第20話 20年越しの
ドミンゴとロイテ商店との間で和解は成らず、ロドリゴは高額の違約金を抱えた上に、優良な卸問屋を失った。
主力製品を失ったドミンゴ商会は、そこそこの品々をそこそこの量確保しているだけの店となり、好んで寄る客は減っていった。
今のロドリゴ・ドミンゴに残った有用なものは、子爵位という身分のみ。片やドミンゴを切った事で財政的に潤ったロイテは、その後も好戦的な態度を崩さなかった。
そんな泥沼化したドミンゴとロイテの争いの仲立ちに入ったのが、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのハンメル商会会頭セオドア・ハンメルだった。
名前はドミンゴ商会のまま、けれど実質ハンメルのものとする事に、ロイテは意義を唱えなかった。彼らが望んだのは、今はセオドアのもとにいるイアーゴとの面会。
今のロイテ商店の主は、イアーゴの母の兄、つまり彼の伯父が継いでいる。
イアーゴの母メルテルは、自身のストレス発散に忙しくて、生まれた息子を兄や父に会わせる事もしなかった。故に、イアーゴは20歳にしてこれが初の親戚対面となる。
「メルテルが、うちのバカな妹がすまなかった」
伯父がイアーゴに会ってまず言ったのは、このひと言だ。
ロドリゴの裏切りが発端とはいえ、メルテルは息子を放置すべきではなかった。ロイテ家はイアーゴを気にしつつも、平民の身で勝手に会いに行く訳にもいかず、それでも何度か挑戦したが執事らに阻まれて結局は会わせてももらえず。
結果、歪な息子イアーゴの出来上がりだ。
自分の身の上だけを可哀想がり、子爵家の金で遊ぶか、愛人のもとへ行くかしかしなかったメルテルを、ロイテは許さなかった。
離縁届けを残して屋敷を出たメルテルは、その後、持ち出した宝石や金が尽きて愛人からも捨てられる。
その時、彼女は迷わず実家を頼った。
逃げて来たの、ずっと辛くて大変だった、ここしか頼れるところがないの、お願い助けて、メルテルは思いつく限りの言葉を並べて泣いた。
けれど、ロイテは絆されなかった。
夫はどうであれ、子を放っておくべきではなかった。せめてロイテに知らせるべきだった。辛いと、ひとりでは頑張れないと、ひと言でも伝えていたらロイテは駆けつけられたのに。
そうしたら、イアーゴにも何かしてやれたのに。
何を言っても言い訳ばかり、金の無心ばかりのメルテルに、兄である現ロイテ商店主は絶縁を言い渡して追い出した。
「やっと会えた・・・イアーゴ」
場所はハンメル商会の応接室。
セオドアに連れられて現れたイアーゴを見て、伯父と従兄弟が立ち上がった。
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