第15話 安心できるのは



「セシ、頼んだものはちゃんと納品できたか?」


「もちろんです。兄さんに言われた通り、相手の方に手渡しして来ましたよ」



エーリッヒに爆弾を落としたハワードは、その後自邸に戻り、納品という名の顔合わせを終えて帰って来た妹(事情は知らない)に、その時の様子を聞こうと口を開いた。



「商品説明はきちんと出来たか?」


「はい、しましたけど・・・」



セシリエは頬に手を当て、少しだけ首を傾げる。僅かに眉根を寄せているから、何か不満がある様だ。



「けど、なんだ?」


「なんだか反応が薄かったです。こちらが何を言ってもぼんやりしていて。商品が気に入らなかったのかとヒヤヒヤしました」


「・・・反応が薄い?」


「はい。視線はしっかり合うし、なんなら瞬きしてるのか心配になるくらい目を見開いていましたが、話はあまり真面目に聞いてない感じでした」



・・・それはお前に見惚れてたんじゃないか?



と、口に出して言わないのは、ハワードとしても、まだエーリッヒにチャンスを残してやりたいから。



エーリッヒの家は、裕福な方だが身分は平民。叙爵して10年足らずとはいえ男爵位を得ている、しかも豪商のハンメル家に慎重になるのは理解できなくもない。


ハワードからしてみれば、イアーゴの様に出来もしない事をほいほい口にする男よりずっと信用が置けるというもので。



だからと言って、告白さえ躊躇する奴の為にわざわざ空きを作って待ってやるほど、相手に困ってる訳でもない。



現に、釣書は山の様に届いている。


ただ、前回イアーゴを教訓として、金より身分より人柄重視で選ぼうと、セオドアもハワードも思っているだけ。



そういう意味では今がチャンスなのに、あのヘタレは。


少しは焦ればいいんだ、そう思いながら、ハワードが次に何を聞こうか考えていると、セシリエの方から口を開いた。



「・・・もしまた次の納品がある時は、兄さんが行った方がいいかもしれません。今日の方はなんだか距離が近くて」



困った様に眉尻を下げてそんな事を言うものだから、何かあったかと問えば、言うほどの事ではないのだと、ますます眉尻が下がっていく。



重ねて問えば、セシリエは渋々と言葉を返した。

大した事ではない、品物を手渡しする時に相手方の手がセシリエのそれに触れただけだと。



けれどセシリエとしては、手が触れあわずとも受け取れるくらいの余地を空けて品物を持っていたつもりだった。


それが、品物を持つセシリエの手に相手方の男性の指先が触れ、しかも一瞬、指で撫でられた気さえした。


自意識過剰かもしれない、被害妄想かもしれない。思い込みで決めつけてはいけない。

けれど、相手方の取る距離感が少し近すぎる気がして、帰る前にお茶を、と声をかけられたけれど、セシリエは挨拶もそこそこにその場を去った。



「なるほど・・・」



ハワードは顎に手を当て、考える。


相手方には、セシリエが何も知らないと伝えてある。たぶんアピールしたかっただけなのだろうけれど。



・・・焦りすぎだろ、嫌がられてどうすんだよ。この男はボツだな。



「分かったよ、セシ。次にその家に納品する時は俺が行く事にする。その代わり、他の家を頼んでもいいか?」



安堵の表情を浮かべる妹に、つい苦笑が漏れる。



あいつなら、エーリッヒなら。


ハワードが何も言わなくてもセシリエは同じテーブルに着くし喜んでお喋りするだろうに、なんて。



―――思っていたのが通じたのか、それとも偶然か。



3日後、エーリッヒがハワードたちの家を訪問した。



「セ、セオドアさんの次の帰国日を教えてもらえませんか」



緊張の面持ちで、手には分厚い書類の束を持って。




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