が見込んで頭を下げまくってリクルートしたパティシエに、それらの要望を余すところなく伝える。
そしてそのパティシエは、無茶振りが過ぎると苦笑しながらも彼の要望に応えようと頑張るのだ。
結果、他所ではないオリジナルのケーキも多く並ぶようになり、それが更に話題を呼ぶ。
この店のケーキに惚れ込んで、弟子入り希望者まで現れ始めているとか。
そんな大人気のケーキショップの新製品をいち早く、しかも列に並ぶ事もなく食せるのは、やはりオーナーの妻の特権だろう。
「うふふ、幸せ」
蕩ける様な笑顔でケーキを味わう妻、それを見る夫の笑顔もまた、甘く優しく蕩けている。
「僕も。すっごく、すっごく幸せ」
「あら、私の方がもっと幸せよ。だって、あなたみたいな素敵な人と結婚できたんだもの」
「いえいえ、それを言うなら、セシを妻にできた僕の方がもっとずっと・・・」
―――甘いもの好きが集まるケーキショップで、この時だけブラックコーヒーを頼む客が続出した理由は・・・言わずもがな。
【完】
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう 冬馬亮 @hrdmyk1971
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