第19話 できる約束とできない約束
結論から言うと、エーリッヒが提案した倉庫をリノベーションした商業施設は成功を収めた。
オープンしてみたらアラビックリ、連日の大盛況である。
当然の流れで、同施設内のエーリッヒのケーキショップもたいそうな人気店となった。
オープニング効果もあって、最初の月の売り上げはとんでもない額を叩き出した。
それは、エーリッヒが思わず目眩を覚える程の金額だったとかなんとか。
「売り上げが順調だからって結婚を許す理由にはならないんだぞ。そもそも告白だってなかなかできなかったくせに、婚約をすっ飛ばしていきなり結婚とか普通ナイだろう」
ぶつぶつ文句を言っているのは兄のハワード。
なかなか勇気が出せずにいたエーリッヒの事をずっとハラハラしながら応援していたのに、いざ話が進みそうになるとそれもまた気にくわないらしい。
「段階が大事なら、今から婚約を発表します?」
セシリエが悪戯っぽく問いかければ、ハワードはむっとした表情で返した。
「もう結婚式の日も決まってるのにか?」
「お兄さんったらそんな怒らないで。今はお相手が決まった私より、お兄さんの方が大変じゃないですか」
セシリエの指摘に、ハワードがうぐっと言葉に詰まる。
そうなのだ。金があるだけの成り上がり貴族と言われていたハンメル男爵家。だがその嫡男ハワードの人気が、今回の商業施設の成功も相まってうなぎのぼりなのである。
爵位は男爵、由緒も歴史もない家と多くの貴族から軽く見られていたハンメルは、今や高位貴族家からも婚約の打診が来る程に評価が高い。
中には爵位の力を借りて縁を結ばせようとする家もあったが、セオドアが経済力でねじ伏せた。過去にドミンゴの例もあったのに、学ばなかった彼らの落ち度だろう。
今は正攻法でハワードの好意を得ようと令嬢たちが必死のアピール合戦を仕掛けている最中だ。
その渦中にいるハワードは、23歳の男盛りだというのに、今もまだ相手を決めていない。
本人曰く、商会の経営で忙しいのだとか。
「俺はまだいいんだ。男の結婚適齢期は長いからな。俺にぴったりの子をゆっくり探すよ」
そんな呑気な事を言うハワードを、両親は咎める事も急かす事もなく、黙って見守っている。
「そんな事よりお前だよ、セシ」
「私、ですか?」
「お前はまた平民になる。金の心配はないだろうが、何かあったら遠慮なくハンメルの名前を使え。エーリッヒならお前を守るだろうが、あいつはたまに当てにならない時があるからな」
「まあ、ふふ。大丈夫ですよ。だって、プロポーズの時にエーリッヒが約束してくれましたもの」
―――苦労はさせないと言いたいところですが、それは約束できません。でも、あなたを泣かせる様な真似は絶対にしないと約束できます。だからどうか、どうか僕と―――
セシリエとエーリッヒの結婚式は、半月後。
セオドアの帰国を待っての挙式となる。
―――そして、大きなニュースがもう一つ。
ドミンゴ商会が、ハンメル商会の傘下に入る事になった。
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